言葉は重い
現代版怪獣大決戦を眺めていると流石に夏真っ盛りで日が長いと言っても夕暮れになってきた。昼間、青を背景とした富士山は今ではオレンジ色の空を背景としておりまた違った趣を感じさせる。
そろそろ夕食の時間だな、焚き火している場所に行かないと。ご飯の用意を全て誰かにしてもらうのは少し申し訳ないからな、早めに行って準備をあらかじめしておこう。
目的地では既に薪がパチパチと爆ぜる心地の良い音が響いており見ているだけで心が落ち着く炎が揺らめいている。どうやら既に準備は始まっていたらしい、出遅れてしまったかな。
「ごめん、東條さん、有栖、皇さん、森山、準備に遅れてしまって」
「いいえ、別に構いませんわ。そもそも客人に用意されるなどもってのほか、招いた私が準備をするのが道理ですわ」
「それでも、だよ。誰かに任せてただ享受するのは性に合わないんだ、自分の手でちゃんとやりたいんだ」
すっと皇さんから薪を抜いて焚き火の用意を始めた、こういうのは自分の手でやってこそ得られるものもあるんだよなあ。
取り敢えず風ですぐに火が消えてしまうほどでもなく火の粉が舞い上がって灰でむせて目から涙が出るほど強い火力にならない程度に調整して作業を一旦これで作業を終了した、火の用意はこんなもので十分だろう。
後は適宜薪を追加していけばいいだけだろう、料理の手伝いに移るか。
「少し失礼なことを言うけど有栖はともかくとして東條さんが料理出来るとは思わなかったよ、お嬢様だから料理は人に任せていると勝手に想像していたから」
「いえ、そんなことはありませんよ? いくら良家として生まれても好き勝手に出来るものでもありませんし、むしろだからこその制限もありますから。淑女の嗜みとして料理はもちろん、お茶や美術も学ぶ必要がありますから」
その教育の中には俺にも想像つかないものもあるんだろうなあ。東條さんと有栖、皇さんが行なっている工程を見ると、ジャガイモ人参の皮むき、洗米、ふーむ
「夕食はカレーかな?」
「そうだ、山の中で食べるカレーは格別だろうと皇さんがな。私としてもそれには同意見だ」
んじゃまあ下準備を開始していくか、皮剥きを終えて食材を切りながら横目で3人が行なっている作業を見ると個性が現れているなあと思う。
俺は食べられればいいと思っているので普通に切っているが東條さんはかなり丁寧にカットしてるし有栖は食べる人のことを考えて食べやすい大きさに、皇さんは煮込む際に煮崩れしないように工夫している。
失敗しないように、結果が良くなるように、過程が上手くいくように……これだけでも特色が出るもんなんだな。
「少し、楽しいですね」
「そうかな、東條さん? まだ準備してるだけだよ?」
「でもこんな風にみんなで頑張って料理するなんて新鮮で、楽しいです。いつもは有栖と2人だけですから、また来年もこんな風にみんなで集まって遊べたらいいですね」
「そうだね、また来年集まれたらきっと楽しいだろうね」
森山がお米を釜で炊いて俺たちは野菜を切って、そしてやがてはグループのみんなでカレーを食べる……それはきっと素晴らしい思い出になるだろう。
「ああ、またみんなで来ようか」
そうしてカレーの準備が整い後は食材を鍋に投入して火が通るだけとなった。その段階となると他の面子も焚き火に集まるようになって全員でワイワイしながら話をして過ごす、あああっという間に時間が流れていく。
ついにカレーが完成した、屋外でカレーを作るとお米が水っぽくなりそうなものだが森山はその辺について対策していたのかむしろカレーに合うようにどちらかと言うと硬めの、しかもおこげが出来る様にしている。
屋外環境での料理に慣れてるのかなと思わず考えてしまうほどの出来具合だ。味見したカレールーの方も味が薄くなりすぎず、かつ濃すぎてしつこくなりすぎない程度のいい塩梅だ。
出来たカレーを全員に配り終えていただきますをしてから食べた、美味しいな。空を見上げればこの時期ならではの夏の大三角が見えていいムードだ。
「なあニュース中継見たか?」
「なんの話だ? いや食事中なんだぞ、スマホは仕舞え」
俺の極めて常識的なテーブルマナーについての意見を聞き流して相原はスマホを取り出してニュース中継を俺に見せてきた。
ほー、富士山が映っているから多分ここ周辺のことを流してんのか。ご苦労な話だ、このご時世報道することも結構難しいのに。スマホすら使えない地域も出てきているくらいモンスターが溢れて危険なのに。
SNSも見てみればある程度離れた場所から撮られた写真や動画が挙げられていて現代人の危機管理能力の無さが窺える。
相変わらずドラゴンとトロールとトレントが三つ巴で戦い続けていて被害を撒き散らかしている。これについての対応を政府に言及する馬鹿もいるが最早この状況になってしまったなら人にできることはないだろう。
戦闘機も派遣してもドラゴンに撃墜されるのがオチだし戦車を使ってもトレントに串刺しにされて終わりだろうに。
ん? トレントの様子がちょっと変わってる、前見た時はあんなに葉が生い茂っていたか?
