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甘くないファンタジー(別視点有り)

 「……え〜だから、体心立方格子と面心立方格子、それに六方最密構造の配位数は……」


 現在午前12時を迎えようとしています、先生からありがたい化学の授業を教わっている最中です。……おかしいね、何で普通に授業があるのかな? こういう時ってしばらく休校になるもんじゃない?


 わかるけどね、鳥取が大変な事態です。さて、それで東京に甚大な影響がすぐ出ますか? と聞かれたらNOと答えるし生活に異常をきたすかと言われたら平常運転で問題なしと言うしな。


 というわけで俺は真面目に授業を聞きつつ遠隔でダンジョン内のモンスターを駆逐してレベルを上げる内職をしてる。正直な話、ここら辺は予習したところだし俺の速度がかなり上がったおかげで、いやせいで? 思考時間というか体感時間がかなり多くなり暇だ。


 速度が上がると1秒当たりの密度が大きくなるというか、とにかく出来ることが増えていく。それに《思考加速》なんていう自身の体感時間をSPを消費して10倍化するスキルも手に入って授業がとても遅く感じて退屈。本来なら鈍足の魔法職が近接戦闘職の動きについて行くためだろうけど俺、近接系統のジョブを2つ取ってるからあんまり意味ないんだよね。


 だから1時間も勉強したら体感時間は10倍くらいには最低でもなるしそれだけ処理できる情報も増える。なので割とあっさり今年度の範囲は学習済みだ。


 なので教室内で真面目な顔して意識をダンジョン内に置いてモンスター達を狩っているけど魔刃が本格的にゴミと化した。何か初めはこれ生み出した俺天才かと自画自賛したがダンジョンの、多分14、5層辺りから全く使えない。


 生み出す魔力塊の密度が周りの魔力より低いからMPを消費してもすぐに消えてしまう……これ、今の地球の魔力濃度が薄いから使えてただけだな。というより魔刃なんて大層な名前だが実際はただ魔力塊放出してるだけのショボい魔法でここまで来れただけでも上等か。


 しかもこれから地球の魔力濃度はどんどんダンジョンから漏れ出した魔力の影響で上がるだろうし本格的に使えない子になる日も近いわ。


 なので代わりに適当なモンスター相手に光弾をばら撒いて穴だらけにしてます。光弾はいい魔法だよ、発生と同時に着弾するしモンスターの強靭な肉体を貫くしで威力、スピード共に申し分ない。


 絶対光速ではないけど速いし強いモンスターには効かないだろうがレベル上げが出来る程度には威力があるしで及第点は十分あるだろう。


 ぽんぽん光弾を出し続けてるとようやく鐘がなりお昼の時間だ。適当に野郎どもをかき集めて食堂で昼飯を食べてると当然のように朝のニュースが話題となった。


 「怖いよな、あんなことが起こるなんて」


 「ほんとほんと、しかもダンジョンの真上に学校あるだろ? 危険すぎだろ」


 「今調べたら日本国内だけではなく他国でも同様のことが起きたらしい」


 そんな感じでわいわい言ってたけどそんなに悲壮感はないし悲観的でもない、何しろ画面の向こう側だし所詮は対岸の火事よ。


 にしても色々いるな〜、この学校にいる奴。明らかにいいとこのお嬢様に軍人志望の奴、モテモテハーレムを作りたい奴に誰かを守りたいからとかいうお前主人公かよという奴まで……キャラ濃すぎだろ、俺の個性が埋没するわ。


 そんなこんなでお昼休みが終わり、とうとう当校目玉の授業、「超常学」のお時間だ。これには俺も思わず目を輝かさざるを得ないね。どんなこと教えてくれるのかワクワクするね!


 ソワソワしながら教室で待っているとおっと厳つい軍人さんがいっぱい入ってきた。怖いし、むさ苦しいんで窓開けていいっすか? 自分の中で興味が急激に萎えていくのを実感した。何で視覚的ダメージ負いながら授業受けなきゃ……おっと最後にめちゃくちゃ綺麗な美女が、そうだよな。授業は真面目に受けなきゃいけないよな。


 手のひら返しで態度を入れ替えるとセンターの偉そうなオッサンが話を始めた。チェンジでお願いします!


