旅立ち
………………………ハッ、あまりにも馬鹿げた字面のインパクトに思考停止してた。受けてもいない知らない学校から身に覚えのない入学の案内が来るとかファンタジー過ぎるわ。あれかな? 俺の両親は闇の魔法使いとの戦いで命を落として叔父さん家族にいじめられながら階段下の部屋で日々暮らしているのかな? ……世界がファンタジーになったのかと思えば日常がファンタジーになるとか、終わってんな〜この世界。
絶対、誰かと勘違いされて書類が送付されただろ、仕方ないご不明な点や分からないことがあれば気軽にご質問くださいという文言の下に書かれてある電話にかけるか。
『もしもし、国立魔導学校の入学資料について質問があるのですが?』
『はい、こちら国立魔導学校窓口担当の木村と申します。ご安心ください、獣人や鬼族といった人とは離れた体格をお持ちの方々でも快適に寮で生活することができます。また、不安な点がございましたら直ちに担当のものが対処いたしますので不便なく生活できると思います』
おかしいな、何で入学する前提で話してんだろ? 明らかにやばそうな雰囲気を文字だけで醸し出す場所に俺が行くわけないだろうが!
『いえ、そうではなく私にはその…… 国立魔導学校なる高校を受験した覚えがなくてですね? どなたかとお間違えになって書類が送られてきたのではないかと思いましてお電話いたしました』
『お名前を聞いても?』
『永瀬秋です』
『少々お待ちください……大丈夫です永瀬様。書類は間違いではありません、しっかりと永瀬様宛と記録されています』
『もしかして同姓同名の別人とかじゃありませんか? ちゃんと新潟県在住の永瀬秋であってますか?』
『はい、合っております。住所を照会いたしましょうか?』
『是非』
夢だと思って頬をつねってもこの悪夢終わらないんだがどうしよう。いきなりこんな展開が襲ってくるなんておかしすぎでしょ。
しかも念には念をとしっかり聞いたらガッツリと俺の住所を言われるし、完全に俺じゃん。……まあ届いた時には驚いたけど別にここに行かなきゃいけないわけじゃないしな。冷静に考えたら書類が来ても断ってもいいわけだし、ここは入学を辞退しよう、そうしよう。
『入学の辞退はどうすれば出来ますか?』
大抵の場合なら手続きをしなければいいだけのはずだけどそんな経験はないし、ここは聞いておこう。聞いてそれに従えばいいわけだし。
『……? 入学の辞退は出来ませんが、資料はお読みになられましたか?』
はあ? そんなことあるわけないだろ、何言ってんだこの人。そう思ってパラパラと書類を確認していくと
『本書類は登録いただいた結果を元に現在中学三年生の皆様に送らせていただいたものでございます。また国立魔導学校への入学は国からの決定ということを申し訳ながらもお伝えします。理由としては、保有するステータス値、スキルが平均から逸脱しており然るべき教育が必要であると判断されたからであります。皆様にはご不便をお掛けしますが最高の教育を提供し、快適な学園生活を送っていただけることを保証いたします。ご協力お願いします』
日本にあるまじき文書が並んでいた……。え、まじで?
