社会科見学
「佐々木、そこから双眼鏡で外見てたら不審者にしか見えんぞ」
「うるさいっ! 静かにしてろ、俺は今ドラゴンを見ることで忙しいんだ!」
ごねてもどうしようもなかったのでしょうがなくホテルの部屋で寛いでたら佐々木が双眼鏡でドラゴン見始めてるんだけど側から見たら不審者だからな?
野郎どもと女性陣とに部屋が分けられ男子たちは全員同室となったわけだがまさか佐々木がこんなことするとは思わなかった。
正直何で佐々木が双眼鏡なんて持ってきてるのか疑問だったけどこのためだったのか、何? 自分が喰われるならどのドラゴンがいいとか非捕食者の視点で眺めてんの?
窓を見ると立派な富士山に群がるドラゴンたち、そして微かに聞こえるドラゴンの咆哮……世紀末かな? それに山側とは違う方向にやけに自衛隊の車が走ってるんだけど何故?
「ああ、ここら辺に未攻略のダンジョンがあるからだよ。それの攻略のために必要な物資を搬入してるんだ」
「その物資とやらでドラゴンどもを撃ち落とせない?」
「知ってる? 富士山って世界遺産なんだよ?」
「察したわ」
なるほどね、もしそんなことして富士山にミサイル撃ち込んだら日本国内から大バッシングくらうことは勿論、世界から責められるか〜……いやだとしても国民の安全を優先しとけよ。
「一応ドラゴンは人間を積極的に襲うことは無いみたいだから、流石に巣に近づいてくる人間には容赦しないけど。だから登山が制限されて観光客が伸び悩んでいたけど最近はドラゴンの住む山として売り出して新たなセールスポイントを売り出しているね」
人間の商魂って逞しいね、そしてそれで金持ち連中が釣れているんだから人間の業って恐ろしいね。というかドラゴン見て怯えた人間が俺だけっておかしくない? 事情を知ってた佐々木と森山はともかくとして相原、お前何で怖がらないの?
「そりゃドラゴンが男のロマンだからに決まってるだろ」
「分かる」
「分かるよ」
それなら今すぐ登山してこい、もっと間近で観察できるぞ。何なら最期はドラゴンの口内まで見られるからな、若しくはブレスの瞬間。
改めて見るけどやっぱり多いなあドラゴン、何でこんな多いんだろ。ダンジョンから出てきたにしてもこの数が今まで生きているのっておかしい気がするんだけどなあ、モンスターだって一応生物なんだぞ。
ならあの巨躯を維持するのに必要なエネルギーはどっから調達してんだ? 人間をバクバク食ってもそんなに栄養にはならないだろうし、仙人みたく霞でも食べてんのかな。
「未攻略のダンジョンがあるってことだけど国は何で攻略するしないの基準をつけてるんだ?」
「大体そのダンジョンの攻略難易度とダンジョンの位置で決めている。容易に攻略出来るものは当然攻略をするし、東京でも都市部やその近辺、そして国として護らなければならない場所の近くのダンジョンも攻略していただろう?」
「防壁の内側にダンジョンが無かったのって取り除いたからか」
なるほど、ダンジョンがない場所に防壁を作ったんじゃなくてダンジョンをどかしてから防壁を作ったのか。
確かに防壁の内側にダンジョンがあったらせっかく外への守りを固めたのに内側から食い破られる危険性があるしな、当たり前と言えば当たり前か。
荷物を部屋に置いて景色を見ながら話しているとちょうど昼食にいい時間となったので食堂へと向かった。
でも俺テーブルマナーとか素人だから結構怪しいよ? こういうとこって正装がマナーでしょ、制服着てきた方がいいかな。
「大丈夫ですよ、ここには身内しかありませんもの。肩肘張らずに気軽に昼食といきましょう」
そう言われてもね、こんな豪華なテーブルに豪華な椅子で食事するとなると緊張するのよ。絶対とんでもない価格の家具でしょ、なんかあっても責任取れないよ、いいの?
