婚約者の調査記録〜結論、俺の婚約者は態度がデカイがツラが薄い〜
最後まで読んでくだされば幸いです。
突然だが、この俺……グラン=メイールにはちょっと面倒くさい婚約者がいる。
名をレイン=ガーデン。ガーデン伯爵家の息女。腰まで伸びた綺麗な銀髪、サファイアのように輝く綺麗な目。
容姿も優れていて、まさに乙女ゲームに登場しそうなその人物。
まぁ、実際にこの世界は乙女ゲームでこの俺も攻略対象の一人、レインはそのライバル、悪役令嬢に当たるのだが……今はそんな些細なことはどうでもいい。
重要なのはこの婚約者の性格なのだ。
「あなたのお立場も理解しておりますが、もう少し向上心を見せてはいかがですか?」
レインは厳格な性格をしている。常に俺にきつく当たる。その理由を語るにはこの俺の出自が原因。
俺は一国の王子だ。王位継承権もある。だが、それは四人もいる兄弟の一番下。
妹や姉を含めてもさらに下になる。
俺は一番下の第五王妃から産まれた子供だ。
立場が微妙なのは俺の母が他国の王族なのが原因。平和条約を結ぶときに嫁いだのだとか。
なんともまぁ、乙女ゲームにありがちな訳あり設定だ。乙女ゲームのシナリオでは最後には俺はヒロインと共に苦難を乗り越え、みんなの支持を少しずつ集めて国王になる……というなんともまぁご都合主語なハッピーエンド。
だが、これをやるのは現実では不可能。だって今現状もうすぐ十五歳になるのに俺を支持している派閥はごく僅か。
それをひっくり返すのは現実的に無理なのだ。
ま、別にいい。俺は乙女ゲームのように国王を目指さない。今の微妙な立場でも仕事に困ることはない。
俺にはある程度の才能がある。実力を隠しているが魔法の扱いに関しては兄弟では一番上。
赤子の時から何もすることなく遊んでいたらいつの間にか魔力量が圧倒的になっていた。
だが、それをすると目立つことになるので母親以外は黙っている。
何故母に言ったのかと聞かれたらどうしても大好きな母にだけは隠し事をしたくない。
母もそのことを伝えたら俺の好きなようにさせて貰えると言ってくれた。だから、俺は母がいる時だけ、新しく覚えた魔法を母に披露している。
俺と母の関係は良好だ!
まぁ、他の兄弟は微妙だ。どう接すればよいかわからないと距離をとっている者。あからさまに邪険に扱っている者、いない存在として扱っている者。
まぁ、気にしてないのでどうでもよいが。
さて、少し話は逸れてしまったが、次に俺とレインについて語ろう。ざっくり言ってしまえば、俺の立場を少しはマシにしようと父、国王の計らい婚約したのだ。
ただ、幼少期くらい、婚約前にレインとは多少の交流があった。パーティで少し話したり、ガーデン伯爵家は何人もの優秀な魔法使いを輩出した名門なので、一緒に魔法を教わったりした。
始めはこんな厳格な性格はなく、心優しく少し頑張り屋で泣き虫、負けず嫌いな性格をしていた。
魔法を共に教わった。当時は少し笑顔で微笑むと頬を赤らめるなど……多分俺に好意があるのだと察した。
このことを母に相談したら結果的にレインと婚約者したのだが……それから年月が経つに連れてレインは俺に冷たく当たるようになった。
なんか、俺をリードするような、俺の成長を促そうとするような。
そんな印象を受けた。
だが、最近そんなレインに違和感を覚えるようになってきたのだ。
話していて俺と口論になるとレインはどこか悲しそうな表情をしていた。
……もしかして無理して俺に厳格に接しているのでは?
そう思えてならなかった。
その仮説を思いついた時、いくつか思い当たることができた。
今のレインの性格は乙女ゲームの時と同じだ。そして、俺の立場も。
乙女ゲームでのグランは自分の立場に劣等感があり、無気力で過ごしていた。
それをレインが指摘して、グランがキレる。そんなやりとりが描写にあった。
自分を産んだ母を恨んでおり、関係は良くない。
憑依した俺は国王になるのは諦め、魔法で食っていこうと考えているので、勉学は少し疎かになってしまっている。
母との関係は良好だが。
乙女ゲームでのグランと国王を諦めている点で似ている。
これらから導き出した仮説は、レインは王妃教育でやる気のない俺をリードするように指導されているのかもしれないと思った。
好意を持っているかわからないが、もしかしたら……。
だから俺は少し探りを入れてみることにした。
「レイン」
「はい?」
「君の意志はわかった。……こんな面倒くさい俺と婚約は嫌だろう?だから終わりにしようか」
「……え?」
俺は恐る恐るレインの顔を見ると……困惑していた。綺麗な青い瞳には俺が映っていて、停止していた。
あ……あれ?もしかして俺の仮説正しかった?
