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第二ラウンド

 東雲の衣による不意打ちで終わらなかったのは誤算だった。


 現状、獄門流奥義、朧一文字を攻略する術は俺にはない。


 次、朧一文字の間合いに入ったら終わりだ。


 相当追い詰められている。


 オウカは鬱陶しそうに自分の長い桜色の髪をかき上げると、獰猛な瞳でこちらを睨みつける。


「油断した。……は言い訳にならねぇが、この大陸に来てから正直な話雑魚ばかりでよぉ。命を削るような戦いは長いことなかった。ヒノワにいた頃に比べたらあたしゃナマクラもいいとこよ。だが今ので目が覚めた」


 もう少し寝ててくれ。

 油断もしていていい。


「こっからは死力で行かせてもらう」

「勘弁してよ」


 本当に勘弁してくれ。


 オウカは納刀した刀の柄に手を添えて、にじり寄る。

 俺はにじり寄った分だけ下がった。


「朧一文字の間合いは知ってるみてぇだな。どこで知った?」


 流石に朧一文字の間合いギリギリ外を維持すれば不思議に思うか。


「教えてあげると思う?」

「思わねぇな、教えてくれるなら舐められてると思うが。あたしの見立てだと舐められるほどの実力差はないと見ているな」

「舐める訳ないでしょ、こと接近戦においては貴女は格上よ?」

「そうかい? 行くよ……」


 消える。

 これは移動系スキルの縮地と呼ばれる踏み込みだ。

 まるで互いの間合いを縮める妖術のような移動術で、地面を蹴るというよりも自身の倒れる力。

 重力と大地の力を利用し、自身の体を前に押し出すような技だ。

 

 移動の動作に起こりがなく。

 溜めもない。


 気付いたら目の前にいる。

 

 瞬きの間に。

 一呼吸の間に。


 間合いを詰めている。


 そんな技。


 それと同じ速度で下がる。


 距離は変わらない。

 俺の方は多少ドタバタしたがそれでも間合いは詰められていない。


 オウカの目が見開かれる。


「驚いたな、縮地も知ってるってか?」

「そうみたいね」


 朧一文字の間合いには入らない。

 入ったらそこで終わる。


 この間合いを維持することに全集中力と知識を総動員していた。


「見たところただのエルフだが、なんでそんなにヒノワに詳しい。普通は知らねぇと思うが?」

「物知りエルフなのよ」


 情報は少しも渡さない。

 姑息な手段も使わないといけない相手だ。

 どんな情報が身を亡ぼすかも分からない。


「なら……、こっちでいくか」


 腰ひもから鞘ごと抜き出し。

 刀を鞘に入れたまま両手を上げるように縦に振り上げる。

 

 真上に構えた状態からの居合。

 ここから放たれる技はそう多くない。


 そしてこの間合い。


 恐らく、使うのは獄門流の居合のひとつ。飛ぶ斬撃。飛燕。


「喰らいなっ」


 鞘から抜き身の刀が振り下ろされる。

 目で追えないほどの速度で振るわれ。


 斬撃が飛ぶ。


 俺はそれを冷静に半歩引き、体を真横にして躱す。


「やっぱり知ってるみてぇだな」

「みたいね」


 飛燕にも連携がある。

 縮地だ。


 目の前にオウカがいた。


 飛燕の技後硬直をキャンセルして縮地に繋げるこの連携は、ほぼ確実に接近戦を仕掛けることが出来るかなり優れた連携になる。

 そこはもう朧一文字の間合いだ。


 ここからは納刀させない戦いになる。


 納刀しようとするオウカにウィンド・エッジで攻撃。勿論彼女は余裕で迎撃できる。

 その手に持った刀でだ。

 刀で迎撃すれば当然のことだが納刀は出来ない。


 鞘がなければ獄門流の強みは活かせない。

 俺は鞘目掛けて蹴りを放つ。

 完全にぶっ壊すつもりだ。


「あぶっ、……ねえっ!!」


 左腕で防がれる。

 想定通りだ。

 腰ひもから抜いた状態で左手に握ったままの鞘、この状態では納刀出来ないだろう。


 オウカの刀が襲い来る。

 蹴りの反動で躱せない。

 アイシクル・ピアスを発動して刀の軌道を逸らした。

 

 逸らしきれない。

 右腕に掠る。

 血が飛散した。

 熱い。

 痛いじゃなくて熱い。

 気にしていられない。

 

 納刀されれば、もう痛いじゃ済まないのだ。

 痛みを感じる間もなく、この世とおさらばすることになるだろう。


「ウィンド・エッジッ」


 鞘を狙う。

 躱される。

 

 こっちから仕掛ける。

 踏み込み、手の平を向けた。


 掌打だ。


 もう一度喰らえば立ち上がれないだろ。


 喰らいやがれ。


「二度はごめんだねっ!!」


 後ろに跳躍し、オウカ自ら間合いを取った。

 

 そうくると思っていたよ!!


