其れは無数の失敗の一つの結果
ガタガタと揺れる装甲車に乗って学外へ課外学習に行こうとしている。あっという間に月日は流れもう7月に入ろうとしてそろそろ気温が上がってきて夏の訪れを感じる。
テストはまあ、上々な結果だったと言えるだろう。グループでも赤点を取ったのは相原だけだったし中々優秀だな皆……相原はもう少し勉強しろよ、女子に告白して振られたショックで凹んでるんじゃなくさー。
ついに超常学の再開が決定し、学外で行われることになったらしい。別にそれはいい、久々に学外に出れてリフレッシュ出来るしな。
装甲車から久しぶりに見た東京の街並みは以前の活気ある姿からどこか陰鬱な印象に変わったように感じた。道を行く人も上を見上げているよりも下を向いてるようの方が多いように思えた。
それは本当に同じ場所かと疑うほどの変化で……激動の時代を生きているのだと実感した。そして最も変化したのは壁の存在である。
どこまでも広がる街並みは日本を代表する都市だという自負を語っているように思えたが、今は街を囲うように大きな壁が並んでいる。
お陰で遮るものなく自由にどこにでも行ける発展していた街が檻の中みたいで窮屈だと、そう思う。何でこんな風になってしまったのかなあとボンヤリと思考していると乗務員の人に話しかけられた。
「すいません、ここからはシートベルトをつけてください」
「あ、すんません今すぐつけます」
意識を装甲車内に移すと護衛代わりに付き添っている乗務員に注意されたので急いでシートベルトを装着した。
改めて車内を見ると一緒に乗っているメンバーが視界に飛び込んできた。車内は俺、皇さん、東條さん、西園寺さん、柊さんの5人組で固まっており組によって違う場所に行くことになったのだがこのグループ分けはどうにかならなかったのか?
男子1に女子4だと気まずいし、いづらいしなんとも言えない感じがする。それにコイツら誰一人喋ろうとしないから車内の空気が最悪だわ。
そのまま無言のまま走り続け、やがて壁を超えるとそこは最早都会とは言い難い光景だった。
「なあ皇さん、俺はあんまり東京は詳しくないから確信はないんだけど……あんなところに森なんてあった? しかも結構な大きさの湖と川も出来てるし、本当にここって東京?」
ビル群が立ち並ぶそのすぐ横に森が出来ていたり、都会には似合わない清らかな川が流れていたり……前に見た時はもう少し人工物は多かった気がする。
「ええ、これが現在の東京の姿ですわ。この変わり果てた街こそが私たちの生きる日本ですの」
その言葉には万感の想いが込められているように感じた。他の3人もこの街の様子を見て何か思うところもあるようだ。
一般人にはよくわからないが上に立つ者の系譜としては何か感じるものがあるのだろう。つくづくこういう場面で自分と彼らでは住む世界が、過ごしてきた時間が違うと理解させられる。
「この様子だとかなり人の住む場所が限られてくるだろ。最終的にはどのくらいに減少……済まない、言い方が悪かったな。どのくらい残すことが出来そうだ?」
「あくまでも予想ですが……2割も残ればいい方だと試算されていますわ」
それが多いと感じるか少ないと感じるかは人によって変わるだろうがどちらにせよこれから住める面積に対して人が過剰になることは確定してるんだ。
溢れる人が大勢発生することには違いない、溢れた人がどうなるかは……よそう、あまり明るいことではないだろう。
「今のところ、輸入は大丈夫なのか? 日本だと海外からの資源が無いと厳しいだろう?」
「幸い航路は支障ありませんから、皇財閥としてはこの危機的状況で資源を供給することで利益を上げさせてもらってますわ」
危機こそ好機なり……か、俺にはよく分からない話だ。それにこれからの社会で貨幣がどれほどの価値を持つかは甚だ疑問が残るがな。
「それにダンジョンから入手できる資源にはとても貴重なものもありますもの。そこには鉄はもちろん食料も含まれますのでダンジョンを攻略することである程度は国内で賄えますもの。国民全体は無理かも知れませんが一部だけなら賄えるのでそこまで危機的状況にはならないとは予想しています」
まあ、それなら大丈夫か。航路が大丈夫ってことは海にはダンジョンが無いのか海のモンスターが少ないか弱いんだろうな。
つーかその口調だとダンジョンからとれる資源にはそれ以外の物もあるようだが。どうせファンタジーじみた産物だろうがな。あっという間に病気を治す薬とか取れるんだろ?
