冒険者ギルド
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シアンを泣かせた狼藉者を床に沈めた後で席に戻り、彼女の頭を撫でる。
心地良さそうに目を細めるシアンを見るだけで心が暖かくなるような気がした。
そこに一人の女性が歩み寄ってきた。
びっくりするくらいめちゃくちゃ美人だった。
「あの……、少しお話いいですか?」
声も可愛い。
申し訳なさそうに上目遣いで言う仕草もぐっとくる。
俺は警戒心を高めた。
美人局かと思ったからだ。しかし冷静に考えるとあり得ない。
そういえば俺も目の前の美人に負けず劣らずの美少女だったからだ。
普通美少女相手に美人局は仕掛けない。
「構わないけど、何かしら?」
受け答えしつつもシアンを撫でる手は止めない。
「突然で申し訳ないんですけど、私達と一緒にパーティを組んでくださいませんか?」
「……理由を聞いてもいい?」
「えっと、少し長くなるのですがよろしいですか?」
面倒なことに巻き込まれる気がした。
それでも話を聞くだけならばという気もしている。
少し悩んでからシアンに問う。
「シアン、同席させてもいい?」
シアンが頷いたのを確認してから同席を許すと、彼女は自分の席に戻ってから仲間らしき女性を連れて戻ってくる。
「自己紹介が遅れましたね。私はセシリアと申します。そしてこちらが……」
「サラサだ。育ちと頭が悪いもんで、お上品な会話は出来ないが許してくれ」
「その程度の事は気にしないわ。私はリリア、そして彼女が私の契約奴隷のシアンよ」
「初めまして、です……」
追加の串料理と飲み物を頼み、本題に入る。
セシリアの話をまとめると。
彼女らがこの街で冒険者として二人組で活動し、二人組では限界を感じ。
最初は女性のみのパーティと共同でクエストをこなしていたが、都合よく女性のみの冒険者パーティと組めるとは限らず、徐々に男女混合パーティともやるようになり。
慣れてくると男性のみのパーティとも一緒にやるようになった。
特に問題はなく、二人の警戒心が徐々に下がっていた頃合い。
有体に言えば油断していたらしく、今回一緒になった男性パーティとの共同クエストで事件が起こった。
パーティメンバーの一人がセシリアを襲ったのである。
あの美貌だ。
邪な想いを抱くのは不思議ではない。自制の効かない男が下半身の欲望に支配されて我慢出来なかったのだろう。
二人だけで冒険者を続けるのには限界がある。けれども男性パーティと一緒にクエストに挑めば安心して寝ることも出来ない。
だから女性だけのパーティを組みたい。
それでリリアに目を付けたのだと言う。
「要約すると男性不信だから女性だけのパーティを組みたい。だから私を勧誘しているということでよろしい?」
「その通りです」
「それは貴女達にメリットはあっても私にはないのではなくて?」
「……それも、その通りです」
少し落ち込んだ様子でセシリアは認めた。
これは対等な交渉ではなく、懇願であると。
真剣に考えてみる。
果たして彼女らとパーティを組むことに意味はあるのかと。
この世界で生きていくに対し、今後生きていくために稼ぎは必要だ。
その選択肢として冒険者という職業はなしではない。
一人のゲーム好きとしても冒険者という職業に憧れがない訳ではなかった。
ただそれは彼女らと組まなくても何とでもなる。
冒険者をする理由はあっても、彼女らと一緒に冒険者をする理由は今のところ見当たらない。
同じ女性だから性的な問題が発生し難いというのが利点か。
彼女らが切羽詰まっているのを見る限り、女性の冒険者は少ないのだろう。
「そもそも私達は冒険者ではないのよね」
正しくはその気はあるのでまだ冒険者ではない。になるが。
「は? あんなに強いのに冒険者じゃないのか?」
「違うわよ。……あら? ということは私達を勧誘する理由のひとつは性別だけれど。もうひとつはさっきの男を投げ飛ばしたからってことね」
「そりゃあの身のこなしを見せられたら凄腕の冒険者をまずは疑うだろ」
