市場に適さない物はどれだけ高価でもゴミ
しばらくは毎日17時更新を目指して頑張りたいと思います。
わりと簡単にミストンに到着してしまった。
道中はモンスターに遭遇したりもしたが、全て初級魔法で木っ端微塵である。
なんなら盗賊にも襲われたがシアンの可愛い瞳を汚さないように塞いでから木っ端微塵だった。
伊達にレベルカンストしていない。
メインアカウントだったら塵も残らなかったかもしれない。
ミストンは比較的安全な立地にあり、田舎の少し大きい街程度の為検問も厳しくない。
あまりにも何事もなくあっさりと街中まで入ることが出来てしまった。
ミストンは小さな街だが初心者御用達の街でもあるわけで最低限のものは揃っている。
商店街では冒険に必要なアイテムや装備が揃うし、冒険者ギルドもある。教会も酒場も宿も基本的な設備に不自由はない。
ただ初心者が欲する物に不自由しないだけで中級者以上からしたらしょっぱいどころの騒ぎではなく、他大陸へ渡る術を手に入れてからは戻ってくることはまずない。
初心者の友人に教えるなどで来ることはあっても、それもほとんどの人がサブアカウントを使って行なっていた。
何が言いたいかと言うと、初心者の頃に短い時間世話になって以来ほぼ関わりがないのでミストン内部のマップを完全に忘れてしまっていた。
いや、むしろ湖からミストンまでの道のりをなんとなく覚えていただけでも褒めて欲しい。
こちとら莫大なゲームの情報が頭に叩き込まれているのである。使わない情報なんて記憶の彼方に消えてしまっているのは当たり前の話だ。
「わー、ご主人様人がいっぱいですねぇ」
そんなことはない。
わりと空いてるし賑わっているほどの人がいるとは思えない。
と、思うが正直にそんなことを言ってシアンを悲しませる訳もなく無難に同調しておく。
「そうね」
それにしても道ゆく人々の視線が気になる。
誰も彼もが見るのだ。
こちらを。
「ご主人様凄い見られてますね……」
「私? 見られているのはシアンじゃない?」
こんな可愛くて愛くるしい見た目の美少女がシルバーテイルなんて超レア種族なのだ。
誰だって見るだろう。
俺だって街歩いてて見かけたらめっちゃ見る。
「私? ですか?」
「こんな可愛い娘がいたらそりゃ見るわよ」
「か、かか、可愛いなんてそんな!!」
顔を真っ赤にして耳をぺたりと伏せながら小さな手で顔を隠すその姿は言語では言い表せない可愛さがある。
今でもこんなに愛おしいのにこれで着飾ったらどうなってしまうのか想像も出来ない。
下手したら死人が出る。
エルフの遺体がひとつ出来る。
「可愛いからこそ着飾らないとね」
早速商店街で女物の衣装を扱う店を探しに行く。
店は簡単に見つかった。
女物の服は売れる。故に店も多く、目立つところに建てるからだ。
問題は金だった。
転生したリリアには持ち合わせがない。
冒険者ギルドに登録して稼ぐのもありだが時間がかかる。俺は今すぐシアンの可愛い姿を見たいのだ。
ならばと身に付けていたアクセサリーを売ろうと試みたのだが。
「これは買い取れないな」
これである。
三件目だ。
断られること三件目。
髭面のむさいおっさんは難しい顔をして眉間に皺を寄せている。
「そこをなんとか」
「無理なものは無理だ。高価すぎる。これを買い取れるような金はうちにはないよ」
また同じ理由だ。
そりゃそうだ。
序盤の街は序盤なりの物価であり、このゲームはエリア難易度が上がるにつれて宿代や食費がしっかりとインフレしていく。
そんなインフレを重ねた街でも中々お目にかかれないドロップ限定入手の装備アクセサリーに序盤の街で値段が付けられる筈もない。
「こんなもの売ってどうするつもりなんだ? 城でも建てるのか?」
城なんかどうでも良い。欲しいのは可愛い服だ。シアンを着飾る可愛い可愛いお洋服なんだ。
「なら買い取れる値段でいいから買い取ってもらえない?」
「言い方が悪かったな。そもそも買い取れる金があっても買い取らんよ。リスクが重過ぎる。こんな貴重品を手に入れたら売るのも難しいし、犯罪に巻き込まれる可能性が高い。こんなもの手に入れても守れやしないのさ、俺にはね」
至極真っ当で反論のしようのない理由だった。
普通にこちら側が申し訳なくなる。
「無理を言ってごめんなさい」
「こんなこと聞くのは反則だと思うが、エルフの国の王族かなんかかい?」
「まさか、ただのしがない野良エルフよ」
「ただの。ねぇ、ただのエルフはこんなもん持ってないと思うがな。俺の目利きじゃ正しい価値までは分からんが、国宝になってもおかしくないと思うが」
そんなにか。
確かに超高難易度ボス周回しないと手に入らないドロップアイテムだけれども。
でも倉庫の予備含めるとみっつくらい持っている。
売れるところまで持っていったらとりあえず金には困らなそうだ。
城はみっつもいらんが。
「うーん。なら交渉したいわ」
「交渉?」
「今手元にお金がないのよ。だからお金を貸して欲しいの。貸してもらったお金よりも高額なものでこの店で買い取れるレベルの物を持ってくることを約束するわ」
「例えば?」
「ブラックベアの爪」
「お前さん正気か?」
「当然正気よ」
「ここら辺では最も危険な魔物だ。一体倒すのに討伐隊を編成する。討伐クエストを受注した冒険者が何人も亡くなってる。知ってて言ってるんだな?」
この世界だとそういう扱いなのか。
ゲーム世界だと通称序盤の経験値って名前なのに。
倒すのは余裕だ。むしろ爪が残るように手加減する方が難しい。シアンを助ける時に倒したブラックベアは爆発四散して爪も残らなかった。
「相場の半額でいいわ」
「とても信じられないな」
「担保としてこのアクセサリーを預けたいところだけれど、お断りでしょう?」
「当たり前だ。……本当なら断るところだが」
「だが?」
「そんなもん持ってるあんたに興味を持った。くれてやるつもりで貸そうじゃないか」
「後悔はさせないわ」
交渉成立である。
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