アニス
更新する度に読む人が増えていて滅茶苦茶嬉しいです。
評価やブックマーク、いいねや感想。誤字報告等ありがとうございます。
ちなみに作者は土日低気圧で死んでいた為、一文字も書けませんでした。
ストックが削れたのでまた今日から頑張っていきたいと思います。
「行ってきます!!」
明るい声でそう言って元気に扉を開ける。
それが私が最後に聞いた声で最後に見た姿でした。
ただいま。私が聞きたかった彼女のその言葉が家に響くことは終ぞありませんでした。
辺境の村で生まれた私はそこで16年間育ちました。
日の出とともに目覚め、家畜に餌をやり、農作業を手伝い、水を汲み、家事を手伝う毎日でした。
どこにでもいる普通の村娘。
ありふれた日常。
このまま誰かと結婚して子を身籠り、子を育て、その子もいずれは巣立ち、そして私はこの村に骨を埋めるのでしょう。
しかしそうはなりませんでした。
ある日、私は出逢います。
運命の人に。
その人は人族ではありませんでした。
鋭く尖った犬歯に血のように赤く染まった瞳。背中に生えた蝙蝠のような羽。
私のような田舎娘でも知っている種族です。
吸血鬼。
それが私の目の前で倒れていた男の種族でした。
「た、……助けて、くれ……」
息も絶え絶えになんとか紡いだだろうその言葉に力はなく、彼は今にも息絶えそうでした。
それもその筈です。
彼の胴体には拳ひとつ分がすっぽりと入りそうな穴が空いていたのですから。
そこからおびただしい量の血液が流れ出ており、彼の倒れている周囲を自らの血で染め上げていました。
私が見つけたのは誰も寄り付かない森の奥。
薬草を探してここまでやってきましたが、普段はモンスターと遭遇する危険も考えて絶対に近寄りません。
私が見捨てれば彼は間違いなく助からないでしょう。
助けたところで私に得があるとは思えません。
ましてや相手は吸血鬼という人族からしてみればモンスターとあまり変わらない種族。救った相手に襲われるなんて可能性も十分にあります。
それでも、私は彼を見捨てることが出来ませんでした。
善意ではなく、欲望から発する下心で私は彼を救うと決めたのです。
実は私はメンクイなのです。
一目惚れしました。
超イケメンです。
村の男衆なんてイモも良いところです。
彼に近付いて首を差し出した。
「いい、……のか?」
黙って頷いて肯定の意を示します。
「ありが、とう……」
かぷっ。と彼は私の首筋にその鋭く尖った犬歯を突き立てました。
気持ちが良かったです。
心地よいとかではなくお股がキュンとして子宮がゾクゾクする性的な気持ち良さでした。
はい、お恥ずかしながら私。血を吸われながら絶頂してしまいました。
お股から溢れる何かが太股を伝って地面を汚していることに気付かれないかひやひやします。
私が血を差し出したことにより彼は命を繋ぎ止めました。
なんとか生き残った彼が私を裏切り襲うなんてことはなく、深い感謝を述べた彼は必ず恩返しをすると言い残して私の目の前から消えました。
その日から彼は人気のないところで私に会いに来ては食べ物や宝石を渡してきます。
正直色々な物を貰えることよりも、彼と頻繁に会ってお話しする時間が何よりも嬉しかったのを覚えています。
そんな日々が続いたある日、永遠に続いて欲しかった日々に終わりが来てしまいました。
私と彼の逢引きが村にバレて追及されたのです。
私はほんの僅かも迷いませんでした。
彼との逢瀬を邪魔する村なんて愛着もありません。
彼に私を貰ってください。と懇願しました。
彼も迷うことはありませんでした。
「共に生きれる場所を探そう。俺と同じ墓に入ってくれるか?」
「よろこんで」
こうして二人は村を離れ、ミストンという街を経由した山奥の辺境地にある小さな村に行き着きます。
そこで彼は人間に変装し、私と二人夫婦として生きることを決めました。
新しい村の生活に馴染み始めた頃、私は彼女を授かりました。
彼との愛の結晶。
異種族同士で子が成せるのか不安もありました。なのでこの子を授かった時、本当に泣くほど嬉しくて。
彼と一緒にどれだけ嬉しかったか夜更けまで語り合ったのをよく覚えています。
「早く寝た方がいい。君はもう一人だけの体じゃないんだから」
愛しむように優しく言葉を投げかける彼のことが本当に好きで、心から愛していました。
彼女が産声をあげ。
アニスと名付け。
吸血鬼と人間のハーフとして生まれた彼女を人目につかぬよう育て。
アニスが立って歩けるようになった頃。
彼は消えました。
突然。
何も言わずに。
アニスと私を残していなくなったのです。
私は待ちました。
何年も何年も。
アニスの成長を見守りながら。
幾度となく季節が巡り。
ああ、彼はもうここに戻ることはないのだと心のどこかで納得したそんな時でした。
行ってきます。
そう言い残して家を出たアニスが、日が暮れても戻ることはありませんでした。
松明の日を頼りに日の出まで森を探し回りましたが、その痕跡すら掴めません。
彼を失って今度はアニスまで失うなんて耐えられません。
まるで彼との出会いが夢幻であったかのようで。
私の人生を否定されるような気がして正気を失うかと思いました。
かつて彼に貰った宝石をかき集めて私はミストンの街へと向かいます。
冒険者ギルドに依頼を出す為です。
どんな手段を使ってでもアニスを探し出す覚悟でした。
この若くない体を求めるなら好きなだけ蹂躙してもらっても構いません。
生きてアニスに会えるなら。
どんなことだってします。
だからお願いします。
アニスを探し出してください。
女性四人組の冒険者、双翼の人達に向かって私は地面に頭を擦り付けるように懇願しました。
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