表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/60

男子禁制の湖

 俺がぽいぽい衣服を脱いで湖に向かおうとすると周囲の様子がおかしい。


 息を呑むというか、呆然とするというか。


「?」


 俺は首を傾げる。


「どうしたのよ」

「どうしたもこうしたも、同性から見ても息を呑むくらいに美しんだよ。リリアの体が」


 ああ、俺の体か。

 

 胸は小さく、女性らしい体つきとは言えない少女体形だが。

 どうやら彼女らには違うように見えるらしい。


「言うほどのことかしら?」

「前々から思ってたけど、なんでこうリリアは自分の美しさに自覚が薄いんだ? エルフってみんなそんな感じなのか?」

「さぁ? 私は私だし」


 他のエルフなんてゲーム画面の向こうでしか知らないしな。


 でも容姿を褒められるのはやはり嬉しい。

 こだわった造形だからな。

 

 なだらかな胸は少しだけ膨らみかけていて確かな柔らかさを内包している。

 ムダ毛ひとつないきめ細やかな陶器みたいな肌。

 枝毛の見当たらない美しい金髪。

 猫を連想させるしなやかな体つき。


それが女性さえも虜にするものであるならそれが嬉しくない訳がない。


「褒められるのはやっぱり気分がいいわね」


 服を脱いですっぽんぽんになった俺は体を隠すことはなく、堂々とした立ち振る舞いだ。

 俺は銭湯でも何も隠さない派だった。

 貧相な体つきだった前世でもそうだったのだ、自分が練りに練って作成したリリアの美しい裸体で何を隠す必要があるという話である。


 対してシアンは同じくすっぽんぽんでありながら体をもじもじさせ、尻尾を上手く使って体をどうにか隠そうとしている。

 可愛らしい。


「シアン、こっちに来なさい。背中を洗ってあげる」

「はい、なのです」


 何故か顔を赤くしてシアンはこちらを直視しようとしない。

 どうしたのだろうか?


 そんなに俯いては可愛いお顔が見れない。

 

「なんだか恥ずかしいですね……」


 アニスももじもじとしている。


 全裸を見て分かった。

 どうやらシアンよりもアニスの方が成長しているらしい。

 どこがとは言わないが。


 女性としての成長度で比べると僅差で俺、アニス、シアンの順番だろう。

 シアンが一番お子様体形だ。


 と言っても俺らのそれなんてまさにどんぐりの背比べだろう。


 あの二人に比べれば。


 サラサは普段鎧を着ていて分からなかったが結構なものをお持ちのようだ。

 彼女も隠さない派らしく堂々とした立ち振る舞いである。

 燃えるような赤い髪とすらりと伸びた手足。

 女性らしくきゅっと引き締まったくびれにゴツゴツとした腹筋。

 美しいと素直に賞賛できるプロポーションである。

 そして鍛え上げられた胸筋の上にどんっとデカいそれが鎮座していた。

 彼女が歩くたびにぶるんぶるんとその存在を主張する。


「どうしたそんなにこっちを見て」

「大きいなと思っただけよ」

「なんだ? 胸のことか? これあっても邪魔なんだよな、剣振る時にぶつかるんだよ、腕に」


 色々と敵を作りそうな発言だな。

 幸い胸のことを気にするような人はこの場にいないようだが。


「切り落とせば?」


 冗談だよ。

 真面目に検討するような顔をするんじゃない。

 将来子供が産まれたときにその立派なお山がなかったらきっと後悔するぞ。


「えっと、失礼します、ね?」


 一人だけ装飾過多なドレスを身に纏っていたからか、やたら脱ぐのに時間が掛かった彼女もようやく全裸になって湖に入ってくる。

 ソフィーだ。

 彼女も見事なプロポーションを誇っていた。

 サラサと違い筋肉量が足りないので柔らかな肉付きをしているが、太っているなんてことはなく女性的な柔らかさを内包しつつ、しっかり無駄な贅肉のない均整の取れた健康的な体形をしていた。

 ただおしりがデカい。

 胸もサラサに負けず劣らずの存在感を放っているが、それ以上に彼女の丸くて大きな臀部が主張していた。

 私は安産型だと。


「えっと、そんなに見られると恥ずかしいのですけど……」

「失礼したわ。綺麗だったものだからつい、ね」

「だからリリアのそれ本当に嫌味に聞こえるぞ?」

「素直な感想よ?」

「ソフィーもそう思うよな?」

「いや、私はそんな……」


 言い淀む時点で少しは思ってそうだな。

 

