ファンタジー的日常の幕開け
最後の遠隔授業を終えて、学校が始まって初めての週末になった。暴力への不安? 別に今差し迫った問題じゃないなら放置でいいでしょ。そういうのはお偉いさん方が決めることだよ。
今は、慣れない遠隔授業で疲れた心と身体をリフレッシュさせるために俺と山本は少し足を伸ばして街の方まで遠出してショッピングモールでお買い物中である。だって家族全員、お出かけしてるんだぞ。その中で1人ポツンと留守番って寂しくてね。そんなわけで山本を誘った。
最新刊の漫画や新しい服を物色してるとかなり楽しい。ただ買い物中に本屋で山本が真剣に参考書選んでんのは驚いたわ、何かの災害の前触れかとも思ったね。
「なぁ、何でそんな真剣に参考書選んでるんだ? 別にそこまで上を目指してないんだろ?」
言っちゃなんだがこいつの志望校はそんなにハードルは高くないし余程のヘマをしない限りは入学できるところである。それがわかってるからこそ今まで勉強にそこまで熱を入れてなかった筈なんだが……。なので山本に聞いてみると参考書を見たまま
「いや、大したことはないんだ。お前も新しい学校が作られることはもう知ってるだろ? 今のままの俺じゃ学力的に難しいかもしれないからな、だから今付け焼き刃でもいいから勉強してんだよ」
と顔色を変えずに言った。その根底にあるのは男の浪漫とかモテたいと言った世間一般からすれば下らないと一蹴されるような思いだろうがそれでもここまで努力しようとする山本の姿勢は俺にとっては素直に尊敬できるものだった。
確かに今まで勉強してこなかったからこそそのツケを払っていると言えばそこまでだが目標ができたから今までの自分を変えようとし、自分に足りないものを目を逸らさずに受け入れ前に進もうとすることはきっと凄いことだと思う。
それに付け焼き刃といっても今年は例年と比べて異常で受験の日程が3,4週間ほど遅れる予定だ。これから受験までしっかりと基礎を固めればそこそこの学力まで伸ばせるだろう。俺はおすすめの参考書と勉強法、勉強すべき範囲を教えてそれを踏まえて参考書を選んでいる山本から離れた。邪魔しちゃ悪いからな。
なので服屋で適当に見てたら人間用の服、少なくない? おそらく人外向けの服なのであろう服が店の過半数を占めていて普通に販売されてた服は片隅にしか売られていない。しかも、人外向けはめっちゃ値段高いけど人間用はむしろ安い。在庫整理でも中々お目にかかれないほどである。しかも今頃になってもまだ新年向けの福袋が意外と残ってる……。中身をみる限り良さそうなのに何でだろ?
疑問に思ったので理由をショップの人に聞くと需要と供給の問題だそうだ。聞けば納得で従来の服は着れる人が少なくなり着れない人の方が圧倒的に多くなった。そのため新しいデザインで売り出す必要があるわけだがここで問題が起きる。どのようにデザインすればいいか分からないのである。妹や母さんの話によると尻尾が存在するため今までの服装だとひどく蒸れ、気持ち悪いらしい。それに体格的に着用するのに手間がかかるうえまともに装備することも難しいと言っていた。
なのでメーカー側としては試行錯誤を繰り返しているためその分コストがかかる。そして何とか販売にまで漕ぎ着けても従来の生産ラインでは体が変化した向けの服はその需要に対して全く足りないため値段が上がるらしい。逆に今までの服は着る人が少なくなったためそれほど数も要らないにも拘らず新年向けに倉庫に大量に在庫を補充していたので多くの品数が残っているみたいでそれの処理を兼ねて安く販売してとのこと。
品質について聞けば特に問題ないらしい。そういうことならと遠慮なくいい感じのコートと売れ残った福袋を数点購入した。
その後山本と合流して俺たちはフードコートで食事中である。