 「まず初めにダンジョンについて知っているという生徒は手をあげて欲しい」


 生徒全員が手を挙げると次にモンスターについても聞かれたのでそれも全員手を挙げた。もしかして初回は常識的な知識を教えるのか? ……一瞬それだけかと思ったが基礎を固めるのは何事においても大事だと思い直し真面目にレベル上げしつつ話を聞いているとやけに間を置いて


 「ではジョブについて知っている生徒は手をあげて欲しい」


 そう言ってきた。何だそんなことかと手をあげて全員が揃うのを待っているとあっれ〜おかしいな? 何で俺含めて7人しかいないんですかね?


 「そうか、意外と多いな。だが知らない者の方が圧倒的に多いだろう。今日はジョブについての講義を行う。ジョブとはジョブに就いたことの無い人間が初めてモンスターを殺害することに成功した場合に解放される新たなステータス機能だ」


 何を当たり前のことをと鼻で笑おうとすると意外にも急にノートやメモ帳なんかに書こうとしているクラスメイトが多かった。


 「お前たちが知らないのも無理はない、ジョブに就いた人間は就いて無い人間よりも大きな力を手に出来る。そのためこのことが明るみに出ないように政府が情報統制を行なっていたからな。そして今回の、そしてこれからの講義内容はその情報統制の管理対象に値する。各自この情報を無闇に拡散しないように」


 そんなの無理に決まってるだろ、子供の口なんてヘリウムより軽いぞ。ほら見ろよすぐさまSNSに拡散したがっている顔が確認できるぞ。


 「なお、これを破ったものは国から直接罰を与えられる。子供だからと手加減されると思うなよ」


 一気に教室が冷え込んだわ、ほら見ろよ青ざめているやつの多いこと。先生もさっきの美女先生に脅し過ぎだと叱られてるし反省しろよ。どうすんだこの空気。



 「ゴホンッ、兎に角この講義はこれからの国の未来を左右するものだ。それを理解して欲しい。そして万が一を防止するためスマートフォンなどは一度政府のサーバーを経由し内容が精査されてから発信されるようになっている。諸君らを疑うわけではないがそこは承知して欲しい。そしてプライベートな内容までは調べない上人ではなく機械が情報を扱うので個人情報保護は安心してくれて構わない」


 何一つ安心できない上にメールも電話もチェックされるとディストピアでは? 訴えたら勝てそうなんだが? ……ダンジョン向けにこれほどの強硬策を用意してる時点で危険度がわかるし、不安で吐きそう。


 「では先程手を挙げた者のうちジョブに幾つ就けるか、最大レベル、区分についてどれか一つでも知っている者はいるか?」


 これ、俺だけしか挙げてなくね? クラスメイトからの視線が体に刺さって痛い。そして先生からの眼力も怖い、早退したい。


 「それではそこの君、何を知っている?」


 「はい、最大レベルは100です。ちなみにこれは成ってみて分かりました。後は知らないです」


 ヒューッ、先生からの睨みが強まったぜ! 帰っていいですか!


 「そう、ジョブは100レベルで最大だ。またジョブには下級職と上級職に分かれており少なくとも下級ジョブは保有している固有スキル数と同等まで就ける。そして先程100が最大と言ったが正確には下級職がそうなだけで上級職もそうとは限らない。それに最大で100というだけで人によってはそれまでで止まるものもいる」


 納得はできるな、俺も【高位光術師】とかいうジョブに就けるしそれが上級職なのか。【神】系統も上級職なのかな。


 「そしてジョブは条件を満たした上でステータス画面を操作することで就ける。また、メインジョブを変える、つまり転職も同様の手順で出来、以前のジョブに変更することも可能だ。しかし今のところジョブの消し方は分かっていないため選ぶ際は考えて選ぶように」


