これは高校生の会話です
ん〜いい天気、今日は良さそうなことがありそうだ。10日くらいで学校が復旧したけどその間は休みでまだダンジョンにいるモンスターを間引くぐらいしかやることなかったんだよあ。
誰かと遊ぼうにも犠牲者への追悼式があったから騒げるような空気でも無かったし。というか興味無かったから調べてなかったけど休みを利用して概要だけでも調べてみるとまあ世界がヤバいことヤバいこと。
本当にいつかダンジョンから氾濫してきたモンスター向けの防壁が建設されて壁の内と外で格差社会が広がりそう。
寮でご飯食べてる時も思ったけど生徒数が結構減ったなあと分かるわ、だっていつも混んでた食堂に空きがポツポツ見られたし。
寮を出て覇気のない顔をした生徒の背中を見ながら鼻唄をしつつ学校に向かうとほ〜、クラス分けの掲示板が掲示されてる!
「久しぶり、相原元気だった? お前、何組になった?」
「おう! 久しぶり! お前も元気にしてたか? 俺はお前と一緒の1組になったぜ」
諸事情により生徒数が激減したので時期外れのクラス分けが行われたのだ、そうか〜相原と一緒のクラスか〜。今度は長い付き合いになるといいな! 何しろ前のクラスメイトとはもう二度と会えないし。
それにしても俺はまた1組か……自分で見ないで他人から言われると残念な感じがするのは何でだろうね、俺のワクワクを返してくんねえ?
「あれ、柊さん? 久しぶり」
「ええ、永瀬さん久しぶりね。貴方と同じクラスになれて心強いわ」
へえ〜、柊さんも同じクラスか〜、一応自分でも掲示板を見ると俺の名前と2人の名前、そしてあの6人組の名前も載ってた。頼むからこのクラスは長続きして欲しいわ。
サラッと柊さんが俺が【WCM】を討伐したことを知ってるかのような口調だったのは無視します、だってそこに首突っ込んでも碌なことにならない気がするし。つーかあれから俺に何のアプローチも仕掛けられてこないことが不気味だわ。
3人で喋りながら教室に入ると結構な人数が既に入っていた。おっとそこにいるのは上流階級6人組の皆様じゃないですか。手を振ると応えてくれるのが森山だけということに嬉しくて涙が出るね。
「佐々木、何でダンジョン前にあんな厳つい兵器がズラッと並んでるか知ってる? 毎日毎日デカい音を鳴らすから迷惑なんだけど、お前現職大臣の息子だろ? 何とかしてくれ」
「俺にそんな権力あるわけないだろ!? まあ確かに騒音は迷惑かも知れんが諦めろ、ダンジョン下層域のモンスターが上層に上がってきたから本格的に駆逐するいい機会なんだ。普段兵器ですら手が届かない場所に潜んでいるモンスター共に手が届くんだ、これを見逃す手は日本にとってあり得ない」
「俺にとっては大迷惑だけどな、お前はこの経験を活かして現地の人間に寄り添える男になれよ」
「何でお前は上から目線なんだ!」
そりゃお前が情けないところしか見せていないからだろうが。あ、あとあの不気味なことについて聞いとくか。
「皇さん、何で俺のところにアプローチが無かったか知ってる?」
具体的なことは言葉にしてないけどどうせ知ってるだろ? 何しろ現場には俺の血肉がタップリと残ってたはずだし何なら右腕が地面にぶっ刺さってたし。家の権力使えば余裕で個人を特定できるだろうし。
頼むから見てて不安になるような笑み見せんのやめてほしいなあ、正直お前の笑み見てまず感じるのは不吉さだし何ならその後ノータイムで退路の確認するからな。……何かあったら窓から逃げよっと。
「……そうですわね……、質問に質問で返すようで恐縮なのだけれど、精鋭たちを蹴散らした怪物を倒した英雄の機嫌をわざわざ損ねたいと国は思うかしら?」
「納得したわ、確かに怪物を超えた奴を怒らせたいとは思わんわな。虎の尾を踏むようなものだしそれが原因で暴れられたらたまったもんじゃないし」
フィクションならそこは国の表に出せない所属の役人たちが詰め寄るが実際そんなことしたら折角消えた脅威が復活するようなものだししないよねっていう。
