レベル上げ
いやまあ、朝食は逃すよねっていう。起きたらもう真昼間ですよ。気怠い身体を動かして支度して昼食を食べて昨日の成果を改めて確認するか。
魔力の物質化による薄い板の生成、別に刃は付いてないけどこれを『魔刃』と名付けよう。言いやすいし斬れることは確かだし。昨日はこれを作るだけで精一杯だったが今日は性能テストをしよう。
早速魔刃を作ろうと思うがこれ、形を直線にした方がいいな。前は長方形に指定してたからMPを流しすぎると直方体になるかもだけど直線なら常に薄いままだし。
魔刃をポンと作ったがすごい早くなったな、何しろ何回も繰り返してきたから1秒かかるかどうかくらいだ。しかも魔力は視認出来ないから“魔力知覚”がなければ気づかずに切断出来そうだなあ。トラップとかに使えそう。
にしても下手くそだなあ、何とか刃を生成できないものかね。これじゃただのプレパラート(透明)だぞ。相変わらずMPは常に消費されているが回復速度の方が優ってるぽいので結果としてバーが減らないからゆっくり出来るな。
紙を切れることは確定したけどどんくらいならいけるんだこれ? 試しに空のペットボトルを刃に垂直に当たるように投げると見事に両断された、スゲェ。
勢いに乗って空き缶も投げてみたらこれも両断は出来てないけど切ることは出来た、十分凶器として使用できるわ、これ。ただ攻撃力は申し分ないけど欠点としては耐久性だな。
魔刃は俺の攻撃ではあるけど装備ではないからスキルが乗らないし、元が元だからとんでもなく脆い。紙すら当てる方向によっては魔刃をかき消せるしな。かき消したところで新たに魔刃は生成されるからすぐに戻るけど。だからかき消された後にすぐ物を切り始めるから大丈夫といえば大丈夫とも言えなくもない。
どのくらいの距離まで遠隔発動出来るのか試したら2000m、つまり2kmまでなら離れたところで発動できた。……危険すぎない? 離れたところから人の首をコロンと落とせるんだぞ? 殺し屋も真っ青な技だわ。
絶対これ“魔力知覚”と“空間把握”が悪さしてるだろ、多分普通なら出来て数m位なんじゃないか? まあ、性能が高い分にはいいか。
しかし、座標指定で既に存在している物とダブるようにして発動できないのは残念だな。体内から発動できたら最強だったのになぁ。
……じゃあ何で俺の身体から発動出来たんだ? 座標指定を忘れてたからと言えばそれまでだが何か違う気がする、“直感”もそう反応してる。しかも何で気体や液体なら発動できた? 何故固体はダメなんだ?
魔法のスキルって式とか用意してて親切そうにしてるけど、罠多すぎだろ。使用者が考えなきゃいけないことが多すぎるわ。
まずは仮説だな、自分の身体が例外なだけ。これは十分あり得る。だけど、使用者のMPを纏ってたらいいだけじゃないのか? 単に対象に自分のMPを纏わせれば固体にも発動出来たんじゃないか。
MPを消費する感覚は覚えたので応用してMPを体内で動かしてみた。動かしても別に身体は強化されないしポカポカもしないということが分かった。魔力を動かせば身体能力が強化されるとか意味不明だしこれは仕方ない。
お次は体外に放出してみた。放出した魔力はすぐさま霧散してしまいMPの無駄遣いでしかないということが判明した。どうやらMPは単体ではあまり直接の効果はないらしい。最後に目的である物に魔力を流してみた。シャーペンにこめようとすると何かスーパーでこれ以上入らないのにまだまだ詰め放題をしてるみたいに抵抗感があったがいけなくもないといったところだろうか。
この状態を維持しつつ座標をシャーペンに設定してライトを発動させてみた。ダメならそもそも発動しないが期待通りシャーペンが光った……眩しい、目を閉じときゃよかった。
それで思い立ってシャーペンを動かしてみるとシャーペンは光ったままだった。これ、物を起点に発動させると物に付加されるようになるのか? 【付与術師】系統とかまだ触れてないけどこういうのを利用してるだろ。しかもこれ専用の式もあるっぽいし。