 でも反省はしない。

 俺は美しいものは美しいと褒めたい。

 それが嫌味に受け取られるのは悲しいがそれで可愛いものや美しいものを褒められないのは嫌だからな。


「きもちぃーのですぅ」


 シアンの背中と頭を洗ってあげると気持ちよさそうな声が漏れる。

 彼女は最近ではもう完全に俺に心と体を許しているように思えた。

 耳触っても嫌がらないし、尻尾触っても嫌がらないし。

 四六時中俺に寄り添って隙あらば手や裾を握っているからな。

 俺もシアンは大好きなので両思いだ。

 嬉しいことである。


「羨ましいです」


 指をくわえてアニスもこちらを見ていた。

 物欲しそうな顔をしよって。

 仕方がないなぁ。


「アニスもあとでやってあげるわよ」

「えー」


 何故かシアンから非難の声が上がった。


「アニスはリリアさんを独り占めしてずるい!!」

「ご主人様はシアンのご主人様なのですよ!?」

「少しくらい貸してくれたっていいじゃん!!」

「オウカさんにやってもらえばいいと思うのです!!」

「オウカ今いないもんっ」

「じゃあ自分でやるですーっ」

「ずるいっ」

「ずるくないですっ」


 あー、子供らしい姿が見れて嬉しいよ俺は。

 シアンもアニスも歳のわりに大人びてるというか。

 我慢が多いと言うか。

 我儘なんて中々言わないもんな。

 こうやって子供らしい姿を見ると安心するし。

 何より俺を取り合うってのが気分がいい。

 それにしてもこの二人仲がいいな。嫉妬しちゃうぞ?


「リリアモテモテだな」

「リリア様はとても慕われているのですね」


 前世では考えられないくらいにモテているな。

 これがモテ期か。


「シアン、少しくらい譲ってあげなさい」

「でも、ご主人様はシアンのご主人様で……」

「シアン」

「うぅー、少しだけですよ?」

「やった!!」

「はい、シアンは終わり。アニス、こっちにいらしゃい」

「お願いしますっ」


 モテ期を堪能しつつ皆の裸体を堪能しつつ。

 体もそうだが心もリフレッシュ出来た水浴びになった。




 水浴びから帰る頃には食事が出来上がっていた。


「凄くいい香り」

「お腹が空いたのです」


 どうやら今晩はシアンが弓で仕留めた肉を煮込んだスープに、アニスが見つけてきた木の実と果物。そして保存食として持ってきた干し肉のようだ。


「干し肉の塩分が濃いめですから、スープの味は薄味にしています。物足りないようでしたら干し肉をスープに入れてしまうと良いかもしれません」


 セシリアはそんなことを言うがとんでもない。

 スープにはしっかりと味がついているし、香りも良い。

 香草を一緒に煮込んだのだろうか。

 相変わらずセシリアは料理が上手い。

 いつ嫁に出しても恥ずかしくない腕前だな。


 焚火を囲んでみんなで食事をとる。


 交代で見張りをしてはいるが、基本的には全員気を緩めてリラックスしていた。

 セシリアとサラサは二人で仲睦まじく会話しながら食事中だ。

 オウカとアニスは見張りの順番で焚火からは離れている。

 エレナは、どうやら生意気なレックスを説教中らしい。うん、あのクソガキはこってり絞られた方がいいだろう。

 俺はシアンと二人で寄り添いながら食事をとっていたが、シアンにここで待っているよう告げて焚火から少しだけ離れて食事をする二人組。

 すなわちグリムとソフィーのもとへと近付いた。


「さて、グリムさん。貴方には聞きたいことが山ほどあるのよね」

「……お答え出来る範囲で答えましょう」

「護衛の質に関わるから出来れば素直に全て教えてくれると助かるのだけれど」

「こちらにも事情と言うものがある。それは承服しかねますな」

「分かったわ。とりあえずはそれで我慢しましょう」


 お前のその事情と命どっちが大事なんだよ。って問い詰めたい気もするが。

 それをしたところで空気が悪くなるだけだしな。

 

