学校≠安全地帯
いやあ〜カラオケは楽しかったですね! 久々にワイワイやれて気持ちよかったし明らかに上流階級っぽい人と交流作れてよかったわ。
それに下級職もカンストしてまた別のジョブに就いたしいいこと尽くしだよ。何しろ結構離れた場所からでもダンジョン内のモンスターに攻撃できるし7、8箇所ぐらいなら同時に把握できるからすごくレベル上げがスムーズなんだよね。
真面目にやれば1週間足らずで下級職はカンスト出来るな、……それでもなお光弾が全く効かない奴が大勢いるってどういうことですかね?
骨だけ人間っぽいモンスターや少年の憧れ、ドラゴンっぽいモンスターとか当たっても反応すらしねえし化け物すぎる。
中々充実した1日をジョブに就いている組は過ごしたけどジョブ就いてない組何やってたん? めっちゃグロッキーじゃん。朝食から辛気臭い顔するなよ、俺の気分が下がるだろ。
「お前はいいよな……あんなグロ画像見なくて済んで……。こっちはあらかじめ瀕死にさせたモンスターを殺させられたんだぞ……。今でもあの生暖かい感触と肉に刃が食い込む感触が残ってるし……夢で殺したモンスターが逆に殺しにくるしで散々だよ」
「……オロロ(口から虹を出している)」
片山and加藤コンビばダメだな、もっと自分の中にしっかりとした芯を持てよ。芯がしっかりしてる人間はそんなことにならないぞ、俺みたいにな。
「それで、お前らは何のジョブに就いたんだ? 生産職とか魔法職ならそんな目に会うことは無くなるだろうからその辺か?」
「【剣士】です……」
「うっぷ、……【拳士】だ……」
「お前らってもしかしてマゾヒズムに目覚めてたりする?」
「「そんなわけあるか!?」」
じゃあ何でだよ? あれか、適性が無かったからか。それでもなおその選択肢はないだろう、特に加藤。お前のジョブって多分モンスターとの殴り合いを前提としてないか。オイオイ自殺志願者かよ、斬新だなモンスターの糧となる事を望むとは。
「違うんだ、選べたのが【剣士】系統と【特殊】系統の【生贄】と【農民】系統ぐらいだったんだ。後はもっとロクでもないものばかりで選択肢がなかったんだ。好き好んで選んだわけじゃない……」
「僕の場合は【舞踏家】系統、【吟遊詩人】系統、【記者】系統みたいに明らかに戦えないジョブばかりでこれしか無かったんだ」
……どうして人間ってこんなに貧弱なのかね、今もダンジョンでボリボリ食われてるモンスターでさえ1体で非武装状態の学生を100人は殺せるのに。本格的に詰み状態では?