 まじか、ふざけて選ばなくてよかった。【農民】とか選んでたらやばかったかも。


 「ジョブについて散々話したがそもそもジョブに就くことがそもそも難しい。強靭なモンスターを人が自力で倒すことは不可能と言ってもいい。そこでお前たちにはこれから我々特別教官が立ち合いの元モンスターを殺してもらう。辛いと思うこともあるだろうがそこは頑張ってほしい、そして諸君らの中からいずれ国を守る者が現れることを期待しよう」


 中々、ぶっ飛んだ内容言ってるけどみんながお通夜みたいに静まり返ってるから全然突っ込めない。その後ジョブに就いてる組と就いてない組に分かれて授業になった。


 おおう、あいつらこれから生物殺すことに忌避してるのか危険地帯に突っ込まされると知ってか青い顔してやがる。つーか例の知ってる7人組のこっちもこっちでエルフのお嬢様に護衛っぽい鬼人に偉そうな坊ちゃんその1に付き人っぽいメイドに羽の生えたお嬢様とその護衛という中々の濃さよ。


 ……羽の生えたお嬢様(東條さん)、その……言いにくいんだけど、頭の上の輪っかと後光と羽の光消せないかな? 前の席だから全然授業に集中出来なかったんだけど。


 「すみません……自分では、消せなくて……」


 「貴様ッ、玲奈様に向かって何という無礼を!?」


 うわ〜、めっちゃ落ち込まれてし護衛には吠えられるしで散々だわ。俺も悪いけど、こっちもこっちで切実なのよ、“空間把握”なければ黒板に何書いてるかさっぱり分からなかったからな?


 庶民の俺としては萎縮するしかないわけだが何とこちらの組には美人先生がついてくれるじゃないですか! 余計なオプションに話してたオッサンがついてくるけど美人に教わるってだけで楽しみだわ。何を教えてくれるのかな?









side:斉藤 絵梨花


 私、斉藤絵梨花は国立魔導学校の1年1組のジョブ取得者たちを引き連れて鍛錬場に向かっている。ジョブは口頭だけでは説明出来ないこともあるために実践をさせた方がより理解できるだろうと教員で話し合った結果だった。


 一体なぜこんなことになってしまったのかと思う。いきなりダンジョンが世界に出現しそこには化け物たちがいて地表へと出て来ようとしているなどと過去の自分に言ったら笑われるだろう。


 しかしこれは紛れもない現実で、私たちが解決しなければならない事象だった。未曾有の事態で混乱する政府が打ち出したのはダンジョンの封鎖及び情報統制だった。


 当初は楽観的だった、確かにダンジョンの出現は驚愕に値するしモンスターたちの強さには怯えざるを得ない。だが人類にはその力を制圧する武器と知恵がありすぐさま解決できると考えていたからだった。


 それが間違いだったと知るのはさほど遠くない時間だった。調査隊が持ち帰ったモンスターの死骸にダンジョン内の未知の資源に心躍ったのも束の間、銃火器では対抗出来ないモンスターが大量に確認できたのだ。


 下層のモンスターたちの速さは人の捉えられる限界を超え、その硬さは銃弾を弾きその力は地面を砕く。それでもまだ政府にはミサイルなどの現代兵器があるとしてまだ対処できると思っていた。


 それが儚い幻想だと判明したのは他国がこの事態に痺れを切らし秘密裏に強硬策に出てダンジョンに爆撃を行い破壊してからだった。


 その結果、表層のモンスターは木っ端微塵に吹き飛ばせたが屈強な下層のモンスターたちは殺せず怒り狂ったモンスターたちが近くの街を蹂躙した。


 他にも色々なケースがあったが共通しているのはダンジョンを外部から無理矢理破壊すると下層のモンスターが怒り狂った状態で飛び出してくることだった。その上偶にだがそれらすら超えんとするモンスターすら現れるという結果も発生した。