「おい永瀬、その餃子1個くれない?」
「別にいいが代わりに、唐揚げくれ」
「おいおい餃子1個と唐揚げ1つが対等なわけないだろ。それなら2個くれよ」
「仕方ないな、あっついでにレモンもくれ。お前使わないんだろ?」
俺はラーメンセット、山本は唐揚げ定食を頼んだ。でもそれだけだと寂しいのでお互いのおかずを交換したわけである。しかし、餃子を2個も持っていきやがって。大人しく1個だけで渡しとけよと思うが自分が山本なら同じことを言う自信があったので妥協した。
それから腹がある程度満たされるまではお互い無言で食べていたがある程度満たされると雑談を交えるようになった。
「永瀬、登録ってもうしたか?」
「いや、来週の予定だ。そっちは?」
「俺は木曜日に済ませた、だけど登録する人ですんごい混んでて疲れたわ。お前も登録の時は覚悟しとけよ」
そう、またもや珍しく政府が早く動いて登録を始めたのである。そのためにわざわざ指定された役所に行かなければならないのだがこれが時間がかかるということでSNSで不満が多く呟かれていた。ステータスを見せることを渋る人や横柄な人物のせいで遅れることが多かったらしい。そんくらい我慢しろよと、死ぬわけでもないんだから見せろよと言いたい。
それからもステータス関連の話に花を咲かせ食事を終えて一息ついてまったり休んでいた。ゆったりとした時間を過ごしていると突然フードコート一角で騒ぎが起きた。
「おいっ⁉︎ どういうつもりだ!? 俺の食事を獣が料理しているとは何事だ⁉︎」
「お客様、衛生面には細心の注意を払って食事を提供させていただいております」
「そんなことは聞いてないっ! 俺は獣が料理をしていることについて言ってるん、何だお前達は⁉︎ 何するッ⁉︎」
店員が料理を作っていることに難癖付けていたタチの悪い客が現れて散々騒ぎ立てた後、警備員にどこかに連れて行かれた。その様子を見て俺は憂鬱になった。暗い声で
「最近、ああいうの増えたよな……」
そう言うと山本は機嫌悪そうに
「全く、何が不満なんだか。別に良いだろ、むしろ付加価値ついてるだろ」
そう、吐き捨てた。世界がこいつみたいな考え方ばっかりならこんなことも起きないんだろうがな。
「人間のまま変化がなかった奴らが、獣人の連中を獣と蔑んだり罵倒することが社会的な問題として報道されるようになったな」
ある程度変化から時間が経って世界は落ち着いたかのように思われたが、少し慣れたかと思われたがそこからは変化がなかった者達がさっきのように獣人を下に見たりその逆もあった。また、エルフの連中が他の見た目の奴を見下したりと自らと異なる姿を持つ者への差別が出現した。
「でもさっきのは、言っちゃなんだがまだマシな方だよ。場合によっちゃ容姿が影響で仕事を辞めさせられることもあるらしいからな」
親父によると自分の会社は無いらしいが他の会社ではそんなことがあるらしい。半導体関連の仕事や精密機器関連の仕事では清潔さが求められるためそれを理由として辞めさせられる事例も多々あるようで不当な解雇であると、企業を起訴する事例が多々報道されていた。
肌の色ごときで万年争っているような人間たちが姿が違うということを受け入れて平和に暮らしていけないということだろう。……嫌な生態してるな、人間って。
2人して落ち込んで過ごしているが、そのままいても仕方ないので席を立って辺りを冷やかすことにした。店員の姿を見るとやはり、十人十色で様々な容姿をしていた。これがこのままの状況が続いて人を傷つけあう世界が来ないといいなとふとありえないことを考えた。
プラプラしてると人が多く集まっている店を確認できた。ミリタリーショップなんて普段人が寄る場所じゃないだろ?
