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ステータス

 不貞寝もほどほどに切り上げて受験生らしく正月にも勉強するか〜と机に向かったが、昨日のとんでもない出来事が脳裏に焼き付いて離れない。

 

 もはや、新手の試験と言っても信じられるわ。試験科目は精神力で、受験生の精神の強さを図るという……そんな試験やめちまえ。全く勉強に集中出来ないまま午前中を過ごして昼食を食べていると、本来ならこの時期は特番ばっかりやってるTVから散々昨日も流れていた、異常事態(人体の変化)について報道していた。番組では専門家からは、とめっちゃ偉そうなおっさんが意見を言ってるけどこんなもんどう考えても自然に起きたもんじゃねぇだろって思うよ、俺は。


 ちょっと肌寒くなってきたので、ケモ耳でも生やしますか〜みたいな便利な体してないんだよ俺たち(人間)は! 何万年もかけてようやく生活環境を水中から陸上に変えたばっかりなんだよ、そんなポンポン体を変えられたら今頃人類は宇宙に進出してるわ!


 だって専門家も「え〜、何らかの外的要因によって世界中に影響が起きたと……」って発言してるけど要約すると「原因は全く分かりません」ということだからな?これ。ただ、遺伝の専門家からは割といいこと言っていて体に変化が起きた人たちの遺伝子を調査したところ人には今まで存在しなかった新たな塩基配列及び組成が確認できたらしい。


 サラッと流してるけど世界規模で人体改造が起きたというヤバい事態ですよ、これ。変化したのは日本の総人口の大体7割ほどらしい。かなり変化したと見るべきか意外と変化無しがいると見るべきか悩みどころだなこれ。まぁ、改造されちゃった人は運が無かったとしてその体を受け入れてくれや。な〜に、生活する上で絶対服とか合わないしイヤホンとか椅子とか使いにくいことこの上ないし、施設とか全然便利に活用出来ないという今までの生活が困難になるという欠点を除けば大したことはない。いやほんと変化起きなくてよかった、起きた人たちはご愁傷様です。


 いや〜変化無しでよかった〜、何しろ今まで通りのあっ、速報入った、変化がなかった人たちも調べたところ同じ未知の塩基配列と組成が確認されたらしい。……自分の知らない間に自分の知らない存在が自分の体に混じっているのは気持ち悪いし、体の中に異物が混入していると思うとちょっと怖いわとデザートにアイスを食べながら考えつつも、外見が完全に別物に成り果てた奴らよりマシかと結論を出してジュースを飲み干した。自分より酷い存在を見ると安心するね! 


 それから冬休みが終わるまでの間は突発的な人体の変化について取り上げられており政府からは外見が変化した者達に対して、獣の特徴が現れた者達は“獣人”という呼称として、耳が長くて尖ってる者達は“森人(エルフ)と呼称し、髭面をした者達は鉱人(ドワーフ)と呼称するなど、他の特徴を持つ者達も名称を取り決めていた。他にもいきなり変化した者達に向けての支援なども検討しているといういつも腰が重く最近、国民の間ではギックリ腰ではないかと言われていた日本政府にしては珍しく早く行動していた。


 どうしていつもそれが出来ないんだろうね? 出来れば早めにこの狂った日常と化した非日常を解決してほしいわ。世界が混乱していても時計の針は愚鈍な人類に対して働けとでもいうかのようにチクタクチクタクと動き遂に長かった冬休みも終わり登校する日がやってきた。父はせっかく混乱が起きて会社を休めていたのにと未練たらたらでとうの昔に重い足取りで出勤し、妹はようやく友達と遊べるとるんるんで小学校に行き、母はデザイナーの血が騒ぐと服飾にかなりの連絡が入っているらしく生き生きと仕事場に行っていた。それを見送る日々が終わると思うと名残惜しくなる……もうちょっとゴロゴロしたかったな〜。精神的に色々あったけどむしろ体調は良くなってるし、母さんと妹から羨まれるほど肌艶といい髪のキューティクルも格段に上がってるしで振り返ればいい休暇だったんだけど。


