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 ぼくがないていると、パパとママがつらそうなかおをする。なんでだろう? そんなかお、みたくないのに。


 みんなおむかえがきてぼくだけひとり、せんせいたちがあそんでくれるけど、さびしいな。そとはまっくら、あーあはやくこないかなあ。とびっきりのえがおをよういしてるのに。


 いいこにしているとサンタさんがおねがいをかなえてくれって!! いいこにしていないと。


 ぼくはいいこじゃなかったみたい……もっといいこにしていないと。


 ママのおなかが大きくなった、ぼくがあまえるとこまったかおをする。……がまんしないと。


 ママとパパがぼくにいもうとができたっていってきた。「お兄ちゃんになったんだからしっかりしないとね」って、どうすればいいんだろう。


 おもいふくをもってふらふらと、「さすがね、お兄ちゃん」だって。こうすればいいのか。


 たんじょうび、まんまるケーキがめのまえに。たべきれるかなあ。


 かけっこで一等賞、せんせいがほめてくれた。パパとママもみててくれたかな。

 

 ないてた子をたすけたらパパとママがほめてくれた。やさしいこだって、……ならそうならなきゃ。


 



 テストで100点満点、見せたら笑顔。これからもがんばらないと。


 体をうごかすとみんながほめてくれた、みんなであそぶのたのしいな。


 通信表をみせると「よくやった、ぼくがほこらしい」って、うれしいな。


 みなみの運動会、みんなでおうえん。お兄ちゃんだからおうえんしないと。


 その日はお父さんもお母さんもお休みだって、みんなでお祝いしてくれるって。楽しみだな。


 どうしよう、ごちそうがさめちゃった。お父さんもお母さんもいないんだから僕が頑張って片付けないと。……こんなに大きなケーキ……食べられないよ……。


 お父さんもお母さんも僕たちのためにお仕事してるんだ、仕方ないよね。にぎったプリントぐしゃりとポイ、わたせなかったなあ。


 美波の誕生日、みんなでお祝い、おめでとう。


 いつからだろう、みんなと離れちゃったのは? 気のせいかな。


 独りはさびしい、みんなであそぼう、ほら君も。


 どうしよう、どうしたらいいのかな。黙っていた方がいいのかな。


 嘘つき! 嘘つき! ■■って嘘つき!! 


 みんなが僕を見る目が少し違う、時間が経てばもどるかな?


 どうしてこうなったのかな、優しくしたらダメなのかなあ。


 トントントントン音が鳴る、じゅわっとこんがり召し上がれ。カチャカチャカチャ、片付けしないと。


 ビュウビュウと風がなる。チクタクチクタク、まだかなあ。大雪でお父さんもお母さんも帰って来れない。「いい子にしててね」 俺はいつだっていい子だよ……。だから黙って片付ける。


 美波が大怪我したから急いで病院に連れて行かないと。……なんでケーキってこんなにしょっぱいのかな?


 なんで言葉だけで動かないんだろう? 変わりたかったら動くしかないのに。


 身体を動かしても楽しくないのはいつからだろう? みんな口先だけは、動くんだね。


 もうウンザリ、みんながみんな、違う俺。本当の俺を、見ていない。……本当の自分って何だっけ?


 どんどんどんどん重くなる、もういいよ。何もいらない、したくない……なのにどうして、止まらないんだろう?


 ……………………。


 


 ……疲れたな………、もう休みたい…………。


 寮生活、家族とは暫く会えない。それは少し寂しいな……なのにどうして、ホッとしたんだろう……?








 …………疲れた…………。









 「……っぁ」


 意識が覚醒する、懐かしき、そして今なお色褪せない過去が悪夢として流れる。すぐさま身体を起こして洗面所に駆け込み、胃からせりあがるものを出す。


 何度も何度も繰り返すことでようやく落ち着き、ゆっくりと顔を上げると鏡には死人のように白い顔をした男が写っている。


 体は汗でべたつき不快感を覚え、酷い頭痛がする。最悪の気分だ……、太陽は寝る前に見た位置とほとんど変わらない。どうやらあまり寝られなかったみたいだ。


 昨夜の戦いで思ったよりも疲労していたようだ、もはやどうにもならない過去を振り返るなんて、らしくないことをするほどに。


 ……もう寝れそうにもない、ひとまず支度をしようか。熱いシャワーを浴びながら身体を洗い、ポーチの食料で朝食を済ませると表面上はいつも通りの顔に戻っていた。演じるのは得意分野、造作もない。


