第三十八話:触らぬ神の祟り
La brutale verità.
思い出したくもないあの日々。本当は忘れたんじゃなくって思い出したくなくって無理記憶の奥に埋めていただけだ。
あの子の事故もそうだったように。
「でも過去の事件を知ったからって、何ができる?」
たとえ人の前科を知ったところで行方が分かるわけではないだろうし、手掛かりになるような情報があるとは思えない。
「命苫将人が関与している事件はどれも似通っています。そこから共通点を探して事件の法則性を見つけるんです。もし今も生きていれば今も何処かで事件を起こしているはずです」
あぁ…ちゃんと湖山が探偵っぽく見える。さっきまでインテリ大学生に見えない頼りなさだったのに。
探偵感を醸し出した湖山は部屋一面を埋め尽くす書物…いや、あれはファイルか。立ち上がって大きな本棚に向かい、その中から三冊の分厚いファイルを迷わず手に取った。
「お兄、あれお父さんの事件の詳細ファイルなんだって」
「は?何でそんな物を湖山が…」
父親の事件だけであれだけ分厚くなるのか…しかも三冊分。改めてどうしようもない人だったのだと思い知る。
麻樹とヒソヒソ話していると、ファイルを手にした湖山が不思議そうな顔をして聞いてきた。
「何話してるの?」
「なっなんでもないよ!早く調べるよお兄!!」
動揺しながらも麻樹は話を逸らしてファイルを開く。この分厚さを前にするとやる気を失いそうだが頑張るしかない。
半ば無理矢理出したやる気で俺は目の前のファイルを開いた。俺どころか母さんすら知らないような父親の闇がここには載っている。それを知るのは怖かったが、ファイルを捲る手に躊躇いは無かった。
【命苫将人 事件記録2】
目次
5.19XX年3月15日 鷹住市ホームレス一斉失踪事件
6.19XX年7月06日 風俗店員失踪殺人事件
7.19XX年9月09日 自殺志願者詐欺失踪事件
※但し被害者又は被害者遺族への配慮により本名は伏せるものとする
「殺人事件…!!」
ファイルを開いてまず目に入ったのは、小説や漫画でよく見る文字だった。この文字を見るのは所詮フィクションの中だけで現実で目にすることはないと思っていた。だがその字は目の前の紙に綺麗に印刷されている。父親についてのファイルに。
「俺たちの父親が…殺人を犯して…」
どれだけ嫌いな人間でも父親であることは間違いないし、顔も覚えている、幼いころは一緒に暮らしていたあの父親が人を殺していた。しかもその事件が起きたのは俺が生まれるずっと前。俺たちは…殺人犯の子供なのか…?
「お兄、だけどお父さ「将也さんそれが…」
っ……俺は…あの頃握っていた手は血で汚れた手だったのかよ…
暗くなった視界に突然光が入り込んできた。そこにいたのは、先月昼休みに見たワンピースの少女だった。
顔の見えない少女は俺に向かって何かを話している。だけどその声は俺には届かない。
「君は誰なんだ。あの頃の明日香なのか?」
俺が質問しても少女から答えは返ってこない。口をパクパクさせるだけで、声が聞こえない。
「なあ…なんで君の声は聞こえないんだよ!!」
突然、俺の視界は現実に引き戻された。あの少女以外に光がない世界とは一変し、明かりが眩しく、辺り一面が色とりどりのファイルで囲まれた世界に戻ってきた。
「あれ…?ここは…」
すると俺は肩を掴まれ体を揺さぶられる。あぁ…やめろ、酔いそう。
「お兄ぃぃぃ!!起きろぉ!!」
「麻樹ちゃん、もうやめてあげて…」
揺らしすぎだ馬鹿。気持ち悪くなったわ。
「将也さん、何の警告もなしに開かせてすいません。既にご存知だと思っていたので…」
そうだ…父親が殺人を犯していて、俺たちは殺人犯の子供で。そんなことを考えていたら意識が揺らいで…
「でも、引き返すならここが最後です。これからもっと過酷な事実が…」
俺は湖山の言葉を遮って言う。
「その覚悟で来てんだ。問題ねえよ」
つい勢いで大口を叩いてしまった。だがその覚悟があることは本当だ…と、信じたい。
「お兄…」
「妹の為に頑張るのが兄貴ってもんだろ」
我ながらなかなかキザな台詞だ。鏡を見なくても不敵な笑みを浮かべているのが分かる。
「よし、やってやるよ!!」
そう言って気合を入れ直し、再びファイルを引いた。
だぁぁぁぁぁぁぁぁぁなぁにが恋愛だよ!!
と思ってるみなさん、僕もそう思ってます!!




