国立魔導学校へようこそ
お母さん、お父さん、俺は今無駄に多い群衆を掻き分けてスマホと送られてきた地図を頼りに東京の街を探索しています。どうやらこの東京という街には一つの駅にいくつもの出入り口や路線が入り込んでいる明らかに使用者のことを考えていない駅がたくさんあるみたいです。
何故か目的地から遠ざかることが何回もありました。何故か同じ駅に複数の名前がついてることもありました。……なんで駅作った時に思いつかなかったのかな? どう考えても不便でしかないだろこれ。
それでもなんとか目的地にたどり着いた時には思わず謎に感動したね、何しろ大きい荷物持ってこの都会を動き回るのは精神的に辛いよ。完全にお上りさんだったし、見る人見る人が何か生暖かい目で見てたわ。完全に「ああ、あの子これから独り暮らしかな。がんばってね」という感じだったわ。目が口ほどにものを言ってたわ。
さてさてやってきました国立魔導学校、これからここで3年間過ごすのか〜。果てが見えない広大な敷地、自衛隊さんが割とガチめな訓練してる建物、未だ建設中だけど明らかに体育館ではなさげな運動施設、銃を持って出入り口を見張る係員……これからここで3年間過ごすのか……。
刑務所でももう少しましな警備体制だわ、というか“魔力知覚”と“空間把握”でさらっと捉えてるけど校内にダンジョン発生してません? いつ爆発するかもしれない危険物の上に建てるなよ。超危険地帯じゃんここ、一昔前のバルト三国かよ。
心なし重くなった足と荷物を引いて入学書類を持って入り口に立っている係員の人にこれからのことを聞いてみた。
「すいません、入寮手続きをお願いします」
「やあ、ちょっと書類を見せてね……分かった。永瀬秋くんだね、ようこそ国立魔導学校へ。少し待っててね、入学手続きをするから」
そういうことなのでぼーっとしてると係員が
「手続きは完了したよ、これが学園内を示した地図だよ。ここに寮があるから地図を頼りに進んでね。そんなに複雑な道じゃないから迷わないと思うよ」
そう言ってきた。たしかにそれほど入り組んでいるわけじゃなさそうだし迷うことはないだろう。あとついでにこれも聞いておこう。
「まだ、建物を建設中ですけど間に合うんですか?」
「問題無いよ、期限まではまだ2ヶ月ほどあるからね。にしても驚いたよこんなに早くに入寮してくる学生がいるとはね」
「そんなに俺って早かったですか?」
「そうだな……君で大体7人目かな。入学予定者は大体300人程だから、かなり早い方になるね」
意外だな、確かに入寮開始日の次の日だけど近くに住んでるやつは早めに入ってると思ってた。でもこれはいいな、変にお隣さんでトラブルになることは無さそうだ。にしても
「だからこんなに、建物が多いのか……」
国立だからって思考停止してたわ。まさかそんなに大人数が入るとは思わなかったな。というかよく国会でこれだけのものを作るための予算が降りたな。着工したであろう時期から逆算するとダンジョン発生からかなり早い時期じゃなきゃ間に合わないだろうに。
……野党のうるさい声を無視してでも、通常の手順を無視してでもこれが必要となったと考えると国はこの事態をかなり重く受け止めているのかも知れない。
嫌だな〜、俺もっと気軽に暮らしたいわ。多分無理だと思うがそれでも望むわ。モンスターはあの1体しか知らないけど少なくとも拳銃クラスなら効かないしなあ、あれ明らかにRPGの序盤の雑魚キャラっぽいのに尋常じゃない強さだったしな。
気軽にレベル上げが出来ないしむしろこっちがレベル上げの相手にされそう。アイツ拳銃で負傷してたけど多分骨を避けて筋肉の薄いところに当たったからそうなっただけだろうし。まあ、場合によっては熊やアルマジロが銃弾を弾くのにモンスターが弾けないと思うのは都合が良すぎたな。
聞きたいことも聞けたので礼を言って寮に向かおうとしたら係員がハッとした様子で事務所に戻りプリントを渡してきた。
「いやー忘れてたよ。はいこれがクラス名簿だ。これでクラスを確認してね」
珍しい、入学前にボードではなくプリントで渡すのか。チェックすると
「1組か」
