大丈夫、吐き気はしない。
私はかえたくなかった
だけどかえざるをえなかった
次の日 一人でお昼ご飯を食べている私が浮かんだ
吐き気がした
私は大丈夫 言えなかった
私の靴はまだきれい
まだ充分使える
あの方がかえるから
他の方も合わせてかえるから
当然のように 私もかえた
端から見れば 私が浮いていることなどまるわかりだろうに
それでも私は この居場所を選んだ
私は一人じゃ生きられない
一人じゃ人として尋常な人にもなることが出来ない
あの方が 自動販売機で飲み物を買う
皆 あの方の手元を凝視している
あの方は 新発売と謳われている 甘そうなジュースを選んだ
他の方たちが ガッカリしたように見えた
見えただけかもしれない
皆 あの方と同じ飲み物を買っていく
最後が私の番
なんと「売り切れ」の表示になってしまった
皆 あの方の後に続いて席に向かっている
皆 私が買う所など見ていない
私は 孤独を感じた
でも あの恐ろしい吐き気はやってこない
誰かがそばにいてさえくれれば
あの恐ろしい吐き気はやってこない
なにかしらのペナルティーは食らうだろう
でも一人になるわけじゃない
我慢すれば終わる
またあの列に入れてくれる
私は 一人じゃないと実感することが出来る
私は 私の選択を間違えていない
私の手は人として尋常な人の手になりつつある
大丈夫 私は安定した日々を送ることができている
一息ついてから
私は大袈裟に、「売り切れだよう」と大きな声を出して、踵を返した。