相原なんて目が泳いでるし緊張しまくってるし、普通に生きててこんなこと滅多に経験しないってことわかって欲しいんだ余裕綽々のお嬢様方とお坊ちゃん方。
そうやって緊張感に包まれながら料理が運ばれてくるのを待っているといい匂いが鼻にとんできた。でもこれってここみたいな場所でも出るものなのか? 老舗旅館とか料亭なら分かるけどここってホテルだったよな。
疑問に思いながらさらに待つとキッチリと制服を着こなした従業員が漆塗りのとても高そうな器をテーブルに持ってきた、やっぱりこれアレだよな。
「さあ皆様静岡名物の鰻重を是非召し上がって下さい」
そうだよね、これ鰻重だよね。思いっきり和食だよね、外観からして洋食かと思ったから変化球投げられた気分だ。
でも土用の丑の日でもなければ食べない物が食べられるのは嬉しいけどね。うーん、タレがしっかり身に絡んでいて美味しい。それに身も柔らかいし骨もちゃんと取ってあるからその辺の安物とは格が違うということを味覚から伝えてくる。
あっという間にペロリと平らげてデザートに富士山羊羹をいただいて最後に緑茶でひと心地ついた。……ホテルなのに出てくる物出てくる物全てが和テイストなんだけどこれコンセプトミスってない?
「別にこのホテルに訪れる皆様はそんなこと気にしませんもの、そういうのをこだわる方は別の場所に行くだけですから」
ここに違和感感じる人は初めからここに来ないから大丈夫ってことか、確かに旅行とかで泊まる場所の下調べくらいするしそこが合わなそうなら泊まらないわな。
「食事が終われば皆様を連れて行きたい場所がございますの、来てくださいますか?」
「いいよ、正直急な旅行で何をしてたらいいか分からなかったし」
「俺もドラゴンが見れてひとまず目標は達成したからな、それにお前が連れて行きたい場所というのが気になる」
「確かにそうですよね、でもこの辺りに有名な観光名所って富士山以外にありましたっけ?」
他の面々からも否定の声は出なかったので休憩してから皇さんの案内に従う方向となった。でも本当、どこに連れて行ってくれるんだろう。
部屋から外を見てるとドラゴン目当ての富裕層とか観光客とかは見えるけど住人が少ないからこのあたりってやっぱり危険だと判断されたから自主的か強制かはさておき避難が結構進んでるっぽい危険地域なんだよなあ。
そんな危険地域ならではの場所とかそれを活かした設備とかかな?
ホテルの人に礼を言ってからホテルを出ると乗ってきたリムジンが待機していたので再び乗り込んだ。以前の席についてなんとなくホテルを眺める。
やはりかなりお金がかけられていそうでかなり豪華そうに感じる。そしてそのホテルに訪れる客はやはりその価値に見合うだけの金をポンと払える上客だ。
そして車内に視線を戻すとthe金持ちといった光景が目に入る、ワインサーバーにテレビとかその他諸々とか車に求められる機能越えすぎだよね。
視線を設備面からずらすと高そうな服を身に包み運転手に指示を出す皇さんの姿が認められる。
……ふと、これから国の力が否応なしに衰えていく社会で次に台頭するのは皇さんのような財閥関連なのかもしれないと思った。
金の力で物資を手に入れて売り捌ける立場というのはかなり強いし、これからは企業が国に携わることもあるのかもしれない。
ああ、それにしても楽しいな。いきなりの旅行で驚いたこともあったけどまだ始まって間もないのに思い出に残ることがたくさんできた。
一緒にいる人たちもいて楽しいしちょっとした修学旅行みたいだ。それに彼らには俺と付き合うある程度の打算があるからこそ安心できる、心配しないで済む。
ストレスフリーで旅行してリフレッシュとか最高かよ。そんなことを思いながらぼんやりと時間を潰していると車が走り出した。
「皇さん、どのくらいで目的地に着くのかな?」
「大凡30分ほどですわ、それまでゆっくりしてください」
それほど長すぎず退屈はしない時間だな、景色を見てたら潰せそうだ。最初は富士山ばかりに目が向いたけどそこから引いて見れば住人が少ない街並みやシャッターの締まった店ばかり並ぶ商店街が目につく。
学校にいては分からなかったことばかりでいい勉強になる、五感で情報を直接理解してこそ理解できるものもある。
……そういえば前回の授業でレイスから何かドロップしてたな、あれから結局確認すんの忘れてたわ。ちょうどいいから今の時間にチェックするか。
ポーチに手を突っ込むと脳内に大体何が入ってるかを伝えるリストが表示される気持ち悪い感覚に耐えながらレイスを倒した戦利品を取り出した。
なんだ宝箱か、けどレイスからでも手に入るんだな。もっと強いモンスターからしか手に入らないと思ってたぜ。
もしくは強いモンスターの方がドロップしやすいとかいい物が手に入りやすいとかはあるかもしれないけどな。流石に弱いモンスターを倒して一気にレアアイテムゲットとか虫がよすぎるし。
開けと念じると前回同様のシーンが流れた、さてさて前は全身鎧だったが今回は良いのが出るといいなー。
ガチャで何が出てきたかを確認するような高揚感に浸りながら結果を待つと手元には多分文字が書かれた紙が残った……。宝箱ってゴミしか出ねえの?