『このように富士山周辺ではモンスターたちの戦いによって甚大な被害が出ており住民の皆様には避難勧告が出ています。皆さん落ち着いて、慌てずに現場から避難して下さい。また今回の件で国には一刻も早い対応が……ゴホッ、ゴホッ』
現地キャスターがいきなり咳き込んだ、現場近くは灰が舞っているだろうしゆっくり喋ったほうがいいんじゃないと心配していると様子がおかしい。
やけに咳き込んでいる、むせたか?
『失礼しました、国には……ゴホッ、対応が……オエッ』
違う咳き込んだわけじゃない、それだけならあんな風に口から血を吐き出したりしないし目があんなに赤く染まったりしない。……毒でもモンスターがばら撒いたか?
ああ、だがもうキャスターは……いや現地にいる奴らは全員手遅れだろうな。血を吐いたキャスターが倒れた後に続くようにカメラマンやスタッフが倒れスタジオからの呼びかけも虚しく響くだけになりついには映像が途切れて番組が放送されなくなった。
……普通に放送事故じゃね? これを見ていた他の奴らも黙り込んでいるし、空気が完全に死んだわ。おいおいどうすんだよこれ、楽しい夕食が台無しじゃん。
「皆さま、急いで近くのエントランスに!! 早く!!」
皇さんが血相を変えて叫び避難を指示してきたので、それに従って急いで避難するが料理が勿体無いな。なんとかならないか、“直感”が反応しないから俺的にはそんな危険は無いと思うんだが。
ここから現場までは結構離れているしそこまで心配する必要はないと思うんだ。……おっと夕焼けに染まった富士山がおかしいぞ。何で噴火したかのように空が黒くなってるんだ? 日暮れはまだ少し先だろ、いや日暮れにしても暗すぎる。
エントランスに入って施設の窓を閉めて密閉状態にした時には空は真っ黒になってこの世の終わりみたいな光景に変わってしまった。
現場を中継した番組はさっきと同様のことが起きて中断され、現場がどうなってしまったのかはわからないがろくでもないことが起きてるに違いない。
毒って判断したけど実際はどうなんだろうな、有害ではあるんだろうけど。被害からすると空気を媒介にしてるっぽいし今のところひとまずの安全は確保出来たと言えるだろう。
スマホを開いて被害状況を確認すると被害は静岡だけじゃなくて山梨、東京、神奈川、埼玉、千葉まで広がっていると流れている。よく覚えてないけど富士山が噴火した時の被害範囲と同等かそれ以上のものになってないか。
しかも今回の場合、被害=死亡だからより事態は深刻そうだ。あの時は一瞬でよくわからなかったけど多分原因はトレントだよな、黒い靄みたいなものがあいつから出てたし。
灰みたいだけど植物っぽいトレントがだすなら、花粉か? トレントが花粉を飛ばしたものが黒く見えただけか? ほんと人騒がせなモンスターだ……今回のことで広範囲のインフラが停止しただろうし人的被害も馬鹿に出来ないほど大きいものが出たに違いない。
何より首都にまで被害が出たのがまずい、日本の社会がかなり停滞、いや最悪崩壊するかもしれない。
エントランス内で休む俺のスマホに今なお更なる被害情報が流れており未曾有の被害を生み出した続けていることを伝えてくれる。しかも今の時間帯って家庭で料理中だから火災の被害も出てんのか、大変……ああ、運行中の電車とか走行中の車もあるからもっと被害が拡大してんのか。
ちょっとした安全地帯で休みつつ状況を確認していると、どうやらここもそれほど安全では無かったらしい。
「森山、鼻血出てるぞ」
「え? あ、ホントだ」
そしてその瞬間空気がひりついた、ここが安全地帯じゃないって証明されたしこれはしょうがないわ。窓を閉めたところで建物の構造上隙間から外気が入るから完全に密閉は目張りでもしなければ無理だしな。
不幸中の幸いとして外気がある程度は遮断されてるから症状もTVで見たのと比べてとても軽いから今すぐ命に関わるということはないだろう。……それでもずっとは持たないだろうが。