「まずは貴方達は何者?」

「身分と言うことなら、明かせませぬな」

「随分と高貴なようだけど」

「それなりの身分である。とだけ」

「何をしに武闘都市へ?」

「それも答えられませぬ」


 おい。

 協力する気あんのか。


「……馬車には必要最低限の物資と着飾った二人のみ。何かを運ぶと言うよりは、貴方達二人そのものが、重要ってところかしら?」

「………………」

「沈黙は肯定と判断するわ」


 勝手にな。


「貴方達の意思で武闘都市に行くの? それとも誰かに呼ばれて?」

「両方であると言えますな。呼ばれたから行くし、私達にも行く意思と理由がある」

「なるほど、双方に利があってという訳ね。……呼んでいるのは騎士団の団長かしら?」

「違いますぞ」

「もっと上?」

「………………」


 なるほど、騎士団長より上か。


 都市の重役レベルだな。


 いや、そもそも都市関係者とは限らないのか。


 連合の有力者やそれに準ずる者達の総意という可能性もある。


 一度スープを飲んで喉を潤わせながら思考を奔らせた。


 この二人そのものが重要であり、この二人が武闘都市に辿り着くと何かがあるということは。

 襲撃者の狙いは間違いなくこの二人の殺害だろう。

 襲撃者そのもの。もしくは襲撃者を雇った人物あるいは組織は、この二人が武闘都市に辿り着くことを恐れている。


「貴方達を襲ったスカルウルフは何者かが使役したものである可能性が高いわ。悪意を持って貴方達の命を狙う存在がいる。……心当たりは?」

「……多すぎて答えられない、それが正直なところですな」

「貴方達がやろうとしていることは敵が多いようね。不特定多数の悪から武闘都市まで守れと、無茶苦茶言うわね」

「申し訳ないがこちらも必死なのだ」


 必死ならもう少しこちらを信用してくれてもいいだろう。

 いや、出会って直後の俺達を全面的に信用しろってのも無理な話か。

 ただ護衛の騎士団部隊は半壊してるし、偶然出会った野良の冒険者を雇う以上はそれぐらいの信用は欲しいものだが。

 いや、違うのか。


 信用がないのはそうだが。

 追い詰められても尚こちらに明かせない。


 それはこちらを守ろうとしているのか?


 知れば巻き込まれる。

 それだけ重要で危険な案件に首を突っ込んでいるということ。


 その可能性が浮上した。


「……もしかして、聞かない方が私達の為ってことかしら?」

「聡明なエルフでいらっしゃいますな」

「それはどうも」

「お察しの通り私達はフィリア連合の未来に関わる重大な件に関わっている。護衛を頼み、身勝手なことこの上ないのは承知の上。それでもこれ以上知れば間違いなく、迷惑をかけることになる」

「中途半端に関わる方が危険な気がするのだけど?」

「こればかりは、ご容赦くだされ……」


 平行線だな。


 とりあえず現状グリムからこれ以上情報を引き出すのは難しそうだ。

 現状は、な。


「リリア様、このような不誠実。本来ならば許されないこと」

「気にしないで、その分報酬を要求するだけよ」


 情報がない分護衛の難易度は向上する。

 それに伴って報酬が増えるのは当然の話だ。


「この御恩は必ずお返しします」


 深々とソフィーは頭を下げた。


 どうやら思ってた以上にこの二人は連合にとって重要な存在らしい。

 それならもっと優秀な護衛を準備しろよとまだ見ぬ団長殿に文句のひとつでも言いたいが。


「少し仲間と作戦会議するわね。明日からのことについて」


 グリム、ソフィーのいた場所から離れると。

 シアンの隣に座る。


「おかえりなさいなのです」

「ありがと」

「何か分かったか?」


 サラサの問いに残念ながら首を横に振るしかない。


「大した情報は得られなかったわ。ただ……」

「ただ?」

「思っていたよりあの二人は重要な人物で、思ってたよりも話は大事のようね」

「それならもっと優秀な護衛を用意した方が良かったのではないでしょうか?」

 

 セシリアもそう思うか。

 俺もそう思うよ。


「連合の未来を左右するレベルのことらしいわ」

「ってことはそれを阻止しようって相手も相当じゃないか?」

「の、可能性が高いわね」

「でもご主人様がいれば大丈夫ですよね!?」

「私とオウカで大抵のことは解決出来るとは思うけど」


 けど、俺の付与は本人の実力から乖離すると逆効果だということが判明した。

 俺が全力全開で補助魔法を重ね掛けすればオウカが滅茶苦茶強くなるって訳でもない。

 俺が思っている以上にこの世界においてリリアは役に立てない存在なのかもしれないのだ。


 ゲーム世界に転生させたならもっとチートで大活躍させろよ。

 不親切だなおい。

 せめて別のアカウントであればまだやりようはあったが。

 よりにもよって遊びとノリで作ったネタのようなアカウントだ。

 遊びに飽きたゲーマーがやる縛りプレイとかに近しい。


 転生したけど縛りプレイで無双出来ない件について異議申し立てしたい。


 相手は俺を転生させた神か女神か。そこら辺の超常的な存在だな。


「この護衛の依頼、手強いかもしれないわね」


 その夜は交代で見張りをしながら寝る。


 夜が明けるまで、襲撃はなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