第二十七話:確かなもの
Qualcuno mi trovi, per favore.
午前の授業が終わり、もう定型になった三人組で空き教室へ向かう。
「そいえば将也、昨日麻里ちゃんと何話してたんだよ」
「それは…ええっと…」
一瞬、昨日のことを話すか迷った。だけど二人は先生の友人の話を聞いているのだから、その後の話も聞いておくべきであろう。
「無理に話さなくていいぜ」
「うんん、大丈夫。弁当食べてから話すよ」
もしこの先もこのまま友達でいれたら、俺が道化になった理由を話す日が来るだろう。その時のために二人にも夕凪の幻を知っておいて欲しい。
「つまり、死者が蘇る伝承が実際に起こったのか…」
「でも伝承に出てきた儀式ってのはやってないんだよな」
昼食を食べ終え満腹になった俺は、二人に先生から聞いたことを話した。二人も俺と同じく半信半疑のようだが検証しないことにはなんとも言えない。
「麻里ちゃんはきっと辛かったよな…」
葉山の言う通りだと思う。仮に先生の話が本当だったとして、二度と会えないと思っていた友人にほんの少ししか再開できないのはさぞ辛いことだろう。それも突然に。
「でもなんで命苫にだけ話したんだ…?」
当然、二人はそこを疑問に思うだろう。恐らく先生は俺の過去を知ってこの伝承を、自身の体験談を話してくれたんだ。“あの話”をするのは、先生の配慮を無下にすることになる。それに俺自身もあの話をするのは気が引ける。
『ここに、お前を拒絶するような人間はいない…』
前に葉山が言っていた言葉を思い出す。ここには俺を拒絶する人間はいない。正直なとこ、少し揺らいでいる。出会ってまだ間もないが、こいつら三人にならあの時の…俺を道化へと変貌させた出来事を話せるだろうか。
ふと我に帰り顔を上げる。その視界には俺をジッと凝視する二人の姿がある。
「将也…どうかしたか?」
「何耽ってんだよ」
全く気づかなかったが、随分と長い間ボッーとしていたようだ。
「別になんでもねーよ」
俺は気丈に振る舞う。問題児という仮面は剥がれたが、道化としてのスキルは失ってない。明るく振る舞って本心を隠すなんて朝飯前だ。
「なあ命苫…」
尚輝の言葉を遮るように予鈴が鳴る。俺たちは慌てて弁当を片付ける。
「何か言ったか、尚輝?」
後ろで片付けている尚輝に背を向けて問いかける。これ以上話を深掘りされたくないが、ここで誤魔化せば余計に詮索されるだろう。ここは上手くしらを切ろう。
すると二人は俺の背中を軽く叩いた。二人はその手をそのまま肩に乗せて答えた。
「なんか無理してんなら、オレらに話せよ」
言い終えた後に二人は教室に戻って行った。初めての体験でしばらく言葉が出なかった。今までの俺なら、誰かに相談するなんて絶対に考えないだろう。だがつい先程まで俺は、相談するかどうかを悩んでいた。友達になった三人に。
突然、呆けていた俺を目覚めさせるように強い風が吹いた。長いカーテンが視界の隅に入る。戻る前に窓閉めてかないとな…
振り返ろうとした瞬間に俺は気づいた。視界の端で踊っている白い布の正体に。
夏頃になるとよくあの子が着ていたワンピースと同じ模様が描かれていた。
後ろを向いた俺の視界は真っ暗になった。一切の音も光も遮断された。
『ねえまさや…やくそく…おぼえてる?』
キーンコーンカーンコーン
チャイムの音で目が醒める。さっきまであの子がいた気がした。だが周囲を探してもこの空き教室には誰もいない。
「なんだったんだ…?」
気のせいだろう。いくら休日を挟んだとはいえ、いきなりあんな大事に巻き込まれては回復しきれないだろう。顔の傷だって治ってないのに。だからきっと気のせいだ、きっと。
窓をしっかり閉め空き教室を後にする。さっきチャイムが鳴っていたので間違いなく遅刻だ。まあクラスでは問題児のままなので構わないが。どうせ怒られるならゆっくり戻ろっと。
俺は一つだけ気になっていた。
さっきのは気のせいだと思っている。俺が見ていなかっただけかもしれない、だけどあの教室についてから誰も窓なんて開けてなかった。
もしかすると夕凪の幻みたいに…なんてことを考えるほど俺は廃れていない。
少し気になりながらも、俺はとっくに授業が始まってる教室に入って行った。
ドアや窓は閉められ、静かになった空き教室。
白い夏物のワンピースを着た少女は一人寂しく外を眺めている。
『まさや…』
消えそうな声でそう呟いた少女は、こちらを見てニコリと笑った。
気づいた頃にはもう、少女は消えていた。
※本編とは関係ありません。ifストーリーとしてお楽しみください。