褒められて悪い気がしないが、実力を見て勧誘しているなら少し都合が悪い。
実力差があり過ぎるのだ。
この大陸の基準で言えば明らかに俺の強さは桁が違う。
「この街では見たことがなかったので遠くからやってきた冒険者なのかと思いました」
「遠くからやってきたのは間違いではないけど」
遠くは遠くでも別の世界からだ。
「そもそも私とシアンは別の大陸を目指しているの、この街に長く止まるつまりはないのよ」
「では街にいる間だけでもどうでしょうか? 今日明日この街を出るというなら諦めますが……」
そこまで食い下がられたら断るのも申し訳ない感じがする。
「仕方ないわね。熱意に負けたわ、この街に滞在する間だけなら一緒にやりましょう」
「本当ですか!?」
「やったな」
別にデメリットが無視できないほどに大きい訳でもない。
どのみちいずれ冒険者ギルドには顔を出すつもりではいた。
既に冒険者として活躍している二人の紹介なら話も早いかもしれない。
「それならまずは冒険者ギルドに行って登録しないとね」
食事を終えた四人は早速冒険者ギルドへと向かった。
街の中央付近にその建物は鎮座していた。
ゲーム画面で見慣れたその建物は実際に肉眼で見ると中々に迫力と趣がある。
木造建築の三階建て。
一階は半分が受付と掲示板、もう半分が酒場という間取りになっている。
二階には確か会議室や来客室、三階に事務所といった感じだ。
地下には倉庫があり、そこには冒険者から買い取った資材などを管理している。
懐かしくも感じるこの場所に案内された俺は感慨深さがあったが、初めて見るシアンは目を輝かせて建物を見上げていた。
「おっっっきな建物ですねぇ!!」
狐耳がぴこぴこ元気に動いて尻尾もそわそわ振られている。
興味津々の様子にそれを眺めていた俺の目の保養になった。
「ここがミストンの冒険者ギルドです」
「中々立派なもんだろう?」
「凄いです! びっくりしたのです!!」
「悪くないわね」
中に入ると柄の悪い輩に足を引っ掛けられるなんてベタなイベントもなく、あっさりと受付まで辿り着いた。
というか人が少ないように思える。
冒険者ギルドは掲示板の前に人が群がったり、酒場では昼間から酒を飲み交わすだらしない冒険者がいるイメージなのだが。
あまりにも閑散としていて寂さすらある。
「人が少ないようね?」
「本当だな、いつもはもっと賑わっているんだけど」
サラサの疑問に答えるように受付嬢が口を開いた。
「お二人が対峙したブラックベアの捜索及び討伐により大規模なクエストが進行しているからですよ。冒険者のみなさんはその為に殆どが森に出ています。……ところで本日はどのようなご用件でしょうか?」
「なるほどな。……冒険者登録をしにきた」
「後ろのお二方でしょうか?」
「はい。私セシリアとサラサの紹介で実力は保証します。冒険者登録を行って私達四人でパーティを組む予定です」
どうやらこの受付嬢はセシリアやサラサと顔馴染みらしい。
話がとんとん拍子で進んでいく。
「リリアよ。冒険者として登録をお願いね」
「シアンです! よろしくお願いします!!」
「リリアさんにシアンさんですね。承知いたしました。しばらくお待ちください」
受付嬢が奥の扉に入っていくのを見てから疑問を口にする。
「ブラックベアの討伐にしては大袈裟じゃない?」
「全然大袈裟じゃないだろ、ここら辺では一番凶悪なモンスターだ。放っておけば被害もどんどん広がっていく。大規模なクエストとして沢山の冒険者を集めたのは英断だと思うけどな」
まだこちらの世界の感覚が馴染んでいない。
俺の中ではたかがブラックベアという認識なのだが、こちらの世界では。……いや、この地域では災害のような扱いをしているらしい。
シアンはブラックベアを瞬殺している俺の姿を二度見ている。
まだ実力を明かすほどにこの二人を信用している訳ではない。
あまり余計なことは言わないようにシアンに目線で訴える。
シアンはこくりと頷いて両手で口を塞いだ。
聡い子だ。
「リリアさん、パーティは私達のもので大丈夫ですか? それとも新たに作り直しますか?」
