ギター少年と寂しい少女
「歌っている間マイク持ってくれる?」
少年はギターのチューニングを合わせながら少女に問いかける。もちろんと少女は答えた。
少年は指を使って六本の弦を一度に鳴らす。少年が抱くソレから豊かな倍音を含んだ和音が二人だけの小さな個室に響く。少年の白く細い指から鳴らされる和音はそれだけ少女の心の中の空っぽのコップをやさしさでたっぷりと注いでくれるようだった。
「人前で歌ったことないから、うまいのか自分でもよくわからないけど、」
そう言いながら、咳払いで喉を整えながら左手でメロディーをなぞる。
「じゃあ、行くね」
うん。と答える。それ以上の言葉は発さなかった。
静かにゆっくりとそれでもしっかりと次々に単音が積み重なり、たまに来る休符が舌の奥で感じられるほどに美味しい。イントロが終わると少年はコードを押さえ、複数の弦を一度に鳴らし始め、少女が持つマイクに声を入れていった。愛し合う自分たちをエイリアンズと例えるその歌はゆっくりとしたテンポで厚みのある羽毛布団に落ちていくかのような穏やかさとそれでいて愛する人との情熱や興奮も感じられた。少年の普段とキーが大きく変わるわけではないが立体感のある、男性としては決して低いとは言えない声質が曲によく合う。そんな声が今、貸出されたマイクを伝って、かすかに少女の硬い手のひらを振動させ少女に現実感を与えた。アコースティックギターの木の温かみと少年の歌声に少女は今までに感じたことのない胸の底の底の方からドクドクと湧き上がる血の温かさを感じていた。
ああ
少女は気付けば少年が歌っているに関わらず、口を開き、どこから溜まっていた体中のつらさをかたまりにしてそう吐き出していた。
アウトロ。イントロと同じように単音を静かにゆっくりと重ねていく。いつからか少女の鼓動は曲と同調し、自分でも鼓動が感じられるほどに一回一回を慎重にゆっくり、力強く彼女の胸を内側から叩き、全力で全身に血液を送っている。
これが生きるということか。
彼女はただただ漠然と生きるということを理解できた。
「え」
少年は言葉を発する前に封じられる