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道化の心を奪うのは  作者: ゆーま(ウェイ)
父親編

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第四十九話:ピリオド

轗軻不遇

グサッ、俺は初めて聞いた。刃物が肉を抉り血を滴らせるその音を。楓葉が振り下ろしたナイフは前腕部の中央に深々と刺さっている。腕を伝い垂れ落ちる鮮血は、目が眩むほど真っ赤で、否が応でもその激痛を想像させた。全身や頭から感じる痛みなんて忘れてしまうくらいに。

さっき頭を強く打ちつけられたせいで意識を失っていたようだ。状況から把握するに、気絶していた時間は少しだがその間に楓葉は俺をナイフで刺し…考えただけでも鳥肌が立つ。

「さすがの僕も人殺しには躊躇いがあったみたいだ。随分油断したよ…」

楓葉は確実に俺の首を狙っていた。だがその刃が俺の首ではなく腕に突き刺さったのは、殺人に対する躊躇が生じた隙のせいだと言う。それは一目瞭然だった。それは俺達の父親をひどく恨み、ここまで用意周到に計画を立ててきた楓葉がこんな致命的なミスを犯すなんて到底思えないから。当の楓葉は驚いているような、ホッとしているような表情をしていた。

「何の真似だ…()()Y()!!」

本来なら俺の首にぐっさりと刺さっていたはずのナイフは、何者かが阻止してくれたおかげで生き延びることができた。ただ、その何者は俺を標的にしていたナイフを止めるために腕に怪我を負ってしまった。俺は命の恩人とも呼べる覆面の人物にお礼を言いたかったが、充分な体力が残っていないせいか声が出なかった。

「後のことは任せてください」

覆面Yと呼ばれたその正体不明の人物は、その印象に相応しい変声機に通した声だった。楓葉と面識があるようで信頼するに至らないが、今はそんなことも言っていられない。

俺は体力の底尽きた身体を立ち上がることを強要させる。当然、向かうはまだ目の覚めていない麻樹の元。

「邪魔するな覆面Y!!!!」

雄叫びにも似た楓葉の叫びに構わず、覚束ない足取りで麻樹のそばへと急ぐ。

「命苫将也、時間はこっちで稼ぎます」

麻樹…麻樹…絶対に助けてやるからな。麻樹だけは助けるんだ…俺の命に代えても。あの日のようなことは繰り返しちゃだめだ。

大切な幼馴染を助けられなかったのに、たった一人の妹までも失ってしまったら…その時こそ俺は正常を保てなくなる。明日香がいなくなってからも安定した精神状態を保てたのは麻樹がいたからだ。俺はずっと麻樹に支えられてきた、今度は俺が妹を守る番だ。


「ぐっ…」

よろめく足の力が抜けて膝が折れる。頭ではそう分かっていても身体は正直で、辛うじて保っている意識を遥か遠くへ飛ばそうとする。

「ま…き……」

突如として全身から力が抜ける。まるで消えたかのように一瞬にして。自分が倒れていると気づくのにはそれなりの時間を要した。なんで…立てない。あと少しなのに…なんでだよ…!!

霞む世界が黒く染まってゆく。結局、俺は繰り返してしまう。あの日から何も成長していない。大切な人を目の前で失ったあの日から、約束だからと道化(ピエロ)を騙った贖罪ごっこで、蓋をして過去を忘れようとしていた自分を正当化していただけだった。

なにが償いだ…なにが助けるだ…!!俺は道化(ピエロ)じゃない…


俺は…ただの愚者(フール)だ。


消えかけていた俺の意識は、深い暗闇に沈んでいった。


           *****


「なんでお前が僕の邪魔をする?」

順調に進んでいた計画が予想外の乱入者によって乱されて、僕は取り乱していた。さっきから何度も振るう拳は、全くとして覆面Yに当たらない。これでも探偵の端くれだ、ある程度の武術は心得ている。にも拘らず押されているのは僕のほうだ。

こいつは僕よりも身体が小さい、その上刃長が短いとはいえナイフが腕に刺さっている。なのに何故こいつに勝てない⁉僕の中に生じていた焦りは、僕の攻撃を身軽に受け流す覆面Yを見て抑えが利かなくなった。だから…僕は負けた。

滅茶苦茶に暴れ回るだけの僕に勝つのはさぞ簡単だったろう。計画を台無しにされた怒りと焦りで目の前が真っ暗だった僕は、いきなり地面に叩き付けられたことで我に返った。覆面に描かれる悪魔のような目が僕を見下ろす。いや、見下している。

「厄介な奴を憑けやがって…加澄さんめ…」

あの血塗られた日から六年間、全てを復讐に費やした。これからが華だという高校時代をドブに捨て、普通の人間が手にできる幸せを自ら手放したのに。あまりにもあっけなく終わってしまった。

「彩子…僕は…」

横たわったまま腕を伸ばして空を掴む。その先には…灰色で無色な天井。彩子が殺されたあの日もここの天井は、なんにも変わらないまんま静かに佇んでいた。

僕を見下ろす覆面Yは、何を言わずにただ立っていた。計画が失敗したことを嘲笑っているのか、高校生を手にかけようとしたことを蔑んでいるのか、はたまた彩子を殺され復讐に人生を費やしたことを同情しているのか。相変わらず覆面の下の表情は読み取れず、不気味な奴だ。

「アナタは躊躇っていた」

…なにを知ったようなこと言いやがって。

「さぁ、もう自分でも分からない。途中から僕は僕を見失ってた」

いつも中途半端なせいで、何一つ成せないで終わる。自分が掲げた目標すらも叶えられない。

中途半端な僕が立てた、中途半端な計画は、完璧なまでの終止符を打った。

ようやく楓葉歩の計画を止めることができました( ^ω^ )

父親編が終わったら、ちょっとだけ日常回を入れてから夕凪の幻編に入ります

可哀想な歩くんを最後まで見届けてください。

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