ちゃんと間引きはしましたか?
「よお、ここいいか?」
善は急げとばかりに名前も知らない人にグイグイと話しかけるとおう! と元気よく返してくれたので隣に座って朝食を食べることにした。
「ここの朝食って中々美味しいよな、おっと自己紹介がまだだったな。俺は永瀬だ、お前は?」
「相原だ、相原雄大。見ての通り獣人だ」
軽く自己紹介を済ませながら適当に雑談するが獣人だのエルフだのという名称が一般的に出てくることがああ常識が変わったなあと実感する。
こんな学校でも話すのはどこ出身、いつ来たみたいな当たり障りのないことだ。
「相原、登録していきなりここの入学の資料が届いて驚かなかったか? 俺は思わず聞き返すくらい驚いたわ」
「何言ってんだ? 資料が届いたのは最近だろ。それにもう高校受験も終わって結果が出てからだったからかなり迷ったよ」
おかしいな、俺と相原とで時期が違うのは登録時期の違いで説明つくけど何か自分に選択権があるようなこと言っていない?
「なあ、ここへの入学って強制だよな?」
「いや、自分で選べただろ? 俺はここがかなりいい設備を持ってるし明らかに世界の最先端を走る教育を受けれそうだから選んだんだが、永瀬は違うのか?」
「は、選べたの?」
「逆に選べなかったの?」
おかしいな(2回目)、ここって強制的に入学するみたいなとこじゃないの? 何でこいつには選択権があって俺には無いの? 理不尽過ぎませんかね、これ。
「失礼、いいかしら」
混乱してる俺に、というより俺と相原に向けて女子生徒が声をかけてきた。
「「どうぞ(〜)」」
そう言うと俺たちの近くに座ったんだけど姿勢が良いな、かなり礼儀正しく育てられたことが察せられるわ。
「その永瀬さん……だったかしら、いきなり資料が送られてきたことをもっと詳しく教えて欲しいのだけど」
どうやら話が聞きたかったらしい、この人も俺と同じ口か? 俺は理不尽だよねと共有できる仲間を見つけた感じで若干テンションを上げて話すとそう、と考え込んだ表情で返された。え、俺何か期待に背くことしましたか。
「悪いな、期待した話が出来なくて」
「いいえ、違うの。ただ、噂は本当だったと分かって驚いたのよ」
「噂って、なんだ? ええと……」
お、相原ナイスアシストだ。俺も気になる。
「柊桃花よ、柊と呼んでちょうだい。それで噂のことから?」
コクコクと野郎2人が赤べこみたいに首を動かすと柊さんは噂を話してくれるみたいだった、今気づいたけどこの人エルフか。髪が長くて耳が出てなかったから人間かと思ったわ。
「噂というのは、ステータス登録の時、明らかに国が重要だと判断した学生を早期に選定して強制的に集めているんじゃ無いかっていうものよ。そして実際、あなたの元へは早い時期に書類が届いた上で強制的だったでしょ?」
へえ〜、そんな噂があったのかあ。
「それじゃあ、俺みたいに強制的に入学させられた人間は少数派っていうことか?」
「多分ね」
やったあ、俺ってば国から目をつけられるくらい優秀なんだあ。嬉しいなあ……出来れば他の奴にしてくれませんかね。にしても納得したわ、通りで入寮してからしばらく人を見ないと思ったわ。
「じゃあ少なくとも俺以外に6人は国からの強制組がいるのか」
「そいつらとは永瀬は合わなかったのか?」
「ああ、巡り合わせが悪くてな。そいつら寮が違うっぽいから会う機会が無かったんだよ」
学校が広すぎなんだよ、この中で偶然会うことはかなり難しいわ。数少ない同胞っぽいから会ってみたくなったなあ。そういえば色々情報を持ってそうな柊さんに聞きたいことがあったんだ。
「柊さん、学校にダンジョンがあるだろ? その中で自衛隊同伴で探索してる学生っていないか?」
「……どうしてそんなことを?」
「そうだぜ永瀬、ダンジョンってやばいモンスターがいるんだぜ。そんなとこに学生は行かないだろ?」
それが普通だよな、でもレベル上げの最中に変な反応があったんだよな。弱い奴が強い奴を引き連れて2、3時間くらい探索してモンスターを殺していたような感じの、多分銃か何かでほぼほぼ瀕死まで追い込んだところをトドメだけ刺してレベル上げしてると思うんだが。
レベル制度が世界に広まっていっても身を守れるようにしてんのかと思ったけど子供を連れてダンジョンに行くとかちょっと違和感あるよな。
……もしかして権力者のご家族が圧をかけてレベル上げをさせてない? 確かにレベルを上げとくとオリンピック選手もびっくりの身体能力を手に入れられるし安全の観点からも有益だけどなあ、親馬鹿というか権力のゴリ押しというかなんとも言えない気分だ。
「そうね、確かにダンジョンに行っている学生はいるわ」
だよなあ、教官にジョブのこと聞いた時ちょっとピリッとしたし国はジョブのことは把握してるっぽいけど隠したいらしいんだよなあ。力を手に入れて調子に乗った奴らのせいで治安維持を心配してるのは理解できるけど。
「そういや、相原と柊さんは何組?」
「俺は4組だな」
「私は3組よ、そういう貴方は?」
おっと人に聞いてたのに俺のを言ってなかったな。
「俺は1組、なんだ全員別々のクラスか」
クラスメイトだと心強かったんだけど、クラスを超えた友人ができたと考えればいいか。それからこれからの予定についてを話し合って解散した。連絡先も交換したしこれからは普通に電話で何かあったら話せるわ。
それから数日、食堂で知らない人に話しかけては連絡先を交換したり情報収集をした。……1組の奴が今まで結構話してきたのに6人しか見つからないって運が悪くない?
