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鬼を食らう姫  作者: 皆城さかえ
19/48

戸塚6

 百人の民百姓が小判を手に入れようと狂喜乱舞している。


「お前たち、勝手に動くな。俺の下知が聞こえねえのか!」

 浪人が狼狽えた声を出した。


「無駄じゃ」

 金銭欲に乱れ狂う百人の渦の中から少女の声が聞こえてきた。


 童子切安綱を手にした勝姫が人波を抜け、浪人の前に悠々と歩み出てくる。その後ろには、助九郎と十兵衛が小判を次々と頭上に放っている。

 小判が空に舞う度に、百人の農民町民が死に物狂いでわれ先にと群がった。


「鬼力の強さは、鬼封刀を振るう者の力量次第じゃ。お前ごときが使う鬼力『指顧しこ』の力よりも、下々の者にとっては黄金の魔力の方が上じゃ。金に目がくらんで一心不乱のこの者どもはもう操れん。お主は鶴丸国永を持つにあたわず」


「何だと」

 浪人が怒りの形相を勝姫に向けた。


「お前は、百人の雑兵を束ねる将たる器がまったくない小者だということだ。こんな狭い賭場に百人もの兵を密集させては、兵はまったく身動きが取れないではないか。おかげで、わらわたちに小判をまく隙を与えてしまった。将たる力量としては、お主より金吾の方が上じゃな」

「この俺様が与太者より劣るだと」


「金吾は敵一人に対し数人の子分を同時に差し向け、なおかつ予備兵力も温存しておった。理にかなった兵の動かし方じゃ。それに、文字通り任俠の器があった。その命を無下に奪った罪は重い」

「与太者の命なぞ、何の価値があるというのだ!」


「与太者といえども、我ら将軍家にとっては守るべき民の一人に違いない。最も、お前のような根っからの悪党は別じゃ」

 勝姫は童子切安綱の切っ先を浪人に向けた。


「ならば、これでどうだ!」

 浪人がお蘭の胸元から鶴丸国永を離した。その途端、突然にお蘭が歩き出し、浪人と勝姫の間に割って入ってきた。お蘭は虚ろな目とともに大般若長光の切っ先を勝姫に向ける。


 浪人は己の刃の切っ先をお蘭の背中に突きつけた。

「お前が動けば、お蘭を刺し殺す。この女も貴様の守るべき民の一人に違いはあるまい。さあ、その民に大人しく殺されろ」


「どこまでも汚い奴じゃ」

 勝姫が侮蔑を通り越し、汚物を見るような目を浪人に投げつけた。

「う、うるさい。さあ、お蘭、本当の姉の仇だぞ、存分に討て!」

 お蘭が大般若経長光を振り上げ勝姫に斬りかかった。


 だが、勝姫は動かない。

 お蘭の一刀は、勝姫の頭に届く寸前で勝姫の後ろから差し出された助九郎の朝倉篭手切によって見事に受け止められた。同時に、助九郎の背後から十兵衛が浪人目がけて跳躍した。


 十兵衛は空中で痣丸を振り下ろす。その刃の速さに浪人は反応できない。十兵衛は見事に一振りで敵の頭をかち割った。

 浪人は悲鳴を上げる間もなく、脳しょうを飛び散らせながら仰向けに倒れ、絶命した。


 鬼力の依り代たる鬼憑きが死ねば、鬼封刀は力を発揮できない。

 魔力「指顧しこ」から解放されたお蘭は気を失い、そのまま勝姫に向かって倒れ込んだ。

 

 勝姫はお蘭の体を優しく受け止めると、一緒に床に崩れ落ちた。そして、上半身裸のお蘭に、勝姫は自分の紅梅色の羽織をかけてやった。

「姉のこと…すまぬ……」

 勝姫はお蘭を抱きしめてそうつぶくと、静かに肩を震わせた。


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