俺を除いて血が出たりして体調が悪くなったので施設内のソファーに寝かしつけて安静にさせた。俺だけ普通に元気でピンピンしてるんだけど、不甲斐ない奴らだなあ。レベルを上げてないからそんなことになるんだよ。
流石にこのまま見殺しにするのは気が引けたので何か有用なものがないか施設内を探索することにした。愛鷹山の標高的に備えてるかどうかは怪しいけど皇さんみたいな金持ちがレジャーに使うんだからあってもおかしくないはずなんだけど。
それから救護室を探すと目当てのものを見つけたので急いでソファーに寝かせている連中のもとに向かった。高山病の予防か喘息向けか知らないけど酸素ボンベが置いてあって助かったわ、これで少なくとも外の空気をしばらく吸うことは無くなるし。
あくまでこれ以上の悪化はしないだけで既に取り込んでしまったものはどうしようもないけどな。近くによると“空間把握”で弱っていく様子が鮮明に分かるから嫌な感じだわ、死期が何となく分かるというか……1日持つか怪しいな。特に後衛組がやばい、前衛組と比べて貧弱だからダメージが大きいんだよ。
本来なら病院なり専門機関での治療が望ましいんだが、そこに行くまでが面倒なんだよなあ。毒で汚染された大気はもちろん樹海から降りてきたモンスターが障害になるしそこまでしても病院が機能してるか不明だし。
電話でホテルや救急に助けを求めたけどそもそも繋がらなかった。あまりにも問い合わせが多すぎて電話が混線してるか通信機能が死んでいるのかは分からないが繋がらないという結果は変わるまい。
俺にできることは尽きたしどうしようもないな、このままだと9個の亡骸と夜を過ごすことになりそうだ……。
流石にそれは嫌だから全員を看取ったあと丁寧にまとめて自分のコテージに行って寝よっと。どうしたのかな皇さん? 一応遺言なら聞くけど。
「で、電話を……ここに……」
震える手でスマホを渡されると実家と表示されたダイヤルが画面に表示されていた、ここにかけろってことかな。
言われた通りに電話をかけると明らかに教養高そうな人に繋がった、これお宅のお家の家人ですよね。庶民にそんな奴と会話をさせるなよ。
ひとまず現状を説明すると絶句する気配が画面越しだが伝わってきた……そりゃ自分の仕えている家のお嬢様が死にそうと言われたらそうなるわな。
どうやらダンジョン産の素材を用いた毒消しが必要らしいがそんなものここには無いし持ってくるにもこの状況だ、不可能に近い。
後は体力が持つように安静にするか回復薬を使って毒が体から排出されるまで待つことが有効らしい、できれば回復薬を使ってあげたいがあれ柊さん回復職に就いてなかったっけ。
スマホを放り出してすぐさま柊さんに呼びかけた。
「柊さん!? 柊さん!? 状態異常を治せる魔法って今使える?」
やっべえ、俺自身に回復魔法が不要だから回復職の存在忘れてた。柊さんも自分のジョブなんだから咄嗟に対応してくれてもああいや、ちがうか。
まだ世界にダンジョンが出現して1年も経ってないしジョブもまだ就いて日が浅い、だからこそいざという時にその存在が出てこなかったんだ。
俺の言葉を聞いた柊さんは目を僅かに見開きその後震える声で魔法を発動させた。
「《消毒》」
魔法を発動させるとほのかに柊さんが光った後気持ち体調が良くなったように感じた。
「あ、ありがとう、自分のことなのに思い付かなかった自分が恥ずかしいわ」
「反省は後にしてくれ、今は残りのメンバーにその魔法をかけることとその酸素ボンベから呼吸することに専念してくれ」
俺の言葉を聞いて現状を理解してくれたのか顔色を変えてすぐさま行動してくれて嬉しいよ、これで全員大丈夫そうだな。あー忘れてた
「すいません、ちょっとありまして。少なくとも当面の間は大丈夫そうです」
『そうですか、それは良かったです』
