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今は効かないがそのうち癌にも効く(所説あり)

 また土下座である。


 まさか一日に二度も土下座されるとは思わなかった。


「ありがとうっ! ほんっっっっとうに、ありがとう!!」


 フウロの家を訪ねると、訪ねたのが俺だと分かるや否や扉を勢いよく開け放ってそのまま流れるような所作で土下座をした。

 あまりにも美しい土下座だった。


「頭を上げなさい。その様子だと娘さんは助かったみたいね、そのことが何よりのお礼よ」

「下げさせてくれ!! 娘の命の恩人に下げないでいつ下げるんだ!!」

「感謝の気持ちは分かったから大丈夫よ。それよりも貴方の力を貸して欲しいの」

「力? 俺に出来ることならなんでもする。どんなことだって手を貸すさ!!」


 いやだからなんでもするは可愛い女の子に言われたいのだ。

 なんでこう何度もむさいおっさんに言われなくてはならないのか。


「どういう関係性なんだ?」

「困ってるこの人に少し手を貸してあげただけよ」

「少し!? 少しなんもんか、病気で死にかけてた娘の為に高価で貴重なブラックベアの爪を分けてくれたのさ!!」

「……ブラックベアを?」


 サラサの反応は驚き半分とやはりという確かめるような頷きが半分であった。

 かなり俺の実力を高く見積もっているらしい。


「ブラックベアの爪を材料にした回復薬は抜群の効能を持つと聞きます。それで娘さんが助かったのですね」

「この方達は?」

「私の冒険者仲間よ、双翼という名のパーティに入れてもらっているのよ」


 立ち上がって膝の土を払ったフウロは佇まいを正してお辞儀をした。


「初めまして、フウロという者だ。出来れば命の恩人の名前を教えて欲しい」

「そういえば名乗ってなかったわね。私はリリア、そしてこの娘が」

「シアンです!」

「サラサだ」

「セシリアです」


 ふとフウロの家の扉の影からこちらの様子を窺う小さな女の子がいた。

 見た目から年齢はシアンと同じくらいだと推測出来る。


「彼女が……?」

「あ、ええ。リィン、こちらに来なさい」


 フウロの呼びかけにリィンと呼ばれた少女は小走りで彼の足に飛びつくようにしがみついた。


 真っ黒な長い髪に茶色の瞳。

 あどけない顔は可愛らしいがこの子もまた成長したらとんでもない美人になる予感がする。

 前髪は目元を隠すくらいに長いが、前髪の隙間から時々見える表情はどこか不安が見え隠れしている。


「ほら、薬を分けてくれたお姉さんだ。挨拶なさい」

「……リィン」

「申し訳ない、娘は酷く人見知りでね」


 超可愛い。人見知りだろうと全然構わない。

 むしろおどおどびくびくしていて小動物みが好感を持てる。

 

 警戒心高めで今にも逃げ出しそうな雰囲気だが、それでも彼女は逃げずにとことことこちらに寄って来た。


 俺の手をその小さな両手で包み込むように握ると、こちらを見上げて目線が合う。

 自然とリィンは上目遣いとなる。

 前髪が流れて彼女の顔が明らかになった。

 

 尋常じゃなく可愛い。

 むちむちほっぺもくりくりな瞳も長い睫毛も、恥ずかしそうな表情も大好物だ。


「……とても綺麗なお姉さん、ありがとう」


 消えてしまいそうな小さな囁きだった。

 それでもこのエルフ特有の長い耳にははっきりと聞こえた。


 勇気を振り絞って感謝を伝えたのだろう。


 その想いが短い言葉に詰まっているのを感じる。


 そしてなによりこの愛おしさは無限大。もうそれだけでブラックベアの爪を渡して良かったと心の底から思う。

 ブラックベア如き彼女の為ならば百だって二百だって討伐してこようという気分にすらなる。


 俺は少しだけ屈んで目線をリィンの高さに合わせると頭を優しく撫でてあげた。

 嫌がられたら謝って即やめようと思っていたが、どうやら嫌がっている様子はない。

 それどころか心地よさそうに目を細めている。


「元気になった貴女の姿が見られてとても嬉しいわ。こちらこそありがとう」

「……どうしてお姉さんがお礼を言うの?」

「貴女が元気だと私も嬉しいからよ?」


 言っている意味が分からないのか彼女は首を傾げている。

 はぁ、そんな姿も可愛い。


 そして俺は気付いている。

 視界の端でシアンが頬を膨らませて若干拗ねているのを。


 嫉妬ですか? 嫉妬なんですか?

