第三十六話:ヒーリングタイム
幸せな今を嚙みしめて
唐突で申し訳ないが俺は後悔している、昨日の発言を。
場の勢いで調査に協力すると自ら買って出たのだ。当初の父親について知っていることを話すという目的を果せなかったどころか、余計なことに首を突っ込む羽目になってしまった。と回想シーンを挟み、俺はポテトを三本同時につまむ。
「んで、妹さんとはどうだったんだよ」
葉山はハンバーガーを片手に尋ねる。まあこうなることは予想に難くない。
俺はすかっり馴染んだ四人組と共にファストフード店で軽く食事をしている。というのも、葉山がバーガーを食べたいと言うので某バーガーショップに立ち寄った。もちろん男三人衆と早乙女が絡んでいるのを他の生徒に見られると、お互いに今後の学校生活に支障をきたすので、高校から少し離れた店舗に来ている。
「それがちょっと面倒なことに巻き込まれてさ…」
そして現在。三人には昨日時点で、麻樹と大事な話をするのだと勘付かれてしまったため、そのことに対して質問攻めを受けている最中だ。あぁ…現実から目を背けて最中食べたい。ややこしいな。
「面倒なこと?なんだ、彼氏でも連れてきたのか」
「優希、いい加減にしろ」
葉山に尚輝の制裁が下る。凄く痛そうな音がしたが、聞かなかったことにして俺は構わず続けた。
「まあ半分正解」
彼氏ではなく探偵だったが、結果的には同類なのでほぼほぼ葉山が正しい。三人は驚きを隠せていない表情で俺に視線を向ける。
「え…マジで…?」
「ほら見ろ。このオレが冗談なんて言うわけないだろ」
あっ、早乙女がちょっと引いてる。葉山に対して冷たい視線を向けてる。見なかったことにしよ。
「もしかしてその彼氏がチャラ男だったり…」
「まさか裏社会の人間か…!?」
とうとう尚輝までボケに回ってしまった。早乙女…突っ込んでくれと心の中で祈ったが、当の本人は静かに炭酸飲料を飲んでいる。
「違うわ。なんかそれがたんてっ……」
ギリギリのところで止められた。流石に妹が連れてきたのが探偵で、捜査に手を貸したなんて口が裂けても言えないよな…ましてやそれが昔に亡くなったはずの父親を捜す依頼だなんて。この明るい雰囲気の中で人の生死に関わる話を出せば確実に沈んだ空気になる。それだけは避けたい、なんとかして誤魔化さなければ。
「なんだよ…兄として彼氏を認めるのか?」
なにか…いい感じに話を続けないと…何かないのか……あっ!!
「それがさ、めっちゃ大人びてて…あのお転婆な妹が連れてるなんて想像できなくてさ…」
よし、ナイスだ俺ッ!!話の流れ的には不自然じゃないし、噓も言っていない。実際、湖山は外見も性格も俺たちよりも大人びてたし麻樹のタイプとは正反対だ。そういえば湖山の年齢聞いてないな。
「付き合た後が大変だからな。命苫、お前がちゃんとサポートしてやれよ」
「えっ、あぁ。さんきゅ」
葉山ならまだしも尚輝の口からそんな言葉が出てくるなんて思ってもみなかった。なんかくすぐったいような、嬉しいような…気を紛らわす為に、脂でギトギトになった指でポテトを大量につまむ。さっきからポテトをつまむ手の動きが止まらない。
「将也さっきからポテトばっかり…ってもうバーガー食べ終わったのか!?」
「えへへ…早くしないと全部食べちまうぜ」
「待ておれの分も残しとけ!!」
なんだか普通の学生みたいだな…
ふと思った。入学してから色々な事があった。今までの日常では考えられないような非日常を体験した。今も現在進行形でその非日常で生きている。ここにあの子がいたら、どれだけ幸せだろうか。なんて、俺の悪い癖だ。今だって充分に幸せなのに。
でも、あの子との約束は忘れてない。俺はこれからも道化として生きていくんだ。
「それよりさ、ここに来てから早乙女さん静かじゃない?」
葉山に言われて気が付いた。確かにここに来てから早乙女は一言も喋っていない。それどころかずっと葉山に冷ややかな視線を送っていた。
「何かあったのか、早乙女?」
俺の声で漸く我に返った早乙女は、これまでにない程に冷えた目で俺を見た。
「どうした早乙女。何かあるなら相談してくれ」
尚輝まで心配する。あれを見れば誰だって心配になるさ。助けを求める早乙女の顔を見たら。
「あのっ…」
小さな呟きと共に、正面に人差し指を指す。指の先にいたのは葉山だった。俺と尚輝は敵意全開で葉山を睨む。
「優希…貴様っ…!!」
「葉山…なにしたんだ?」
「待て待て、オレはなにもやってない」
これ以上は言い逃れできんぞ。とっとと吐け、葉山優希!!
「やってる奴はなにもやってないって言うのがお決まりなんだよ!!容疑者優希よ」
ファストフード店でやることではないのだろうが、そんなことに構ってられない。俺と尚輝で徹底的に葉山を問い詰める。この尋問はいつまで続くかな…
「違うの…」
早乙女は震えた声で葉山を庇う。だが、変わらず指を指し続けてる。
「正直に言ってくれ早乙女。俺たちはお前の味方だ」
そう声をかけると、早乙女は少しだけ安堵の色を見せて真相を語った。早乙女が抱えていたものは、衝撃的なことだった。
「ずっと葉山くんの服に…カメムシが……」
青ざめる葉山。俺達三人はその正体を目撃した。暫く四人全員が静止し、静寂の後に俺たちは決死の覚悟を決めた。
「葉山…悪いな」
「しばらくそこにいろよ、優希」
「えっ…ちょっと待てよ。何する気だ。オレ動いたらこいつが飛ぶんだぞ」
そうさ知ってるよ。それを利用しようってんだ。なんたって俺は虫が大の苦手なんだ。心を鬼にして…いざ。
「ごめんね…葉山くん」
「ちょっと待てー!!オレ動いたら…ってちょっ、取ってくれ!!」
そうして俺と早乙女、尚輝の三人は店を出る。すると一斉に堪えていた笑いが噴き出る。
「なんかさ、こういうのって楽しいな」
今までの俺にとってはこれも非日常なんだ。友達とバカなことして騒ぐなんて、あり得ないことなのに。散々だけど今が楽しい。ずっと苦しいことしか起こらなかった人生に灯りが灯されたように。
こんな幸せを感じられる今が、これからもずっと続くといいな…
「あっ代金置いてきてねえや」
やっぱり散々だ。
なんだか久しぶりに青春っぽいことしてますね~
こんな回が続くといいね!