「一応聞いとくけどその貴重な資源の詳細って教えてくれるのか?」
「教えたくはありますが、私それほど実態は知りませんの。お知りになられたければ薬の名家である西園寺さんや鉱業の名家の東條さん、装飾の名家の柊さんにお聞きなるといいと思いますわ」
わざわざそんな前置きが置かれるってことは薬の名家=薬、鉱業の名家=金属資源、装飾の名家=装備ってことを暗示してるのか……、それぞれで常識外れの性能をした品が入手されたらしい。
一応、他の3人の顔を見てると否定していないようだから事実みたいだな。……金属は分かるが薬と装備はどうやってダンジョンから出るんだ? 壁から出んのか。
「金属は壁からとか地面からと想像できるけど薬とか装備ってどうやって入手出来んの?」
あのね柊さん、そんなに溜息つかなくてよくない?
「少しばかり皇さんの永瀬さん贔屓が気になりますが……まあいいでしょう。たまにモンスターを倒した際に宝箱が出現するの。それを開けると様々なアイテムが得られ、そのアイテムは今までの常識では考えられない性能を誇っているわ」
あー、宝箱ねえ。んー宝箱って海賊とかが喜ぶあの木製のあれだろ。あんなのがモンスターを倒すと出現すんの!? ファンタジー過ぎんだろ。
「……一応言っておきますけど宝箱とは便宜上そう呼んでいるだけですから。多分、秋さんの思い描いている宝箱とは違うと思いますよ?」
頭の中を読まないでもらえるかな、西園寺さん。
「あの、永瀬さんが顔に出やすいだけだと思います……」
気をつけるね、東條さん。にしても宝箱か〜、一応それっぽいものには心当たりがあるけどなあ。でも絶対違うよなあ、サイズ的に。
「……装備ってかなり大きいよね? そんなサイズの箱が出ても持ち帰ることってかなり難しくないかな?」
「いえ、宝箱はかなり小さいわ。箱を開けて中身が出てくるまでは誰にも中身が分からないことに加えて一度開けると箱が消えてしまうのでダンジョンから持ち帰ってから開けているわ」
「……それって宝箱よりも大きな物が出てくるってこと?」
「ええ、そうよ。だから国の研究機関がこぞってこのことを研究しているわ」
わーファンタジーバンザーイ、うわじゃああのよく分からん物が宝箱かよ。え、あれどうやって開けんの?
