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道化の心を奪うのは  作者: ゆーま(ウェイ)
父親編

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第五一話:愛する者の為に

foglia d'acero

世界中からすべての音が消え、俺以外の全員が消えてしまった。そんな感覚だった。

「こんな…惨い…」

分厚いファイルの三分の一を占めるその事件は、俺が生きている日常からは考えられないような悍ましさを持っていた。死への恐怖、大切な人を失う喪失感、特定の人間への憎悪。俺はそんな絶望を、”あの日”以降思い知ったと高をくくっていた。だが、楓葉が俺達の父親から受けた苦衷は想像を絶する程だったらしい。

殺意と怨恨に満ち満ちた眼をした楓葉に対する恐怖は、ファイルの最後のページに達する前に同情へと変わっていた。

パタンッと静かにファイルを閉じる。この場にいる誰もが、沈黙を破ろうとしない。既に詳細を知っていた夜崎さんと覆面Yはもちろん、俺は楓葉の過去を知ってどんな言葉を遣えばいいか分からなかった。無責任なことを言えるほど俺は楓葉を知らないし、かといって楓葉に対する怒りが鎮まっている今は彼を非難する気にもならない。

「本当に酷いよね。下校中の学生カップルを狙うなんてさ」

将人と楓葉、両者をよく知る夜崎さんはもっと衝撃だっただろう。自分の恋人が目の前で友人を殺し、その後も幸せな学生二人の未来を引き裂いた。

「俺達は、こんな奴の血を引いてるんですよね…」

正直、抑えられなかった。心の奥底に隠していた父親に対する憎しみが肥大化して俺の理性を奪おうとしている。そんな父親の血が流れているこの身体を無性に傷つけたくなった。

「だったら…俺も償う必要がありますよね…」

償い。そうやって理由をつけてただずさんだ現実から逃げてるだけだって分ってる。だけど、今はそんなことどうでもよかった。逃げたい、こんなに苦しいなら自ら命を…

「それは違う!!」

ロボットが故障したかの如く上がった機械声は薄っすら、なにかに怒っているように聞こえた。

「違うって…何がだよ」

感情が垣間見えた覆面男に、どうしても反発したくなった。

「何も違わないだろ!!俺達兄妹は母さんの子供で、命苫将人の子供でもあるんだぞ。命苫将人の罪を俺も背負ってるんだ」

「血の繋がりがなんだ?どうしてそんなことでその子供までもが罪を背負わないといけない?」

「でもそれが現実だ!!俺達は生まれながらに罪を…」

「なんでそれで周囲の人間が苦しめられなきゃいけない!!誰がどんな罪を犯そうとその家族や友人にはなんの罪もないだろう!!」

この時はもう、覆面Yの隠されていた感情なんてものはどうでもよくなっていた。ただただ、自分の中に生まれた怒りや憎しみ、行き場のない苦しみをぶつけることに夢中だった。

「いきなり出てきたやつに、俺の何が分かんだよ!!」

「分かるさ。命苫将也くん、君のことならよく知ってる。君が誰を恨んでいるとか、君の昔にどんなことがあったか、その時どんな思いを抱いたか。性格経歴家族構成まで。君についていろんなこと知ってるよ」

ムキになった俺を相手に、覆面Yはいきなり饒舌に語りだした。その瞬間、冷たい感覚が俺を襲った。頭から指の先まで全身を冷気が取り巻くような。覆面の下に宿らせる感情がよく感じる。それは……


