第二十一話:避難先で
てめぇらぁカチコムぞぉー!
もちろん予想はしていた。葉山と中学から仲がいいと聞いたのを思い出して確信めいたものはあった。
「おいおいどうした菅波、そんなもんか?」
実際に自分が奴と対峙したというのもあるだろう。菅波と互角以上の喧嘩を繰り広げている尚輝は、葉山以上に頼もしく見えた。
「クッソ…!全然手が出せねえ」
ついさっきまで俺たちを追い詰めていた菅波は、尚輝の攻撃を避けるのが精一杯のようだ。
「命苫、早乙女さん連れてとっとと逃げろ‼︎」
「でも…葉山が!」
ここは尚輝に任せていいだろう。だが葉山はあの軍人みたいな野郎を相手にしている。周りの数十の観衆も含めたら、一人で制圧できる数ではない。
「あいつは大丈夫だ。なんたって雷神、だからな」
尚輝はこっちを見て、ニコリと笑った。
なにか見覚えのある悪い顔。これが不敵の笑みというやつだろう。菅波の不気味な笑みと正反対だ。
「分かった…信じるぞ、親友‼︎」
二人を信じる。それが友達の俺にできることだから。
「行くぞさおと…」
俺は停止した。これはマズイ…俺の命に関わる危機だ。
「あっ…ええっと…」
いくら助けるためとはいえ、抱きついてしまった。
合意なし、だよな。終わった…社会的に俺は死ぬ。
「命苫くん…これ…」
はい終わったもうダメだ。セクハラで訴えるのか、ネットに晒して大炎上か。覚悟はできてる、好きにしろ…‼︎
「えへへ、昨日と立場逆転だね。守ってくれてありがと」
っ…‼︎これはズルい。尚輝と菅波の笑顔とは似ても似つかない、天使のように可愛らしい笑みだ。少し頬が赤く染まっているのがさらに良い。
「篠原くん、ここはお願い」
尚輝が菅波を投げ飛ばす。許されたのならそれでいい。まずは安全なとこに逃げなければ。早乙女から一度離れて手を握る。
「これで昨日のことはチャラにしてやるよ!」
なんて見栄を張り、早乙女を連れて走り出す。本当はうるさいくらいドキドキしてるのに。
色んな感情が心の中で渦を巻き、俺は無我夢中で逃げ走った。
「ハァ…ハァ…ここまで来れば…安全…だろ…」
あの事件以降ほとんど運動を行わなかった体でいきなり走り出すことは、俺に致命的なダメージを与えた。さっきまでの怪我の痛みも加わってさらにしんどい。
「あの二人は大丈夫かな。誰か大人に伝えた方がいいんじゃ…」
驚くほどそっくりだ。困ったらすぐ誰かに助けを求めるところ、怖いもの知らずのトラブルメーカなとこ。そして何より、笑った時のハムスターみたいな愛らしい笑顔。
俺のポケットが振動した。正しくはポケットに入っている携帯がだが。早乙女にもバイブ音が聞こえたようで、確認することを了承してくれことを頷きで伝える。
送信者は葉山だ。メッセージが送れる状況なのだろうか。
葉山から届いたメッセージは、そんな俺の疑問を打ち消す旨の内容だった。
【こっちはなんとかなったぜー。俺らは諸々が片付いたら帰るから心配すんなよ】
葉山たちの方も無事に終わったみたいだな。とりあえず一件落着して安心した。もう一度画面を見るともう一通届いていたことに気づく。そのメッセージを見て俺は吹き出す。
【ところで早乙女さんとはいい感じになってる?吊り橋効果ってやつか。結婚式には呼んでくれよ】
なななっ何を言ってるんだ葉山は⁉︎殴られてとうとう狂ったのか。
「どうしたの?葉山くんたちに何かあったんじゃ…」
「なんもない大丈夫大丈夫。無事に終わったってさ」
こんなもの早乙女に見せられるか‼︎慌てて携帯をしまう。
〜〜〜♪
夕焼け小焼けが聞こえてきた。気づけばもう夕暮れ時で、夕日が俺たちを照らす。
俺はあの日のことを思い浮かべていた。
「あの日の約束…覚えてるか?」
早乙女はキョトンとした顔で俺を見る。俺としたことが、口が滑ってしまった。
「約束?なんの約束だっけ…?」
約束について早乙女は何も思い当たらないようだ。当然だ。この約束は、明日香としたものなんだから。
「いいや。早乙女じゃない…」
一瞬でもあんな希望を抱いたのがいけなかったのか。ちゃんと決意したつもりだったのに。
「め…命苫くん?」
頭の中が真っ白になった。俺はなんだ。
「将也…
やくそく…」
「えっ…?」
自分が自分じゃなくなる、そんな感覚に陥っていた。
「早乙女に…聞いて欲しいことがあるんだ。俺の…俺の…‼︎」
感情の渦が爆発し、制御が効かなくなる。こんな言葉今すぐにでも止めたいのに。
すると突然、クラクションが大きく鳴った。おかけで俺は我に返った。
「なんでも聞くよ。どうしたの…?」
改めて話すとなんか恥ずい。なんでこういう時に限って正常になるんだよ‼︎
あぁぁ、もう‼︎覚悟を決めろ俺‼︎振り切れ‼︎
「と…とりあえずもう暗くなるし、帰ろっか」
覚悟を決め振り切った結果がこちら。あぁ…俺という人間はなんてヘタレなんだ。ほら早乙女も理解に苦しんでる。なんて情けないんだ俺は…
早乙女を家まで送り届け、俺は帰路についた。昨日今日でとんでもない冒険をしたなと、出来事を思い返す。まだ知りたいことは何一つ解決していない。だが暫くは落ち着いて生活できるだろう。
俺は菅波の言葉を思い出した。復讐者…一体誰が裏で糸を引いているんだ?なんて真相を俺なりに考察していたらもう家の真ん前だ。
また増えた怪我で麻樹に色々言われそうだ。長い一日に別れを告げ、玄関を閉めた。
無津崎高校編これにて完結〜‼︎
突然の不良漫画展開で驚いた方も多いことかと。自由にやりすぎたなと反省してます。
ですが、この事件は後の展開に大きく関わってきますので、覚えといてやってください。
それでは諸君、See you next time.




