第三十九話:ノンフィクション
愛する人が、見ていた花
中身をすべて読み終え、重量のある音を立ててファイルを閉じる。今まで無心でページを捲っていた俺は、一冊の推理小説を読み終えた気分になった。ファイルの内容は、それこそ刑事ドラマでしか見聞きすることのない言葉が並べられていた。麻樹と湖山の二人も読み終えた様で、それから三人で話し合いを始める。互いの意見を、情報を共有して新たな発見に貢献する。この一連をいつも遅くまでやっているそうだ。
話し合った結果として分かったことは、すべての事件には共通点があること。それも二つ。
一つは、金銭目手的で事件が起きていること。二つ目は、被害者から直接話を聞けていないこと。その理由として挙げられるのは、事件直後から廃人になった方や脳に損傷を負い言語障害が残った方、行方不明となり未だに見つかっていない方、その事件で死亡している方。被害者全員が話せる状態にないということだ。
目も当てられないような残酷な事件ばかりなのは理解できたが、ここで一つ問題が生じる。
現実味が無いのだ。ニュースで見るような事件同様に他人事としか捉えられない。そんな事件に生死不明の父親が関与しているなんてまさしくフィクションでしかない。どうしても…あの子の時のように自分事にできない。
「…い…お兄。お!!に!!い!!」
麻樹の声に身体がビクッと反応する。本当にこの妹の声はうるさいな。大声なんて出された日にはしばらく耳がキンキンする。
「もぉ…ちゃんと聞いてた?」
「あぁ聞いてたよ」
噓、全くの噓。何も聞いてませんでした。とか言ったらブチギレは避けられないので、声には出さないでおく。
「だったら早く準備してよ」
「はいはい分かりまし…」
準備?準備ってなに?おぉっとまずいぞ。非常事態、とてもピンチだ将也くん。麻樹が怒り狂うビジョンが見えたよ…
すると湖山が素早く俺の耳元に近づく。麻樹の言う『準備』とやらを小さな声で教えてくれた。その後すぐに麻樹の元に行き、雑貨を漁り始めた。
「今から事件の関係者に話を聞きに行くんですよ」
それは天使の囁きにも聞こえた。悪魔の怒りを鎮めてくれる愛しき天使の様な。そんな想像は湖山の言葉を理解した途端、消え失せた。それはあまりに突拍子もなく、荒唐無稽であった。
「えぇ…」
驚きと眠気で体が鈍っている俺を置いて着々と準備を進める二人を、ただただ呆然と見つめることしかできなかった。
なぜこんな状況に陥っているのかすらも分からないまま、先を行く湖山の後を追う。
「やっと関係者と連絡が取れました。将也さんのおかげでしょうか」
関係者かぁ…この第三者に会いに行くパターンでいい思い出が無い。何を隠そう一ヶ月前に痛い目みてるからな…
「お兄って昔から運だけはいいよね。運だけは」
なぜ二回も言った妹よ。さすがの俺も傷つくぞ。
「それで関係者ってどんな?…共犯者とか!?」
さっきファイルに記されていたような残酷な事件の共犯者、なぜかイメージとして菅波と八浦の顔が頭に浮かぶ。あの二人を思い出すだけで古傷が痛む…
「いえ、そんな危ない方には会いませんよ」
と、湖山が苦笑混じりに答える。俺が安心してるとこを「んなわけないわ」と麻樹に頭を叩く。しかも結構強めで。
「やっぱりお兄、聞いてなかったんでしょ」
「はい…」
速攻でバレました。湖山、ヘルプ。
「湖山さん説明せんといて。自業自得」
せっかく説明しようとしていた湖山を麻樹が止める。引き下がった湖山は苦笑いを向けた。まあ危険な相手じゃなきゃいいけど。
正直もう帰りたいがここまで来て引き返せないので、仕方なく眠気と闘いながら二人に付いて行った。
*****
男は箪笥の上に飾られた、小瓶に入った一輪の花を眺める。何でもない日に突然、彩子から渡された名前も知らない花。この花を見ていると彼女のことを思い出す。いつも元気で、少し子供っぽくて、それでも人のことを気遣える、優しくて可憐な人だった。
「あと少しだから…待っててね…」
誰もいない部屋の片隅で男は呟いた。誰にも伝わらない想いは花にも、死んでしまった彼女にも届かない。
男が長い時間をかけて立てた計画は成功率の低い、非常にリスキーなものだった。それでも男の決意は揺るがない。命苫将人への復讐を果すためにどんな事でも犯すほどの決意。
「必ず報いを受けさせてやる…命苫将人…!!」
その間にも男の計画は着々と進んでいた。
お待たせしましたお久しぶりです。
なんとまあ気づいたら一ヶ月も経っててビックリ‼️
まあいつものことながらまともな謝罪する気はないですが、理由だけ。やる気が無かった!
ってのは半分冗談で色々と複雑なことがありまして、取り掛かる時間を設けられず、気づけばこんなに…
ですが一昨日地上波で放送していた映画を観てやる気と共に時間を取り戻しました!
これからもまだまだ続きますんで、応援お願いします!