 ピシッと清潔な格好にしてコテージを出てエントランスに入る。ああ陰鬱な雰囲気だ、それも当然か。物資に余裕があるとしても気を抜けば死が待っている環境下だ。緊張するなと言う方が無理な話。


 すたすたみんなのもとへ向かうと暗い顔が上げられ、俺を認識した。


 「やあ、疲れてるところごめんね。朝になったから様子を見たんだけど、とりあえずはみんな無事生存確認出来てよかったよ」


 流石に普通の人にこの環境で一夜を過ごすのは無理だったみたいで皇、東條、相原、柊、佐々木はすやすや寝ていた、寝ていてもなおうなされていることを考慮すると健常とは言い難いが生きてはいるため十分だろう。


 西園寺、一ノ瀬、森山、有栖が起きて自分の口と寝ている連中に酸素ボンベを当てている、起きてる組は夜通し起きていて疲れを見せ顔が痩せているがそれでも俺の言葉に反応する気力は残っているみたいだ。


 「別に返事はいらないよ、疲れているだろうし無駄なことに体力は使うべきじゃないからね。このままここにいてもジリ貧だからここから移動しよう。だからその準備をしといて欲しい。日が昇ったから明るくなって見通しがよくなったから乗り物で移動しよう。大体30分くらいをみているからそのつもりで。ああ忘れてた、ここから一番近い治療が受けられる施設について心当たりのある人は俺に後で教えてほしい。じゃあ行ってくるよ」


 要点だけを手早く伝えて下山してここから離れるための乗り物を調達しに向かった。それにしても頭から抜けていたな、そうか、いつ死ぬか分からない状況で十分リラックスは出来ないし一夜を明かすことは難しいか。


 ……ああ、本当に……どうして()()()()、そう考えてしまうのはズレているからだろうか。相変わらず、分からない、理解が出来ない。だからといってどうにかしようとも思わないけど……。


 日が昇ることで事態の悲惨さがより鮮明にわかるようになった。富士山を見れば未だに炎が渦巻き火災はいつ終わりを迎えるのか見当もつかない。その影響で街には熱波が吹き荒れ生命の存在を拒む。


 街にはガードレールに突っ込んだ車、燃えた家、子を守った母親だったもの……車は外が見えないものの方がいいのだろう。多分、この光景は耐えられないんだろうな。


 それからも変わり果てた街を探索し続け、それでもなお蔓延るモンスターを切り刻みつつ目的地に着いた。運送用トラックならちょうど目的を満たせるかな?


 外は見えないし夏の暑い日差しを避けられるし荷物を冷やす機能を付いているトラックを選べば快適に全員を運べるだろう。


 容量も大きいので酸素ボンベや食料、果てには水分まで搬入できる、これにしよう。誰もいない、いなくなった事務所に入り、鍵を確保してエンジンをかける。


 生憎免許を持っていないがまあ走らせるぐらいは出来るだろう、道を走る車も他にないんだ。自分のペースで行かせてもらおう。


 5分ほどで大体の操作方法も把握できたので運転しながらモンスターや瓦礫を魔法で除去しながらみんなが待っているところまでトラックを走らせる。


 帰り道、せめてその遺志が獣に汚されぬように見送りながら。急ぐべきなのだろうがこのぐらいのワガママは許してほしい。


 エントランスに再び入ると今度は寝ていた連中が起きている、用意ができていて何よりだ。皇が繋いでくれたスマホには以前話した人が治療施設の場所を示してくれた。神奈川か……そう時間はかからないし体力もそう消耗しないだろう。


 トラックを止まらせた麓まで下山する体力もなさそうなので一人一人丁寧に運び、搬送中に力尽きない程度の物資も運び入れて目的地に向けて出発した。


 道路にはガラクタになってしまった車、ひび割れたアスファルト、居座るモンスターたちが視認でき非日常を演出する舞台装置となっている。しかしつい先日まで日常を過ごしてきたものたちの残骸がこれも現実なのだと観衆()に伝えてくる。……分かってる、分かってるけどこうなんだ。