「何でこんな店に人が集まってるんだ?」
「さあ? まあでも行ってみれば分かるだろ」
というわけで入ってみて納得、防刃素材の衣服を見てる人が多かった。アラミド繊維なんて絶対日常生活で使わないんだろと思っていたが不安を感じた人たちがその性能目当てに寄ってくるんだから世の中わからない。
せっかく入ったので防寒用にアラミド繊維製の手袋を購入した。山本は黒いロングコートを見て目を輝かせてたけどそれ着る機会なんて無いからな? そのままだと買ってしまいそうなかぶりつき具合なので無理矢理引き剥がして店を後にした。
ショッピングモールを出ると太陽が燦々と照り付け冷えた大気を温めてくれ上着を羽織っていると丁度いい感じの気温である。まだまだ遊べそうだったが日が短いためそろそろ帰ることにした。
帰る途中、警官が街中に存在しているにしてはやけに違和感のある洞窟の前で立っているのを見て思い出した。
「あー、そういやこの辺りにもダンジョンがあったんだったな」
ダンジョンができた時、好奇心に駆られて入った人が帰らなかった事件が多発して自衛隊員か警官が見張るようになったんだった。ダンジョンが確認できた当初は熱に浮かされたように熱狂していたが世間ではすぐにその熱は冷めた。何しろ自分とは関係ない出来事かつ、これからも関わりのないことだからな。モンスターが確認できた時も不安や心配でパニックに陥ったが自衛隊を派遣して対処するという方針を聞いて不安が払拭それからは本格的にスルーだ。
騒いでんのは一部の奇特な連中ぐらいである。
「お前、ダンジョンのことを忘れてたのか? いいかダンジョンってのはお約束として決壊して中にいるモンスターが溢れ出してくるんだぞ。崩壊した世界で無双してモテモテになってハーレム作るなら必須の知識だぞ」
別にそんな考え、持ってねえ。ただ、こいつのいったようにダンジョン内のモンスターに関しては外に出てくるんじゃないかっていう考えは示されており国ではもしそんな災害が起きた時に備えてハザードマップならぬダンジョンマップを作成中らしい。
全国各地のダンジョンを調査して災害時の対応を検討中だがこれ個人的に漏れが絶対有ると思うんだよなあ。私有地にあったりしたら土地の価値を下げたくないとかダンジョンを独占したいとか。
そのままダンジョンが決壊した後に英雄になる手筈なるものを聞き流しつつ洞窟の前を通過しようとした時妙な感覚を覚えた。
「なあ山本、なんか変な感じしないか?」
「? いや、別に。あれだろ? こんな話してるからそんな気になっただけだろ。気のせい、気のせい」
そのまま単なる違和感として処理しようとしたがどんどん違和感は増していき無視出来ないものとなっていった。
「いや、やっぱ何かおかしい。気のせいにしてはおかし過ぎ」
ると言おうとしたところで洞窟から何かが走ってくる気配を感じた。それに加えて、街中を歩いていても滅多に出会わない量の魔力の気配まで。
「おいっ! どうした、いきなり走り出して?」
「いいから黙ってついて来い!!」
これもしかして“直感”のおかげか? 多分、“空間把握”と“魔力知覚”も仕事してると思う。まじで感謝するわ、正直これから一生役に立つことはないだろうなと思っててごめん。
バンッ!!
