表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蝙蝠亡き島に飛ばされて  作者: 昼ヶS
【叩き落とされて】
59/73

【出でて】

大変長らくお待たせしました

二章完結まで一気に投稿します

 出るか。


 籠るか。


 家久隊への対応は、このどちらしかない。秀吉から派遣されてきた身である四国勢には、この二つしか選べないのだ。府内を放棄することなど、許されない。


 元親は、この限られた選択肢のうち、どちらを選べばいいか決めかねていた。強いていうなら、消極的な籠城派ともいえるだろうか。


 そんな曖昧な態度の元親を交えた軍議が、上原城で開かれた。参加者は、大将の権兵衛は勿論、現地の指導者である義統もいる。


 最初に口を開いたのは、権兵衛であった。


「拙者としましては、早急に打って出て、家久隊と一戦交えたいと思うております。おのおの方はどのようなお考えか?」


 権兵衛はその性質の通り、積極的な出撃論者だった。消極的とはいえ籠城派である元親は反対した。


「一戦するとは申されるが、殿下から受けた命令は『府内を守る』というものの筈。勝手に戦を仕掛けるというのは、いかがなものかと」


「鶴賀城を囲む家久隊の数は、一万。対して、こちらの数は八千。向こうの方が総数は多いが、攻囲中であるということを考慮すると、実際に戦闘に参加できる数は同数、或いはこちらの方が多くなるでござろう。その有利な状態で一戦すれば、勝算は高いと思われる。さすれば、肥後の敵本隊が到着する前に相手の戦力が削げ、こちらの勢威も上がるというもの」


 この権兵衛の考え方は、元親の頭の中にもあった。孤立した敵を叩くというのは常道だ。しかし、精強な島津軍に、寡兵で挑むというのは危険が大きすぎるように思える。そのために、元親は、やや籠城派なのだ。


「それは、その通りで……」


「そうでござろう。では、明日の明朝にでも発つということで」


 これで決まったとばかりに、権兵衛が席を立とうとする。


「……お待ちくだされ。そう決定する前に、上方からの増援がいつ頃来られるのかお聞きしたい」

未だに、籠城案に未練があった。援軍が来る時期によっては、それを強く推せる。


 文を懐から取り出し、権兵衛は言った。


「先日来た文では、夏ごろにと」


「夏? それはまた悠長な」


 元親が予想していた時期は春先の辺りだった。いくら大軍を動員するとはいえ、時間が掛かりすぎなのではないだろうか。


 権兵衛は、その理由を気まずそうに語った。


「……それは……、まあ……、先の戦の被害が大きければこそ……」


 そうか、自分のせいだったのか。そういえば、阿波の兵が来なかったのも、そうだったな……。


 落ち込みそうになった気を一瞬で戻し、自分の中にある秤を見つめる。左右の皿には、出撃案と籠城案が載せられていた。


 上原城は改修したとはいえ、急拵えであるため、堅城という域に達していない。五倍の敵の猛攻に耐えうるかどうか。それに、手持ちの兵糧も充分ではない。半年の無補給を耐えるのは厳しいだろう……。


 話すタイミングを見計らっていたのか、元親が沈黙したことを契機に、義統が口を開いた。例のように目は泳いでいる。


「わ、私は、救援に向かいたいと思っています。これ以上城を失うのは、怖い」


 権兵衛は、その発言をすかさず拾った。


「よおし。では、二対一で決まりということで」


 半ば強引に採択された多数決によって、出撃が決定した。元親が強く反対を主張しなかったのは、彼の中の秤が、出撃の方に傾きつつあるからだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