ポーン
「ん? 学校からお知らせだ」
えーと何々、昨日行われた超常学の講義で精神に異常を訴える学生が多いため今日は休校と致します。急な連絡をお詫びいたします……っと。
早く言えよ、もうこっちは朝から起きて準備万端なんだよ、制服に袖を通してんだよ。しかし食堂の生徒達がお通夜みたいに静まり返った状態じゃあしょうがないか。自室で大人しく勉強しとくか。
「やあ」
「……どうしてここに?」
「暇で、どっか遊びに行かない?」
体感12時間は粘ったけど飽きたので森山くんのところに遊びにきた。というかこっちは寮暮らしなのに何でこんな豪邸に住んでるの? これが庶民と金持ちの違いかあ、いつかそっち側に行きてえな〜。
「俺はこれから鍛錬場で特訓するつもりなんだ、悪いね、付き合えなくて」
うーんそうなると相川辺りを誘うか、でもなあ。これで断られるとどうしようもないし、ついでに俺も便乗するか。
そんなわけで森山くんと鍛錬場に向かうと何という事でしょう、そこには佐々木に一ノ瀬さんがいるではありませんか。他にもポツポツ学生は来ているし、早くジョブの力を確かめたいらしい。子供かよ。
「いいか、人類は12000年の時を経て文明という力を育て上げたんだ。その結果戦闘などという野蛮な行為は淘汰された。これから身につけていくべきなのは武力ではなく、弁術などの交渉に必要な、商談に必要なスキルだろう?」
「畏まりました、では本日のメニューはこの教官付きっきりのスペシャル特訓コース(地獄級)でよろしいですね」
「話聞けよーーッ!?」
一ノ瀬さんが何故か制服ではなくメイド服着てるからとんでもなく目立つし片手で佐々木を引きずっているから尚のこと目立つわ。
佐々木が何か不興でも買ったのか知らんけど腹を括れよ地面に爪を突き立てて抵抗するなよ、見苦しい。ここは親切な俺が一思いに介錯してやろう。
「おはよう、一ノ瀬さん。それ引っ張るの手伝おうか?」
「おはようございます、永瀬様。昨日は本当に楽しかったです。はい、手伝っていただけると幸いです」
そう言われたので片手でずんぐりむっくりな佐々木を上空20mぐらいまでかち上げて地面に赤い現代アートと化す前にキャッチすると佐々木の黒目が白目へとクラスチェンジしたので襟首辺りを掴んで一ノ瀬と喋りながら鍛錬場に入った。
「へえ、一ノ瀬さんって最近佐々木のメイドになったんだ。他人の世話とか大変じゃない?」
「正確に言うとお父様から息子の世話をしてくれという指示があったので付いているだけです。なのでどちらかと言うと次郎様が粗相をしないように見張ることが仕事ですね」
「監視役ってことかあ、確かに親元を離れてはっちゃけるかもしれないから親は心配だよなー」
パパっと教官に佐々木を押しつけて着替えると既に森山くんが丸太に向けて打ち込みをしていた。というかそれ真剣じゃん、危険すぎるわ。
「何で真剣使ってるのかっていう疑問は置いとくとして、据え物斬りを何のためにしてるの?」
確かに力をつけておくことに越したことはないけど学生がそこまで身を入れるほどとは俺は思えない。誰だって痛いのは嫌いだし頑張るのは好きではない筈だ。生来の気質といえばそれまでだが何か事情がある気がする、例えばなにかを聞いて奮起するとか。
「俺は護衛だからね、お嬢様を護るために自身の鍛錬は欠かせないんだ。これからは人相手だけでもなくモンスターからも護らなければならないからね、ジョブの力を高め、そして把握しておくことは重要なんだ」
学生の身で仕事についているとやっぱり仕事関連が真っ先に頭に浮かぶのかなあ、一ノ瀬さんも似たような感じだと思うけど大違いだな。
ひとまず俺もその辺に用意してあった木剣を手にしてえいやと丸太に打ち込んでみたら丸太が砕けた。何でだろうね不思議だね、多分何も考えずに適当にやったせいだな。
どうやら高くなった筋力は丸太如き軽く砕けるらしい、過剰だと思うのは俺だけでしょうか? それに気になったから新しい丸太を用意して軽く突くと抵抗感無くあっさりと丸太を貫通した……【突神】が原因だろこれ。
「《スラッシュ》!」 ガスッ!!
何か森山くんが叫ぶと丸太に今までにないほど刃が食い込んだ、何それ俺もやってみたい。
「何それ?」
「【騎士】で覚えられる技だよ、俺ではそんなに多く使えないけどいざという時に備えて使えるようにならなくちゃね」
はへぇ〜、そんな技あるんすね〜。でもわざわざ技名を言うのは恥ずかしくないの? そういうのは大体中学2年辺りで卒業するもんじゃない?