「あの……、WCMを倒すとジョブレベルの上限やジョブに就ける数が増えるって本当なんですか?」
「? どっからそんなデマ流れた。んなわけ無……何でそんな驚いた顔してるんだ? 佐々木に皇さん?」
「いや……少し驚いただけだ。……本気で尋ねるが嘘は言ってないよな?」
「ああ、それがどうした?」
どうやら俺が余計なことを言ってしまったらしいということはわかった。相原が何が何だかという顔をしてるので含みのある会話を切り上げてこれからのことに話題を切り替えてやるか……何で柊さんは会話についていけてる雰囲気なんですかね。……絶対国の裏を知れる立場だと思うけど彼女はただのクールビューティーJKだということにしておこう、そうしよう。
ぼくこどもだからいわれなきゃわかんない。
「クラスって今回は何組まであるんだ? 実は俺の名前を見つけてから掲示板を見てなくてさ」
「何だ知らないのか秋は、合計で8組だぞ。けど俺が1組でよかったぜ、何しろ美人が多いからな!」
「へえ、そうなんだ。サンキュー、でも美人が多くてもお前には関係ないから安心しろよ」
「どういう意味だ!?」
そのまんまだよ、見ろよウチの女子軍団からの冷たい視線。クラスの女子も冷たい視線をしてやがる。馬鹿が馬鹿やってごめんねという想いを込めて爽やかな笑顔で手を振るとあら不思議、冷たい視線を出してた顔が照れ一色に染まっちゃう。
……おかしくない? フォローした俺がグループの女子からさらに冷たい視線を向けられるとか。でも相原、お前にはその資格ねえから。
にしても合計で8組か……そんだけ生徒が死んだんだろうな、モンスターの脅威度がよく分かるぜ。生徒も明らかに沈んだ感じと平常運転と二極化してるし、これ平常運転組はボッチか人死に慣れてる奴だろ。既に6人くらい交流持ってるからこれ以上のお付き合いは遠慮しとくね。
「あっ! それで思い出した、森山! 手前ぇ護衛ならもっと強くなっとけよ! あん時お前らの護衛めっちゃ疲れたんだぞ!?」
本当肝心な時に役に立たなかったなお前、さも俺切れ者ですけど見たいな顔すんのやめてくれる? あれで俺からお前の評価は結構下がったからな。
「すまない、けど中々ジョブレベルが上げられなくてね。ステータスもあまり上がっていないんだ」
「どうせ私有地のダンジョンの1つや2つ持ってるんだろ? そこでレベル上げすれば……ああそうかそういうところはもっと組織の上の人間が使うか、悪かったな」
「いいや、実際に俺が役に立つ立たなかったことは確かな事実だしね。次は役に立てるように頑張るよ」
「あんなこと二度と無い方がいいけどな」
そんなくだらない話をしてるとついに事件明け初っ端のホームルームだ。俺もね先生方が色々な苦労背負ってんのは分かるよ、今までやったことのないカリキュラムに身体のことも考慮しなくちゃいけない苦労なんて俺には想像もできないよ。
それにとんでもない事件が起きたせいで先生、生徒問わずに多くの死傷者を出したからその後処理か忙しかったこともその目の下のクマを見たら一目瞭然だよ。……でも、もう少し座席順考えようね?
「先生! 俺、リザードマンなんで隣が雪女だとスリップダメージ喰らうんすけど!?」
「私、陽の当たる席じゃないと頭の花が萎れちゃうのよ」
「前々から言ってますけど俺、水生生物寄りなんですよ!? ずっと陸地で授業してるとヤバいくらい肌が乾燥するんでいい加減俺用のプール用意してくださいよ! 最悪ビニールプールでいいんで!」
「先生、東條さんの羽が邪魔で黒板が見えません!」
「すまん先生、椅子壊しちまった」
「せんせーい! 隣の席の子の翼が当たってくすぐったいので机の間隔を広げてくださーい」
「隣で延々と呪いの藁人形を作っていて不気味です、先生」
……ごめんね、ほんと……ごめん。でも俺たちだって先生たちを困らせようと巫山戯てるわけじゃないし結構真剣に考えてんだよ?
ほらリザードマンの星くんなんてガチガチに震えてるし死活問題だよ、そして雪女の西園寺さんがそのセリフを聞いて睨んでるけどそれは許してあげて?