 俺がリィンを撫でていることに嫉妬の感情が隠しきれていないんですか?

 

 なんて可愛い。

 一度で二度美味しい。


 リィンを愛でると嫉妬するシアンも味わえるとはここは天国か。

 昇天しそう。

 リリアの転生物語ここで完だ。

 ご愛読ありがとうございました。リリア先生の次の作品にご期待くださいである。


「ところで俺の力を貸してほしいとは?」


 完全に忘れていた。


 元気なリィンの姿と嫉妬するシアンの姿に満足して頭の外に放り投げられていた。

 そういえばここにはヒトミ草の場所を聞き出しに来たのであった。


「ヒトミ草。……もちろん知っているわよね?」

「当然だ。娘の回復薬に必要な材料だからな。ヒトミ草にパラライズスネークの肝、そしてブラックベアの爪。これが揃ってはじめて回復薬は調合出来る」


 そしてその回復薬が完成したからこそリィンは元気になったのだろう。


「どこで手に入れたのか聞いてもいい?」

「勿論だとも。購入出来るものならしたかったけど、どこにも売っていなくてな。自分で探し出してなんとか見つけ出したんだ」

「場所って覚えているかしら?」

「ああ、この街から少し離れた山奥の森にある。ブラックベアの巣があった森とは別の場所だな」

「その場所って近くに村とかなかった?」

「村か……」


 記憶を掘り起こすようにフウロは言葉を切ると考え始める。

 十秒ほどして彼は思い出したように言葉を続けた。


「近いと言えるかは分からないが、離れたところに村があったな。しかしかなり険しい道だ。あの村から行くにはあまり現実的ではないと思うが……」

「なるほどね……」


 俺は仲間の意見を聞くためにセシリアやサラサに視線を向ける。


「どう思う?」

「すまないとは思うけど、頭使うのは得意じゃないんだ。あたしは皆に任せるよ」

「険しい道のりとはいえ、村から行ける距離にあるなら可能性はあるかと」

「……子供しか通れない道があるかもしれないのです」


 確かにシアンの言う通りだ。

 それはあり得る。


「私も村で山菜を取るときに子供しか使えない道を使っていたのです」

「偶然子供しか使えない道を見つけた。だからアニスは行けたし、村の人間は知らなかった」

「辻褄はあいますね」

「その村がアニスのいた村とは限らないんだろ?」

「名前もない小さな村よ。照合するのは現実的じゃないわね」


 何か分かりやすい特徴があれば別だが、話を聞く限りそんな村ではない。


「ここで迷っていても時間の無駄よ。私は見に行くべきだと思うけど、どうする?」

「あたしも賛成だ。考えるより行動した方が性に合う」

「ご主人様についていくですよ」

「反対する理由もないですし、正直私もこの情報はかなりアニスに近付くと感じています」

「決まり、ね」


 フウロからヒトミ草を見つけた場所を聞き、双翼はそこを目指すことにする。

 リィンとの別れは名残惜しいが、次に出会うときは時間に余裕がある時にしよう。

 その時は俺は遠くから見守って、シアンとリィンが仲良くなる様を観察すると心に決めた。

 リィンを愛でて嫉妬するシアンも可愛いが、やはり美少女と美少女が仲睦まじくしているのを眺めるのが一番健康に良い。

 今は効かないがそのうち癌にも効くだろう。

 

 山奥ということもあって準備としていくつかの買い物を街で済ませた一行は、ヒトミ草の花畑目指して出発した。

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