「へえー、でもよく宝箱が開けられたね。大抵の場合、鍵がかかってる印象があるんだけど。しかもダンジョン産の宝箱でしょ、すごい罠とかが仕掛けられてそうなものだろうに」
「そこは日本が世界に誇る技術で、かしら。ね? 西園寺さん」
「そうね柊さん、流石世界でもトップクラスの技術を持つ日本だと思わず感心してしまうわ」
なるほどね、そこは教えられないと。教えてもらった情報だけでも結構な物だからここが引き際か。
「え? 箱に触れながら箱を開けたいと思えば簡単に開くんじゃないんですか?」
おっと東條さん、天然なのは可愛いけどここでそれ発揮するのは不味くない? 俺彼女たちが秘匿したい情報を知っちゃったんだけど。これ後で問題にならないかなあ。
「大丈夫ですよ、そもそも宝箱自体が貴重な物ですから。触れる機会なんて滅多にありませんもの。知ったところで東條さんが家から少し責められるだけですから」
よかった、後で知らない組織に消されたりしないんだ。東條さんが青い顔してるけどまあ、自分が口を滑らしたことを恨んでくれ。
でも俺多分宝箱を持っちゃってるんだよね、箱というよりどちらかと言えば匣だけど。
「散々教えてもらった宝箱なんだけど……それってコレ?」
ポーチからサイコロサイズの匣を取り出して見せると顔を驚愕に染め上げた、あーやっぱ持ってると驚かれる代物だわな。モンスターの遺体しか回収されない筈なのにたまーに匣が回収されるから疑問だったんだよ。
何か言われる前にさっと牽制を兼ねて言っとくか。
「偶々拾ったんだよ、偶々ね。でもそうか、これが宝箱か。知らなかったよ、お礼と言ってはなんだけどそれぞれに宝箱をあげるよ」
あくまで拾ったんだよーと伝えると察したのかニコリと微笑んでくる……怖ーよ。
俺も宝箱は5個しか持ってないがただの置物が価値を持ったんだ、代金としては安いくらいだろう。
宝箱をポンとそれぞれに渡しつつ手元に残った宝箱を手に乗せて開けと念じると、匣に模様が浮き出るとすぐに消滅して手元には黒光りする全身鎧が残った……小さなゴミが粗大ゴミになっただけでは?
というより手で抑えきれない大きさだから床に兜を除いて落ちたし、マジでどうしようかこれ。
「……誰か欲しい人居る?」
いくらポーチに入るとはいえゴミは入れたくねえわ。それなら使いそうな人の元に行く方が鎧も幸せだろうと思って聞くと4人とも手を挙げたことに驚いた。
「これ着るの……?」
コイツら正気かという思いを込めて尋ねるとそれは違うらしい。
「ダンジョンを攻略するために有効ですから、あくまでダンジョンを攻略する者達用に欲しいというだけですわ」
あとの3人も同様っと、とりあえずジャンケンでもして決めといて。
そうやって会話をしてると装甲車が止まった、どうやら目的地に着いたらしい。
シートベルトを外して伸びをするとパキパキと身体から音が鳴った、かなり凝っていたみたいだ。
外に出ると今まで曲がりなりにも存在した人工物が息の根を潜め、大自然が広がっている。地面に目を向ければ舗装されたアスファルトを突き破って草木が伸びていることがわかり、この森もまた街だったと教えてくれる。
苔むした車、根が張られたビル、折れた鉄塔などが見えるが、人類の力などこんな物だと示していると思うのはひねくれ過ぎだろうか。にしても
「何か文明復興系のゲームに出てきそうな光景だ……」
「分かる」
相原が同意してくれたようにゲームのパッケージにありそうだ。キャッチコピーはそうだな……「一から始める文明復興、君が世界を救う」かな。
生憎現状は、大自然(?)の脅威から国家を守る国家存続型シミュレーションゲームだがな。これが本当に文明が消えただけなら科学者たちがまた歴史を再現して発展させてくれたんだろうがダンジョンなんてものにはどう対応すればいいのか今でも分かっていないからな。
どうすればハッピーエンドに辿り着けるのかサッパリ分からん、このままだとバッドエンドどころか人類滅亡エンドになりそうだ。
続々と1組のメンバーが到着し、全員揃ったところで今回の目的が発表された。
「このようにダンジョンが氾濫してしまうとダンジョン周辺の土地を侵食して全く別物に作り替えてしまう。そしてこれが今現在も、そして未来にも起こるであろうことが予想されている。
諸君らにはこの現実を目に焼きつけた上でこれからの社会を生き抜く力をつけて欲しい」
要するにこのシビアな現実を受け入れて努力して欲しいとのことだ。そのためにまず、軍用ジープにさっきのグループで乗り込んで護衛帯同のもと安全なレベル上げを行うらしい。
俺にはよく分からないが生産職は戦闘行為以外でも経験値が入るらしいが普通に戦闘行為を行った方が多くの経験値をもらえレベルが上がりやすいらしい。
生産職無しではモンスター相手に有効なアイテムが作れないだろうし、ちまちまとレベルが上がるのを待つよりも早くレベルを上げて使い物にしたいのだろう。
いい装備が有ればその分楽ができることには違いないのだから。
だがこれはどういうことだろうか?