問題に個別に対処してたらそれからあっという間に昼休みだ。嘘みたいだろ、まだ終わらないんだぜ。今日中に終われば御の字だわ。
「そんで、WCMの景品が何だって?」
朝の会話の続きが気になったので深く掘り下げてみた、何か【回収袋】以外の物が景品として認識されているので何でそんなことになったのか不思議で仕方ないわ。
「俺も気になる! 何か部屋で寝てたらいきなり変な声が頭に直接響いてきて超ビックリしたし、意味深な言葉でその日は眠れなかった!」
子供か。そして学校帰ってすぐ部屋で寝るとかいいなあ、あの騒ぎに遭遇してなくて。
「まあ、別に言ったところで構わないか……。あの声が言っていた報酬はWCMと戦闘した者全てのレベル上限及びジョブ取得数の増加だ」
「そう言われてもピンと来ないんだけど具体的に言ってくれる?」
「あくまで東條家の調査でよければすぐにお話し出来ますけど、それでもいいですか?」
「頼む」
「そうですね、本当のジョブレベルの上限は100なんですけど実際にはそこまで伸ばせないことも多いそうなんです。それが戦闘に参加した者たちの中で上限が100に及ばない全員がそのレベル上限を伸ばしたらしくて。
それに既にレベルを上限まで上げたにも拘らず今度はジョブ保有数の限界にぶつかっていた者たちは新たにジョブを保有できるようになったんです。だから国としての見解は報酬とはジョブレベル上限及びジョブ取得数の上限の増加と結論づけたらしいです」
……俺にはそんな報酬無かったんだが? これ東條が言った戦闘参加者報酬とMVPの【WCM】報酬って違うっぽいな。これってどっちかしか得られないのか知らないけど逆に言えば【WCM】戦でMVPになった俺がわざわざ“報酬”について言わなきゃ誤解するのも分かるわ。だって実際に得られた物があるならそっちだと思うわ。
でも【回収袋】:ニア・レンジ自体の性能も微妙だからそっちの方が良かったかもなあ。何しろ倒したモンスターの遺体が袋に回収されるだけだし、一応袋より大きな荷物も入れられるから便利な収納だけどそれだけだし。
自室からダンジョン内の間引きしてモンスターの遺体を得て俺にどうしろと? 中では時間は流れないらしいからいくつか料理を収納してご飯代わりにしてるけど地味だわ。今もポーチを装備してるけど誰も気づかないし。
「あのさ、さっきから聞いてたんだけどこれって俺が知っていい話? 知った者は口封じされるみたいな雰囲気バリバリなんだけど」
「唯一の一般人代表で答えてやるよ、喋らなきゃ普段通りの日常を過ごせるから安心しろ」
「それって口滑らしたらアウトなやつじゃん!?」
おいおい、何言ってるんだ。そんなの当たり前の話だろ、こんな不安定な情勢の時にこの情報漏らしたらダンジョンに行く馬鹿が増えて大変じゃねえか。それに俺の言ったことを誰一人否定しないという事実で察しろよ。
「まあ簡単に説明すると今この国はダンジョンという脅威に晒されている、これは分かるだろ? んでダンジョンってのは厄介で中にいるモンスターもそうだがそれの討伐にかなり費用がかかる。
だから財政的にもダメージだしこの国には国内のダンジョン全てを消滅させるだけの体力は無い。だから必要最低限の土地だけを守る方向に舵を切ろうとしてる。そんな中、国の力が弱まることを見越して商人はこの機会を利用して上に行きたいし権力者は未来でも権力を握れるように戦ってるわけだ。
その一環として行われてるのがこの学校だな、武力があるというのはある意味最強の手札だから子供のうちから訓練させておこうということだろうな。何か違う点はあるか、お前ら?」
そんな驚いた顔されても困るわ、いくら鈍くてもそんな立場の人間の子供がここにいて会話の端々から匂わせることを考えれば誰だって分かるし。
それから相原が青い顔で喋りませんと誓ってきたがスルーしてこれからどうなるのか権力者組に話を聞いて昼休みは終わった。
全く、高校生のうちから身の振り方を考えないと生きていけないとかハードモード過ぎねえ? もう少し遊ばせてくれてもいいと思うけどなあ。
1日かけて席順を決めた結果俺の席は後ろの方かつ相原や一ノ瀬さんが隣というまずまずの結果だった。多分ずっと平和な時間は続かないだろうからこれからの授業時間が貴重になるだろうなあ、明日から楽しみだ。
超常学のダンジョン探索は無期限延期となりそれからは普通の学生生活を送って友達と遊んで青春を過ごし、夜は勉強とモンスターの間引きをするという毎日を過ごしているとなんかすごい充実感があるわ。
2週間も続けているとモンスターがダンジョンから出てきたことなど皆忘れて学校に活気が戻ってきた。そうそうこれだよ、これ。これが俺の過ごしたかったthe高校生活だよ。中間テスト1週間前になったから勉強会でもしようかとキャッキャと騒いでいる中ついにダンジョン内の最後のモンスターを討伐した。やったあ。
その翌日ダンジョンが消滅し、跡地に正体不明のモニュメントが設置されていた。……誰かこの世界の説明書をくれ。
【WCM】の報酬について
【WCM】の能力を使用可能な一品はMVPのみだがそれとは別に戦闘に参加した勇士にはジョブレベル上限及びジョブ取得数上限増加のボーナスが与えられる。
世界は基本的に下級職6個と上級職4個の合計1000レベルが人類の上限となるようにしているが大抵のものはこれに満たない。
しかし【WCM】戦に参加するとその貢献度に応じてその条件に満たないものに限りボーナスを受けられる。
既にその条件を満たしている者には上限解放ボーナスは与えられないがその代わりにその分多くの経験値が得られる。
そのため主人公の場合は報酬がどちらかしか受け取れなかったということではなく単に条件を満たしていたためボーナスを受け取れなかっただけである。