ごめんね、心配させちゃって。でもこっちも切羽詰まってたんだ、許してくれ。
「あー、取り敢えずみんな元気になった所で聞いて欲しい。別に返事はしなくていい。それより無駄に酸素を消費しないように気をつけてくれ。ありったけの酸素ボンベを持ってきたけどそれにも限りはある。このままじゃさっきの二の舞だ。そうならない為に、この中で酸素ボンベのある場所に心当たりがある人はいないか? それとすぐさま俺が山を降りて調達してくるから誰かクレジットカード貸してくれ」
そういうと金持ち組が心当たりがあるようで手を上げてくれた。そしてそのことを伝えようとマスクを外そうとしたので
「スマホに打ち込んで伝えてくれ」
そう言ったら打ち込んでくれた。
『富士山周辺の登山家向けの店なら酸素ボンベがあると思いますわ』
『他にも街なら防塵マスクやガスマスクがあると思うのでそれも欲しいです』
『金ならこのカードを持って行け、金は気にするなよ、命には代えられんし、この程度で揺らぐようなものではない』
なるほど、確かに対毒用の品はあってもいいな。というわけで地図を見て目的地までのルートを確認してエントランスを出る準備を整えた。
「んじゃ、行ってくるけど絶対安静にしてろよ? 窓とか絶対に開けんなよ、死ぬから」
最後に注意してドアを開けてすぐ閉めた、外気が少しでも中に入らないようにしないと。中では窓はもちろんカーテンも閉めてたから外の様子がわからなかったけど外はもっと暗くなっているし変わらないのは富士山での戦いくらいだ。
ドラゴンたちもトロールも毒なんて関係ないかのようにどんぱちやってるしタフすぎる。
思う存分ステータスの力を利用して1分もかからずに下山し手早く物資を調達していった。生憎店員はいないか息をしていないかの二択だったのでセルフカード決済で代金を支払って店を後にしてるが強盗みたいで何か嫌だな。
そして街中にモンスターがやっぱり溢れて嫌がる、お前のその毛皮についてる赤色って何が原因?
竜爪剣をポーチから取り出して街を彷徨くモンスターたちを始末しながらの探索はかなりハードだわ。しかも火事が至る所で起こってるからさらに火事場泥棒みたいに感じる。
本来なら魔法で殲滅したいが街中で使うとガス管とかに当たった場合俺にも被害が出そうだから使用できないし、ちまちま剣で斬らなければならないのが辛い。ここガソリンスタンドの近くだから余計気を使うわ。
おっトレント君発見、お前ここ金具屋だぞ違和感バリバリだわせめて街路樹に化とけよ。でも幸いここなら魔法の被害も考慮しなくて良さそうだからぶっ放そう。
『《光線》』
ただの木に放つには過剰なまでの熱量が込められた光線が放たれトレントのコアとでもいう部分を貫く、この様子だとあのデカいトレントにもある程度は通用しそうだな。
あれからトレントたちに出会ったから色々試してみるとどうやらこいつらは視覚と地面に伝わる振動で敵を発見してるらしいな。《無明》を使っても空中から跳んで奇襲しても対応されたけど合わせ技なら不意打ちできたし。
それにこいつら俺の“空間把握”みたいにあんまりにも情報が多すぎると普通に見逃しが多いからある程度の混戦状態だと割と簡単に斬れるわ。360度死角なしという性能してんのになんて残念な生態してんだこいつらは。
にしても最悪植物だから光魔法は光合成的な感じで無効どころか吸収して回復するかと思ってたわ。少し威力が落ちたように感じたがそのくらいならまあ誤差とも言えるだろう。
誤算なのはあんまり必要な物資は調達出来なかったことだろう、一日くらいなら持つだろうがこのいつ救援が来るかわからない状況だと少し不安だな。
ポーチに詰め込んだ物資たちをエントランスの外で吐き出して運ぶとめっちゃ驚かれた、佐々木、言っておくけど俺は一銭も払わないからな。
『助かりますわ、柊さんが毒を消せるといってもMPには限度がありますから心細かったところですの』
