表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/60

長い夜の終わり

 覆い被さるようにオウカは俺の腹部に刺さる刀を掴んでいた。


 満身創痍で動ける体ではない筈だ。


 内臓は焼け、筋繊維もズタズタだろう。

 内出血は命に関わるレベルを遥かに超えている。


 それでも彼女は気合いだけで動いていた。


 こっちはもう指一本動かせない。


 あっちは大丈夫だろうか。


 少し前にサラサの方がヤバそうだったので、補助魔法を飛ばしたが上手くいっただろうか。

 シアンは助けられたのだろうか。


 俺は、死ぬのだろうか?


 死にたくない。


 まだ、生きていたい。


 こんなところで終わりたくない。


 ただただ単純に死にたくなかった。


 生き延びたかった。


 オウカが刀を強く握る。




 それを止めたのは小さな手だった。




 健康的に焼けた小麦色の肌。

 真紅の瞳。

 色素の抜けた真っ白な髪。


 耐え難い苦痛に苛まれるかのように彼女は苦悶の表情で。

 

 口の端から血を垂らしながら。


 それでも揺るがない意志の強い瞳で。


「オウカ、やめて。……お願い」

「アニス……」


 オウカの手が止まる。

 

「なんでだよ、そのままだと死んじまうだろ!?」

「嫌なの、嫌なんだよ。オウカがそんな辛そうな顔をしてるのが……」

「辛くなんかあるか!! お前の方が辛いだろうがっ!!」


 少女の息は荒い。

 肩で息をして。

 発汗も異常だ。


 瞳も虚で視点が定まっていない。


 声も震えていて。


 咳をすれば大量の血が口から吐き出される。


 これは、なんだ?

 彼女は間違いなく何かに蝕まれている。


 病気や怪我というよりは呪いに近い。

 ただ呪いでもない。

 

 死に至るほどの重い自傷ダメージが積み重なっているように見える。


 だが自傷ダメージであるなら。


 それを無効化する程の回復で上書きしてやればいい。


 俺ならそれが出来る。


 俺を中心に眩い光を放った魔法陣が展開される。


「何をっ!?」


 毎秒馬鹿げた回復を付与する補助魔法。

 エンジェル・ブレッシング。

 それを少女に付与する。


「え……? 嘘……?」

「テメェ、アニスに何をしやがった!?」

「回復、……させただけ」

「回復だと!?」


 明らかに少女の様子は一変していた。


 顔色は良くなり、震えも止まっている。

 血反吐も吐かなくなり、苦悶の表情もしていない。


「痛く、ない?」


 ペタペタと不思議そうな顔をして彼女は自身の体を触っている。

 オウカは信じられないものを見るような目でこちらを見ていた。


「刻印を……、解除出来るのか?」

「してない。受けてる自傷よりも大きい回復を常に付与し続けているだけ。根本的には解決してはいない」


 俺の魔眼で解析が不完全なのだ。

 相当変な魔法が組み込まれている。

 恐らく、ゲーム世界にあったものではない。

 ゲームにあったものだとしても大きく手を加えられているように見える。


 俺とて解除は簡単ではないだろう。

 

「もしかして、……アニスは死ななくて済む、のか?」

「少なくとも今すぐ死ぬってことはない」


 オウカは刀から手を放すと、力尽きたかのように倒れた。


 俺の上に。


「重いんだけど」

「すまねぇ、気が抜けたら力が入らんくて、指一本動かせねぇみたいだ……」


 殺意はもう感じない。

 どうやらこのオウカって女はアニスを助ける為に戦っていたようである。

 こちらも目的はアニスの保護だ。

 最初から争う必要はなかったのでは?