 着地したオウカの頭上にはあらかじめ準備していたアイシクル・ピアスが待ち構えていた。

 彼女の頭上にはおびただしい量の氷の氷柱が並んでいる。

 その全てが。

 彼女目掛けて。

 一斉に雨のように降り注いだ。


 それでも足りない。


 自分が唱えられる限りのウィンド・エッジを並べて彼女の目掛けて解き放つ。


 それとほぼ同時、俺の左肩が斬り裂かれた。

 嘘だろ、あいつ!?

 あの状態でこっちに飛燕をぶっぱなしやがった。

 正気の沙汰じゃねぇ。

 少しは自分の身を守れ戦闘狂がっ!!


 というか、飛燕ってことは。


 連携で。


 縮地が。


 腹をウィンド・エッジで裂かれ。

 アイシクル・ピアスの氷柱を背中から沢山生やしたオウカが。

 自身の鮮血を撒き散らし。


 鬼のような形相で刀を納刀した。


 不味い。

 

 そこは朧一文字の間合いの内。


 油断した。


 取り返しがつかない、これは。


 これは。


 死。


 放たれるは、獄門流奥義。


 不可避。

 絶対命中。

 俺にとっては必中必殺の。


 ――朧一文字。


 回避出来ないなら。

 防げないなら。


 放たれる前になんとかするしかない。


 博打だった。

 完全な思い付きだ。

 根拠はない。

 

 死を間際に、出来ることをやろうと足掻いただけだ。


 それが幸運にも。

 

 九死に一生を得た。


「な、……なに!?」


 柄を足で押さえつける。

 俺がしたのはそれだ。

 無我夢中で全力で足の裏で柄を押さえつけた。


「離しやがれっ!!」


 柄から手を離したオウカの拳が俺の顔面に突き刺さる。

 そのまま吹っ飛ばされた。


 意識が一瞬途切れる程の衝撃。

 目の前が暗転するものの、なんとか意地で立ち上がる。


 このままだと死ぬ。


 しかしオウカは俺を殴った場所から動いていない。

 絶好の機会だった筈だ。

 縮地で追いかけて朧一文字を放てばそれで終わりだった。


 違う。


 追えなかったのだ。


 彼女には追う余裕がなかったのである。


 流石の彼女も内臓を電撃で焼かれた後に腹を風の刃で斬り裂かれ、背中を氷柱で刺し貫かれれば瀕死の重傷となるらしい。


 そもそも電撃の時点で気力だけで立っていたのか。

 大量の血液さえも失ったオウカは鞘を杖のように地面に立てて、それに寄りかかるように立つのが精一杯だった。


「どうやら、私の勝ちのようね」


 俺は幾つかの斬撃を掠り、鞘で殴られ、肩を飛ぶ斬撃で斬られ、拳で殴られた程度だ。

 まだ戦える。


「そいつは……」

「?」


 濃厚な死の気配。

 これを察知できたのは偶然だった。

 本能が避けろと訴えていた。


 縮地。


 目の前にオウカがいた。


 俺の腹を刀が貫いている。


「気が早いんじゃねぇかい?」

「かはっ」


 避けきれなかった。

 しかし避けようとしていなれば急所を貫かれて即死だっただろう。


 血を吐き出す。

 腹部が異常に熱い。

 痛みよりも熱さと腹を押される嫌な感触がした。

 まだ脳が痛みを理解していないだけで、後にとんでもない痛みが襲うのだろう。

 痛みで気絶するだろうか。

 それとも今まさに大量に脳から出ているだろうアドレナリンで和らぐだろうか。


 オウカは死に体だ。


 必死の一撃だ。

 追撃はない。


 しかし時間を与えたらこいつは動く。

 確信があった。


 この化物は死んでも俺の喉に食らいついてくるだろう。


 自分の腹を刺し貫いた刀の刃を握りしめる。

 オウカテメェしっかりと柄を握りしめたその手、鍔に触れてるよなぁ!?

 

 これは俺の内臓も焼ける。

 

 痛いだろうな。

 死ぬかな。

 絶対死ぬほど痛い。

 頼むから生きていて欲しい。


 くっそ、やりたくない。


 でも、これは回避出来ない。

 防げない。


 そうだろ!?


「喰らいやがれぇっ!!」


 リリアらしくない言葉が口から飛び出る。

 と、同時。

 俺は刀を握りしめた手から全力のライトニング・ボルトをぶっぱなす。


「――――――っ!?」


 反応なんて出来ない。

 真夜中に応接間だけ照らす真昼のような光。


 俺とオウカを繋ぐ刀が伝導体となり、紫電が流れ続ける。


 激しい電撃は俺の内臓を焼き。

 同時にオウカを感電させた。


 二人の体から焦げ臭い煙が立ち上る。


 くそ、リリアの可愛い体をこんなに傷めつけやがって。


 やべぇ、意識が保てねぇ。


 だが目の前のオウカも完全に意識を失っている。


 感電による筋肉の硬直でオウカは柄を握ったまま。

 そして俺は腹に刀を差したまま。


 もつれるように二人はその場に倒れた。

 

 俺の意識があったのは倒れる音がふたつ重なったその時までだった。

最初に比べると読んでくれている人がかなり増えてありがたいです。

もっと沢山の人に読んでもらいたいので、面白いと思ってもらえたら評価やブックマークの協力をお願いします。

それが作者のモチベーションに繋がりますので。

これからも精進します。

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