「気にしないでくれ、暇だから動いただけだよ」
全員に物資が行き渡ったことを確認してから俺はコテージに戻った。毒に怯える彼らと毒が関係ない俺の温度差が空気を悪くすると思ってのことだった。
コテージに戻りモンスターを倒して汚れた身体を備え付けの浴場で洗いゆっくりと浴槽で休んだ、ここが独自のインフラを持ってて助かったよ。非常用発電機と非常用電源を備えてるから電気にも困らない、唯一ガスだけは無理だがそれは許容範囲内だろう。
……物資を持ち込んでかなり喜ばれたがあれでは絶対に長続きしない、末期になれば限られた物資を巡って殺し合いもあり得るかもしれない。
少なくとも現状をどうにかしない限り死を遠ざけたに過ぎないにも拘らず権力者組が何も言わなかったのはそのことから目を背けたかったのか、あるいは気づかないほど追い込まれていたのか。いずれにしてもらしくなかった。
仮にそんなことが起ころうが俺には関係ない話だし対処できることでもある。救援までどれほど時間がかかるのか知らないが俺だけならポーチに蓄えた食料でかなり持つし最悪走ればまあ2、3時間もあれば寮に帰れるし。
毒が満ちた死の街ですら日常を過ごせる俺だし、そこらのモンスターなら相手にすらならない。他の人が騒ぐような危機的状況でも安寧の日々は送れるに違いない。
わざわざトレントvsドラゴンvsトロールの戦いに身を突っ込んで危険を犯して状況を変えるメリットがない。
風呂から上がって髪を乾かして着替える。ふーサッパリした。これで準備は整ったな。
確かにメリットは無い、そういえば
『ああ、またみんなで来ようか』
そんなこと言ったな、この様子だとこの場所は二度と来れないだろうしこの地形が残っているかも怪しい。そもそもあのメンバー全員が生きているかも分からないな。
このままだとあの約束はきっと果たせないだろう。あの言葉も嘘になるな、でも口先だけのアイツらみたいには成り下がりたく無いなあ。俺の何よりも嫌いな人種に。
もしそんなことになったら俺は俺が許せないかもしれない。色んなものを諦めた俺だけどせめて自分にだけは諦めたく無い。自分が誇れる自分でありたい。
これが俺に関係なかったり解決できる力が無ければ良かったのにと少し苦笑した。もしそうならば全てを見捨てられたのに。
動きやすく、防御力の高い格好に服装を変え腰にはポーチをつけ、更に竜爪剣を携え姿見の前で最終確認をする。目標は富士山で未だ暴れ回るモンスターたち、その中の1体、広範囲に毒をばら撒いている【伸槍森里】:グラウカ。
いくらトロールが強靭な肉体を持ち再生能力さえ持っていたとしても、ドラゴンたちの飽和攻撃を被弾し続けたならば反撃して回復することすら出来ずに死ぬ。
それが出来ないのはトレントがドラゴンを攻撃してどうしても避けたら迎撃するためにトロールに回す力を割く必要が出てくるから。
コイツさえ倒せば全てが終わる、この事態も収束に一気に近づく。少なくともこれ以上、被害は広がらない。
ふっと息を吐き、意識を切り替えて思考を研ぎ澄ませる。未来の誇れる自分のために今、死線に飛び込め。覚悟は決めた。
コテージのドアを開けるとすっかり冷え込んだ空気が身を引き締める。視線を富士山に向ければ暗い街、黒い空と対照的に煌々と輝く戦場が目に入る。そこには暴れ回るモンスターたち、そしてその中でも異彩を放つトレントを見据えた。
標的を最後に確認して、俺は夜の闇に身を投げ出した。
主人公に毒が効かないのは単純にレベルが高いということと固有スキルのお陰です。
“状態異常耐性”と“二重起動”で耐性が高まっているということと例え耐性が突破されても“再生”のお陰で毒に侵された端から放棄されるので身体に毒が回らないからですね。
“再生”による消耗も“自動回復”で回復するので実質ノーダメージで活動出来るわけです。