 軽いデイパックを背負いながら背中から尻尾を丸出しにしながら登校する学生たちをぼんやり眺めながらとぼとぼと歩いていると後ろからやってくる騒がしい山本(気配)を感じたので、いい感じのタイミングで身体をずらして山本(バカ)を避けた。危ねぇ、コイツ後ろからぶつかってくる気だったぞ。この俺のシミひとつないお肌に傷がどうしてくれるんだ? 世界の損失だぞ、世の中の美女が嘆き悲しむわ。


 山本はまさか避けられると思っていなかったらしく自分の足に引っかかってこけた。俺はまるで残念なものを見るかのような憐れんだ目でその光景を見つめ、何事もなかったように前を歩き始めた。山本はそれが気に入らなかったらしく立ち上がって文句を言ってくる、肩を組もうとするな暑苦しいんだよ。


 「ひでぇじゃねぇか、俺の抱擁を避けるなんてよ〜」


 「知るか、つーかいきなり抱きついてくんな。なんでお前は朝からハイテンションなんだよ?」


 「逆になんでお前はそんなにテンション低いんだ? 考えてみろよ人間、エルフ、獣人、ドワーフ、鬼人、その他にもいろんな奴らと授業出来るかもしれないんだぞ? そりゃテンションも高くなるわ」


 おめでたい奴だな、お前は。絶対良いもんじゃないぞそれ、だって周りのやつを見てみろよ。尻尾、耳は当たり前で羽を生やしてる奴とか2メートル位にデカい奴もいるんだぞ、邪魔にしかならんわ。前の席にそんな奴らが座ってたら板書が出来ないだろ。


 学校までの道のりで冬休み何してたとか、受験が憂鬱とか下らない話をしながら登校して教室の扉を開けるとそこは異世界だった。動物園かなここは? 覚悟してたとはいえクラスメイトが別人と化している事実に心が揺さぶられる。一応、地味な(名前を知らない)奴は変化してないし他にもちょくちょく変わってない奴らがいるが視界へのインパクトが凄いなこれ。


 席について荷物を整理してると山本がやってきて、付随するかのように佐藤(リザードマン)高橋(エルフ)がついてきた。


 「見たか? あの動画。すごかったよな、俺これが合成じゃないかどうか疑ってたわ」


 「俺も見たけど興奮した、エルフとかドワーフとか現れてのアレだぞ? やっぱり地球がファンタジーになったなって実感したわ」


 「やっぱり、テンプレで冒険家とか出来るのかな⁉︎ 俺めっちゃやりてぇ!」


 三馬鹿が話しているのは先日、アメリカが公開したダンジョンの調査記録の一部を映した動画で、そこには暗い洞窟を調査する隊員たちが銃を持って警戒しながら探索している姿と隊員たちへと襲いかかってきた怪物(モンスター)の姿が確認できた。


 俺もさらっと観たがグロすぎだろアレ、何でアレを公開しようと思ったんだ?発表によると世界に突如としてできた洞窟を探索した結果、モンスターを発見し、これと交戦。死者を出しつつもこれを撃破とのこと。姿は中型犬を殺意でコーティングしたものであり、俺の見立てだと明らかに人類の戦闘能力を超えてる。おかしいでしょ、銃持った軍人に勝てるって。


 似たような動画は各国でアップロードされており、どうやらダンジョンには独自の資源があるらしくその情報に世間は浮き足だった。そして再生回数を上げようとたまに勇気と蛮勇を勘違いした動画配信者(馬鹿)が洞窟の中の様子を配信しようとして中に入りしばらくするとカメラが地面に落ちる音がした後、水っぽい音と咀嚼音がする事態が何回かあった。不思議だね、何があったんだろうね? 何故かその配信者たちはその後動画を挙げることはなかったらしいけど、ぼくにはまったくけんとうもつかないな〜。強いて言うなら異世界転生して頑張って下さいだな。


 それから4人でくだらない話で盛り上がってたらいきなり佐藤が爆弾をぶっ込んできた。


 「そういや、お前らはステータスは確認したか? 俺はスキル1つしか無かったわ」


 「俺も、俺も。正直めっちゃ期待して気合い入れてたのに拍子抜けだった」


 ?これ、現実の話だよな。脳の配線がイカれた奴らの妄言じゃないよな。親友として頭を診てもらえ(頭がおかしい)と伝えるべきか割と真剣に悩んでいたらその思考をぶった斬るように山本がヤレヤレみたいな仕草をして腹立つ声を出した。