というか何語だよこれ、そもそも地球上の言語かどうかも怪しい。
「秋さん、それは?」
「レイスを倒した時に手に入れた宝箱を開けたら出てきた、これ何? 俺にはちり紙にしか使い道が浮かばないんだけど」
うーん、車内に絶妙な緊張感。これそんな厄ネタなの? だとしたら真剣に俺のガチャ運の無さを嘆きたくなるんだけど。おっとどうやら無言の会話が終わったらしい、ほうほう伝えてもいいという方向にまとまったぽいな。
「あのですね、それは【レシピ】というものなんです」
「【レシピ】?」
レシピって料理とかに使うあの? いや多分違うな、語感とさっきの空気からするともっと対象範囲は広そうだ
「生産職の人が物を作る時に参考にする物ってこと?」
「ええ、貴方は不思議に思わなかったかしら? どうして人間がモンスターの素材やダンジョンの資源を集めているか」
「思った、正直前の授業の魔鉄はともかくとしてあとは何に使うのかよく分からなかったよ。植物なんて何に使うのかすらわからない上安全性をテストする必要があるだろうし剛毛犬の毛皮にしても一般人が素手で触れたら皮膚がズタズタになるくらい荒いから衣服にも向いてないし、魔石に関しては使い方すら想像できなかった」
「その答えが【レシピ】よ、【レシピ】にはある特定の品物の名称と性能、そしてそれを作るのに必要な材料と工程が載っているの。貴方が集めた素材は全て【レシピ】に載っている品物を作るために使われるわ」
要するに【レシピ】とやらで有用なものが手に入れば、そして独占できれば巨額の富が得られるってことか。
「でも結構ハズレもあるんじゃない? 流石に全部が全部当たりって美味い話は無いでしょ?」
「実際に使える【レシピ】ってそんなに無いんです、素材を集めるハードルが高かったり要求技量が高すぎたりで埃を被っているものも結構国にありますよ」
ならこれ、本当にゴミの可能性が出てきたな。使えないなら後で捨てとこ。
「永瀬さんさえよろしければ当家で買い取りますわよ、安心して下さい。買い叩くような真似はしませんわ、一時の利益で永瀬さんとの付き合いを切るような愚は犯しませんから」
「大丈夫だよ俺はそういうところは皇さんを信用してるから。取り敢えず値段はそっちに任せるよ。俺はあまりに情報を持ってなさすぎる、これじゃ交渉の席にすら立てない。君が判断してくれ」
「かなり潔いですわね、普通なら高価に買い取ってもらって大金を手に入れたいと思うのですけれど。参考までに伝えておくとものによっては億単位で動きますわよ?」
「情報を知らないのは俺の力不足故だ、どうして教えてくれなかったんだーとごねるつもりもない。知っているということも大事な情報だと思うしこれをいい経験にさせてもらうよ。それに君が言っただろ、俺との付き合いを断つような愚はしないって」
「ふふ、信じてくださってありがとうございます。レシピの解析後レシピの内容と買取額とその理由について説明いたしますわ」
「頼むよ」
レシピを渡すと皇さんは丁寧に受け取ってバックに仕舞った、後で解析班か何かに渡すのだろう。
「にしてもちょうどいいですわね、これから訪れる場所に」
「そういえば、この車ってどこに向かってるの?」
「ダンジョン跡地に作られた資源採掘場にして工場ですわ」
そう言うと同時にリムジンが塀に囲まれた施設内に入った、中ではトロッコなどが使われて地下から何かを運び出しているように見える。
リムジンは施設に入ってからしばらく走行し、一つの建物の前で止まった。
リムジンを降りると皇さんが俺たちを案内するガイドさんみたいに前で建物に向かって歩きながら説明してくれた。
「ダンジョンは攻略されると消滅するのですけれど、ダンジョン内の資源は消滅致しませんの。あくまで消えるのはダンジョンという空間だけで中身までは関係ないということですわね。だからダンジョン跡地には大量の未回収資源が埋まっていますの、あれはそれを採掘しているのですわ」
そして建物に入り
「そしてここで産出された資源を元にアイテムを生産していますの」
そう、説明した。中では施設の人がモンスター素材の加工をしていたりガラスの向こう側で薬品の調合をしたりしていた。
