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出会い

 冬休みはすぐさま終わり新年の授業が始まった。また年明けと同時に異常が発生するのではないかと心配されていたが何事もなく新年を迎えられ世間は安心していた。


 「こんな物配られたところでどうしろって言いたくならない?」


 「気持ちは分かるよ」


 秋たち学生には後方支援が要請された場合の配置場所の資料が配られたが……それを配られたところでどうしようもないというのが秋の偽らざる本心だった。精々精神的な準備をしておくことに役立つかな程度の物を配るぐらいならばもっとちゃんとした資料を渡して欲しかった。


 「永瀬さんはどこに配置される予定なんですの?」


 「外壁の近くだから……割と想定される戦場からは遠くない場所かな」


 「大丈夫かい? もし何かあったら大変だ、配置を変えてもらうように頼もうか?」


 「いや、いいよ。学生に行かせる場所ってことは危険性は薄いってことだろ? なら大丈夫さ」


 他のメンバーの配置も確認してみるが戦場から遠くない場所に配置されたのは秋だけだった。だからといって秋はそのことが原因で不安に思うこともなかったし実際に要請によって配置場所に移された時も特に感じることはなく与えられた仕事を淡々とこなそうとしていた。


 秋が配置されたのは外壁に近いが役割としては住人の速やかかつ安全な避難と万が一にもモンスターが外壁を超えて侵入してきた場合の対処だったがその可能性は限りなく低いとされていた。


 外壁の防衛には予測されたモンスターを十分に殲滅できる程度の戦力は配置されていたためあくまでただの避難誘導のみが想定された役割でありそれに貴重な戦力たる自衛隊や私兵を使いたくなかったため学生が動員されたのだ。


 なので最初は担当の人の指示に従って人々の避難誘導をしていたが作業開始からしばらくして違和感を覚えた。外壁の外側で知覚する人間の反応が少なくなり代わりにモンスターの数が増えたのだ。


 だからといってそれらの存在が秋に対してそこまで脅威でもなくそれを伝える義務も存在しなかったため秋はそれを大人に報告することは無かった。それからも作業をしていると秋の担当場所に変化が起きた。


 「この地区はもう避難は粗方済んだかな?」


 「そうですね、後は意地でもここから動かないという意思表示してる人と避難を面倒がっている人だけですからもういいんじゃないですか?」


 「それでもやっぱり指示はすべきだろう。もう少し粘ってから別の地区に移動しよう。にしても外壁があるから安全だと言い張る者が多すぎるな、まさかこれほどまでに避難所に行かない者がいるとは思わなかった。ま、俺たちも避難所と家に居るのとでそんなに違いがあるとは思わんからそんなものか」


 仕事が一段落しボーッとしながら虚空を眺めて大人たちが何やら今後の予定を考えている様子を耳で感じながら空から何かがやってくる事を秋は知覚した。


 それが何をするつもりなのか気怠げな表情で落下地点付近に視線を向けた。それが落下しようとしてるのは丁度大人たちが話し合っている場所だった。


 「取り敢えずこのプランで行こうか、それじゃ学生た…『ベチャッ!』……なんだこれ? !? あっっ!!」


 それは翼を持った蛙とでも言うべき姿をしていて……とある自衛官に張り付くと高速で舌を突き出して頭を吹き飛ばす。


 あたりは一瞬静寂に包まれたがその後すぐに蜂の巣をつついたような騒ぎに発展した。それでも厳しい鍛錬を受けた自衛隊の面々はすぐさまこの事態に対処しようとしたが相手が悪すぎた。


 相手は蛙以外にも火を噴く鳥やレイス、果てには弱い方とはいえドラゴンまでいるのだから。いくら彼らが上級職まで習得し銃火器を装備していようと空からの襲撃者には効果が薄く……むしろ反撃したため彼らの攻撃範囲外から魔法による報復を受けて物言わぬ骸と成り果ててしまった。


 秋はその騒ぎをただただ見ていた、秋の力を遺憾なく発揮すればそもそも最初の蛙型モンスターに自衛官が殺される前に対処は可能であったしこの騒ぎの原因となるモンスターたちをすぐさま殲滅することも可能にも拘らず。


