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蝙蝠亡き島に飛ばされて  作者: 昼ヶS
【飛び上がって】

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【始めて】(前編)

「一体どうされた事か!? 向こうは二千、こちらは四万! 圧倒的兵力差があるにもかかわらず、未だ落とせていないとは!」


 激情を抑えきれないまま、軍議の席で咆えている男がいた。石田三成という男だ。目が鋭く、頭が大きい。豊臣政権の管理・運用を任されていた奉行衆の一人で、反徳川連合である西軍の立役者の一人。今戦役の、陰の総大将と言われている。


 そんな三成の苛立ちの元となっているのは、伏見城であった。


 輝元が大阪に来た翌日から始まった伏見城攻略戦。かの城に籠る徳川勢は、二千余り。それを包囲する西軍は、宇喜多勢や小早川勢を中核にして、四万は下らない。二十倍の戦力差がある。半日も経たないうちに落とすこともあり得ない話ではない。だが、伏見城は、一週間経っても落ちていない。江戸の方から東軍と形容される家康派の軍勢が東海道を上ってきているこの状況で、貴重な時間を空費させられるというのは、西軍の立役者として苛立つのも当然であろう。


 ここまで時間が掛かっているのは、伏見城が畿内第二の城とも呼べる堅城であるのと、城兵たちが良く戦っているからもあるが、何よりも、西軍諸将の積極性の無さによるものが大きいだろう。竹束の裏から銃撃を行うばかりで、誰も城にとりつこうとしない。日和見をしているのだろう。


「おのおの方は、亡き太閤殿下にその武勇を認められ、所領を与えられている方々である。にもかかわらず、小勢の籠る城にここまでてこずられるとは、恥ずかしいと思われないのか!?」


 『所領を与えられた方々』の言葉が出た時、元親の隣で鼻が鳴らされた。


 隣に座っているのは、島津義弘である。島津家は秀吉から所領を与えられたではなく、切り取っていた領土を何割か没収された身分である。三成の言い方に快く思わなかったのだろう。


 そしてそれは、元親も同じであった。


「──土佐侍従守」


「はい!?」


 三成に突然指名され、思わず声が裏返った。


「弾の不足ということで、今まで後方に控えていただいていたが、どうでしょう? あれから、大坂からの荷駄も何度か来ている。もう、一戦するに充分なのでは?」


 苛立ちは演技だったのか、もう怒気を発散しきったのか、三成は穏やかであった。


「えーっと、まあ、はい……」


 本音を言えば、もっと弾薬の備蓄を行っておきたい。さらに言えば、ここで家康の旗本たちと戦いたく

はない。しかし、算用の得意な三成のことである。元親の隊に幾らの弾薬が与えられているか、一戦にどれほどの弾を消費するか、それぞれの数字を一桁代まで把握していることだろう。ここで断りを入れてしまうと、疑心を抱かれるに違いない。


「……我らは、どこを受け持てばよいので?」


 前向きなふりをして、どうにかうまいこと回避できないか、探る。


「丁度、大手門の宇喜多勢が疲弊しております。その代わりに」


「我らの倍以上いる宇喜多勢でも落とせなかった大手門を……?」


 実力の不足をアピールして、この話をなかったことに出来ないか……?


「名高き一領具足なら、六千でも万の働きをなさるでしょう?」


「それは過大な期待というものです。六千の兵は、六千分の働きしかできません……」


 三成が、短く笑った。鼻を鳴らして人を小ばかにしたようにも見える。


「冗談です。寄騎を何人かお付けしましょう。それなら、実数も一万近くになります。これなら、どうにかなるでしょう?」


「それなら……」


 どうにかできる。葵の血で手を汚さないよう。


 その後、三成の差配によって部署が総入れ替えされた。明日は快晴。また総攻撃が行われるのだろうと誰しもが見ていた。




 翌朝、伏見城は四度目の総攻撃を受けた。その内容は、前三回と同じように、激しい銃撃戦であった。


 銃撃戦は、攻略軍の圧倒的優勢であった。何しろ、数が違いすぎるのだ。城兵が一発撃てば、その十倍の数が返ってくる。極小の銃眼が城壁に設けられていなければ、伏見城はあっという間に無人になっていたであろう。


 けれども、この圧倒的優勢な銃撃戦で終始してしまえば、今回の総攻撃も、失敗に終わる。前三回の例が、それを証明していた。極小の鉛弾では、城壁を傷つけることしかできないのだ。手の小指ほどの銃弾では、城壁に小さなへこみを作るだけ、足の親指ほどの大筒の弾では、僅かに剥離させるだけ。木製の城門すら、打ち破れない。


 なら、拳大の鉛弾では?


