第二十四話:水に流した
Noi che ti abbiamo amato.
ホームルームが終わり、俺と尚輝は葉山に連れられ永井先生を相談室に呼んだ。
「一体なんの用だ…何か相談か?」
「先生は前々からオレらのこと阿部先生に聞いてたんですよね」
葉山は本人の前だと先生呼びらしい。それに阿部先生とは二人の中学の担任のことだろう。
「そうだ。おかげでお前らの問題行動に迅速に対応できたよ」
ゔっ…実際に問題を起こしているのでぐうの音も出ない。
「そこでですよ。オレたちだけ勝手に話されてるのはムカつきます。ですから…」
「私たちの話も聞きたいと?」
流石はプロの教師。無津崎の時もそうだったが、生徒のやることを見透かしている。
「別に話してやらんこともないが…お勧めはしない」
途端、永井先生は低い声でこちらを睨むように言った。その目は過去を受け入れない…思い出したくないという強い意志を感じた。
「まあ確かにお前らだけ秘密を握られるのは教師としてもよろしくないな。分かった話そう」
永井先生は本心を隠すように俺たちに笑顔を見せた。その変わりようは、まるで仮面を被ったようだった。
「でも…話したくないことなら無理に聞き出すつもりは…」
きっと二人も永井先生の強い思いを感じたのだろう。申し訳ない顔をしながら葉山は先生の話を妨げる。
「折角ここまで来たんだ。聞いてくれないか?」
さっきまでと立場が逆転し、俺らが先生に頼まれる形になっている。多分「ここまで来た」の真意は心の準備ができたといった意味だろう。
永井先生の目には、哀愁漂う冷たさが隠されていた。
*****
私たちは高校の入学式で出会った。お前らと似てな。それからは何をするにも一緒だった。私と健司と始、それともう二人の五人組でな。
今では、私と健司と始は教師に、もう一人は医者になったんだ。すこいよな、めっちゃ頑張ってたから。もう一人はどうしたのかって?あぁ、そうだな…死んだんだ。水難事故で。
そいつが…ひまりが死んで、高校卒業した私たちは疎遠になった。確か…少なくとも大学卒業まで連絡取らなかったな。別に気まずくて離れたわけじゃない。その前に色々あってね…私たちにとっては必要な間隔だったんだ。
でもある日、健司から連絡が来たんだ。とんでもない奴が入学したって。始からも似たようなのが来て、そこで初めてお前らのことを知ったんだ。おかげで今では飲みに行く仲にまで修復したよ。あいつは医療の仕事は忙しいって来てくれないけど。
ひまりが死んだことは受け入れられなかった。それでもまだ一緒にいたいと思うのはお前らのおかげだよ。感謝してる。
*****
「そんなとこかな。生徒にここまで話したのは初めてだな」
しばらく俺たちは黙っていた。なんだか空気が重い。昨日の重さとはまた別の重さだ。
「先生…すいません。何も知らないで、無理に話させて」
葉山は先生に話すように促したことに責任を感じてるようだ。
「いいんだ。聞いてもらえてスッキリしたよ。ありがとな」
先生は笑っていた。その笑顔は力弱く、哀しさを紛らわせるもののようだった。
帰りはいつもの葉山のハイテンションさがなく、尚輝が頑張って紛らわせようとしてたが、それでも気分は重かった。
靴を履き学校から出た俺らは、門の前に一人、誰かがいるのに気がついた。こちらに背を向け退屈そうに誰かを待っている。近づいてみるとその人物はあの子にそっくりの人だった。
「早乙女…何してんだ?」
後ろから迫る俺らに気づかなかったのか、俺の声に驚いて振り向いた。
「三人とも…待ってたんだ」
早乙女は俺の横に並び、こう続けた。
「昨日、私のせいで呼び出されてたでしょ。それ以外にも迷惑かけちゃったから…」
最後まで聞き取れず、聞き返すつもりで早乙女を見る。すぐ隣に並ぶ彼女はそっぽを向き、顔を赤らめていた。
「ならさ、打ち上げも兼ねてみんなでカラオケ行こうぜ、カラオケ‼︎」
いつの間に通常に戻ったのか葉山がそんな提案をした。
「はぁ…優希はいつもこれだぜ。しゃーねえな」
「いいね。私も行きたいな」
「よっしゃー‼︎将也はどうだ?」
永井先生がどんな気持ちで話したのかは分からない。でも、大切な人がいなくなる痛みなら知ってる。でも目の前の温かさは…あの子からの赦しなんだと、そう思いたい。
「ああ…行こうぜ」
俺は笑顔でそう答えた。
「麻里…もうやめよう」
「なんで…ひまりの想いはどうなるの⁉︎」
「だからこそだ‼︎」
「平川麻由里は…もういないんだ」




