第三十七話:底に沈んだよ
うも
ら
ぎ
りの
夜空に昇る大きな月を望む。人々が寝静まった頃、俺は家の窓から田んぼだらけの世界を見ていた。
放課後にポテトを食べ過ぎたせいか、身体がいつもよりも重たい。それでも、もうすぐ家を出なければならない。
「なんか眠くなってきたな…」
俺がこんな遅くまで時間を潰していたのは、街の中央部にある湖山の探偵事務所に行く為。例の父親捜しに協力することになったので、登校前に住所を記したメモを置いて行けと伝えておいたのだ。正直夜遅くに活動したくないのが本音だが、湖山の職業柄昼間は時間が取れないらしい。もちろん俺たちは学校があるので必然的に遅い時間帯になってしまう。
母さんが眠りについたのを確認して家を出る。母にはうまく言っておいたので心配することはない。兎にも角にも行ってみないことには始まらない、麻樹から父親を離すため…頑張れ俺。それに俺には過去の記憶がある。信じるしかない。
初めて踏み込む夜の中央部は何とも形容しがたい場所だった。不気味で怖くもあるし、昼間のような騒がしさに安心しているのか耳を塞ぎたいのか、未知の出会いに心底ワクワクしている。
父親の死はあの葬式の記憶が証明している。俺の役目は麻樹を真実に近づけないようにすることだけ、それも本人はこの世に居ないので気張ってかかる必要はない。俺はのんびりとこの活気に溢れた都会の街を楽しむか。
「ここが…探偵…事務所」
湖山本人はしがない貧乏探偵と称していたので、事務所もボロくてちっこいんだろうな~なんて思っていたのに…麻樹の置手紙に記されていた住所には白い外壁に囲まれた豪邸があった。一目で分かる、住人は一般家庭の人間ではない。
偏見がひどい感想を心の中で述べていると、眼前の立派な鉄の門が開く。
「勝手に開いた…これは入れってことか?」
いかんせん俺たちの家庭はあまり裕福ではないので、こういったセレブな物を目撃するのは初めてだ。早乙女の家も目が飛び出る程の豪邸だったが、湖山邸は口からハートが飛び出そうだ。
「お邪魔しまーす…」
芝生が生い茂る広い庭、門から玄関までに引かれた石製の道、玄関扉を淡く照らすランタン。目に入るもの全てが一般市民とはかけ離れている。あまりに豪華な物に囲まれて意識が揺らぐ。
「あぁ…俺は転生でもしたんだろうか…」
ハッキリとしない意識の中で口に出たのはそんな馬鹿げた言葉だった。
「将也さん、大丈夫ですか?死んだ魚の目してますよ」
「お兄…そうなる気持ちは分かるよ。私も初めて来た時なったもん」
二人して何を言っているんだ?俺は常時元気満タン状態だぞ。そう元気だ、こんな装飾品程度で魂が持ってかれるようなやわな男じゃない。
「そういえば、ここどこだ?俺はさっきまで湖山邸の前にいたはず…」
「将也さん、虚ろの状態でここまで来ましたもんね」
「お兄…流石に引くわ」
噓だろ…まさか無意識でここまで歩いてきたのか。自分の秘めたる才能が開花してしまった…こんな才能嬉しないわ。
「それで調査ってのはどうやって始めるんだ?」
調査といえば思いつくのは聞き込み、見張り、まさか尋問とか…それはないか。
「結構単純ですよ」
単純…?単純なだけで簡単ではないのか。俺は細々とした作業は苦手だぞ。
「将也さんなら知ってますよね。命苫将人が過去に起こした出来事」
なるほどよく分かった。カフェで感じた湖山の冷たさの正体が。こいつは始めから知ってたんだ…命苫将人が、父親が引き起こした数々の事件を。
湖山の瞳から感じたのは冷徹さなんかじゃない、冷酷で厭忌なごく一般的な感情だ。俺たち兄妹を”狂気の息子娘”として見るありきたりな人間の。だからって警戒することは毛頭無い。だって被害者の、もしくはその身近な人の中に湖山なんて人物はいないから。
すると本心を隠すような笑みを浮かべた湖山が一歩二歩と近づいてくる。手を伸ばさなくても肩が届くくらいに近づいた後、手を差し出してこう続いた。
「改めてよろしくお願いします。命苫将也さん…」
格下の敵を煽るように含みのある言い方だ。だったらこっちも…
「あぁ、よろしく頼む。湖山彩人くん…」
こうして俺と湖山の間にバチリと火花が走るも、命苫将人の捜索は無事(?)に始まった。
さてさてバチバチな関係が出来上がりました~
ん?なになに…最近恋愛要素無いじゃんって?みなさん忘れないで下さい!!夕凪の幻が待ってるんですよ。
夏休み!みんなで!海に!!こんなん青春モード炸裂でしょ!それまではシリアスモードをご堪能下さいな