「キャーーーーッ!?」
走って2分後くらいに案の定悲鳴と怒号が上がった、そして多分銃声も上がった? 幸いスキルで感じる大きさ的に動画で見た殺意で象られた中型犬ほどのサイズではなく精々小型犬くらいだ。問題はそれでもなお凶暴かつ強いってことくらいである。
「っ!? 何があった?」
「いいから走れッ! 死にてえのか!?」
疑問を尋ねてくる山本に立ち止まって答える時間が惜しいとばかりに走り続ける様子を見て後方の騒ぎと合わせて尋常ではないと判断したのか素直に並走してくる。くそっ、俺の速度ならもっと速く走れるが山本を連れて行くために抑える必要があった。そのため早く逃げたいのに本気で逃げられないというもどかしい状況に俺は陥っていた。
それでも現場からかなり離れた所まで走って丁度開けた場所まで逃げてきたのでゼーゼー呼吸を乱している山本をベンチに座らせ息一つ乱していない俺は自動販売機でスポドリを2本買ってそのうちの1本を山本に放り投げた。……10m先でも意外と簡単に届くんすね、知りませんでしたわ。
「ハァッハァッ、っとサンキュー。んでそろそろ何があったのか説明してくんない? 何が起きたからないまま走ってきたんだけど」
「簡単な話だ、モンスターがダンジョンから出てきたんだよ」
「っ! それってつまりダンジョンが決壊したってことか?」
「いや、多分違うだろ。たまたまモンスターが外に出てきただけだろ。別にモンスターだってダンジョンにいなければならないというルールは無いんだ」
人間がダンジョン内に立ち入ったようにモンスターがダンジョン外に出るということも不思議では無い。だがその場合、こちらにとってダンジョンが異質なようにあちらにとってもこちらは異質なはず。積極的に出てくることはないと思うがその話は置いておく。
「後、事前にわかったのはスキルのお陰だ。お前も見ただろ?」
そういうと納得した顔をしてスポドリを飲み干した。ほんと、ああいう時に黙って従ってくれるのはありがたいわ。
「それと念のため、休憩するならこんな広場じゃなくてどこかの店に入ろう。そっちの方が安全だろ?」
「そうだな」
というわけでたまたま目についたスポーツショップに入ることにした。山本は靴を試すために座る椅子で休み俺はその間サッカー、バスケ、野球やらの備品を物珍しそうに見物しながら時間を潰していた。何も買わないのは悪いと思うが、他に客もそんなに居ないんだし許してや、お兄さん。
店員としてわざわざ声をかけてくるほどでもないため見物を続行した。ていうかこの機会にどのスポーツの道具がどのくらいするのか調べとくか、高校に入ったらやるかもしれないんだし。
実際見てみたけど何でこんな値段に差があるのかよく分からん。今は野球の道具を見ているがこのグローブとあのグローブで桁が一つ違うのは何故だ? バットも金属と木製で何が違うのかよくわからんし。あらかじめ調べないとダメだなこれ。
そろそろ体力も回復したかと思って山本の方に向かおうとした時、嫌な予感再び。またかよとガラス越しに外を見てると人が俺たちがきた方向から流れてくる。そのまま見続けていると騒ぎの原因が姿を見せた。
ソイツは感じた通り小型犬ほどのサイズだった。それだけなら愛玩動物と変わらないが敵意に満ちたその目と口元から垂れる赤い液体、元の色がよく分からなほど変色した毛皮で台無しだ。
パニックに陥って背中を見せて逃げる人を嘲笑うかのように距離を詰めてその足を切り裂き、地に臥させる。そして恐怖に怯える哀れな被害者の腸を裂き満足げに鮮血のシャワーを浴びながら食事を開始する。生きたまま食われる哀れな被害者は必死に「止めてくれ!?」や「助けてくれ!?」と叫ぶがそれが聞き入れられることはなくその生涯に幕を下ろした。
……なんつーグロテスクな光景をお届けしてくれてんだ手前! 気分が悪くなるだろうが。不幸中の幸いとしては腹部に怪我が存在することだろうか。聞こえた銃声はおそらくモンスターの腹部にヒットした銃弾を放った時のものだろう。それのお陰でヤツは傷を庇うせいで全力を出せていない。
残念なのはそれでもなおヤツの身体能力が人間を遥かに超えているということだろうか。そして新たに分かったことは食事時間が短いということだ。というより食べる量が少ない、一部しか食べてない。
ということは次の被害者が生まれるまでの時間が短いということを意味している。さらに被害者は生まれ逃げる人たちはさらにパニックになり互いに押し合い混雑して1つの大きな塊のように見える。