「元ある貴女達のパーティに入れてもらう形で大丈夫よ。パーティ名はなんて言うの?」
「双翼だ」
セシリアとサラサ。一対の翼で双翼か。なるほど。
俺とシアンが入ったら翼四枚になるな。
もとよりこの街を出るまでの一時的なパーティだから気にすることもないだろう。
「双翼に入れてもらうことにするわね」
「ところで役職を教えてもらってもいいか? あたしはゴリゴリの前衛で剣士をやらしてもらっている。セシリアは見ての通り後衛の回復術師だ」
「私も後衛よ、補助術師ね」
それも多分補助術師としてはこの世界最強だ。
「え?」
「は?」
セシリアとサラサが間抜けな顔でこちらを見ている。
なんだ文句でもあるのか。
「前衛じゃないのか?」
「私てっきり武術を嗜んでいるとばかり……」
あ、そうか。
この二人は串焼き屋で男を投げ飛ばしたイメージしかないのだ。
まさか魔法を使うなんて思ってもみなかったのだろう。
ここら辺の敵ならスキルがなくてもステータスのゴリ押しで解決するので素手だろうが前衛だろうが問題はない。ただ今から誤魔化すのも面倒なので正直に話すことにする。
「少し護身術に心得がある後衛補助よ。自分の身も守れないのに人の補助なんてしてられないものね」
「少しなんてもんじゃなかったけどな、あの身のこなしは」
「凄い……。私自分の身を自分で守るなんて発想なかったです。守られて当たり前だと思っていました」
「いや、それでいいのよ。私がおかしいだけ」
ステータスがこの地域の敵に比べて圧倒的に高いだけで、適正なレベルの敵が来れば俺だって自分の身なんて守れない。
後衛職なんて守られてなんぼだ。
「わ、私無職なのです……。ご、ごめんなさい何も出来なくて!!」
「シアンはテイマーよ」
初耳ですけど!? みたいな目でシアンがこちらを凝視している。
例えテイマーじゃなくてもこれからテイマーになるのだ。
シルバーテイルでテイマーをしないのは縛りプレイと言っても過言ではない。
「テイマーってモンスターを使役出来るって噂のあの? かなり珍しいって話だが、彼女がそうなのか?」
テイマーは珍しいのか。
ゲームではわりとありふれた職業だったのだが。
「今は違ってもこれからテイマーになるのよ。この子にはその才能がある。私が保証するわ」
「私にそんな才能があったなんて信じられないのです」
疑うそぶりもなく即信じる姿は少し心配になる。いや、嘘をついている訳ではないが、あまりにも盲目的に盲信しているので彼女の将来が少し心配になるのだ。
俺が相手だからというのはあるかもしれないが。
「お待たせしました」
そう言って受付の奥から顔を出した受付嬢の手元には何枚かの書類があった。
丁寧に説明を受けたが、要約すると。
冒険の死亡にギルドは責任を負いません。法は守れよ。ギルドのルールも守れよ。報連相はしっかりと。等々当たり前のことがつらつらと書き連ねられていた。
全てに了承したらサインをしてくれという契約書らしい。
当然おかしなことは書いていなかったのでリリアはサインをする。
面白いことに日本語しか知らない俺が当たり前のように見たこともない不思議な文字で名前を書けていた。
見たこともないのにあっさりと読める。
そういえば違和感がなさすぎて気付かなかったが街の看板も普通に読めていた。
転生特典だろうか。
続いてシアンもサインを済ませ、書類上は無事冒険者となった訳だが。まだいくつかやることがあるらしい。
ゲームでは冒険者登録なんて一瞬だったが、やはりこの世界では中々に手続きが面倒なようだ。
どこの世界も役所の手続きが面倒なのは共通のようだ。
冒険者ギルドが役所なのかは微妙なところだが。
次は実技テストがあるらしい。
その結果で登録時の冒険者ランクが決まるとのことだが、さてどうしたものか。
俺は悩みながら受付嬢の案内で冒険者ギルドの裏にある広場に連れて行かれた。
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もっと面白くなるように精進します。
 




