第二十話:万死一生
Salvatori e vendicatori.
人は希望が見えると油断をする。
そんなことをよく耳にするが、どこかで自分は大丈夫だと思っていた。
「なんでここにいる…菅波‼︎」
さっきまで教室にいたはずだ。俺らの方が早く出たのに、なぜ菅波が先に着いてるんだ。
「えぇっと…早乙女ちゃん、だっけ」
「なに…?」
菅波は、俺ではなく早乙女に話を振る。
「まず、昨日は本当に悪かったな」
…‼︎これで何度目だよ。こいつに驚かされるのは。
「どういうことなの?真相を教えて」
もしかするとこの件は、相当複雑に絡み合っているのだろうか。
俺たちが想像しているよりも…やばいことに首を突っ込んだんじゃ…
「真相ね…ボスがヒントをくれただろ」
ヒント…八浦が?
「今回の件は、お前がきっかけなんだぜ。将也くん…」
俺がきっかけ…確かに八浦もそんなことを言っていた。
だが全くもって心当たりがない。そもそも、俺は菅波にも八浦にも初めて会ったのに。
「全然覚えてないんだなぁ。あいつも可哀想に」
くっ…こいつらは一体何を隠して……ん?
そうか…この件は何かおかしいと思ってた。頭のどこかで引っ掛かってたことがある。
真相が分かったわけではない。でも、この違和感は無くなるだろう。いやまさに…
「あ…?何笑ってんだ」
え?口許を触ると、口角が上がっていたことに気づく。無意識だった。
仕方ないだろ…こんなにもスッキリしちゃったんだから。
事件の真相じゃなくともこれは役に立つかもしれないと思うと、俺が早乙女に貢献できたみたいで嬉しいんだ。
「菅波…お前が何を隠してるか分かったかもしれねぇ」
「ほう…なかなかの自信だな」
まあな。お前がポロッとこぼした言葉、俺は聞き逃さなかったぜ。
「なら、それが当てれたら見逃してやるよ」
「いいのかよ…あとで後悔しても知らないぜ」
「命苫くん…」
早乙女…あの子は今の俺を見て、かっこいいって言ってくれるだろうか。
「聞かせろ」
菅波の一言で、体が強張る。落ち着け俺…ゆっくり息を吐け。
吐き終えたと同時に、キリッと菅波を見て口を開いた。
「今回の件には…いるんだろ。黒幕…支配者が‼︎」
これが俺が抱いた違和感の正体。
「恐らく、あの手紙から全てそいつの指示だったんだろ。そして弱みを握られたお前はそいつに協力した」
そしてこれこそ、俺が菅波の言葉から導き出した推理だ。
しばらく沈黙が続いた。菅波からの反応を待っていた俺は返事がないことに憂懼し、恐る恐る奴を見ようとした。だがそれは右頬の衝撃により叶わなかった。
「ゔっ‼︎いっっ…」
昨日とさっきで殴られ過ぎたせいか、今までの比にならない程痛い。俺は物理法則には逆らえず、床に倒れ込む。
「命苫くん大丈夫⁉︎」
早乙女が駆け寄る。菅波は昨日のような薄気味悪い笑みを浮かべていた。
「結構痛いところ突くね。ほとんど正解だよ」
「だったらなんで⁉︎話が違う‼︎」
そうだ…奴は俺の推理が当たったら見逃すと言っていた。なのになぜ?
「まあまあ、人の話は最後まで聞けって」
菅波は次いで言う。
「確かにあの手紙も早乙女ちゃんを襲ったのもあいつの指示だ。だが…俺は善意で協力したんだ。あいつの下になんてついてねえよ」
まさか…予想だにしない返答だった。善意で協力した、菅波とそいつは良好な関係なのか…?
「それにあいつは支配者よりも…復讐者の方がにあうぜ‼︎」
菅波は昨日のような薄気味悪い笑みを浮かべながら、俺らに向かって拳を振り下ろした。
最悪だ…もう逃げる方法はない。きっと早乙女も無事では済まないだろう。
分かってる。守らなきゃいけないって分かってる。でも…身体は素直で、痛みを恐れた。
痛み…痛み?あの時も痛かった。身体でなく、心が。今よりもずっと、ずっと。
なのにまた繰り返すのか?あの痛みを…辛さを。
俺はあの子に…明日香に全て捧げて道化になったんじゃないのか?
「じゃあ将也は…ピエロだ‼︎」
あの子から貰った俺の意義。だったら最後まで道化を全うしろ‼︎‼︎
気づいたら体が勝手に動いていた。振り下ろされる菅波の拳が早乙女に当たらないように、俺は奴に背を向けるように彼女に抱きついた。
覚悟はできてる。どんな痛みも、あの時に比べれば…
直後、パチンッと耳に障る音が響いた。俺の背中に痛みはない。
菅波の拳は、俺には届かなかった。
「まったく、何してんだお前らは…」
この声…‼︎俺は聞き覚えのある声に安堵した。
「でもま、けっこーかっこよかったぜ、命苫」
安心感から、涙が出そうになった。
「もう大丈夫だ、二人とも。あとは任せろ」
「あぁ…ありがとな、尚輝…!」
この時の尚輝の背中は、まさに救世主だった。
やっと出てきた尚輝きゅ〜ん
すいませんでした。
今回長めにしました。