「技名を言わなきゃ発動できないんだ」
大変っすね、それでも技が撃てるとか男のロマンじゃないっすか。いいなあ俺もやりてえなあ、でも木剣じゃ何も出来ないしなあ。
それから丸一日くらい鍛錬に付き合って休日が終わった。ついでに佐々木がボロ雑巾のようになっていたけどどうでもいいことだろう。
超常学なんていう頭におかしい授業以外はかなりまともだし何なら優れているので中々いいのでだいぶ満足だ。
喉元過ぎれば熱さを忘れるというか、1ヶ月も経つとかなりグロかった経験も忘れるらしく普通に学生は学校生活をエンジョイしてた。
俺はそんな中真面目に授業を受けて友達と遊び、レベル上げをするなどとても忙しくも充足感ある毎日を過ごしていた。
「よっしゃあっ!!」
とある日の放課後、俺は遂におおよそ1ヶ月の成果が出たことに喜びの雄叫びをあげた。周りが怪訝な目で見てくるが今ばかりはどうでもいい。そんくらい報われた感あるわ、技に憧れてなんとか出来ないかと通販で木刀買って試行錯誤して何の意味もないかもしれない素振りや打ち込みが身を結んだかと思うと目から涙が……。
木刀を使われなくなった金属できた棒に向けて振ると豆腐を切るかのようにスッパリと切断された。その断面はとても滑らかでありとても木刀でそれを成したとは誰も分からないだろう。
《精刃統一》:10SP/sで発動する。自身の持つ武具の属性を斬属性に変更する。このスキルの効果は手からその武具を手放した時に強制的に無効となる。
持っている物を同程度の品質の刃物に変えるだけという内容のくせにSPを秒間10消費するとかいう極めて効率の悪いスキルだが【斬神】持ちの俺が覚えると即座に名刀に早変わりだ。
これで街中でモンスターや暴漢に襲われても大丈夫だろう、護身用に警棒か何かを持ち歩いていれば武器に変わるしな。
ここ最近日本国内じゃダンジョンからモンスターが氾濫してくるニュースが割と頻繁に流れてくるしその影響で治安が悪化するとかいう良くないことも報道されているし暗い世の中になってきた。
幸い学校は外からある程度隔離された環境だからいいけど生徒がモンスターの殺害ショックから立ち直ったからジョブの力を手に入れて調子に乗るやつも結構いて何だかなあという感じだ。
そういう奴は大抵すぐ先生から折檻くらうしすぐ戻るんだけどな。5月に入って学校にも慣れてきたとこに超常学で遂に教官が同行してダンジョン探索が月末に行うと発表されてからピリピリしてるから精神的に不安なんだろうけどな。
自分より劣る存在を見つけて悦に浸りたいっていう人間のごみみたいな1面がこんな時にも発揮されるとは思わなかったぜ。森山くんを見習えよ、彼ずっと鍛錬場で汗を流して鍛えているんだぞ。自力を上げろよ。
目的を達成したので手早く荷物をまとめて俺は鍛錬場を後にした。
それから、道中で初期からジョブ持ち組の皆んなと偶々あったので一緒に帰ることにした。
「何か最近、世の中暗くない? よく分からない人達が近いうちにダンジョンからモンスターが溢れかえり人々に襲いかかり人類は滅亡するとかいうこともよく言われてるし」
「そうだな、全く。マスメディアの民度の低さには呆れ返る。どうして国民の不安を煽るような真似を」
「だからこそ、万が一に備えて力をつけないとね」……
俺がそう言うと何故か俺を除いた6人組が視線を合わせた後に佐々木と森山くんがそう返してきた。何か裏ありそうで怖いんだけど。一体何が……? 光弾。
道端でいきなり魔法をぶっ放した俺に周りが驚いたしその先に半透明なモンスターが断末魔をあげたことにさらに驚いた。そしてそんなことがどうでもいいくらいに俺が驚いたのはダンジョン内のモンスターが地上へと向かって来ているということだった。
「早く避難するぞ!? 急げ!?」
ダンジョンが氾濫しやがった!!