1組に俺の名前が書いてあった。というかすごい名前の数、字がびっしりで読みにくい。
「1組か、かなり君は期待されているんだね」
「組に何か意味があるんですか?」
「ああ、クラスは合計で10個存在していてねクラス分けは学力とステータスの内容をこちらで精査して総合的に高い順に1組から割り振っているんだ」
それ聞くと何か優越感があるな。プリントをしまって寮に向かうとホテルみたいな建物があった。……これか? 学生寮ってボロっぽいイメージだったけど。
中に入ると新築らしくピカピカしたロビーが広がっていた。中央には受付がありそこに人がいた。多分寮の関係者か何かだろう。
「入寮しにきました」
そう言って資料を渡すとパソコンにカタカタと何かを打ち込んだ後に
「こちらが寮の鍵です、無くさないようにして下さい。またこれが寮の利用規則です、十分目を通しておくように」
そういって渡された鍵が電子ロック式対応なことに驚きを隠せない。家より立派じゃん。渡された鍵に書かれた部屋に入ると超立派。家より立派じゃん。
早速持ち込んできた荷物を部屋に片付けて一息つくともう日が暮れてかけていた。夕食には少し早い時間だが食堂に向かってもいい頃合いだろう。寮についての資料を読むと1階はエントランス兼大浴場で2階は食堂、3階からが居住区画らしい。
食堂では決まった時間になるとご飯を作ってくれるらしいのでそこに向かった。だだっ広い食堂には自分を除いて食堂のスタッフしかおらず静かなものだった。あと6人他にこの学園内にいるようだが残念ながらタイミング悪く会えないらしい。
もしくは単純にこの寮に割り振られていないだけかもしれないが。他にも寮は存在するしそっちにいるのかもしれない。カウンターに向かいメニューの日替わりを注文してしばらくすると唐揚げが出てきた。でもこの唐揚げデカくない?
ガッツリめの夕食を堪能した後大浴場を独占して悠々と長風呂を楽しみ俺はフカフカのベットに飛び込んだ。
「ステータス」
そう呟くと半透明の画面が出現し、見慣れた内容が表示される。俺はおもむろにその固有スキル欄のスキルをタップした。
《自動回復》:HP、MP、SP及び体力が3%/sの割合で回復する。また状態異常を受けたとき回復までが早くなる。
《再生》:被害を受けた肉体を廃棄し新たに肉体を構築する。このスキルではHPは回復しない。
《直感》:危機及び機会を報せる。
《被ダメージ減少》:受けるダメージを3割減らす。
《状態異常耐性》:状態異常にかかりにくくなる。また状態異常になった場合、回復までが早くなる。
《空間把握》:自身から半径1000m以内の空間の様子が把握出来る。把握の精度は合計レベルに依存する。ただし、そもそも自分が認識出来ない存在については把握することは出来ない。
《魔力知覚》:魔力を五感と同じように知覚出来る。
《二重起動》:このスキルはパッシブスキルに対してはパッシブスキルとして、アクティブスキルに対してはアクティブスキルとして発動する。自身の保有するスキルを発動時そのスキルをもう一度重複させて使用できる。重複起動分のスキルの効果は打ち消されずに適用されそのスキルの効果が加法、減算ならば同じく加法、減算されそのスキルの効果が乗算、除法ならば同じく乗算、除法として発動し発動コストは倍となる。
初めてステータス画面を見た時から載っている固有スキルの内容を見てとりあえずこれが国から期待されているレベルなんだと確認すると面倒になってくる。こんなものが期待されているなんて明らかに戦闘、もしくはそれに類する行為が期待されているに決まってる。
恐らくそう遠くない将来、ダンジョンは決壊する。国外の動きに少し目を向ければ似たように軍備を整えていたり未来のために特殊な教育機関を作っている。それが俺の嫌な予想を裏付けるようだった。
頼むから俺が生きてるうちはそんなこと起きないでくれと願うがこれからどうなるかはわからない。入寮して改めて対ダンジョンの姿勢を確認してちょっと気が重くなった。
せめて自分だけでも生きられるようにここで知識と知恵を身につけないとなあ。布団を被って目を瞑るが入寮初日の眠りはあまり良くなりそうになかった。