なら放置だな、無理やり物を起点に発動させるメリットが無い。詳細を後で確かめてからそれができる式を覚えられるジョブを取ればいいだけだし。何で固体には無理とかも他のジョブなら分かるだろうし、もうこれはいいや。
検証した結果はとても満足出来るものだった。それに充実感を得つつ今日の活動は終了した。明日はこれが悪用出来るか試すか。
さてさてやってきましたダンジョン前に、やばいぐらい厳重にバリケード張ってるし見張りもいるけど中に入ることが目的じゃないのでノープロブレムです。
「どうした? すまないがダンジョンは危険だからね、立ち入り禁止なんだ」
おっとダンジョンに入りたい自殺志願者と間違われたのか話しかけられてしまった。
「いえ、ダンジョンが珍しかったので見てただけです。今日はここの近くのジムに行こうと思ってて通りがかっただけです」
「そうか、なら気をつけて行ってらっしゃい」
そんな無謀な奴じゃ無いですよと伝えてからジムに入った。学校には鍛錬場とは異なり純粋に鍛えたい人向けの施設もありそこで実験だ。
まずは普通に運動して身体を動かして時間を過ごした、いや〜いい汗かいたわ。ほどほどに身体をほぐしたところでトレーニングルームから離れてロビーで休憩しつつダンジョン内の様子を探った。
別に“空間把握”さえあればダンジョンに潜らずとも中の様子がわかるんだよね、今は俺がしょぼすぎてまともに使えてないけど本来ならとんでもない性能のはずだ。
横になりつつ探っているとモンスターがいるわいるわ、この世の地獄かな。しかもこの数なら氾濫するのはそう遠くなさそうだし下にいるモンスターほど強そうなんだが。
嫌な事実から目を逸らしつつ表層部の様子を探ると二足歩行っぽい生物がいた。少なくとも人間ではないからモンスターだろ、コイツ。しかもダンジョン内のモンスターは戦わず共生関係というわけでもなく今ダンジョンで戦闘している自衛隊と同じく敵対関係にあるらしい。
中でバンバン殺しあってやがる。これが外に出てきたら大騒ぎだな。意識を先程の二足歩行モンスターに戻して様子を探るとどうやら移動中らしい。普通に歩いてるわ。そのままタイミングを見計らってー、はいっ。
進路方向の首の高さに魔刃を作り出して罠にかか……コイツ避けやがった! はあ!? その後めちゃくちゃ周囲を警戒する様子を見せてるけどそんなのどうでもいいわ。
モンスターって“魔力知覚”をデフォルトで備えてんの!? 人間様にはそんな便利な機能ついてないんだが! ……まじで人間がゴミすぎる。雑魚のモンスターにも負けるし何が霊長類だよ、その名を返上しとけ。
どうすっかなー、「ダンジョン外から楽々レベルアップ計画」が上手くいかないとなるとやっぱりダンジョン内に踏み込んで命を賭けて探索しないとダメか? いきなり計画が頓挫したわ、折角メインジョブを【突神】に変えたのによー。
遠くを探ると流れてくる情報を処理するために動けないため寝転びながらウンウン唸りながら新たに計画を練っているとふと漁夫の利という言葉が浮かんだ。
試しに割と地下深くで戦闘しているモンスターの近くに魔刃を出してみるか、別に作戦が上手くいかなかったところで損はないし。というわけで二足歩行くんと四足歩行くんが殺し合ってる場所をサクッと見つけた俺は四足歩行くんがダッシュで二足歩行くんに駆け寄ろうとした進路に魔刃を置いた。
おっと四足歩行くんここで魔刃の存在に気づいた模様、しかし急には止まらないぞどうする? おお! なんとここで進路変更、見事に魔刃から逃れました。しかし残念、避けたことを想定してあらかじめ用意していた魔刃が遅れて出現。これは避けられずに首を落としてしまいました。
どうですか解説の永瀬さん、う〜ん素晴らしい読みですね〜モンスターがそう簡単に殺せないと読んでいた永瀬選手の読み勝ちだと思います。
そんな寸劇を脳内で繰り広げつつ見事、俺はモンスターを倒すことに成功した。そして成功すると同時にもっと楽な方法があったのではと悟った。
