第四十一話:虚構の貴女
Non sei la donna che conosco
お店に入った直後。俺は、きっと麻樹も目を見開いて驚いた。店内はレトロでお洒落な雰囲気になっていて、華美な外装からは想像もできないような内装だったからだ。大人のお店感はあまり感じず、一時期憧れを持ったかっこいい大人のバーという印象だ。俺たちは同じく憧れたカウンターの前に設置されているカウンターチェアに座るように促された。
「なんかかっこいいな…」
心の中だけでは留まらず、想いが口から漏れてしまった。それを聞いた夜崎さんが満面の笑みで俺の肩に手を回して言った。
「だろだろだろぉ~!!センスあるなぁ将也くん」
随分と嬉々として俺の肩を揺らしてくる。素直な感想を言っただけなのに、そこまで喜んでくれるとは…
「実はね、私がこの店の内装設計したのよ」
そうなのか…こんなお洒落な設計をするなんて、案外すごい人なのかもな。すると意外にも麻樹が関心を持っていたようで、「こんなデザインを考えたなんてすごいです!!」と食いついた。それから女子二人で話が盛り上がり、残された俺らは互いに目を合わせて同時にため息をついた。
「そろそろ本題に入っていいですか?」
二人は俺達の存在を忘れて三十分程話を続けていた。世間話だのファッションだのの他愛もない女子トークに耐え切れなくなったのか、とうとう湖山が割って入った。
「ごめんなさいね。こんなに楽しく話せたの久々だったから…」
夜崎さんはすんなりと切り替えてパントリー側に戻った。だが、麻樹は不服そうな顔で少しいじけてしまった。
「二人は学生だもんね。早く終わらせないとだよね…」
どうやら夜崎さんも物足りなかったのか、ちょっとだけ顔を上げて呟いた。その時の夜崎さんの目から切なさを感じたのは気のせいだったのか…?
「…また遊びにこようよ。麻樹ちゃん」
「うん…」
湖山に励まされる麻樹を見ていると、小さい頃の麻樹を思い出す。転んで泣いた麻樹を泣き止ませるためにずっと頭を撫でてやったなぁ…
あの頃のことも覚えてないんだろうな。父親のことすらはっきり覚えてないんだから。
「それじゃあ遅くなったけど始めましょうか。ねぇ、あーちゃん」
あーちゃん…このザ・クール系のキャラぶってる湖山には似合わない呼び方だな。彩人だかあーちゃんか、なんかかわいいな。
「良かった…一時は始まらないかと思いましたよ」
「ごめんってばあーちゃん♡」
今日一日に得た情報が濃いせいか人の感情に敏感になっている気がする。何でこんなこと言うかって、さっきの夜崎さんの哀愁みたく感じ取ってしまったからだ。湖山の怒りを。湖山は何かに怒っていた、気がする。本当に気がするだけなんだけど。
「まずは僕たちが集めた情報を加澄さんに伝えます。その後に加澄さんが知っている、命苫将人の情報をください」
「りょーかい」
この事情聴取の流れを説明し終えた湖山は、カウンターに置いた資料の入ったバックから数枚の資料を取り出して、カウンターに並べた。それは俺たちが見たファイルの中身を湖山が簡潔にまとめたものだった。
「へぇ…すべての事件を大体把握してるのね」
夜崎さんが一通り資料を見終え、小山は話し始めた。俺の記憶から推測できること、葬式を執り行った可能性があること、死亡届は出されていないこと。湖山と麻樹が集めた情報を丁寧に饒舌に。
「こうしてみると改めて湖山が探偵だって思うわ」
そのあとに返ってきた言葉はなかった。しばらく間をおいて、「今更何言ってんのバカお兄」と麻樹が俺の頭を叩いて言った。
だが俺は見逃さなかった。静寂の中、夜崎さんから哀しい感情が溢れ出ていたこと。艶やかな眼だったのが、幽霊でも見たかのような驚きが露わになった眼をしていたこと。さっき夜崎さんから感じた切なさも湖山から感じた怒りも、きっと気のせいなんかではない。俺にはそうとしか思えなかった。
「なるほどねぇ。よく調べたわね」
「それはまあ…一応探偵ですから。ねっ、将也さん」
ゔっ……なんか圧を感じる。そんな笑顔で圧かけないでくださいよ探偵さん。俺そんなにヤバいこと言ったかな?
「さて、とうとう私の出番かな」
父親の、命苫将人の元恋人の話。一体どんな内容になるのか見当もつかない。そして今、夜崎加澄の口から新たな事実が明らかになる…と思っていた。
「でも待って。アンフェアよ、話させるだけ話して終わりかしら。それってどうなの、湖山くん?」
夜崎さんが発したのは、今回の聴取への対価を求めるといった旨の言葉だった。
「もちろんお礼は後日するつもりです。それとも…なにか等価に要望でも?」
そう湖山は煽り気味で返す。徐々に険悪な雰囲気になっているのを察知した。ちなみに麻樹はというと、何が起きているのか分かってなさそう…どうする将也!!
そんなピリついた雰囲気を壊すかの如く、夜崎さんは吹き出すように笑った。
「そうね、全部終わったらみんなでここに来て。そして沢山飲んで、食べて、話して笑いましょ。それが私の望む対価よ」
夜崎さんが口にしたのは、なんとも健気で優しさの溢れたものだった。一件落着したら、みんなで…か。俺自身それを聞いて心を躍らせている。
「…分かりました。相変わらず加澄さんには勝てませんね」
ため息交じりに湖山は承諾した。きっと、俺たちは探偵と依頼者以上の関係を持つことになるのだろうか。そんな淡い期待を胸に抱いてしまった。
「じゃあ今度こそ話すわね。私が知る、命苫将人について…」
そうして、真実が語られる。
夜崎さん…絵になる時は理想の女性にしたいな
みんなの初恋を奪った近所のお姉さんみたいな見た目にしたい。この人に作者の願望が込められていると言っても過言ではぁぁぁぁ…なぁい!!




