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道化の心を奪うのは  作者: ゆーま(ウェイ)


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第五十五話:甚雨

燦々と降り注ぐ陽光は、その身を隠した。

本日6月27日。雲一つない晴天、例年より早く夏日が到来するでしょう。昨日の天気予報ではそう言っていた。実際に今日は清々しいほどの晴れだった。そして蒸し暑い。

けれど、嫌な予感はしていた。晴れてはいたものの、遠くの方に怪しげな雲が見えていたのでもしかしたらなんてことも考えていた。

この時、素直に自分の直感を信じるべきだった。そうしておけば、今頃こんな目には遭ってない。

屋根がポツポツと音を立てる。地面に跳ねた水滴が室内まで入り込んでくる。時には風に吹かれ、直接室内を濡らすこともあった。

「大雨じゃねえか!」

昼頃までの青空が噓だったとでもいうように、灰色に染まった空からは雨粒が降り注ぐ。なんとツイてないことか。しかも放課後の帰る直前のタイミングで振り出しやがった。

まあ、梅雨の時期だから仕方ないといえばそんな気もする。この頃は天候が不安定だからなぁ。

「折り畳み傘、常備しとくんだった…」

こんな時に限って葉山&尚輝は「この後用があるから~」とか言って先に帰っちゃったし、早乙女は普段俺らと帰らないしな…

昇降口で立ち尽くして、対処方を考える。と思ったのもつかの間、幸運にも昇降口前に設けられているベンチが空いたので、驚異の速度でそこに腰を下ろす。実はだいぶ前から足が疲れたんだ。

だが、座ったのはいいものの何もすることがない。周りに喋れる人もいないし、暇だ。

葉山と尚輝はなんの用があったんだろうか。葉山は中学の頃に喧嘩ばかりしてて、尚輝も付き添いと言いつつも葉山と肩を並べてたらしいし、あの八浦と対等に殴り合える程だったから相当強いのは分かるんだけど…まあ金髪ピアスって時点で不良要素てんこ盛りだし違和感はないんだけど。

それよりなんで早乙女はあの子にそっくりなんだ?他人の空似にしては共通点が多すぎるような…あっ、頭は早乙女のほうがいいっぽいな。でもあんなに似ることないよな。なにか理由があるんじゃ…

例えば…異母、異父姉妹とか。生き別れの双子説。それか親子説、はないよな。16歳が16歳の子供を産んでるってことないだろ。あとはなんだろうか…クローンとか、裏組織の人間があの子に成りすましてるとか。実は秘密裏に人のコピーを生み出す実験が行われていて始めて成功品を作り出せたものの、自我を持ってしまった実験体は研究施設を脱走し、普通の高校生に成りすまして生活している説とか。

