6 レオス・ヴィダールとレインの共闘
レインと突発迷宮に入ってそうそうに魔物とエンカウントした。魔物? と言っていいのだろうか。アンデットでは? と付け加えたくもなった。
全身肉がそがれ、骨だけとなった人間が剣を持ってうろついている。こちらへの反応は鈍い、しかしそっと横を通りず過ぎようと思ったら急にこちらに気づいて襲い掛かってきた。
前回のボス部屋の鎧に比べれば何もかもスケールダウンした相手に、俺は苦戦することなく進んでいく。後ろに控えているレインは苦手ながらも炎の魔法を使い、援護を欠かさない。
その程度の連携で充分だ。そして奥へと進んでいくとまた洞窟に似つかわしくない大きな扉が見えてきた。
「レイン、あれがボス部屋、あれを開けると強制的に戦闘が始まるから開けるなよ、絶対に開けるなよ」
「うん……、ということは」
「あー! だから開けるなってえええ」
漫才じゃないんだから、そういう頃にはレインが扉に手をかけて開けようとしていた。この距離じゃもう間に合わない。仕方ない、何があっても守ってやるから、存分に開けるといいさ。
「えいっ」
レインの掛け声と共に開いた扉の中に俺とレインは吸い込まれていった。
中に入ってレインが呟く。
「ここ、なんにもないね。あっなんか球あるよ」
「ストーップ、これ以上は勝手に動かないこと」
俺はレインの首根っこを掴んで制止する。どのタイミングでボスが登場するかは分かってない。2人を分断されると面倒くさいのでここからは慎重にいかないとな。
「前はあの球を破壊しようとしたら上からボスが降ってきたんだけど、もしかしたら時間経過かもしれないから、少し待ってみようか」
「りょーかい!」
レインの元気な声に癒されながら、ボスが降りてくるのをまつ。すると想像通りだったのか、一定時間経過した後に敵が落ちていた。
今回のボスは、4本足の獣だ。黄色い毛並みに、ところどころに線ののように黒い毛並みに変わっている。虎に近い体躯、鋭い爪や牙は食らったら致命傷になりそうだ。
「まずは様子見、俺が前に出るから隙があればレインも攻撃に参加、魔法もバンバン撃てよ」
簡単に作戦を伝え、俺はボス獣に向かって歩いて距離を詰める。相手も警戒してるのか、じりじりと後退している。それは助走の為か、後ろ足に力を込めているのを俺は見逃していない。
そして恐らく相手の間合いに入ったのだろう、ボス獣が飛び掛かってきた。前足にある爪と、大きく開いた口には俺なんかひと噛み出来そうな牙、すこし恐怖を覚えたが、その動きは単調だ。
所詮は獣、予測は容易い。
「ダークウォール」
俺は前回の反省を生かし、ダークバインドでの拘束をしなかった。
思った通り相手の下には影はない。なんだこれ闇魔法殺しか?
飛び掛かってくるボス獣の視界を塞ぐ。そして突っ込んでくるそれをダークウォールが捕らえ、ぬちゃりと移動速度を落とさせる。あまり効いていなさそうだったが、その少しで俺には十分だった。
一歩下がる前に下から上にかけて剣を振り上げ、相手の左目付近に切り傷を付ける。これで目は潰した。そして相手の攻撃は空をきる。
「ファイアーボール」
左目を潰し、死角になったところからレインの魔法が炸裂する。
攻撃が直撃し、毛が燃える匂いが部屋の中に充満する。致命傷ではないが、すでに弱っている。
あんまり強くないな。ボス鎧が強かっただけか? 警戒して距離を取るボス獣に対して思考を割いていると、横からレインが飛び出していった。
獣とあまり変わらない愚直で真っすぐな剣、正面から戦っても勝てるとふんだのだろう。俺もそう思う。気を付けなければいけないのは相手の捨て身の攻撃、俺もレインの後をついていき、万が一に備え準備をする。
そんな心配をよそにレインは真正面からボス獣と撃ち合う。
相手の爪を弾き、牙を抑え、隙の出来た胴に横薙ぎに剣を振るう。
滴り落ちる赤い血が相手の命が削られていくのを主張しているようだった。
「油断するなよ、何が起こるか分からないからな」
「分かってる、って!」
ぶん、と振り回したレインの剣が相手の前足を弾き飛ばす。最早行動パターンも読まれ、ボス獣の勝機はない。
そう思った矢先、ボス獣の体が赤く光り黄色だった毛色が真っ白へと染まり、今までついていた傷も回復しその場から距離を取った。
白虎と言っても差し支えない存在感と迫力、どうして毎回毎回奥の手を隠しているのか、最初からその姿で来いよ。
「レイン、バトンタッチだ」
「うーん、行けると思うけどなあ」
「安全第一だ、援護頼むよ」
俺はレインの前に出て白虎の前に出る。物言わぬ獣に対して出来る事は討伐のみだ。ここでしゃべりだしても結局迷宮のコアを破壊するので関係もないのだが。
白虎がこちらに向かって走り、両者に合った空白が瞬く間に埋まっていく。飛び込んでこればダークウォールの餌食にしてやろうかと思ったが、それも予測しているのかスピードを緩めず地面を疾走してくる。
「グラビティ」
当たれば儲けもののつもりで闇魔法を放つ。
魔法の起こりを察したのか、サイドステップで避けられる。
ダークバンドは使えない。
なら――
「エンチャントダーク、ストレングス」
「エンチャントダーク、アクセル」
自己バフで力とスピードを上げる。俺と一対一で勝とうなんて甘いってことを教えてやるよ。最近覚えたばかりの魔法に酔いしれながらも、魔力循環を行い身体能力の底上げも忘れない。
低い姿勢から突っ込んでくる白虎をこちらのサイドステップで避け、剣を振るう。
獣とは思えない固い表皮に剣は切り傷を付ける程度だったが、そこから更に押し込み剣を下に下にと押し込んでいく。身動きの取れなくなった白虎の断末魔が聞こえる。
その声を聞きながら俺はその胴体を両断した。前回から増えた魔力量によるごり押しにエンチャント系の追加火力。それによりパワーアップしたボス獣もひとたまりもなかったのだろう。
横に倒れた敵を他所にレインが称賛の声を上げる。
「レオスすごーい、また強くなったんだね」
「まあな、ちょっとずるしてるけど」
「ずる?」
「いや、なんでもない」
俺は喜ぶレインを他所に、迷宮のコアを破壊する。前壊したときには意識していなかったが、明らかに魔力がこちらに入ってくるのを感じる。やはりこの仮説は間違っていない。王家への報告書にも記載していないから俺が独占出来る。
俺は黒い笑顔を浮かべながら、白虎の死体を抱えて迷宮を後にした。




