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蝙蝠亡き島に飛ばされて  作者: 昼ヶS
【羽を広げて】

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23/78

【落として】(前編)

 小島。それが安芸城を遠くから見た元親の感想だった。狭小ながらも開けた平野である安芸。その中央付近にある小さな丘の上に築かれた安芸城は、遠くから見れば、さながら海面から顔を出している孤島のようだった。


「とりあえず重俊たちと合流するか……」


 元親は兵を北に進ませた。内野原も安芸城も今いる場所から北の方にある。彼らと合流し、そのまま安芸城の攻囲に移る。元親はそういう腹積もりであった。


 内野原にいた別動隊からの報告では、彼らの対処に来ていた安芸勢は、八流一帯の戦の顛末を知り、不利を悟ったのか、半分程が離散し、もう半分は城に籠ったらしい。彼我の戦力差はもう『十分に防備を固めた敵』を撃破するに足る。ましてや敵の籠る安芸城は山の上に築かれているとはいえ、その山の標高はかなり低く、遠くから見た限りではその防衛能力はあまりないように見えた。防衛施設としてのみの観点から言えば、八流の城の方が立地条件の良さからよっぽど優れているだろう。四周から取り囲み、一斉に攻撃に出れば容易く落とせそうだった。


 報告は確かなようで道中に敵兵の姿はない。悠々と兵を進めていくと一時間ほどで安芸城の全貌が見える位置にまで来た。


「……まるで島みたいだ……」


 遠くから見た印象と変わりなかった。何故なら、彼の城は水堀によってその全周を囲われていて、さながら、海面から顔を出している孤島のようだったからだった。


 安芸平野を割るように流れる安芸川と、そこから別れた支流の矢川。その二股の流れの丁度またぐらにあたる位置に鎮座して、それらを北、西、東の三方向を守る天然の水堀とし、空いた南の方は両川を繋いで人工の水堀を拵えてあった。更にそれらのすぐ内側には堤防も兼ねているであろう土塁が設けられており、その上には板塀も建てられている。おまけにいくつか櫓も組まれていた。これが安芸国虎の本城である安芸城の全容だった。


「……うん。囲むのは無しかな」


 もし、先程思っていたように城をぐるりと囲むように兵を配置すれば『入』のような形で流れている川によって分断され、連携が取りづらくなる。そこを衝かれでもしたら大きな損害をだすどころか負けもあり得た。それに、南側以外から攻撃したところで、三十メートルほどの幅の川を越えての攻撃は大して効果が見込めないだろう。それならば、いっそ、一番攻めやすい南側に戦力を集中した方が良さそうだった。


「水攻め……も無理そうか」


 川が近くにあるため可能性の一つとして考慮してみたが、だだっ広い平野の真ん中に浮かぶこの城を水で沈めるには、安芸城だけでなく、両側を流れる川ごと堤防で包まなければならない。無論そんな規模の工事は、今の元親の手勢では現実的ではなかった。


 結局、元親は安芸城の南方に陣を敷いた。率いてきた本隊を前面に出し、内野原から合流してきた部隊は後方に控えさせ、万が一敵が打って出てきた時の備えとした。


 こちらの動きに合わせ、敵も南側に戦力を集中させているようだった。曇り空の背景に良く映える派手な色の旗指物が、櫓の上や、板塀の裏から沢山覗いている。互いに退くことのできない、正面からのがっぷり四つが始まりそうだった。たとえそうなったとしても、数も火力も圧倒的に優越している長曾我部勢は小兵の安芸勢が何をして来ようとも簡単に寄り切れる。そんな横綱相撲を行えるような戦力差が今の両者にはあった。


「かかれ!」


 元親は行司の様に軍配を上げた。それを合図に法螺貝が響き、先鋒である二人の弟、吉良親貞と香宗我部親泰の部隊が鬨の声を上げながら向かって行く。


 二部隊は勢いよく突撃していった。だが、その勢いに任せて水堀を越えて城に取り付けるというものではない。城攻めの定石通りに、竹束で出来た置盾を並べての射撃戦から展開された。


 双方の腕に覚えのある者たちが、強弓を構え、矢を放つ。どちらの矢も唸りを上げて標的に向けて飛んでいくのは同じだったが、その命中率は違った。長曾我部側が一本当てれば、安芸側が四本当てる。それぐらいの違いがあった。これは弓兵たちの腕の差というよりも、遮蔽物と高低の差によるものだろう。長曾我部勢が置盾から半身を出しながら射撃しているのに対して、安芸勢は板塀に小さく開いている矢狭間から、ほぼ全身を隠しながら射撃できている。それに加えて、長曾我部勢が平地にいるのに対して、安芸勢は土塁や櫓で数メートルほどの高さを得ている。この二つの有利不利がそのまま命中率に影響しているようだった。


 一方的な矢合わせを元親が苦々しく観戦していると、不意に安芸城の方から発砲音が聞こえてきた。どうやら、国虎の方も火縄銃の導入を進めているようだった。だが、それほど熱心でもないのか、その数は数丁しか確認できない。いくら火縄銃が、硬い鎧ごと敵を撃ち抜く強力な兵器だとはいっても、そんな少数では何ら戦局に影響を与えなかった。


「やっぱり百丁ぐらいを一斉に撃たせるべきだよなぁ。……ん?……雨?」


 初戦は水入りによって中断された。


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