第二十二話:師の恩恵
Non lo dimenticherà lei.
無津崎高校から帰還した翌日の放課、俺たちは早速新たな危機に直面している。あぁ…この事態は全く想定していなかった。
「君たち三人のことは入学前から知っていたが、ここまでするとは…」
堅苦しい雰囲気にズシリと重たい空気、いや重圧。まるで八浦を前にした葉山みたいに圧迫される。
「早速暴力事件か…」
俺と葉山と尚輝の三人は担任の永井によって生徒指導室へと呼び出された。理由はもちろん昨日のことだ。近所の人が『無津崎に鷹住の制服の子達が入っていった』との連絡を入れたんだそう。
「いや〜まさか暴力事件なんて起こしてませんよ」
葉山は容疑を否認しているようだ。
「残念だけど調べはついている。八浦波奈と喧嘩したそうだな」
なっ…なに⁉︎なぜ永井先生がそんなことまで…
「ちっ…違いますよ。最近八浦とは仲がいいんです」
尚輝が擁護に入る。葉山に関しては黙秘。永井先生は真実を知った上で俺らを調べてるんじゃ…
「なら学校全体でこの件をなんとかしないとな〜」
「ですから、おれたちはもう喧嘩なんて…え?」
永井先生は今なんて言った?学校全体でと言っていた。
「先生もしかして…」
「そうだ。このことは私しか知らないよ」
おぉ…雷神に風神ときて、ここには神が…
「誰にも言いはせん。お前らがしたことを教えてくれ」
俺たちは、大方の内容を先生に話した。向こうから手を出してきたこと。話し合いを持ちかけたこと。防衛のための喧嘩だったこと。当然早乙女のことは伏せて。
永井先生は頷きながら聞いてくれた。特に怒鳴ったり押さえつけたり、偉そうに諭したりはしなかった。ただ黙りながら時々相槌を打って。
「なるほどな…確かにそれは不気味だな。いわゆる、内通者ってやつだ」
内通者か…そいつが裏で糸を引いてる黒幕、つまり復讐者なのだろうか。
「事情は分かった。こっちでも調べてみるよ」
「「「本当ですか‼︎ありがとうございます‼︎」」」
そう言ったのは三人同時だった。先生はその光景に驚いたかと思えば、声を出して笑った。
「お前らは随分仲良くなったみたいだな」
仲良くなった、いざ言われるとなんだか恥ずかしい。入学式の俺と尚輝の喧嘩から、こんな短期間で距離が縮まってたらそりゃ驚くか。
「もう暗くなりそうだな。気をつけて帰れよ」
そうして俺たちの平和と内申は、永井先生によって守られた。
*****
4月11日 23:17
昼の賑やかさは消え、静まり返った学校で感傷に浸る者がいた。
小さな灯りがつく職員室から大きなため息が聞こえる。1年D組担任の永井麻里は、学生時代を振り返る。
「お前らの聞いてた通りの奴らだったよ。癖の強い連中だこと」
誰もいない空間で、永井は小さく呟いた。彼女は自分の生徒を照らし合わせている。儚くも散った、いつかの私たちと。
一通り仕事を終えた永井はデスクを片し、荷物を持つ。帰る支度ができた彼女は自身のデスクの抽斗を開ける。そこから一枚の写真を取り出し、じっと眺める。
「もう決別したはずなのにね…ヒマリ…」
永井は写真を抽斗に仕舞い、その場を後にする。
彼女が発した故人の名は、閑散とした静寂に飲み込まれた。
お次はなんとなんと永井先生が活躍する編になりました〜
未だ登場回が少なく謎に包まれた永井麻里がどんな過去を抱えているのか…乞うご期待!