 それは今もモンスターの被害に遭っている人々へはそこまで関心が無かったことに加えて命令に無かったことが挙げられる。いくら他人に無関心な秋と言えど、むしろ無関心だからこそ秋は他人に積極的に死んで欲しいとは思わない。


 そのため人々を守れと指示が出たのならばそれに淡々と従っただろうが……秋は学生のためそこまで過酷な指示が出されず……その結果、この惨事が進行するようになった。


 外壁の外側では想定よりも襲いくるモンスターの規模が大きいため防衛戦力は思いの外苦戦している。そのためすぐさまこの事態の解決に向けての応援部隊を派遣することが出来ない。


 そのためこの騒ぎは大きくなり収拾がつくことはかなり先である。そうなればかなりの人命や建物に被害が出ることになる。


 そんな中、秋はこの状況でも律儀に与えられた避難誘導をしようとしていた。

 

 「皆さん、落ち着いて避難所に向かってください」


 「おいっ!? どけ!! 邪魔なんだよ!?」


 「ウチの子を見ませんでしたか!?」


 「脚が折れて……誰か助け……ギャァ!?」


 取り敢えず声がけによる避難誘導は効果が薄いことらしいのは理解出来たのですぐさま声かけは止めた。そういえば同級生はどうしたのかと辺りを見渡すと首の無い姿で発見出来た。だから静かなのかと秋は納得した、記憶が確かならば同級生は遠距離攻撃手段を持ち合わせていた筈だ。


 大方中途半端に反撃をした結果報復を受けてこうなったのだろうと推測し秋は配置場所の拠点のロッカールームに向かい着替えることにした。


 少しでも目につきやすい格好にすれば言葉も届きやすくなるだろうかと考えてのことだった。


 『避難所は↑です、皆さん落ち着いて避難して下さい』


 光魔法で避難の文言を光で空中に描き、固定してから荒れ狂う人波を避けて向かう。人波は狂騒の影響でルートさえ考慮すれば障害物たり得ずモンスターは秋の力量を察して攻撃を仕掛けることは無いため秋だけはこの騒ぎの中、まるで日常のように非日常の街を歩いている。


 拠点にまでたどり着くとそこには震えながら逃げ込んできたであろう人たちが何人か確認できた。だからといって何もすることは無かったが。


 ロッカールームに入りお目当ての服装に着替える。皇から貰った装備は既に破損してしまったが東條から貰った装備はまだ袖を通しておらず未使用であり、秋は念のためその装備を持ち込んでいた。


 秋としてはあまり着たくはなかったが状況が状況なので仕方ないかと思いゆっくりと装備する。姿見で装備し終えた自分の姿を確認するとそこには白銀の騎士が映り込んでいた。


 かなり特徴的な外見の装備だということと着るのに手間取ることもあり使用する機会に恵まれなかったが今、ようやく日の目を浴びることになった。……目的は戦闘ではなく宣伝だが。


 元いた場所に戻ると仕留めた獲物を貪っているモンスターが目立ち、生きている人が殺されるような事態は一旦休止されていた。


 モンスターからすれば腹が減っていたから襲っただけでありそこに善悪は無い、ただの弱肉強食の自然界の摂理に従ったまでだ。


 未だモンスターに怯える人々に向けて秋は


 「皆さん、落ち着いて避難所に向かってください」


 そう……変わらない言葉を話した。前よりは格好か、それとも少しは落ち着いたのか秋の言葉に耳を傾けて避難するものや光で描かれた文言に気づくものが増えたがまだまだ少数派だった。


 秋からすればとてつもなく面倒だと感じていた。何しろ人々が避難しなければ自分の仕事が終わらないにも拘らず、人々が避難しないのだから。


 どうすれば自分の仕事が終わるのだろうかと秋は考え、その結果取り敢えずここにいるモンスターを倒せば脅威は無くなり避難の必要性は消え失せ仕事が終わるだろうという結論を導き出した。


 騒動開始から一時間以上経過してようやく秋はモンスターを倒すという選択肢を考慮するようになった。とはいえいきなり魔法で殲滅という手段は秋にも取れない。


 《光檻》を使えば大半のモンスターは狩り尽くせるが一部のモンスターの命を絶つのは難しく、反撃を受ける恐れがある。それに魔法を反射するような特殊能力持ちの存在を否定出来なかったため始めはモンスター全体を観察して強者や厄介な能力持ちを一体一体潰していき駆除し終えてから最後に掃討することにした。


