第五十七話:一区切り
「⬛️⬛️沿岸ですが、__ー____ー____等の理由により一般の方の立ち入りを禁止にします。」
暑さも本格的になってきた今日この頃。長くも短かった一学期に終止符を打つ。思い返せばこの三か月は濃い思い出で満ちている。不良高校に潜入し、父親の因縁を押し付けられ、そして偽りのない友人もできた。入学してから今日まで、人生の転換期といっても過言ではない。
「えー…この夏休みの間、遊び休みつつも怠けすぎないように」
俺に課せられた重荷を取り除くには至っていない。それでも道化を演じなくてもいい相手を見つけた。それは大きな一歩、成長とも呼べるのではないだろうか。
やがて終業式が終わり、全校生徒が一斉に体育館を後にする。人の波に吞まれながらもなんとか教室まで戻ることができ、その後には一人ひとりに通知表が配布される。
「いまから通知表渡すからな、番号順に廊下出ろー」
早乙女、尚輝、葉山と段々と順が近づいてくる。戻ってきた際の表情を見るに、三人とも順々の成績だったのだろう。葉山なんてとんでもない評定貰ってそうだな…
「いや〜入学当初は健司から聞いてた以上の大物だと思っていたが、この一学期、頑張ったようだな」
手渡された通知表の中身は、当然のことながら生活態度はひどい有様だ。遅刻は多いは奇行に走るわで…けれど各教科の成績はそれ程悪くはない。
「中学の頃とは打って変わったな」
「初めてですよ。こんな成績取れたの」
「やればできるじゃないか。ただ、問題児として先生方に目をつけられてるのは変わらないからな」
うっ…久々に問題行動を指摘されて地味に心が痛む。
分かってはいるけど、こればかしはどうしようも…
「それと話は変わるが、行ける日は決まったか?」
「はい。尚輝たちと話し合って、来週に行こうってことになってます」
「そうか。知り合いの宿を取ってあるから安心しろ。タダで泊めてくれるとさ。交通費も私が出す」
なんと。宿の件は前々から聞いていたが、問題視していた交通費を負担してくれるなんて。そこそこ遠出になるので学生の懐には大打撃になるなと思っていたところだ。
「何からなにまでありがとうございます」
至れり尽くせりだ。永井先生は俺に何があったのかを知っている。だからこそ、ここまで協力してくれるのは嬉しい限りだ。
「けれど、どうしてここまで…」
「言ったろ、私も過去に友人を亡くしている。せめてもう一度話したい、その気持ちは痛いほどわかるさ」
「先生…」
普通ならこんな胡散臭い話に耳を傾けることはしないだろう。
どうしてだろうか、この人の言うことは何故だか説得力がある。嘘みたいな伝承ですらも信じてしまうほどに。
「ほら、次が待ってる。とっとと教室戻れよ」
「えー…まだ続けそうな雰囲気だったのに」
「いいから」
「はーい」
分かっていた。分かっていたつもりだったのに…いざ目の当たりにするとどうにも悔しさが込み上げてくる。
「いやいや将也くん、これでもオレ的には低いんですよ〜」
「くっっそ…オール5って、勝てるわけないでしょ」
テストの点数から予想はできてたが、葉山が全教科5を取っているこの現実に納得がいかない‼︎
「てか葉山提出物出してないだろ!」
「ばーか、ちゃんとその日の放課後出したわ」
対して俺の成績といえば、オール3。俺にしてはよくやった方だが上を眼前にしては満足してられない。
「まあ二学期頑張ろうや(笑)」
葉山の常時煽ってくるスタイルが、尚のこと俺のイライラに油を注ぐ。なんでこんな金髪喧嘩ピアスの不良がこんなに優秀なのか、現実は実に残酷なものだ。
「でも、生活面はとんとんって感じだな」
「まあな」
成績の方に問題はないと言えるだろう。しかし、生活面ではそうはいかない。遅刻回数が二桁超えてる。なんなら普段の生活の欄に三角大量発生。こりゃおったまげた。
成績では勝ってた葉山も生活面では俺と肩を並べるほどだとはな。あんま誇りたくない…
「よお問題児共」
「おっ、ザッ平均の尚輝くんじゃないか」
「黙れ不良」
平均を煽る葉山の頭に牽制の拳が振り下ろされる。無表情のまま拳を振る尚輝も一応不良なんだよな…
「どうした?席戻れよ」
「ほら来週の件、ちゃんと詳細話し合いたいから」
来週…俺たちはある地域の最北に位置する沿岸に行く予定がある。確かに日にちは決まったものの詳しい時間までは調べていない。
「学校だと早乙女さん、俺ら男衆の中に入りずらいだろ。だから放課後集まるぞって」
「なるほど〜」
声色一つ変えずに淡々と伝える尚輝。一週間前の今日、明日から夏休みだしゆっくり話すには丁度いいな。
「じゃあ、もう先生戻ってくるし、おれも戻るわ」
立ち歩くクラスメイトをかき分けて、尚輝はトボトボと座席に戻って行く。
俺たちと喋る尚輝は無表情のままだった。煩わしい思いをさせているだろうか…
「ああ見えて尚輝が一番楽しみにしてんだぜ」
尚輝が席についたのを見届けた葉山が、悪役じみた笑みを浮かべて言う。俺の心配が滲み出てたのか。
「中学の修学旅行ん時も、一週間前からずっと無感情のままで。そしたら当日の尚っ……‼︎」
いつの間にか葉山の背後をとったのか、そこには鋭い目をした尚輝。暗殺者のような殺気を放ちながら葉山の頭頂部めがけて拳骨が落ちる。
葉山の悲鳴は…声にならない声でした。
「よーし、お前ら座れー」
永井先生の一声で、騒がしかった教室は一瞬にして静寂に包まれる。そこから始まる先生の話は、夏休みの過ごし方についてだ。
まあ葉山は撃沈。しばらく起こさなくていいか。
こうして高校生活の一幕が閉幕する。
激動の一学期も、これで終わるとなると寂しさを抱かせる。
秋からもその後も、この四人は変わらないといいな。
なんて、夏休みもこいつらと会うってのに。
そうして夏休み、何気ない俺らの日常が崩れ落ちてゆく。
いまから夏休みかよ。
ちっ…なんで八月だけ終わるの早いんだよ…