「ねえ将也くん、一度あの子と話してみない?」

覆面Yに向けていた意識は、その一言で削がれてしまう。だが、それ以前の話を聞いていないため、一体何のことを言っているのかサッパリだ。

「あの子って?」

無意識に、反射で聞き返してしまう。今の状況で誰と何を話せというのだ。

「仕方ないわね、入って」

覆面Yが入ってきた時に閉めていないので、二人目の来訪者は簡単に部屋に入ってきた。来訪者の顔を見て、俺は目を疑った。

「……」

久方ぶりにみる楓葉は、額の左側をガーゼで覆っている。もともと細身だった身体が随分やつれている。

「楓葉…」

あの殺意に満ち溢れていた楓葉が、感情が無くなったかと思わせるほど無表情なことに驚いた。だが、俺は楓葉については何も触れず、ずっと聞きたかったことを夜崎さんに訊いた。

「麻樹はどうしたんですか?」

誰も、何も言わない。何で誰も返してくれない?麻樹は…あの後どうなった?

「夜崎さん、麻樹は…?」

その質問で、夜崎さんはバツの悪そうな顔をした。少しだけ顔を俯かせたのを、俺は見逃さなかった。

「夜崎さん!!」

まさか麻樹は…死ん…

「冗談よ。麻樹ちゃんなら学校に行ってるわ」

ふぇ?

「なんだ学校か…」

ビックリさせやがって。夜崎さんも紛らわしいことを…ん?学校?

あまりに遅すぎるほど今更、この部屋内にたった一つだけ存在する中サイズの窓から差し込む光に気が付く。外からは活動的な人々の声が聞こえ、天から降り注ぐ光が人の世界を明るく照らしている。

「俺も学校…」

気付いたところでどうしようもない。それに問題児たるもの無断欠席ぐらいどうってこと…明日絶対怒られる…

「アハハッ、ほんといい反応するわね」

「もう笑い事ですよ…」

仕方ない理由があるにはあるが、なんて説明すれば。父親の被害者に殴られて意識不明でしたーなんて言えるか!!

「学校は大丈夫よ。私の方から連絡してあるから」

ホッと一安心。なんだか夜崎さんが輝いて見えるぞ…

「それはそうと、なんで麻樹の安否を誤魔化すマネしたんですか?」

学校の件で素通りしそうなったが、あれは笑える冗談じゃない。心臓にも精神的にも悪影響だ。

「そうね…」

すると夜崎さんは呆れたように溜息を吐いて答えた。

「麻樹ちゃんに頼まれたのよ」

「麻樹に…?」

信じられないが夜崎さんが噓をつくとは思えないし、だからってなんで麻樹がそんなこと…

「私もなんでか分からないのよー」

なにかまた誤魔化されてる気がする。気のせいだろう、気のせい…だよな?

「あいつは何でそんなこと…」

「女の嫉妬は複雑よ…」

夜崎さんが小さく何かを呟く。だが聞き取れなかったので聞き返すと「帰ったら本人に聞きなさい!」と言い返されてしまった。

「ただ…帰る前にあー…(あゆむ)とちゃんと話してね」

影のように佇んでいる楓葉と目が合う。その目には何の感情も宿っておらず、ただ静かに俺を見ている。

「楓葉…お前…」

こいつと何か話せるだろうか。また父親の恨みを持ち出されたら、俺は正常を保っていられるだろうか…

「夜崎さん、覆面Y。楓葉と二人だけで話させてください」

だが父親が人を殺してその周囲の人を苦しめているのは、紛れもない事実だ。その被害者が望むなら、麻樹を守れるなら、俺が代わりに裁きを受け…

(その子供までもが罪を背負わないといけない?)

もう二度と同じことを起こさないように、麻樹の身に危険が及ばないように、ここでしっかりと楓葉と話しておくべきだ。

「ですが一対一では…」

「…分かったわ。出るわよY」

ありがとうございます、夜崎さん。それに、覆面Y。あんたのお陰で楓葉と向き合う覚悟が決まった。

「どんな現実でも、しっかり受け止めます」

もうここ最近ずっと眠くて眠くて…

てかなんでこんな暑い⁉︎

眠いのも暑さのせいだ!夏バテだ!

夏反対!反対!とか言って冬になったら夏が恋しくなるんですよ…

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