 ファンタジーが俺に疑問を投げかける、こんな現実を受け入れている自分はどうなんだと。


 空は快晴、道路はガラ空き、いいドライブ日和だ。少々障害物が多いのが難点だけど吹き抜ける風が心地いい。何よりもそれらへの対処で何も考えなくていいのが素晴らしい。


 指定された場所に辿り着くとそこは大きな病院で、そこは人で溢れかえり死の気配が蔓延していた。治療を受けられずに亡くなってしまったもの、生死の境を彷徨うもの、まるで戦地の病院みたいだ。


 どうしてそんなにとも思うけど、これが普通だと思い直した。友達か家族が被害にあったのか病院の人に叫ぶように訴える人もいてまるで映画のワンシーン、登場人物は全員エキストラ。


 着いたと連絡すると防護服に防護マスクをした厳重装備の人達がトラックに寄ってきた。


 「永瀬秋さまでしょうか?」


 「はい、永瀬です。中の人たちはどうしたらいいですか?」


 専門の人たちの指示に従ってトラックを病院の関係者専用の連絡通路にトラックを動かす、その最中どうしてや私もとか不公平だと叫ぶ声が虚しく耳に響いた。


 これが各地で起こっているならば現代社会には無視できないダメージが起きてるし社会は大きく変わってしまいそうだな。


 指定された場所に運んだところでストレッチャーを既に用意した人たちが準備していてすぐに施設に搬入された。これで命は救われただろう。


 「お嬢様をここまで連れてきてくださりありがとうございます、永瀬さまには感謝の意を是非とも伝えさせてください。永瀬さまもあれほどの災害の中心地で一夜を過ごし、モンスターが彷徨く道を進むのも疲れたでしょう。どうぞこちらでお休みください」


 好意を無駄にするのも悪いので受け取ることにした、案内された先は普通の複数人で一つの部屋を共有するタイプではなく豪華な部屋を一人で使う特別な人間が使うような部屋だった。


 どうやら俺の働きをかなり評価してくれているらしい。戦いの疲れは結局取れてないからもう休もう。


 それにしても彼らには申し訳ない、俺が目を逸らしたいからその口実にしてしまって。


 窓から外を覗けば人、人、人、否が応でも事態の深刻さが視覚的に理解できる。スマホで見た味気ない文章だけでは分からなかったことだ。


 これほどまでに大きな被害が広範囲に出てしまったのならばきっと国は対応を迫られる、モンスターへの、そしてダンジョンへの対応もまた変わってくるだろう。


 まあ今はそんな未来の、違う次元の話よりも疲れた身体をどうにかするのが先か。


 大丈夫、覚悟を決めれば耐えられる。幾度も超えてきたものだ。フカフカのベッドに身体を沈め、意識をゆっくりと眠りの淵に落としていく。


 それにしてもあの時、戦うことを決めたのは果たして自分がなりたくない自分になりたくなかったということだけだったのだろうか?


 ポツリとつぶやいた東條のその表情は穏やかで……何故あの時自分は肯定したのだろう。


 そんなことをとめどめもなく考えているといつの間にか夢の中に落ちていった。


 本当に救いたかったのは誰だろう、最後にそんなことを考えながら。

人類側について

 世界改編後の人類は基本的にどれほど改編に適応できたかで固有スキル、ジョブの最大レベル、ジョブ取得数が決まるためこれらのパラメーターは運次第です。


 でも別に固有スキルがショボくて問題は無いし、ジョブの最大レベル、ジョブ取得数が想定に満たない場合でも想定までのレベルまでは上げる手段があるので問題はないです。


 重要なのはジョブ適性と各ステータスの成長係数です。これらはその人の才能とどんな人生を歩んできたかを参考にするため残酷なまでに差が出ます。それこそ致命的なまでに。


 なのでたまたま強スキルを得ていきなりチートをゲットした何もしていなかった人間が上に行けるほどこの世界は甘くないです。


 この世界は確かに才能の有無はありますけどそれ以上に何を為してきたかが問われるある意味で「努力が報われる世界」と言えますね。

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[気になる点] 主人公はなにか精神疾患をかかえてるのでしょうか? [一言] 主人公が冷静で面白いです
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