作戦会議
「作戦会議よ」
「おう」
孤児院まで戻って来た俺とサラサはテーブルに座って向かい合っていた。
会議内容はシアン、セシリア、アニスの居場所を見つけて救い出す方法だ。
「作戦会議って言ってもあたしはあまり戦力になれないぞ、頭使うことに関しては全部セシリアに任せてきてたからな」
「胸張って言わないの」
人には向き不向きがある。
サラサが苦手というならば、頭を使うのは俺の仕事ということになるだろう。
「えっと、そもそも二人がどこにいるか分からないんだよな?」
「恐らく商人組合の所有している建物に軟禁されていると思うのだけれど、詳細な場所は分からないわね」
「いっそ正面から商人組合に乗り込むか?」
「それも悪くないけど、私達の目的が明らかになって人質に取られるだけで詰むのよね」
俺の補助魔法を付与されたサラサならばこの大陸では敵はいないだろう。
俺自身もそうそう負けるとは思えない。
戦力的には二人でも十分だと思える。
が、人質を取られれば話は別だ。
シアン、セシリア、アニス。この三人の誰が人質になっても終わりというのはあまりにも状況が悪過ぎる。
「そうね、例えば。片方が囮となって目を引き付けている間にもう片方が救出する。とかね」
「いいじゃんか、それでいこう」
単純過ぎる。
「……焦らないで。時間に余裕はあるのよ?」
「そうなのか?」
ああ、そういえば伝えてなかった。
「ええ。アニスが出品されるだろうオークションの開催までには猶予があるのよ、商人組合も準備に時間がかかるみたいでね。目玉商品がアニスになる予定なのだけど、商人組合関係者の誰かがシアンの種族を知る知識があれば目玉商品はシアンに入れ替わるでしょうし、そもそもセシリアも人族とはいえ容姿が優れているもの、同じオークションに出てもおかしくない」
「商品を傷付ける気がないってなら確かに時間に余裕はあるのか」
「でも」
「でも?」
「一秒でも早くシアンを抱きしめたいの」
「……リリア、大概だな」
「うるさいわね」
好きなんだよ。悪いか。
「商人組合の拠点というか事務所というか、そのような建物はあるの?」
「知らないな」
「リリムという名前の風俗店の地下に裏オークションの会場があるのだけれど知ってる?」
「聞いたこともない」
そりゃそうだ。
裏オークションに興味はないだろうし、風俗にだって行かないだろう。
「そのオークションに出品されるのか?」
「ええ、そうだと聞いているわ。情報屋の話だとね」
「情報屋? よくそんな伝手があったな」
「ちょっとね。……それよりも、そのオークションの主催者は商人組合幹部のガウンという男だそうよ」
「ガウン? それなら知ってるな、孤児院の先生が手紙でやり取りしていた奴だ」
なるほどな。
色々繋がって来た。
「孤児院の先生がシアンとセシリアを連れ去ったとみて間違いないのよね?」
「ああ、恐らくな」
「ならこのガウンって男のもとへ連れ去ったと見るのが妥当ね」
「ってことは」
「そうよ。ガウンの所有する建物に軟禁している可能性が高い」
攫ってきた人を管理するにはそれなりの空間と人員がいる。
かなり大きな建物か、あるいは地下か。
そしてそれを監視し、警備するのは自警団だ。
そう、自警団なのだ。
「……もしかして?」
「どうした?」
広く、頑丈で、秘密が漏洩しなく、人を軟禁出来るような建物。
人を閉じ込めても怪しまれない。
常に自警団の人間が警備しており。
商人組合の人間が足を運んでも怪しまれない。
ある。
そんな建物は確かにこの都市に存在する。
というか俺がついさっきまでそこにいた。
なるほど俺が暴れることを嫌がる訳だ。
万が一にでも俺が暴れた余波で建物が崩れたりすることを嫌がったのか。
商人組合の重鎮に暴力事件を起こして許された理由の本質はそこだったのだ。
一度そうと気付くとそこしか考えられない。
「自警団の本部よ」
「え、なにが?」
「察しが悪いわね。自警団の本部に攫われた人達が囚われているのよ」
「あ? あー、た、確かに?」
商人組合と自警団はこの都市を牛耳っている。
裏で人攫いを黙認し、買い取った奴隷を売ってまでいた。
自警団の本部ほどやりやすく、安全で機密性が高い場所は他にないだろう。
「あんのタヌキ呼吸するように嘘ついてぶっ殺すわよ?」
クラウスの奴、絶対に知っていて顔色一つ変えずに嘘をついていやがった。
絶対に許さない。
「つまり自警団本部を攻めるのか?」
「ビビってるの?」
「そりゃビビるだろ? 貿易都市最大の組織だぞ。敵に回すのはこの都市を敵に回すのと同じようなもんだ」
「ええそうね。でも私普通にムカつくから滅茶苦茶にしてやりたいわ」
「滅茶苦茶って無茶苦茶言うなぁ……」
「権力振りかざして好き勝手してる連中が慌てふためく様子、見たくない?」
「それは、……見たいに決まってるだろ」
「ならやるしかないわね」
二手に別れるという手段は良い発想の筈だ。
一人が正面から襲撃し、もう一人が秘密裏に侵入して囚われた三人を探す。
アニスはともかく、シアンとセシリアは少なくともいる筈だ。
「私が正面から襲撃して自警団本部を混乱させるわ」
「あたしじゃなくていいのか?」
「理由はいくつかあるけど、一番大きいのは隠密用の付与魔法が私には効果がないから、誰にも気付かずに動けるのがサラサだけってことね」
「……世界最高の補助術師様なんだよな? 信じるよ、リリア」
「隠密用の補助魔法と戦闘用の補助魔法、持続回復の魔法。長時間効き目がある魔法をサラサにあらかじめ付与するわ」
「ああ」
「その状態の貴女なら誰にも気付かれずに忍び込める。そしたらなるべく急いで目的の三人を見つけて助け出して。途中で遭遇した敵がいても、私の補助魔法がかけられた貴女なら相手を瞬殺出来る」
「お、おう。凄いなリリアの補助魔法……」
「私はなるべく目立って敵を引き付けるわ」
あとついでにクラウスをぶっ飛ばしておこう。
俺この都市嫌いだわ。
安心して歩けないし、人攫って当たり前のように奴隷を売るし。
商人が権力を持って統治しているなんて都市として不健全過ぎる。
「……リリア、なんか変わった、か?」
「少しだけ開き直っただけ」
「生き生きしてていいな、そっちの方が」
そもそもが人攫いが悪いのに攫われた人を取り返すためになんでこっちがこんなに配慮しないといけないんだ。って怒りもある。
自分が不甲斐なかったり、判断を間違えたり。
色々溜まっているのだ。
暴れて発散したい。
悪いが商人組合と自警団にはストレス発散の捌け口になってもらうことにしよう。
糞みたいな組織で糞みたいな悪巧みをしているから心も痛まない。
「サラサ、自警団本部で暴れるわよ」
「ああ、覚悟を決めたよ。やってやろうじゃないか」
こうして二人は作戦会議を終え、闇に乗じて自警団の本部に向かった。




