魔眼
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シアンの目の前に砕けたコカトリスのエンブレムが破片となってパラパラと降り注いだ。
そして俺が破壊した人形にも粉々になった何かが埋め込まれていた。
「私とシアンの二人はシルバースタートのようね」
「ひとつだけ、お聞きしても?」
「構わないわよ?」
「何故人形の中にエンブレムがあると分かったのですか?」
受付嬢の質問に俺は素直に答える。
「幾つも並んでいる人形の中で唯一あのひとつだけがコカトリスのエンブレムと同じ付与魔法が掛けられていたからよ。複数ならまだ考えたけど、たったひとつだけそれも全く同じ付与魔法が掛けられていたら人形ではなく人形に隠されたエンブレムに魔法が掛けられていたと考えるのは自然でしょう?」
良く考えられた試験だ。
ひとつだけ付与魔法によって頑丈になっていた人形を見て意味がないとは思い難い。
隠されたエンブレムがそこにはある。
確信があった。
偽物のエンブレムには全て付与魔法がなかったのも確信を強める材料になった。
「……もしかして、リリアさんは付与された魔法が一目で正確に読み解けるのでしょうか?」
あ、やっちまったー。
俺は脳内で頭を抱えた。
あまりにも長い付き合いで呼吸するかのように使っているスキル。これはパッシブスキルの為、常時発動している。
その名も解析の魔眼。
見るだけで対象に付与された魔法や掛けられた補助魔法を解析し、理解する補助系統では必須のスキルだ。
必須のスキルなのだが習得には条件があり、これが中々に厄介で補助系統の役職が敬遠されている理由のひとつでもある。
そして当然の如く初期エリアでは習得は不可能で、恐らくこの大陸に使い手はいないだろう。
見るだけで魔法を知るのは普通のことではないのだ。
隠しても仕方がない。
俺は諦めて白状した。
「ええ、その通りよ。私は見るだけで込められた魔法を知ることが出来る。そういう魔眼を持っているのよ」
生まれつきということにしよう。
生まれ持った特別な才能で誤魔化そう。
どうせこれが条件を満たせば誰でも手に入る魔眼なんて誰も知ることはない。
「聞いたことすらないレアスキルですよ、それ!?」
「そうなの? 生まれつきそうだったから知らなかったわ」
「ご主人様凄いのです?」
「大したことないわよ、生まれつきだもの」
わざとらし過ぎるだろうか?
あまりにも生まれつきをしつこく推してる気がする。
「そんなことよりも、試験結果はどうなったの?」
咳払いをひとつ挟み、受付嬢は姿勢を正すとよく通る声でこう言った。
「勿論シルバーでの合格です。リリアさんとシアンさんは二人とも今日からE級、シルバーランク冒険者となります」
こうして無事シルバーランクで冒険者登録を終えた俺とシアンは諸々の手続きを済ませ、休憩がてら冒険者ギルドの一階にある酒場で軽食を取っていた。
話題は双翼のこれからについてだ。
「改めてシルバーランクの合格おめでとう。ただ、あたしとしてはリリアはゴールドランクを余裕で合格出来ると思っていたんだけどな」
「買い被りすぎよ、私はシルバーが適正」
「そういうことにしておこう」
全然信じていない反応だ。
それもそうか。
サラサは完全にこちらを格上だと認識している。
「シアンさんもシルバーランクおめでとうございます」
「ありがとうございます! ……でも、ご主人様のおかげなのですよ」
セシリアは心から誉めてくれているようだが、シアンは賞賛の言葉をそのまま受け取るには抵抗があるようだ。
俺の助言でシルバーになったと認識しているのだろう。
その認識は間違いでない。確かに俺の助言がなければシアンがシルバーランクとして合格するのは難しかっただろう。
そもそもコカトリスを知らなかったのだ、アイアンランクもあり得た。
しかし同時にその認識は間違ってもいる。
少なくとも俺はシアンが自身の力でシルバーランクを合格したと思っていた。
「それは違うわ。確かに私が助言しなければシアンはシルバーランクの合格は難しかったと思う。でもあの広場を探し回り続ける体力。コカトリスの特徴を口頭で伝えられてしっかりと理解する理解力に、偽物の中からしっかりと本物を見つけ出す観察力。残り少ない時間でも巻物を見つけ出し、私の指示通りにしっかり動ける冷静さ、胆力。それはシルバーランクに相当すると私は思う」
しっかりと理屈でシアンのことを評価して褒める。
その言葉に偽りはない。
そしてなるべく優しい手つきで頭を撫でてあげながら、目線をしっかりと合わせた。
「誇りなさい。胸を張りなさい。貴女は私の奴隷であると同時に相棒なのよ?」
澄んだ目をキラキラさせてこちらを恍惚の表情で見ている。
これは好感度が上がったに違いない。
そろそろ耳くらいは触っても許してくれるだろうか?