い、いや。まだだ。確証が持てない。
俺は懐から一枚の紙を取り出し、レインの前に出す。
「これにサインしてくれれば婚約は解消できる」
「え……え、待ってくだーー」
「安心してほしい。君のガーデン伯爵家には迷惑はかからない。この書類は俺が王位継承権を剥奪されたから仕方なく婚約を解消したという流れになる。国王陛下にはすでに話していて、了承ももらっているから」
「ま…まって……きゅ…急ではあ……ありませんか?婚約はそう簡単に破棄は」
めっちゃ動揺しとるやん。
「前にレインが言っていたじゃないか?」
「え?……な、何をですか?」
「ほら、このまま俺の向上心が見えないようならガーデン伯爵に話して婚約破棄を進言しようって」
「あ!……いや、それは……」
「貴方に王位継承権があるのはガーデン伯爵家の力があるからって……なら、俺はもう国王になるつもりないし、魔法があるから職には困らないし」
「あ……でも、世の中そんなに甘くありません。王族である貴方がそんな簡単に立場を捨てることはできないはずです!」
「え?それは大丈夫。俺、魔法使いとして優秀だし。実は冒険者に登録していて、ランクはBなんだ。……ほら」
俺は懐から冒険者証を取り出し、レインに見せる。
「もう独り立ちして暮らしていけるくらいの貯金も立場もある。だから安心して婚約破棄できるけど」
これでどんな反応を見せるか……あ。
レインはあわあわとしていた。良く見れば目が潤っているような。
こんなレイン久々だ。
あれ?……ただ少し探りを入れるだけのつもりだったのに。いつも通りの俺をリードしようとデカイ態度をとっているレインからは想像できない。
や……やりすぎたか?
「レイン?どうした」
「あ……あの時はですね。こ……言葉のあやと言いますか……別に私も本気で言ったわけでは……そ、それにですね。お父様にも……話は通していないので……だ…だから……その……こういうのは正規なやりとりは……国王陛下やお父様と話し合う場を設けないことには……片方の一存で……決めていいものでは。そ、そもそも……冒険者というのは危険で………(以下略」
めっちゃ動揺しながら言い訳してるわ。ここで何か言い返したら本当に泣きそうだわ。
もうこれでいい。ここまでしたかったわけじゃないのに。なんなんだこの罪悪感は!
「そうなのか。ごめん。少し勉強不足だったよ。婚約破棄がそんなに重大なことだったなんて。今の話は無かったことにしてくれ」
あれ?……なんかレインのことが気になりすぎて巧く言い訳ができない。頭が真っ白になったせいで想定していたセリフが全て消えた。
「そ、そうですか。……こういう話はもっと慎重にしましょうね。グラン様は少し勉強不足ですね」
これで通じたよ。いつものレインなら俺の意見に対して問い詰めてくるところなのに。
レインも動揺しすぎているんだ。
とりあえずボロが出る前に今日は別れよう。
「今日はここまでにしよう。せっかくきてもらったのに申し訳ないね」
「い…いえ。私もグラン様と会うの楽しみにしていたので」
「そ……そうなのか」
「は…はい」
最後に交わした会話はお互いに素直になれていたかもしれない。
ぎこちないが、昔の……婚約する前のそんな会話を。
「そうだ。……冒険者登録について……その秘密にしてくれると」
「わ……わかりました」
その日は解散した。
後日会おうと約束をして。
俺はこう結論づけた。
レインは態度がデカいが、ツラは薄いと。
本当にあの動揺の仕方には驚いた。
それから俺はレインの本音が気になり、会うたびに調査をするようになった。
それから二週間後、レインと再びお茶をする約束をした。
……あの日のことが忘れられない俺は再び探りを入れることにした。
内容は俺のことをどう思っているのかということ。
だから、ネックレス、イヤリング、指輪等の装飾品に金木犀の香りの香水をプレゼントした。
こういうプレゼントは貰ったら礼儀として最低一つは身につけなければいけないのだが……どうだ?