 「フッ、やはり格が違うようだな俺とお前たちでは」


 「は〜? 山本が何をほざいてやがる、どうせ手前も1だろ?」


 「そうだ、そうだ、佐藤の言う通りだ。同格が調子にのるな!」


 何かよくわからんことが目の前で進行していき今日の弁当について思いを馳せていたらそれを気づかれた。


 「おい永瀬、頼むから興味ないみたいな顔しないでくれ。正直、一番心にくる」


 悪かったよ、ごめんな? ちゃんと聞くからその情けない顔やめろ。


 「んで実際、山本はいくつスキルを持ってるんだ?」


 「聞いて驚け、何と俺は2つのスキル持ちだ」


 「あの山本が……だと。……凹む」


 「そりゃどういう意味だ⁉︎ 高橋!」


 そのまんまだろ? お前に負けるとか屈辱感でいっぱいだわ。いや、そんなことはどうでもいい。それよりもっと気になるフレーズがあるんだが。具体的には一生使いそうにないカタカナの。


 「ステータスとかスキルって何?」


 おいこら、何お前ら俺を可哀想なものを見る目で見つめてくるんだ。九九を間違えるような奴らにそんな目で見られたくねぇんだよ7✖️4=30(アホ共)


 「知らないのか? 取り敢えずステータスと唱えてみろ」

 と山本。

 

 「そこに自分のスキルがのってるし、能力値ものってるんだ」

 と佐藤。

 

 「低すぎてもショックを受けんなよ? 大抵スキルは1つだし、能力値は20いくかどうかだ」

 と高橋。


 頭がイカれたわけではなく、現実のことらしい。まぁ、微妙に気を遣ってくるのはわかるしなんだかんだで良い奴らなので先の視線は許してやろう。でも、本当にステータスって言わなきゃダメ? 俺そういうのは1年ほど前に卒業したっていうか、恥ずかしいっていうか〜。という事をオブラートに包んで言ったら


 「「「いいから早くやれ(や)!!」」」


 とのこと。全く素敵な友人を持てて俺は幸せですよ、本当。仕方ない、覚悟を決めるか。


 「ステータス」


 名前:永瀬 秋


 HP:812

 MP:324

 SP:402


 筋力:176

耐久力:183

 器用:291

 速度:179

 幸運:252


固有スキル:自動回復、再生、状態異常耐性、直感、被ダメージ減少、空間把握、魔力知覚、二重起動


 ステータスと唱えたら目の前によくわからん画面が出たことに驚きを隠せないし、内容が聞いてた話と全然違うんだが。お前らもしかして俺を不安にさせようと嘘ついてた? と思ってたら三馬鹿の驚いてる顔を見てこれがおかしいと理解した。つーか、基準が知りてぇからお前らのも見せてって頼んだらなるほどそりゃ、俺のステータスは狂ってるわと納得したわ。


 名前:山本 修



 HP:128

 MP:0

 SP:12


 筋力:16

耐久力:13

 器用:6

 速度:9

 幸運:10


固有スキル:口臭軽減、整頓



 名前:佐藤 太一



 HP:67

 MP:0

 SP:6


 筋力:9

耐久力:8

 器用:10

 速度:7

 幸運:5


固有スキル:制汗



 名前:高橋 康也



 HP:52

 MP:6

 SP:3


 筋力:6

耐久力:6

 器用:12

 速度:5

 幸運:9


固有スキル:保温


 圧倒的な差ですね〜、優越感を感じるね。恨みがましく睨め付けている3人に向かって一言。


 「カーッ、才能って残酷だわ〜」


 ちょっ、やめて、やめて、頭ペシペシ叩いたり肘打ちやめて……ってふざけてたけど全然痛くない。むしろ叩いたコイツらの方が痛がってない? これってステータスのおかげか? 日常生活で身体に衝撃が加わることなんてまずないし全力を使う機会もないし気づくかこんなもん。


 いやでも新年明けてから調子は明らかにいいし、授業の用意を入れてた荷物を軽く感じていたりで気づかなくはなかったか? いややっぱり無理だろこれ。身体が好調だ、なら「ステータス」と唱えようとはならんだろ。取り敢えず言えることは最初にステータスを見つけた奴は頭がイカれてるわ。

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