「すいません、何でこんなに格好がファンタジーチックなんです? 一応聞きますけどふざけてるわけじゃないですよね?」
そう、護衛の人たちの格好が何というか、剣と魔法のファンタジー世界に出てきてもおかしくない格好なのだ。
いや、迷彩服を着とけよ。
「ハハハ、それ前の子にも言われたなあ。この装備はダンジョン産でね、かなり高性能でそれこそ今の科学力じゃこれ以上のものは作れないというくらいすごい物なんだ。だからふざけてる訳じゃないし、君たちのことは命に代えても守るから安心して欲しい」
ダンジョン産の装備ってそんなに凄いんだ、ならあの鎧も特殊な効果があったりするのかな? それに凄い決意を発表してるし、いやそんなにかしこまらないで下さい。あなたが死ぬことは求めてないので、全員で帰りましょうよ。
全員乗り込んで点呼を取ってから、ジープが目の前の大自然に向かって走り出した。
青空の下、ダンジョンが氾濫しモンスターが蔓延る地で授業が開始された。
固有スキルについて
モンスターに比べてあまりにも人類が弱すぎるので調整のために与えられた要素……なのだが管理する側が人類の脆さ加減をよくわかっておらずあまり上手く調整されておらずゴミスキルが多い。
主人公の保有するスキルは字面と説明文だけならば強そうに見えるか実際は割とゴミ性能orとんでもないデメリット付き。
例えば“魔力知覚”だが魔力が知覚できるので魔法や霊系モンスターの存在にも敏感になるが魔力を知覚できるが故に魔法を唱えてオートで勝手に魔力を動かして発動させる感覚に極めて強い嫌悪感と忌避感を覚えて身体がエラーを吐きだすため発動の途中で体調が悪くなり結局発動できないまま終わる。
そして無理矢理発動させようとすると身体のどこかに異常が発生する。例えば血管が切れるなど。
そのため事前に発動には式を組み上げた状態で保存しなければならないがその分演算領域が圧迫されて負担となる。それが初歩的な魔法ならばさして問題はないが複雑な式を用いる高等魔法になるとそれがハンデとなる。
何しろストックしているとその部分が使用できないだけじゃなく貯蓄に使った分だけ新たに式を編む効率が落ちるからね。
しかも戦闘では完全に事前ストックのみで対応する必要がある。言葉一つで組み立てられないので準備にも時間がかかり魔法職に対してマイナスの補正がかかるといっても過言ではない。
主人公がそれでも普通に魔法を使えているのは元々演算領域が優れていたのと“空間把握”で更に拡張できているから。でも“空間把握”は入ってくる情報量が多すぎるので逆に使えない上にパッシブなので常に情報が入ってくるので人類のスペックに対しての要求水準が高すぎてあんまり使いこなせていない。
主人公が魔法を唱えても発動できたのは初歩的な魔法だったということと体の拒否反応を“自動回復”と“再生”で無理矢理抑えたから。
だからといってその負担が減るわけでもないので気持ち悪さはそのままである。あの時主人公は割と本気でぶっ倒れたいほど精神的には大ダメージを喰らっていたが無理矢理肉体面が回復するので気持ち悪いのに体は元気というある種の拷問状態だった。
こんな感じで割と主人公の保有スキルは碌でもないものが多い。
既出の固有スキルで一番チートなのは山本が持ってた“整頓”だよ。あれを持ってると魔法式の改造にプラスの補正がかかるからあいつにもしも魔法職の適性があったら衰退した世界でもチーレムが作れたよ。




