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鬼を食らう姫  作者: 皆城さかえ
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駿府4

 勝姫は重成、十兵衛は長身の浪人、助九郎は残る一人と相対した。


 十兵衛は二太刀目で、相対した背の高い浪人を頭から一刀両断にした。

 ――他愛もない。

 すぐに勝姫を援護しようときびすを返す。が、背中に殺気を感じて慌てて振り返った。

 目の前には自分に襲いかかってくる二本の刃があった。十兵衛はこの二本の刃を何とかはね返す。

 

 ――二本?

 十兵衛は先ほど斬り捨てた相手が倒れているはずの場所に目を凝らした。


 驚いたことに、確かに一刀両断したはずの浪人が無事に立っている。

 そして、その横には、同じ姿、同じ刀を持つ浪人がもう一人いた。

 

 背の高い浪人二人の口が同時に開く。

「鬼力『真贋しんがん』を持つ貴様には隠しても意味がないな。俺が持つ太刀は『二つ銘則宗』。俺の体は鬼力『分体』によって、傷ついた場所から再生、分裂するのだ」

 二人の浪人が同じ顔でニンマリと笑った。


「お前にぴったりの気味の悪い鬼力だ」

 十兵衛は舌打ち交じりに話すと、正眼の構えで二人の敵からの同時攻撃に備えた。


 助九郎は朝倉篭手切を振りかざし、背の低い方の浪人に疾風のごとく切りかかった。

 その刃が浪人の左手首を確実に捉える。

 

 斬ったと思えた。だが、助九郎の剣先には相手の肉と骨を断つ感触が伝わってこない。

 その代わりに衝撃とともに、己の剣が跳ね返された。


 見れば相手の浪人の体は、いつの間にか南蛮風の銀色の鎧で覆われていた。


 背の低い浪人がうなるように話す。

「我が持つ鬼封刀『実休忠光』が有する鬼力は『不破』。その力で絶対的な防御力を持つ鎧を具現化した。俺を斬ることはもはや不可能だ」

 鉄の塊と化した浪人は実休忠光を上段に振り上げた。


「……笑止」

 助九郎は相手に合わせて上段の構えで対峙した。

 二人の巨躯が視線を交え、どっしりと向き合った。


 重成の豪快な上段切りが勝姫を襲う。

 だが、その一撃は宙を斬った。


 鬼力「空隙くうげき」の力によって勝姫の姿はすでにそこにはない。

 勝姫の身は重成の間合いから外れ、少し離れた場所にいた正信のそばに移動している。


収斂しゅうれん

 勝姫がそう叫ぶと、その小さな体はまたも瞬間的に移動した。今度は重成との間合いを一気に詰める。

 間合いが完全に詰まった瞬間、勝姫は袈裟懸けに童子切安綱を振るった。

 

 しかし、その刃は白い霧を切り払うのみだった。

 重成の姿はすでに霧の中に消えていた。

 

 気付けば勝姫の周囲は再び深い霧に包まれ始めている。正眼に構えた童子切安綱の切っ先から前方は何も見えないほどだ。

「霧にじょうじて姿を消すと臆病者め」

 勝姫は重成がいるであろう前方に向かって声を上げた。

 

 鬼力「収斂しゅうれん」は間合いを詰めるべき敵を視認していないと使えない。このままでは重成を取り逃がしてしまう、と勝姫は焦った。


 霧の中から重成の声だけが響いてきた。

「姫君のような化け物相手に私一人では流石に分が悪い。そこで、援軍を求めることにした」

 

 重成は霧の中を移動しているようで、声が上がる場所は次々と変わる。そのため、居場所がはっきりと分からない。

「援軍? 新手の鬼憑きか」

「織田信長すらも恐れた力がお前を襲う」

 重成の高笑いとともに勝姫の周囲を覆っていた霧が少しずつ晴れていった。


 霧が晴れるにしたがい、勝姫の視界はどんどん広がっていく。

 そして、周囲の景色が露わになるにつれ、勝姫は違和感を覚えた。

「ここは、どこだ?」


 周囲の景色が大きく変わっていた。

 目の前は広い草地であった。人家や城ばかりか道すらない。ただただ草地が延々と広がっている。

 駿府の東海道沿いにはこのような場所はないはずであった。

 

 ――霧の中で戦う間に街道から離れてしまったのか。

 しかし、景色が変わるほどに動き回った覚えはなかった。

 当惑していると、突如として背後から声が掛かった。

「勝姫様?」

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