あーっとここで二足歩行くん、急に四足歩行くんが死亡したことに戸惑いを隠せません。そこに永瀬選手のディープシャインが二足歩行くんの眼球に直撃です。思わず目を閉じて固まってしまいます。そこに追撃の魔刃! 哀れにも二足歩行くんの首と胴は分かれてしまいました。
……くそがっ、初めからこうしとけば良かった。目潰しからの魔刃コンボで良かったじゃん。無駄にモンスターの軌道を読んで罠張る必要なかったじゃん。……これに気づいただけマシとするか。確かに何故かモンスターの体内に展開できないから魔刃を自分から当てて首を刎ねようと思ったら30cmは生成しないといけないから300MP程は消費するけど俺の“自動回復”ならすぐにリカバリーできる範囲だし。ただ、まだ望む結果は得られない。どうやら1、2体倒した程度では条件は満たせないらしい。
MPが回復するのを待ってから俺はひたすら遠距離からディープシャインからの魔刃コンボを重ねてキルスコアを8まで伸ばしてからステータス画面を見ると望んだ結果が出ていた。
名前:永瀬 秋
レベル:2 (合計レベル:4)
職業:【突神】
よっしゃあっ! レベルアップ完了! 安全圏からの一方的殺戮で楽々だわ。けど必要なキルスコア多くね、これまともに倒そうと思ったら結構時間かかるし命の危険もあるよな。
そんなことはさておきステータス画面をフルサイズにするとおほー、めっちゃ伸びてる。HPはレベルが上がる前から4桁はあったし何なら2000付近はあったけど1レベル上がっただけで3000付近になってる。
しかも器用が1000近くまで上がってることが嬉しいわ。これで魔刃の威力が上がるし。他も満遍なく上がってるし満足だわ。
それからも俺はどんどんキルスコアを上げていくがレベルを8まで上げた段階でもう日が暮れていた。ダンジョンは逃げないし、ここは帰ろう。また明日からレベル上げをすればいいだろう。
それから俺は夕食を済ませて大浴場を独占して1人カラオケをしてからるんるん気分でベットにダイブした。
「ステータス」
名前:永瀬 秋
レベル:8 (合計レベル:10)
職業:【突神】
HP:9818
MP:744
SP:5011
筋力:1435
耐久力:1680
器用:3013
速度:2286
幸運:343
固有スキル:自動回復、再生、状態異常耐性、直感、被ダメージ減少、空間把握、魔力知覚、二重起動
スキル:《我が刃は全てを断つ》
《我が刃は不毀なり》
《我に貫けぬ物なし》
《我が切先は朽ちず》
《剣術》レベル1
《槍術》レベル1
《光魔法》レベル1
だいぶ強くなったなーと感慨深い気持ちだ、そしてこのステータスですら敵わないモンスターがダンジョン内にいることを知覚できるヤバさよ。まじで魔境じゃんあそこ。
それから3週間程ずっとジムでレベル上げを続けて【突神】、【斬神】を共にレベル19、【光術師】はレベル62まで上げた。何しろ初日のような浅い階層にいるモンスターだけじゃなくて結構下にいるモンスターを倒せるようになったからなあ。
ジョブによってレベルの上がり方が違うのは多分ジョブの格とかそんなのが影響してるんじゃないかなあ。ステータスの伸びも全然違ったし。何にせよあれからかなり強くなってかなり満足。それに新しく《思考加速》っていうスキルも手に入れたし『フラッシュ』、『ダーク』という新魔法に『光弾』という攻撃魔法っぽいものも使用できるようになって充実してきた。
レベル上げが忙しくて内容はまだ確かめてないけど、ゴミというわけではないでしょ。既存のスキルもレベルが上がったのもあるし何かあったら自分だけでも逃げ出せるようになったんじゃない。
それに3週間も経つと学校にも人が増えてきてジムでのレベル上げがしにくくなってきたしここがやめ時かな、ジムで寝転んでばかりいるから何か身体が貧弱だから鍛えてるっていう印象を与えちゃうんだよなあ。
寮にも人が入ってきたしここは友好を築くとするか。友達がいれば何かあった時に頼れるだろうし、明日から色んな人に声をかけてみよう。