「『大砲』を前に。それと、寄騎の方たちをここに」


「畏まりました」


 親直に二つの指示を下すと、元親は兜を脱いだ。


「暑いな……」


 城から距離はある。敵の大筒ですら届かない。それに、寄騎を含めた元親の手勢は、まだ戦闘状態に入っていない。これぐらいの気の緩みは許されるだろう。


 惰性のような発砲音が、とめどなく聞こえてくる。どうやら、どこも城内に踏み入ったりはしていないようだ。


「やっぱり、やるしかないか」


 そう覚悟を決めたところに、呼び寄せた寄騎の将たちが集まってきた。皆、単独では戦力になり難い小身の者たちであり、戦場では、どこかの大名の下に身を寄せるようにして働く。


「ご足労かけて申し訳ない。呼び寄せたのは他でもない。これから、こちらも攻撃をかけるということで、その方策を共有しようと思ってのことでして──」


「──して、その方策とは!?」


 若い武者が、食い込むようにして問うてきた。


「えーっと……?」


 全国を支配する豊臣の、その家臣を全て把握することはできない。ましてや、寄騎になるような小身の者ならなおさらである。若武者は、元親の思いを汲み取ったように、自ら名乗った。


「田山新左衛門と申します!」


 溌溂としている。充分なやる気が感じられる。元親は丁度、こういう寄騎を欲していた。


「……それでは、方策を申し上げる。……といっても、難しいことではなく、これから、大手門を破るので、破れたら一心不乱に城内に突入してほしいだけのこと」


「破るとは簡単に申されるが、うかうか近づけるものではありませぬぞ!?」


 築城好きの秀吉が晩年に築かせたとあって、伏見城に死角はない。近づけば近づいた分だけ、死ぬ。


「別に近づくわけではありません。『大砲』を以て──おっ、噂をすれば」


 後方から、『大砲』が来た。大筒の言い換えではない。正真正銘の、元親が求めていた前装滑空式の大砲である。二個の大きな車輪に挟まれ、大人しく砲手に引っ張られてきている。


「これで、あの城門を破る」


 元親は、分厚い砲身に手を置いて言った。手のひらから、ひんやりとした感触が伝わる。


「本当に、可能なのでございましょうか……!? あの分厚い城門を破れるとはとても……」


「可能です。新左衛門殿は、従軍されていないようでご存じないのかもしれませんが、朝鮮では、こいつが大いに働いてくれまして」


 文禄・慶長の役でその名をとどろかせた一領具足。その長ができると言い切ったのであれば、これ以上異を唱えることができる者はいなかった。


 場の雰囲気を感じ取り、元親は、各隊の配置を決めていった。一領具足は後方に控え、寄騎衆を前面に置く配置である。


 それをみて、寄騎衆の一人が、恐る恐る尋ねた。


「しかし、よろしいのですかな? それでは、一番乗りの功を我らに譲ることになりまするが……」


 元親は微笑して答えた。


「我が一領具足は、進退機敏ではありますが、城に乗り込んで行くといったような武勇が求められる場では、皆様方と比べて頼りないところがありまして。肝心なところを頼るようで恐縮ですが、どうぞ、お願い致します」


 褒められるように頼られ、一同、悪い気はしなかった。


「皆様の立てた軍功は、きっちりと伝えさせていただきます故、ご安心を。……それでは、手筈の通りに」


 元親がそう促すと、寄騎たちは自隊へと下がっていった。


 大砲を城門正面に据えた頃には、大手門方面でも、戦闘が始まった。


 何百発もの銃弾が飛び交う中を、数十の竹束や置盾が、硬い甲羅を持った生物のようにじわじわと前進を続け、城門に肉薄していっている。誰しもが、一番乗りの功を狙っていた。


「二門とも、装填が完了したようです」


 親直の報告を聞いて、元親はゆっくりと頷いた。


 自分でも知っていた『関ヶ原の戦い』。それに、自分が参加することになるとは……。そうするために準備をしてきたとはいえ、いざ直面すると、感慨深かった。いや、もしかしたら、準備をしてきたからこそなのだろうか……。


「……始めようか」


 元親は右手をゆっくりと掲げた。何千回も繰り返してきた、体に染みついた動作だ。


「放て!」


 戦いが始まったことを、二門の号砲が告げ、直進する二個の砲弾が、後戻りできないことを暗示していた。


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