…なにを馬鹿なことを考えているんだろうか。一体どこで頭を打ったのやら。

「ねねっ」

そもそも、そんな非現実的な話あるわけないだろ。

「ねぇ、ねえねえ」

漫画じゃあるまいし…でもそれはそれで面白そうな…

「ねえってば。命苫君だっけ?」

「は?俺?」

いきなり自分の苗字を呼ばれ、咄嗟に反応する。さっきから誰かを呼びかける声は聞こえていたが、まさか自分が呼ばれていたとは…

「アンタ誰?なんの用?」

ああ…あまりの塩対応に心が痛む。ただここでは問題児なんだ。俺は問題児だ。

いつの間にか目の前に立っているその人物に見覚えはなかった。彼は目から上がマッシュヘアで所々隠されていて、どこか不思議な雰囲気を感じる。

「誰って…一応同じクラスなんだけど」

えっ…?同じクラスなんですか…

「えっと、あー、あー!!高橋か!!」

「うちのクラスに高橋はいないよ」

待て…本当に誰か分からないぞ。

「えー、うっ、あっ、齋藤か!!」

「ぶっぶー。はずれ」

「佐藤!小泉!田中!葉隠!西園寺!江ノ島!七海!狛え…」

とりあえず思いつく苗字を全部言ってみる。バリエーションは豊富なものの、この並びは大丈夫だろうか…

「それは…全部違うよ」

なんかこの人ノリいいな。

「まあ僕の名前は何でもいいとして、命苫君は何してんの?」

なんでもいいのか…?気になりはするが同じクラスなら明日にでも確認すればいいか。

「雨宿りだ。みりゃわかんだろ」

「そうだよね」

そうだよねって、なんだ?彼の質問の意図が理解できない…

「生徒会の貸し出し用傘があっちにあるけど、使わないの?」

そう言いながら彼は廊下の突き当たりを指さす。

貸し出し用…傘…?そんな物があるならとっくに借りて…

戸惑いながら彼が指す先を見る。するとそこには、貸し出し用と書かれた大きなバケツの中に残り数本の傘が置かれていた。

「使うなら早く取ってきたほうがいいよ。それじゃ、濡れないようにね」

「お、おう。さんきゅな」

傘あったんかーい!ていうか、なんで廊下突き当たりに置いたんだよ!もっと昇降口に近いところに置けよ!気づかなくて恥かくだろ。

と、生徒会への文句を心の中に留め突き当たりまで颯爽と向かう。これで帰れるという解放感で気分が浮かれていたのかもしれない。

そして、やっとの思いで傘を手にして、さあ帰ろうとしたその時だった。

「命苫くん…?」

聞き馴染みのある声が、背後から俺を呼んだ。振り返るとそこには…

「…早乙女!」

傘がバサッと音を立てて盛大に開く。

振り向いた先には、とっくに帰っているはずの早乙女がいた。

「他の人と先に帰ってたんじゃ…」

「委員会があったから、遅くなっちゃって」

まあ丁度帰るところだったし、このまま一緒に帰るか。その考えは、とある違和感によって砕かれる。

「早乙女、傘は?」

この大雨の中、肩に掛けているバッグのみを持って帰ろうというのか。まさか…

「その…命苫くん、傘二本持ってたりとか…貸し出し用のがもう無くなってて」

なるほどー…貸し出し用傘は残り数本だったため、需要量を満たさずに完売してしまったのか。

大雨…一本の傘…傘の無い女子…どうする俺。

「びしょ濡れで帰ったらお母さんに怒られちゃうな…」

あっ、また見つけた。あの子と早乙女の相違点。


「びしょ濡れで帰ったら怒られちゃうよ〜」

「ほんとに将也はビビりだね」

「だって、雨降る前に帰りなさいってお母さん言ってたから…」

「だったら、私の傘貸してあげる!」

「でもそしたら明日香が濡れちゃうよ」

「いいの!私は雨の中遊ぶのも楽しいから」

「ああ!泥跳ねたー!」

「ごめんごめん〜」


わかってるよ。俺がやるべきことは一つだよな。

「早乙女…」

「ん…?」

………このまま二人で雨宿りしてこうって言ったら、早乙女は嫌がるかな。学校には部活の生徒しか残ってないし、ほとんどの人はもう帰ってる。このまま二人で残って、そして…

「ほら、この傘貸すよ」

「えっ…でもそしたら、命苫くんが」

そんなこと早乙女は嫌がるだろうか。いや、あの子は絶対に嫌がるだろうな。早乙女にそんなこと言ったってあの子に知られたら、一生許してくれないだろうな、

「俺は雨の中走るの、楽しいから」

なんかもう、早乙女と目合わせらんねえや。

「じゃあな!気をつけて帰れよ〜」

「待って命苫くん!」

早乙女の呼び止める声を無視して、全力で駆け出す。

あの子とは立場逆転だな。あの頃は俺が傘を借りる側だったのに。降りかかる雨の中を、誰かに傘を差せるなんて。

ただ一つ、どうしても許せなかった。

あの子との約束を破りそうになった自分を。早乙女ならって思ってしまった自分を。

…邪な気持ちで、早乙女を穢そうとした自分を。

「なんだか面白い人だったな。ただの問題児とは思ってなかったけど。やっぱりばあちゃんのいう通りだ。人って面白いんだな。今度聞いてみようかな。

なんで問題児なんてやってるのって」

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