その間も部屋で勉強してる時とか休んでる時とかも合計レベルが上がったから部屋から直接ダンジョン内を探ってこまめにレベル上げをしてついに【光術師】がレベル100になった、やったあ。
しかも、ジョブレベルが100がカンストらしい、ここからレベルMAXの表記がジョブレベルの横に出てるしな。なので新しく【光術師】系統の【閃術師】を追加した。どうやら【光術師】系統は【光術師】で覚えた魔法からして光の生成、方向及び波長の指定、吸収、光度の操作、熱量の操作を軸として発展していく系統らしい。
攻撃は明らかに他の系統に劣るだろうけど五感の一つを奪えると考えると十分他の系統に引けを取らないだろうというのが俺の所感だ。ついでに光魔法のレベルが上がらないかなあと常に可視光領域外の光を発生させることにした。
MPは常に回復し続けるし、レベルが上がったから回復する量も増えて光を出し続けても消耗しないんだよなあ。なのでそれを有効活用しようと思ったわけだ。別に成果がなくても失うものがないということが素晴らしい。
そしていい加減無駄に増えたSPの使い道が知りたい、絶対いい使い方があるはずなのにこのままじゃ宝の持ち腐れじゃん。
そしてついに本日より国立魔導学校の入学式だ、初めて制服に袖を通したけど結構かっこよくないか、……なんでか防刃防弾素材だけどな。
そうして学校に向かっていると声をかけられた。
「よう永瀬、いよいよだな。待ち侘びたわ」
「そうかよ、片山。確か今日は入学式と校舎の案内で終わりだよな?」
「そうだった筈だぞ」
食堂での声かけで知り合ったクラスメイトの片山とこれからについて話し合っていると見知った背中が視認できた。
「おーい、加藤。一緒に行こうぜ!」
暑苦しく片山が加藤に話しかけた、やめてやれよ加藤くん明らか眠たげだぞ。めっちゃ睨んでくるし怖えよ。
それから3人で駄弁りながら大きな建物でパッと入学式を済ませて東京にまで来てた家族と写真撮って校舎案内をしてる時だった。
「おい……永瀬、加藤。これヤバくないか?」
「どうしたんだよ、そもそもスマホはしまえ」
「そうだぞ、先生がしっかりと僕たちを案内してくれているんだ。話を聞いた方がいい」
「いや……ほら、これ」
片山の不真面目な態度に俺と加藤くんで注意すると青ざめた顔をした片山がスマホの画面を見せて来た。そこには他国でダンジョンからモンスターが溢れかえって街を蹂躙している様子が流れていた。
ニュース欄にはダンジョンからのモンスターの氾濫がトップニュースに流れていてこれがフィクションではないと伝えてくる。
それからすぐに明らか軍隊訓練を受けたであろう先生が電話を受けてこの場はこれでお開きとなった。3人でこのことについて喋って帰路に着くことにした。
「嫌だなあ、ああいう物騒なの。頼むから日本では起きないで欲しいわ」 と俺。
「でもこれからって感じで不謹慎だがワクワクするんだよなあ」 と片山。
「僕はこれからの世界がどうなっていくか不安だよ」 と加藤くん。
本当、モンスターが街中に溢れてとかフィクションだけにしてくれ。
次の日、テレビを見てると鳥取のダンジョンが決壊したとニュースで流れてた、……嘘でしょ!?