 高めのビルの屋上に颯爽と上り、秋は《観測》を使用して広範囲の視覚情報を一度に把握することでモンスターたちの脅威度をラベリングする。まずは一番厄介そうなドラゴンから倒すことにした。


 ドラゴンの中でも弱い方とはいえ腐ってもドラゴンであり遠距離攻撃なら秋の手持ちの魔法だと《光線》で眼球などの脆い部分から心臓や脳などの重要器官を潰すようにすることや《光線》の多重起動により複数発生させた光線の束を一つに纏めて威力を跳ね上げるオリジナル魔法の《複光(マルチ・フォトン)》を使用するかの2択になる。


 使用MPを最大にして威力を上げる方法もあるが消耗した時にモンスターが襲いかかる可能性を考慮するとあまりしたくは無かった。そのため演算領域への負荷がかかるがMPの消費を抑えられる手段が好ましいと判断した。


 ……そもそも遠距離でドラゴンを狙わずに着陸している瞬間を近接攻撃を仕掛ければいい話なのだが秋の存在に気づかれた場合には飛んで逃げられ、近接攻撃から遠距離攻撃にシフトしようとする隙を狙われてしまう可能性が否定出来ないため諦めた。


 【樹槍】から【呪槍】に変化してからあまり早く伸ばすことも長くすることも出来なくなったので秋には魔法による攻撃しか手札が無かった。


 ビルからビルへ乗り移りターゲットのドラゴンを観察する。口元は赤く汚れており今もなおナニカを貪っている、その足元には無数の骸が転がっており被害者が多いという事を示している。


 今すぐ攻撃してもドラゴンのポテンシャルは未知数であり、座標を設定してMPを注ぎ込み発動するまでの一瞬の間に攻撃の気配を察知され避けられる可能性を少しでも残すならば下手な行動は出来ない。


 じっくりドラゴンの食事風景を観察しそして次なる食料を求めて狩りを行う様子も観察する事で大体のポテンシャルは把握した。それを踏まえて倒すためのプランを組み立てて実行する。


 800mほど離れたビルの屋上から狙撃するように構え、《光線》を複数発生させる。それに気づいたドラゴンはすぐさま気配に気づき攻撃の主を仕留めようとブレスの構えをとり……その後発生した《閃光》による強烈な光に怯んだ隙に《光線》を束ねた《複光》に頭部を貫かれ沈黙した。


 同様に脅威だと判定したモンスターを秋は観察して情報を得てからプランを組み立てて倒していき2時間ほどかけて目標を全て討伐することに成功した。


 秋としてはその過程で四つめの上級職である【賢者】がカンストしたがジョブの変更は何故か不可能だったので経験値が無駄になってしまったなあ程度の気持ちであり特に感慨を覚えることは無かったが。


 締めくくりとして近くの高い建物に上り《観測》によりリアルタイムで残ったモンスターの位置を把握しながら微調整を行い《光檻》を発動して殲滅して当面の危機は退けられた。


 本来ならば英雄とでも評されるほどの働きを見せた秋だったがそれによって達成感などを得ることはなくすぐさま人々に避難誘導をしていた位置に戻り自分の仕事を全うした。


 「皆さん落ち着いて避難してください、今ならばモンスターからの妨害もありませんから」


 安全だと知った人々が急いで避難所に向かう様子を眺めてもうここら辺の人達への避難誘導は済んだだろう、そして自分に課せられた仕事も終了しただろうと判断して拠点に戻りパッパと着替えてから気になった場所に赴いた。


 確かに秋は《観測》によって把握したモンスターの全てを《光檻》によって貫きその命を奪った。しかしそれを正確に表すならば人に対して友好的でないモンスターを殺したということが正しく……裏を返せば秋が脅威を確認できなかった存在に対してはノータッチだった。


 このまま帰ってもよかったがこれから特に予定があるわけでも無く退屈だったので暇つぶし代わりにその正体を確かめようとしたのだ。以前の学校に現れた強力なモンスターのような反応ではなく……むしろそこら辺にいるモンスターよりも弱々しい反応だったので秋に傷をつけられるような存在ではないと判断できたため気楽な様子で現場まで向かう。