『なんとかして断れませんか?』
『申し訳ありません、逸脱した能力をお持ちの子供の方々におかれましては精神的に未熟ということもありその力の使用についてしっかりと指導する必要があるということで強制となっております。その代わりといっては何ですが国内最高峰の授業設備と教育を予定しております』
『ソウデスカ、アリガトウゴザイマシタ』
いつかTVで言ってたことがまさか自分に降りかかってくるとは。……まあぶっちゃけ、そんな気はしてたけど。明らかに俺ってステータスは高いしスキルも多いし。俺が何も関係ないやつだったらそんな子供がいたら銃持って振り回してんのと変わんないだろと思うからな〜、完全に反対できないのが何というか。
そりゃ、ちゃんと教育しろと言いたくもなるし何なら強制的にでもしろと言うわ。だって変なヤツがそんな力持ってたら不安で不安で仕方ないし。後高ステータスか良いスキルを持ってる奴をかき集めてダンジョン対策や治安維持用の人員を確保しようとしているというのはひねくれた見方だろうか。
なんにせよ決まってしまったことは仕方ない、残念がるよりむしろどうすれば楽しめるのか考えるか。まずはあんまり読んで無かった資料の読み込みだな。どれどれ……。
国立魔導学校は東京都に設立予定で基本全寮制と……いきなりとんでもないのが来たな。まさかの強制的に独り暮らしかよ。早すぎる巣立ちだわ。家賃その他生活費はどうすんだよ? へえ〜、予算は全部国持ちで逆に補助が出るのか。しかも家具付きってどんな高待遇だよ。え、授業料も全額免除って本当ですか!? 学費全額タダじゃないっすか、むしろお金がもらえるだけお得じゃないですか。
……これってそんくらいの事が起きると書かれていると認識しろって事だよな、明らかに過酷そうな場所だぞここ。防衛医大かなんかと同じ条件じゃなかったか? んで注意事項にはさっきの木村さんが言ってた種族を気にせず使えるバリアフリー設計っと。
カリキュラムは最新鋭の教育カリキュラムにスキルやステータスに関したことも付け加えられていると、それが目的だしな。それにこれからの社会で必須になっていくのかもしれないからむしろありがたい事なのかもしれない。
いきなりのことで驚いたが、この混乱の中同年代たちを突き放して先に行けるいい機会かもしれない。そうすればアーリーリタイアして後は悠々自適の生活が出来るかもしれん。
何かやる気湧いてきたわ。寮の部屋は管理人に聞くと鍵を渡してくれるのでその部屋が自室となるとか後はそんな当たり障りのないことが書かれてた。
いくつかの設備はかなり先まで使えないが入寮時には生活に苦労しないだけの設備は稼働してるしいい感じそうだな。2月から3月の間に入寮しろとのことだが準備期間を含めたら1月から取り組んだ方がいいかもしれない。
問題は家族に話すと間違いなく騒ぎになって面倒くさいということか、嫌だな俺もよく分かっていないこと説明すんの。
その日の夕食時に話すとアッサリとへえと頷かれて頑張れよと言われた……薄情すぎません? 大切な息子が遠くに旅立つんですよ? 俺1人じゃ寂しくて枕を濡らすかもしれないよ?
母曰く『お前は絶対、すぐに適応して生活を楽しむだろうから心配してない』
父曰く『むしろ、親の目がないことをいいことに羽目を外しすぎないか心配』
妹曰く『苦しんでるお兄ちゃんを想像できない』
以上、温かい家族からのコメントでした。いや〜温かすぎて涙が出るね。
取り敢えず、平日は受験勉強から高校の授業の先取りに変更して週末に独り暮らし用のアイテムを買うことになった。
といってもほとんどは寮にあるらしいので準備するものは着替えの服と生活用品ぐらいだけど。それから慌ただしく日々が過ぎていき卒業式も終えてついに国立魔導学校入学のため東京への旅立ちの日がやってきた。
なんだかんだ言っても心配してくれるみたいで駅まで見送りに来てくれた。荷物を入れたスーツケースを持って新幹線を待ってると本当にここにはすぐに戻ってくることができないんだなと理解できた。……少し、寂しいかな……。
ついに新幹線に乗ったとき
「体調を崩さないようにね」
「いつでも帰ってきていいんだぞ」
「仕方ないから、帰ってきたら慰めてあげる」
おいちょっと泣きそうになったじゃん。そういうのはやめてくれよ。
「絶対っ! 俺、頑張るから! 吉報期待して待ってて!」
元気にドアが閉まりホームの家族が見えなくなるまで手を振り続けた。かなり空いてる車内で荷物を持って座席に座ると近くに誰もいない。ああ本当に1人になってしまったな……。
瞳を閉じれば思い出すなんて事のない田舎の情景や日常が映り込み郷愁に襲われる。そのまま瞳を閉じているとやがて意識は深い闇へと落ちていった。
ふと騒音で目を覚ますといつのまにか東京に入っていた。何あのビル、普通のビルが縦に3個くらい重なってるしそれが複数あるし。同じ日本ですかここ?
カルチャーショックを受けていると活気がある街並みやお洒落な格好した人とか美人とか美女とか色々目に入る。
目的地についたのでさっさと降りると、人多すぎぃ! こんな狭い場所に集まるなよ、なんかのイベントでもやってんのか?
にしても本当、お洒落な人多いよな〜、つーか美人さんも多いな。それだけで何かやってけそう感あるわ。俺は先程まで感じていた郷愁のことなどすっかり忘れてこれから始める東京での生活に心を躍らせていた。