「お久しぶりです。レイン様」
「あ……うん。久しぶり」
綺麗なカーテシーするレインに動揺した。レインはプレゼントした全ての装飾品を付けていた。
そして、風が吹き、金木犀の香りがした。
「どうかされたのですか?」
「いや……なんでもないよ。一先ず座ろうか。今日は少し不思議なものが手に入ったんだ」
俺は椅子を引いて、レインを座らせた後、向かいに座る。
「それで不思議なものとは?」
「ああ。これだよ。魔水晶型の魔道具なんだけどね」
「水晶型とは珍しい。綺麗ですね……どのような効果があるのですか?」
水晶型の魔道具はそんなに流通しない。ダンジョンと呼ばれる迷宮から見つかるくらいだ。
4日ほど前にダンジョンに潜った時に隠し通路を発見して偶々手に入れたものだ。
本来ならこの場で俺がプレゼントしたものについて話すだけだったが、この魔道具が手に入ったから使おうと思った。
「まだ不明でね……魔力を流して話たら偶に光るんだよ」
「それになんの意味が?」
「だから少し調べるのに協力してほしくてね。いいでしょたまには?……こういうのも」
「……そうですね」
なんか素直になった?この前の一件を気にしているのだろうか?いつもなら拒否されるのに。
まぁいい。作戦開始といこう。
この魔道具は嘘発見に部類する。
色々試して、効果を発揮した。
魔力を流しながら話し、それが真実と違っていたら光るのだ。
「なら、レインが水晶の上に手を置いて、魔力を流して俺と会話してくれる?」
「何故ですか?」
「調査の一環で、自分以外が起動したらどうなるか知りたいんだよ」
「なるほど。そういうことなら」
……よし、これで起動したな。
今回俺が知りたいのはレインの本心だ。
「何から話せばいいんだろう……そうだな。最近教育は無理してない?」
「いえ。無理はしていません。新しいことを覚えるのは楽しいので。どうしたのですか?急に」
光った……少し無理をしているのか。
あまりやるのは罪悪感があるがさっさと聞きたいことをいうか。
「……前回話した時、随分と様子が変だったから無理しているのかなと」
「あ、あの時のことは忘れてください」
「いや、忘れられないさ。俺との婚約破棄をしたがっていると思っていたから。……今思えば俺、レインと婚約できてよかったと思っているよ。だって俺、レインのこと好きだし」
「そうですか。私もグラン様をお慕いしてます」
レインは俺の言葉に少し驚くも表情をすぐに戻して話して始める。
そういえば以前はこういう切り替えができなかったと記憶している。
表情を隠す訓練でもしているのかもしれない。
俺が聞きたいのは……。
「俺は異性としてレインのこと好きだけど、レインはどう?」
「嬉しく思います。ですが、申し訳ありません。私はグラン様にそういう感情はありません」
ピカ……。あ、今嘘ついた。
「婚約はお互いの気持ちは関係なくお互い家同士の関係をより良くするのが目的です。私とグラン様の婚約は、グラン様のお立場を支えるためのものです」
これは……本当らしい。
「おそらく私とグラン様は以前から交流があり、家柄や偶々歳が同じだったからという理由で婚約したのでしょうね」
「なるほどね」
話が進むごとにレインの表情は暗くなっていく。
ああ……おそらくレインはわざと俺にキツく当たっており、そのように教育されている。
レインは俺に好意を持ってくれていて、俺のためになるのだと思ってこのような態度をとってくれているのかもしれない。
無理をして発言するたびに悲しんで。
「なら、これから良好な関係を築いていこうか。心から支え合える婚約者に」
「私は初めからそのつもりなのですが?」
「いやいや。恋愛結婚なんてものは無理だろうね。でも、俺たちはまだお互いぎこちない部分がある。そういうところを解消していこうってことだよ」
「急にどうしたのですか?」
「いや、少し考えが変わる機会があってね。このままじゃいけないと思った」
「……そうですか……私も嬉しく思います。その決意が口先だけじゃないことを祈っています」
「わかったよ」
レインはとても嬉しそうにしていた。
いつか……お互いが本音で言い合えるようになった時……今日のことを白状しようと思う。
今の彼女は素直になれない。
教育や自分の立場が邪魔をして。
騙すような形で彼女の本音を聞き出してしまった。この魔道具について話してしまったら関係が拗れるかもしれない。
俺も彼女に嫌われるのは怖い。レインも同じことを思っているだろう。
だから、少しずつ信頼関係を築いていくんだ。
これから16歳になったら学院へ通うことになる。それが乙女ゲームの舞台となる。
学園生活が始まればレインと話す機会も多くなる。学園イベントで交流する機会も増える。
焦らず、ゆっくりと。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
次の連載をどうしようか考えてます。
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