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鬼を食らう姫  作者: 皆城さかえ
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序幕

 天正十年六月の夜

 京都本能寺


「信長、死すべし」

 燃えさかる本堂の中で、明智光秀が太刀「三日月宗近」を織田信長の胸に突き立てた。この日、四十八本目の刃が信長の肉を貫く。

「おのれ!」

 信長は血走った眼を見開いて怒号を上げた。しかし、その声色には、聞く者の全てがひれ伏した迫力はすでにない。天下布武を果たしかけていた魔王が、ぶざまに床に膝を付けている。


 信長の体のいたるところに、天下に名だたる名刀四十八本が突き刺さっていた。

 その刀に宿る破魔の力が、信長が体内に宿した四十八匹の鬼の力を封じているのだ。

 鬼の力という人外の力をもって天下に号していた第六天魔王信長は今、ただの人に成り下がっている。


「刀ごときに……」

 口惜しさに震える信長の喉には太刀「童子切安綱」が深々と突き刺さっている。

 心の臓には打刀「大江」、腹に短刀「薬研藤四郎」、背に太刀「鬼丸国綱」、右腕に太刀「一期一振」……。

 天下に聞こえる幾本もの名刀が巨大な炎と大量の血を照り返し、妖しく光る。


「阿鼻叫喚の戦国の日々もこれで終わりじゃ」

 光秀は深く息を吐いた。

 この本堂での決戦には、明智軍の精鋭三百人が投入された。だが今、生き残っているのは光秀のみ。いずれも一騎当千のつわものだったが、鬼の力を使う信長によって全員が命を落とした。


 光秀は信長の首を切るために、腰の愛刀「近景」を抜き放った。後世に裏切り者として汚名を残す覚悟の表情は兜の影で見えない。


「きんか頭よ……辞世の句ぐらい詠ませよ」

 信長はかすれ声を上げ、口元を緩めた。

「化け物が人として死ねると思うな!」

 光秀は問答無用に近景を振り下ろした。

「是非に及ばず」

 笑みを残した信長の首級がひらりと宙を飛んだ。

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