 一応念には念をということで爪楊枝ほどの大きさで手作りケースに入れて持ち歩いていた呪槍を慣れた長さに調整して手に持ちとある建物の中に侵入する。


 建物のガラスはモンスターの影響でひび割れ、廊下にはゴミが散乱して所々赤いシミが存在した。そしてある部屋の中に……ソレは存在した。


 「〜〜♬」


 見た目は5〜6歳程度の女の子でそれだけならば逃げ遅れた子供なのかと思うだろう……ソレが半透明で無ければ。


 それはレイスとでも呼ばれるモンスターで物理攻撃しか出来ない前衛職には脅威だが秋にとっては手間もかからず倒せる見慣れたモンスターだった。


 しかしそのレイスは秋が今まで見たことのあるレイスとは全く違う雰囲気だった。レイスとは生者を見つけるとその生気を奪おうとドレイン攻撃を仕掛けてくるがそのレイスは秋のことを視認しても特に反応を見せずふわふわ浮いたりバタバタ動き回ったりと……まるで本当の子供のような行動を取っている。


 秋は知る由もないがそのレイスは生物から生気を吸収するだけでなく生物の発する生気、魔力や大気に存在する魔力を自身の生命力に変換する能力を備えている。


 それ故に生物をわざわざ襲う必要は無く……それ故に他生物への害意も無い。またこの能力を得るためにかなりのリソースを費やしているためそのステータスは極めて低く他生物同士の戦いで発生した魔法の余波で死んでしまうほど儚い存在である。


 そのためこのような進化をしてしまったレイスは間違いだったとされ種の系統樹の主流より外れ絶滅の一途を辿っていた。このレイスが街にいるのは生まれてそんなに時間が経っていなかったということとたまたま魔法攻撃の余波を浴びずに育ったこと、そして人間対モンスターでは魔法攻撃の割合が少なく街の中では魔法が使われておらずこのレイスにとっては安全だったから目指したということが挙げられ……端的に換言すると運良く生き残った個体が安全な場所を目指した結果である。


 街に入り込んだレイスはモンスター達の魔法を恐れて適当な建物の内部に透過して入り込み、そしてそんなに高度な知性も備えていないので遊びまわっていた。


 秋は危険は無さそうだと判断して槍をしまい適当な場所に座り込み奇妙なレイスの観察を続けることにした。


 部屋を遊泳するようにゆったりと動いたり壁を通り抜けて遊んだりと自由に動いている。


 ボンヤリとその様子を見続けていると差し込む光が暗くなり夜になった。


 その頃になるとレイスも飽きたのか部屋の中央付近でぐで〜とした格好でだらけている。


 もう戻るかと秋が思い腰を上げた時、だらけていたレイスが秋の方へ寄ってきた。秋に近づいたレイスは周りを飛び回ったり体を突き抜けたり顔の周りで滞空したりと騒がしい挙動をしていたが秋には何一つ害は無かったためされるがままとなっていた。


 秋のHP、MPは膨大でありただ存在しているだけでも常にかなりの量が体外に垂れ流されている状態でありレイスからすれば食べ放題のレストランのようなもので惹かれたのだ。


 それから秋はしばらくそのままの姿勢をとっていたがやがて歩き出し、それにつられてレイスも秋についていった。


 建物の外まで歩いてもレイスは秋にまとわりついたままだった。


 「俺と一緒に来る気か?」


 「〜〜♬」


 思わず秋がレイスに呼びかけるがレイスは能天気に飛び回っている。


 「……はぁ、まあいいか」


 命に関わるようなことでも無く不快なものでも無いため秋はレイスが纏わり付いてくることを許容した。


 こうして誰も必要としなくなった者と誰も必要のない者という似た者同士が一緒にいることになった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 光術師系統の下級、上級をこんなに育てているなら最上位職業の「光神」とかあってもいい気がする。
[一言] 秋に対してインカム等の無線連絡が出来る物を渡してれば被害はかなり減ったんじゃなかろうか、まぁそもそもの原因は防衛上層部が彼に対してのコミュニケーションを怠った事と前線が突破された場合には可能…
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