 こちとら命懸けで懸命に頑張ったのに意味がなかったのは徒労にも程がある。


「アンタには申し訳ないことをした……」

「本当にな」

「詫びに腹でも切りたいが、あたしゃアニスを守らないといけねぇんだ」


 死にかけたし。

 めちゃくちゃ痛いし。

 とんでもない徒労だけど。


 許そうと思った。


 なんでかは分からんけど、絶対に許さないみたいな感情が湧いて来ない。

 憎もうとは思えなかった。


 それは多分、オウカが純粋にアニスを想って戦っていたからだろう。


 彼女からは嫌な感じがしなかった。


 少しだけ冷静になって、リリアになる余裕も出来た。

 死の淵に立たされてから、転生前の自分が表に出過ぎている気がする。


「もういいわよ、許すわ。それより、私達はアニスの母親から彼女を保護するように頼まれているの」

「お母さんが……っ!?」

「ああ、聞いてるよ」

「聞いた?」

「サラサとセシリアに、シアン……だっけ? アンタの仲間なんだろ? 会ったよ」

「そう。もう敵対する気はないのよね?」

「アニスに危害を加えないならあたしはなんでもする」


 利害が一致する。


 なら協力出来る筈だ。


 もう一度魔法陣を展開し、オウカにもエンジェル・ブレッシングを掛ける。

 変化は劇的だった。


 1秒ごとにオウカの体は傷が治っていく。

 まるで逆再生のように彼女の体は綺麗な状態に復元し、内臓も折れた骨も見えないところまで全て完治しただろう。


 覆い被さっていた俺の体から起き上がったオウカは自分の体を触りながら呆然と呟いた。


「とんでもない魔法だなこれ……」

「驚いているところ悪いけど、私をセシリアのところまで運んでくれない?」

「それはいいけどよ、自分は回復しないのか?」

「出来たらもうやってるわよ……」


 なるべく早くセシリアのところに連れて行ってもらって回復してもらわないと死ぬ。


「痛むぞ」

「いいわ、やって」


 腹に刀貫通したまま持ち上げられるんだ、そりゃ痛いだろうさ。

 ただ抜いたら出血多量で死ぬ。

 そのまま運ぶしかない。

 セシリアの回復魔法を受けながら刀を抜き、ある程度応急的に治療が終わったらここから逃げよう。


「よいしょっ」


 痛だだだだだだだ。

 痛い。

 めっちゃ痛い。

 気絶しそう。


「――っ」

「急ぐぞ」

「ぐ……っ、いいわ。行って」


 オウカにお姫様抱っこで運ばれたが死ぬほど痛かった。


 本当に痛かったが、なんとか意識が残っているうちにセシリア達と合流出来た。

 シアンの顔を本当に久しぶりに見た気がする。

 見ただけで涙が出そうになった。


 でもそれは俺だけじゃなかったらしい。

 

 というか、泣いていた。

 シアンは思いっきり泣いていた。


「ご主人様ぁ……」

 

 可愛い顔をぐちゃぐちゃにして泣いていた。

 俺に会えたことで泣いて、俺がボロボロなことに気付いて泣いて。

 そして俺の腹に突き刺さった刀を見てさらに泣いている。


「ボロボロじゃないですかぁ」


 心配させてしまって申し訳ないが俺だって頑張ったんだ。

 この世界はゲームと勝手が違うから上手いこといかないことも多くて。

 自分の体を実際に動かすのはゲームで操作するのとは訳が違う。

 ゲームでは歴戦の猛者でも現実での戦闘なんて素人だ。

 それにオウカは強かった。

 尋常じゃなく強かった。

 むしろよくやったと褒めてほしい。


「その様子だともうリリアを何とかしようなんて思ってないってことでいいんだよな?」

「ああ、リリアがいなかったらアニスは死んでいた。あたしゃアニスとリリアの為ならなんでもするよ」

「とにかく回復魔法を掛けますっ!!」


 セシリアの回復魔法を掛けてもらいつつ、刀を抜いてもらい。

 なんとか出血を最小限に抑えて簡易的に応急処置を行う。

 これで死にはしないが、あくまでも応急的な手当てだ。 

 どこか安全な場所で治療を受ける必要がある。


「もう限界だわ」


 流石にここら辺が俺の限界だった。


「あとは任せるわね……」


 意識を手放す。


 自警団はほぼ壊滅させた。

 シアンとアニスは助け出し、アニスに掛けられていた謎の呪いも自傷を上回る回復で打ち消している。

 俺が次に目覚めるまで補助魔法は途切れることなく続くことだろう。

 あとは任せられる筈だ。


 もう疲れた。

 今日は本当に頑張った。


 ご褒美に。

 シアンもふってもふってもふりまくりたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] どうなるかとかハラハラしながら読んでたからハッピーに解決できそうでよかった〜
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