第三十五話:黒い糸
alla fine si incontreranno
あれは7歳の頃だったかな…
周囲に沢山飾られた綺麗な花に恐怖心を抱いていた。お香の匂い。静寂に響くりんの甲高い音。坊主の人が大声で何かを叫ぶ姿も気味が悪くて怖かったけど、それ以上に笑顔の遺影と静かに佇む白い花が俺を責めてる様で泣き出しそうになった。
人生で初めての参列、見知らぬ顔の人だらけの空間はやけに居心地が悪かった。殆どの人が俺と母さんを獣の様な目で見てくるから。麻樹を連れて来なくて本当に正解だと思えた。
そうだ…あの日誰かに打たれたなぁ。泣きながら鬼の様な形相で打つもんだから殺されるかと思ったんだ。なんであんなことされたんだろう。
あの日の葬式は散々なものだった。みんな泣いていた。母さんも涙を流していた。俺は泣かなかった。だってあいつの葬式で泣けるかよ。
その日は"父親の葬式"だった。
*****
「なん…だって…?」
耳を疑った。聞き間違えかもしれない。そう思って聞き返そうとした言葉は、動揺が隠せてなかった。
「命苫将人は、現在も生きているそうです」
信じてたものに裏切られる。そんな気分だった。それが物であろうと人であろうと、はたまた概念であろうと変わりはない。胸が苦しく張り裂けそうになる。
「どうしたん…お兄?」
「違う…嘘だ…そんなの…」
信じられなかった。信じられない。信じたくない。
だって父親は死んでるんだ。俺は葬式にだって参列した。その記憶はハッキリ残ってる。学童期の少年にとって奇々怪々なあの様子は忘れられない。それが全部嘘だって言うのかよ…
「嘘じゃありません。命苫将人は確かに生きています」
「本当なんよお兄。私も確かめたねん」
もしそれが事実なら、あいつは…生きてる…?あの地獄の様な生活をまた送るのか…?嫌な考えが次から次へと頭に浮かんでくる。そのせいで手の震えが止まらない。
真実が覆る。世界が反転する。俺が見ていたものは誰が俺を嘲笑うために作った偽物だって…真実なんてどこにもないんだって。
ずっと道化を演じてきた、あの子に会えない現実を受け入れた、父親を忘れて幸せに暮らしていた。
道化の遊戯を邪魔する者が現れた、あの子に会えない虚無感は無意味だった、忘れたくても離れたくても囚われたままだった。
「だったらあれは…なんだったんだよ」
そうだ、俺には父親の葬儀の記憶がある。これこそが確固たる証拠だ。母さんに確かめたっていい。
「あれって?お兄、ちゃんと聞かせて」
…麻樹、お前は知らないんだったな。
「俺は父親の葬式に参列している」
当然、二人は驚きの色を見せる。俺だって驚いたよ。死んだと思ってた父親が生きてるなんて言われたら。
「ちょっとどうなんてるんよ湖山さ~ん」
「あれ~…おかしいな…」
急にあわあわしだした二人組。父親が生きてる証拠がないのだろうか。
「因みになんで父が生きてると思ったんだ?」
少しの間、考える素振りを見せて湖山は答える。
「役所に死亡届が出されてないんです。命苫将人の」
謎が謎を呼ぶとはまさにこのことだろう。葬式が行われているはずの父親が生きている。死亡届も出されずに。
「だったらあの葬式はなんだよ。俺も母さんも覚えてるんだぞ」
「記憶違いなんてことはないですか?誰かのお葬式をお父さんのものと勘違いしているとか…」
そんなことあるわけないだろって、直ぐに反論したかった。ここに来て疑問が湧いてきたんだ。父親が笑顔で写ってる写真なんてあったか?誰が主催したんだ?なぜ麻樹を連れて行かなかった?なんで……
なんで、あんな父親の葬式になんて参列したんだ。
「やはり命苫将人にはお二人が知らない秘密があるみたいですね」
生死不明のまま今後も安心して生活できるか?断言する、無理だ。だったら俺が突き止める。死んでるならハッキリさせて母さんを安心させたい。生きてるならまた地獄に逆戻りだ。そんなこと絶対にさせない。何としてでも、命苫家を守ってみせる。
「二人の捜査、俺も協力する」
「やりぃー」
麻樹と湖山は喜びながらハイタッチをする。協力はしますが妹は渡さないからな湖山…と心の中で激怒しながら湖山を麻樹から引きはがすのだった。
*****
とある手法を使い、男は命苫将人の子供の情報を集めた。一冊の手帳を使い切るほどの情報に、男は眩暈を催す。だが、この中に手掛かりとなる貴重な情報があったことを男は知っている。
「これで…あいつに近づける」
男は情報をまとめる中で一つ何かに気付く。
「今年の春から…鷹住高校に入学する…」
男は母校を名を見て、手を止めた。何度か街で見かけたことがある、あの小汚い小僧が命苫将人の息子だった。それに命苫将人の息子とは過去にも一度もあったことがある。だが当時の記憶を朧げにしか思い出せない。
「なんとかして思い出せれば…」
だが幸い、男には時間がある。ゆっくり時間をかけて思い出せばいい。
そうして男はベッドに横たわり、過去の記憶を探りながら眠りについた。
作者の望みとしてはIFルートのお話が書きたいです。
今のところ『すべてのキャラが幸せになるハッピールート』と『免れた最凶最悪のバッドルート』が書きたいなぁ~って。
どっちにしろ完結後ですね




