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蝙蝠亡き島に飛ばされて  作者: 昼ヶS
【羽を広げて】
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【敗れて】(後編)

 翌々日、明朝。長曾我部軍と本山軍はまた鴨部で再び相まみえた。


 双方の戦力は長曾我部軍二千八百に対して本山軍はほぼ二千。互いに縦に厚みを持たせた陣形である。


 一昨日の戦の敗因は、中世の戦争において個人の勇が戦場に与える影響の大きさを過少に評価した結果だと元親は反省し、今度は独壇場を与えないように端から仕掛けていった。


 戦いの始まりは、互いの先陣が矢合わせから始まり距離が近くなればぶつかり合うこの時代でオーソドックスなものとなった。


 戦場に鬨の声と、鉄と鉄のぶつかり合う音がこだまする。槍を振るう者。刀を振るう者。組打ち首を掻き切る者。興奮した馬に蹴られる者。片腕を切られるも敵の首を獲る者。皆、己の技術と富と名誉と命を賭けて戦った。


「そろそろ退かせるか……二陣を出せ」


 元親は先陣に疲労の色が見え始めたため、第二陣を繰り出し、先陣を下げようとした。先陣の将も二陣が来るのを見て撤退の体勢を整え引き始める。すると二陣の接敵と先陣の撤退との間に僅かな時間差が生じた。それは誰がみても失敗と断じることのできないような極僅かな隙であったが、本山軍総大将本山茂辰はその隙を見逃さなかった。


 茂辰は自分の付近にいる三百騎を左右に従え、後ろを見せた長曾我部軍先陣の背後を強襲しにきた。引き際を襲われた先陣はあっさり瓦解。茂辰はその勢いのまま二陣も攻撃。逃げ込んでくる味方の兵に邪魔され二陣も大した抵抗も出来ず崩壊した。


 茂辰は先陣と二陣を潰し、尚真っ直ぐに元親のいる本陣へと向かってきていた。


「来るぞ!敵は少数!しかと受け止め囲んで叩け!」


 元親は自身のいる本陣、そして後方に控えている後詰で敵を迎え撃とうとしていた。茂辰の率いる数は三百。とはいえそのすべてが騎兵であり、騎乗身分でもあるためそのすべてが精鋭である。それらが轡を並べ馬蹄を轟かせながら向かってくる。


 元親はその光景を見ながら恐ろしく思うと同時に、やはり近代的な軍隊の様に騎兵隊を組織し集中運用するべきなんだろうなと呑気に思っていた。


 しかし、元親にはそれを実行できる力が、今はない。何より今のこの状況を何とかしなければそれも叶わない。

 頭を素早く振り、元親は目の前の迫りくる現実を真っすぐ見据えた。


 そして一つ策を思いついた。


「馬廻衆!敵の右側面に回り突っ込め!」


 馬廻衆とは大将の周りに控える有望な若侍の集団である。主に大将の護衛と伝令を行いその全てが騎乗身分で構成されている。つまり、即席の騎兵隊となる。


 馬廻衆は元親の命令に忠実に従った。軽快に機動し本陣に突っ込んでくる茂辰隊の側面に回り込むと突撃を敢行した。


 馬廻衆は三十騎ほどしかいなかったが、それでも勢いを削ぐには十分だった。


 勢いを削がれた茂辰の隊の突撃は本陣だけでも受け止め切ることができた。    


「長居は無用!退け!」


 目的を果たすことが不可能だと判断したのか茂辰は取り囲まれる前に退いた。


「あれで父より劣るって本山梅慶ってどんだけすごいんだろう……」 


 この後も合戦は続き、日没になってようやくお互いに退いた。


 本山側の被害は約三百五十。長曾我部側の被害は約五百。被害数から見ても目的達成の有無から見ても元親の負けである。


 戦力の六分の一を失った元親は岡豊城に撤退した。

 

 しかし、元親は落胆しなかった。

 

 それから数か月後の元旦、朝倉城で火の手が上がった。

 

 この火事が放火によるものであるという噂が朝倉城内で立ち、それがきっかけで皆が皆を疑い合う状態となった。

 

このような状態を受け茂辰は


「どんな金城鉄壁でも皆の心に猜疑心がある状態では守ること敵わず」


 として本山郷に撤退した。


 こうして元親は土佐平野をほぼその手中に収めることができた。これは土佐の国の経済力と米の生産量の大部分を手に入れたことになる。

 

 


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