たかが、1体のモンスターでこれほどの騒ぎになるとは思わなかった。……人が目の前で死んでいるというのに俺には何も特別なものは感じなかった、これは俺が安全圏にいるからか、それとも元からなのか、こんな異常事態でもそんな疑問を抱きつつ青い顔をした山本を回収して店の上層階まで避難した。
上層階では同じような境遇の人が震えて外の様子を伺っている。こんな状況でも安全な状況ならスマホで撮影する人がいることに現代の業を感じつつ俺も先客に習い様子を伺ってみる。
外では新たな被害者が生まれており放置された骸から察するにこれが3人目らしい。……恐らくこの後も被害者は増え続けるだろうが騒ぎを聞きつけた警察が出動してモンスターを射殺するのも時間の問題だろう。薄情かもしれないが俺には彼らを助けようと思う気持ちは一切わかなかった。
正直、モンスターのステータスは他の人にとっては脅威だろうが俺の目からは野良犬が暴れているなあとしか思えない。確かに速度は速いが対処できない程ではなく筋力は恐らく自分の方が高くヤツの耐久力を超えてダメージを与えられるだろう。
俺が金属バットを持ってあのモンスターに向かえば大人が金属バットを持ってチワワを殴るのと同じ結果が得られるはずだ。“直感”もそれを肯定している。それでも名も知らぬ誰かの為に命をかけることが俺には出来なかった。
自分にはもう関係ないと店内に視線を戻すとこの階層はボーリング関係の売り場だと判明した。このまま惨劇を見ていても不謹慎だと思いそのまま物色しているとフロアの片隅にペタンクの球も置かれていた。……気は進まないが見ているだけというのも悪いしやってみるか。その準備としてまず店の人に確認しなければならないことがあるため店員らしき人に声を掛けた。
「すいません、この店の人ですか?」
「ひゃあっ! あ、ああ……そうだが、何か?」
「少し聞きたいことがあって、あのペタンクの球は使用しても構いませんか?」
「べ、別にきゃ、構わないが」
店員は急に話しかけられて混乱しているらしく驚いて変な声を出していたがそれでもこちらの質問に対して答えてくれた。それに対して礼を言ってペタンクの球を手に取ってその感触を確かめていた。
古来より人間はその貧弱な肉体で己より強大な肉体の持ち主を倒してきた。その武器となったものは投擲である。人は石を投げて獣を倒し糧としてきた。投擲と聞くと貧弱そうに思えるが石を当てれば小型の生物は大抵死ぬしそうでなくとも重傷は負う。
あのモンスターは別に石を投げたところでピンピンしているだろうが金属球ならまた違うだろう、それに投げるのは貧弱な人間ではなく高ステータスの俺である。まず当たれば死ぬ。問題は当てられるかどうかだが“空間把握”のお陰でヤツがどこにいるのかハッキリと理解でき、止まっている状態ならばまず外すことはない。
その止まっている状態も作ることは比較的容易い。俺は窓を開けて来たるべき瞬間に備えてイメージトレーニングをしながら片手に金属球を持って構えながら外を見る。周りの連中は最初、不思議そうな顔をしているが俺の姿勢を見て何をするかどうか察したようだ。止めようにも下手に騒げばモンスターに気づかれてこちらへ向かってくるかもしれない為ジェスチャーでやめろと伝えてくるが無視だ、無視。
そしてその瞬間は訪れた。準備してる間にも着々とキルスコアを増やしていき遂に7人目の犠牲者が生まれようとしていた。先人に習って足を裂かれたドワーフは泣き叫びながら命乞いをし、無慈悲にもその最期を迎えようとしたまさにその瞬間俺は金属球を投げた。
金属球はドワーフを噛み殺して、そして満足げな表情を浮かべて隙を晒したモンスターの顔面に直撃した。上層階からではよく見えないが“空間把握”ではピクリとも動いていないため恐らく死んだのだろう。その結果に満足して窓を閉めて店内に目線を戻すと意味が分からないという目を向けられた。
恐らく余計なことをしてくれたと思った小僧がまさかモンスターを殺すとは思わなかったためだろう。俺はその視線を無視してポカンとアホ面晒している山本に向かって
「何してる、早く帰るぞ」
そう言うと大人しくそれに従ってついてきた。まさかこんなことが起きるなんて予想もしていなかったしひどく疲れた、今日はもう休もう。そう心に決めて帰路についた。
《条件を達成しました職業を解放します》
視界に謎の文字列を入れながら。