「それはわかりましたけどどうして私たちを呼んだんですか?」
「最近、皇財閥が何をしているのかやけに探りを入れてきますの。皆様にはここで見たことをご家族に説明していただいて特にやましいことはしていないと報告してほしいのですけれど、構わないでしょうか? 何分変なところを探られると困りますもの、そちらだって無駄はお嫌いでしょ?」
「なるほどな、敢えて見せることで探りを躱すためか……まあいいだろう。父には言っておこう、今すぐ対応する必要はないとな」
「そんな……ずっと皇財閥を安心して頼っていただいて結構ですのに」
「これからの社会でリードするために着々と力をつけている存在に注意を払うなという方が無理だろう」
そんな権力者同士の腹の探り合いは見えないところでしてくれませんかね、俺関係ないんで。
「そして永瀬さんにはいつぞやの鎧のお礼がしたくて」
「別にいいのに、見返りが欲しくてあげたわけじゃ無いし」
「人に施されたのなら必ず恩を返しなさいという家訓ですの、そういうわけにはいきませんわ」
皇さんが指示を出すと職員が木の長細い箱を持ってきた、なんだろこれ香木? 確かに価値はあるし部屋に置くだけでいい匂いで有用だけど扱いに困りそうだな。
「開けてもらって構いませんわ」
「じゃ、遠慮なく」
箱を恐る恐る開けてみるとそこには一本の剣が入っていた。赤い鞘をつけた剣を持ち上げてみると武器というしっかりとした感触がする。
握りの部分すらも赤く、そこは革で出来ているのかしっとりとしていて握りやすい。抜剣してもいいかの許可をもらったので抜いてみると剣身は白く、まるで獣の爪を想起させるような見た目だった。
そして剣自体が放つ格とも言うべきものは凄まじく芸術に疎い俺でもわかるほどで誰もがそれに目が奪われていた……前に使ってた木刀よりは強そうだな。
「僭越ながら私からこの剣、【竜爪剣】を贈らせていただきますわ。永瀬さんは以前鍛錬場で木剣を振るっていたと聞きましたので剣にいたしましたの」
「気持ちは嬉しいんだけど銃刀法違反は?」
「知らなかったのかい? うちの高校では特例で許可されているんだ。そうじゃないとダンジョン内で武器が使えないだろう?」
心配が消えたので遠慮なく竜爪剣をもらうことにした。取り敢えず今は箱に入れといて後でポーチに入れておこう。
今ポーチに入れると面倒なことになりそうだし。おっとまず皇さんにお礼を伝えておこう。
それから施設の見学をするともう日が暮れてきたのでホテルに戻り今日の予定は終了した。大浴場で心を洗われたのちフカフカのベッドで寝た
それからの日々も周囲の観光などを行って過ごしてついにレジャーをするコテージに向かう日を迎えた。
【レシピ】について
別にレシピ抜きでもアイテムを作ることは出来る。レシピはただ特定のアイテムを作るためにいくつかある方法の一つが書かれているだけなのでレシピ通りでなくても目的の品を作ることは出来る。
例えば書かれたアイテムが電力だったとしてレシピには水力発電の方法が書かれてあるけど他にも火力発電、風力発電があるよねっていう感じ。
ただレシピ抜きだと素材をどのように使えばいいのか分からないしどんな職のどのスキルが最適か不明なまま進めることになるので初めに作るのに膨大な時間と無駄に資源が浪費される可能性が高い。
しかし手探り状態で目的のアイテムを作れた場合、その工程や材料を詳しくメモしていればそれが擬似的なレシピとして機能する。
レシピとは単に生産物の開発に必要な手順を飛ばすための物なので必須かどうかと言われると微妙。むしろ手探りで探した方が思わぬ発見があるかも知れないのでそっちの方がいいかもしれない。
エリクサー的な回復薬のレシピを持っていたとしても大抵の場合、高性能のアイテムは入手難易度が高い素材や要求スキル、ジョブレベルが高いので作れず現時点で使えるレシピは限られている。
装備にしても性能が高ければ高い分だけ装備制限が付いているためやはり作れるものは限られているためなんだかんだで手探りで頑張って学問体系を築いた方が今後のことを考えると近道だったりする。
レシピを活用した方がいいのは本当に常識外れの品物を作ろうとする時くらい。