第二十三話:坊やの考案
ボウヤァ
昼休みの空き教室で俺たち三人は昼食を食べていた。一昨日までアワアワした日が続いたせいか、このなんて事のない平穏を有難く思う。
「ここ数日色々あったけど、やっと学生らしいことができてるなオレら」
葉山に激しく同意する。まあもっとも、あんなイレギュラーな事態もう起こらないだろうし起こらないで欲しい。
「それにしてもお前はよく来たな尚輝。どうやって俺らが無津崎に行ったこと知ったんだよ?」
なんかこの高圧的な態度は久しぶりだ。素の俺を受け入れてくれたのは早乙女と葉山だけなので、尚輝の前では仕方ないのだが。あの危機的状況で現れた尚輝は頼もしかったが、どうして助けに来れたのだろうか。
「ほほぉ〜…それが例のか」
「は?なんだよ例のって?」
尚輝がニヤニヤと笑うので、少しイラッとする。あの時見せた笑みの面影は微塵もない。俺がまた喧嘩腰に尚輝に突っかかろうとしたその時、仲裁の声が入った。
「ストップだ将也。無津崎に入る手前でオレが尚輝に連絡したんだ」
なるほど葉山が呼んだのか。納得した意を見せ引き下がる。
「あぁ?それで例のってなんだよ」
さっき尚輝が口にした「例の」の正体が分かってない。なんなのか全く検討がつかないが、大事なことならば聞いておかねばならない。
「将也の素の性格のこと、話ちった。テヘペロッ♫」
うんうんそうか…話ちったんだな。
「はぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎‼︎なななな、尚輝に話したのかよ⁉︎」
俺の慌てる様を見て尚輝のニヤケがさらに増える。この笑顔には皮肉と煽りが込められてるのを感じた。
「確かにおれが助けた時やけに素直だと思ったら…いやいや、別におれはいいと思うぜ。丸まった命苫も」
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎恥ずすぎる、あまりの恥ずかしさに顔を伏せる。
「改めて、これからよろしくな命苫」
顔を上げると尚輝が手を差し出していた。状況が理解できず判断が鈍った。
「なんの手…?」
「握手くらいやるだろ。もう友達なんだから」
ははっ…これはびっくりだ。こんな嬉しいことが俺に起こるなんて。
俺はその手を掴み握手を交わす。尚輝が差し出した手は一昨日の二人の温かさと似てる、本当の俺を受け入れてくれる温かさだった。
「よろしく…尚輝」
「いやぁ〜満腹だぜ。二重の意味で」
なんだか気恥ずかしいが道化じゃない俺を受け入れてくる人が増えたことは喜ばしい。全員昼食を食べ終え、授業が始まるまで少し時間が空いた。こんな時何をすべきか分からない俺は、二人が話題を振るのを待った。
「あっ…確かお前さ、あの時おれのこと親友って言ってたよな」
突然の尚輝の発言に俺と葉山は困惑する。なんのことやら…
「なぁ命苫、なんで親友って呼んだんだ?」
俺…?全く心当たりがな……思い出した途端、顔が熱くなるのを感じた。無津崎から脱出する前に間違いなく言っていた。尚輝のことを親友と。
「あ…あれは咄嗟だったというか…パッと浮かんだ言葉がそれだったから」
自分でもなぜ尚輝をそう呼んだのか分からないが、急場だった為大した意味はないだろう。
「ほ〜ん…咄嗟にね」
なにか引っ掛かる返答だったが、尚輝も驚いてるんだろうなと考えた。
少し気まずくなった空間を、葉山が新たな話題で紛らわせる。
「なあ、麻里ちゃんはオレらのこと中学の担任から聞いたって言ったじゃん」
永井先生は俺のこともあの事故についても、中学の担任から聞いてると話していた。昨日もそんなことを言っていた。ツッコミたいとこがあったが、今は無視して続きを聞く。
「そこでさ、麻里ちゃんと中学の担任がどんな関係なのか気にならねえ?」
「受験前に古い友人だって言ってただろ。忘れたのか」
俺の担任も同じことを言っていた。その時は事前に知っておいてくれるのは有難いとしか思わなかった。
「覚えてるけどさ、麻里ちゃんはオレの幼少期の頃まであいつに聞いたって言ったんだぜ」
幼少期の頃まで…俺も似たようなものだが、葉山もそうなのか。
「それは…葉山が幼少期から不良だったからじゃないのか。てかお前の幼少期とか知らないわ」
中学から同じだった尚輝は葉山の幼少期を知らないようだった。
「まあともかく、よっぽど信頼してる関係性じゃなきゃそこまで話さないだろ」
葉山の言うことも一理ある。だがそれがどうしたのだろうか。
「オレらの事話されてんだからやり返す権利くらいあるだろ」
仕返しとして永井先生と中学の担任の関係を暴こうとしてるのか…
「おれは反対「早速放課後、麻里ちゃんに直接聞きに行こうぜ」
「まあ、帰っても暇だからいいけど…」
と、葉山発案の永井直接取材計画がここに爆誕した。(放課後に聞きに行くだけだが)
結構修羅場な関係だったりして〜なんて葉山が言うので、不安になってしまう。
「おれは行かねえっての‼︎」
「どんな昼ドラ展開が…」
尚輝の訴えを無視し、葉山は妄想に浸る。
前言撤回だ。全然平穏なんかじゃなかった。
今にして思えば、俺たちのことを気遣って永井先生との関係を話さなかったのだ。
そのことに気づけなかった俺たちは、まだまだ子供だった。
エンターーーテイメント!!