 その場はモンスターたちの楽園と化しこれによって日本は事態の深刻さを知ったのだった。いや日本だけではない、ジョブやモンスターなどのフィクションじみた事に侮っていた国際社会すらその姿勢を変えた。その時ばかりは情報はすぐさま制限され社会に知れ渡らないように世界が協力した。


 それからダンジョンの破壊はやめて慎重に調査を行っていたがそれで分かったのはこのままだと半年以内にはダンジョンからモンスターが溢れかえるだろうという算出結果だった。


 その結果を受けて政府は既存兵力の増強と未来の兵力の確保に乗り出した。無論、あからさまに行えば国民から不満が漏れることに加えて事実を知ればパニックに陥ってしまう。そのため絶対にばらしてはならない。


 それらはダンジョン関連の情報を機密指定し情報を制限した。今日ダンジョンの決壊が報道されてしまい情報が漏れてしまったがこれでもほんの一部でしか無い。国内の確認できているダンジョンではとっくに複数決壊しており未確認も含めれば相当数にも登るだろうとの予想だった。


 これから訪れるであろう惨事に備えて国は自衛隊にレベルを上げさせつつ何人かは後任の育成を行うことになった。


 私は自衛隊に所属していないただの総務省の役人だがジョブの実験のために協力していると【鑑定士】というダンジョン産のアイテムと他人のステータスを簡単にだが理解できるジョブに適性があったためダンジョン産のアイテムの解析と学生の指導のためここに配属となった。


 チラリと横を見ると今まで激戦を乗り越え日本を守ってきた甲斐さんが無表情で学生を引率している様子がわかる。本来なら彼は定年退職してもおかしくはない年齢の筈だが日本のため今も働き、ここの話が出た時は率先して教員に立候補したという。


 ジョブに就いてる学生たちは財閥の家系や官僚の息子、名家出身などある程度政府の裏事情を知り護衛付きでモンスターの殺害に成功した者が多いが1人だけ例外がいる。


 永瀬秋、彼だけは純粋に彼自身の力で撃破し国からその能力を見出されてここにいる。


 前途有望な若者の可能性を狭めてしまった事に今更ながら罪悪感を覚える。彼をここに強制的に呼ぶ事には様々な意見が飛び交ったが一応これからの進路は自由ということと十分な教育を与える事を条件につけてはいたがそれでも彼から未来を多少なりとも奪った事には変わりない。


 そういう事情で特別に気になっていた永瀬秋という生徒だったが先程の発言には驚かされた。何しろ下級職をカンストさせたのだ、ダンジョンの最前線で活動している者でなければ中々達成できないことを彼はやってのけた。


 そして彼がダンジョンに入ったという記録はない、それはつまりダンジョン外からダンジョン内へと干渉しモンスターを殺害したという事に他ならない。自衛隊が暗い洞窟の中いつ来るか分からないモンスターたちに怯えながら命懸けで探索しなければならない中それをせずに一方的にモンスターを屠れるという事に頼もしさを覚えずにはいられない。


 身勝手な話だが彼に期待せずにはいられない。それに彼にはまだ特別なことがある。気づかれないようにそっと小声で言った。


 「《鑑定》」


 名前:■瀬 ■

 レベル:7■ (合計レベル:■■6)

 職業:【■術師】


 まず私の力量では鑑定出来ないという点が他の子供達とは違う。他の子達ならば簡単に能力やスキルも分かるはずなのに彼だけはこれしか分からない。しかもかなりの部分が読み取ることが出来ない。


 次に合計レベルが少なくとも3桁はあるという点が異常だった。最前線で戦う者たちですら3桁いかないことはあるのにもう3桁に到達しているのだ。周りの子供達は1桁なのに異彩を放っている。


 最後に彼が術師系統に就いていることが驚きだった。術師系統に就けるのは統計的には1%ほどなのに彼が就いているという事に才能を感じる。


 私は彼のような子供が増えてくれるとありがたいと思いつつも、それまでこの国を存続させなければと再度決意を固めた。

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