「契約奴隷だというのにリリアはシアンを大切にしているのだな」
「そう? 当たり前じゃない? このくらい」
「当たり前じゃありませんよ、奴隷の扱いが酷くて遠目で見ていても気分が悪くなるような光景珍しくありませんから……」
奴隷の身分は相当低いようだ。
ゲームの世界では伝わってこなかった部分でもある。
「ご主人様は優しくてあったかくて大好きなのです」
はい可愛い。
頬を赤く染めて幸せそうな笑顔で大好き。
なんて可愛いケモっ娘なのだ。
このままベッドにお持ち帰りして美味しく頂いちゃう誘惑に負けそうになる。
同性なのに。
「話は変わりますが、新たに四人となった双翼のこれからについてお話をしたいと思います」
「簡単なクエストをやるべきね」
「……理由をお伺いしてもよろしいですか?」
セシリアの試すような声色に俺は自信満々で答えた。
これはゲーム時代からよくあったことなので経験則に基づいた実体験からの根拠ある意見だが。
「これは冒険者に限らない話だけれど、チームメンバーの入れ替わりやチーム環境の変化は一時的にチームの実力を低下させるわ。四人になったとはいえ、二人だった頃に劣るなんて珍しい話じゃない。今の私達四人の双翼はかつての双翼より下回っていると見積もって実力より下のクエストで慣らすべきよ。そこで意見の擦り合わせや徐々に浮き彫りになる問題点を一個ずつ解決してようやく以前の双翼を超える四人パーティの形になる筈よ」
俺の話を黙って聞いていたセシリアの様子が試すような視線から感心するような視線に変わり、驚きへと移行して最終的にはなんとも言えない表情へと行き着いていた。
「お、思っていたよりも詳しく明瞭な回答が返ってきて驚いています。試すような発言をお許しください……」
「貴女が双翼の頭脳としてこれまで支えてきたのでしょう? 新たに加入したメンバーを試すなんて当然の権利よ、気にしないで」
「そうだぞ、あたしが筋金入りの脳筋だからセシリアは苦労してきたんだからな!」
「サラサ、そういうことは自分で言わないの」
呆れたように言うがその言葉の裏には温かみがある。
信頼しているのだろう。
サラサとセシリアには無条件の信頼を相互に感じる。良いパーティだ。
実力や知識よりも大切な一番重要なパーティの条件をこの二人は満たしている。
信頼のないパーティに未来はない。
いつか分解するか全滅するか。
「良い関係ね。お互いの信頼が伝わってくるもの」
「やめてくれよ、恥ずかしい。そんなんじゃないんだ、あたしとセシリアは」
「そうです。付き合いが長いだけで、サラサの思いつきの無茶でどれだけ大変な目にあってきたことか」
「面と向かって文句が言える間柄はそんなことでは壊れない信頼からなるものよ。得難い絆ね。大切になさい」
袖を掴まれる感触。
視線を向ければ俺の袖を両手で握りしめるシアンの姿があった。
上目遣いで不安そうな瞳がこちらをじっと見つめている。
「シアンもご主人様を信頼しているのですよ……」
ご主人様はどうですか? 言外にそんな言葉が聞こえてくる。
答えは決まっていた。
「私もよ」
優しく包み込むように彼女の頭を抱きしめる。
緊張してピンと立った耳が、時間をかけてゆっくりと馴染むように力が抜けていく。
「シアン、私のお膝に座わりなさい」
「ふえ!? ご主人様の上に座るなんて無理です!!」
「命令よ、ご主人様の命令」
「め、命令なら、……しょうがないです」
まるでそれが免罪符であるかのように呟き。
シアンは遠慮がちにその柔らかくて小さなお尻を俺の膝の上に置いた。
もぞもぞとした尻尾の感触がくすぐったい。
彼女の頭の上に顎を乗せるように後ろから抱きしめて二人に続きを促した。
「話を途切れさせて申し訳ないわね。続けていいわよ」
「あたしらの腐れ縁なんて霞むくらいイチャイチャしてんじゃないか」
「なんでしょう、何故か当て馬にされた気分です」
気のせいだ。
シアンとイチャイチャするのは至福の時だがセシリアとサラサの掛け合いを見るのも俺にとってはご褒美なのだから。
当て馬なんてとんでもない。
「では早速ですが掲示板からそれらしいクエストを探しますか?」
「そうだな、ブラックベアで人手が取られてるから選びたい放題だぞ」
しかし席を立とうとする二人を呼び止める声。
「それならお願いしたいクエストがあるのですが……」
それは先程の受付嬢の声であった。
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